キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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今回でトリニティ編は最後になります。
まぁ、原作でいうエデン条約編の1,2部が終わっただけですが。


トリニティ編・18

「・・・確認できるアリウス主力部隊の撃破を確認。アリウスは撤退を開始しました」

 

そろそろ朝日が昇ってこようかという頃、ミラが戦闘終了を告げたことでイチカとシスターフッドが銃と肩を下ろした。

ミカが率いていたアリウスの主力部隊とぶつかった補習授業部とサクラコ率いるシスターフッドの主力部隊はもちろんのこと、ミラ率いる別動隊もまた決して少なくない兵力を差し向けられたことで苦しい戦いを強いられていたが、イチカらの奮闘によってどうにか切り抜けることができた。

 

「はぁ~・・・やっと終わりっすか」

「これがアリウス・・・手強い相手でした・・・」

「撤退している部隊の監視は・・・できるだけの余裕はなさそうですね」

 

アリウスは兵の数だけでなく練度も非常に優れており、相応にボロボロになっていた。

先生の指揮で戦っていた体育館の方は比較的余裕を残しているが、ミカを見捨てて迅速に撤退し始めたアリウスをどこまで追跡できるかどうか。

ミラが動いてもいいが、フォローもなくこの場を離れるというのも良くないだろう。そもそも、ただでさえ病弱設定が危ういところまで怪しまそうになっている時点でもう派手に動けない。

 

「ひとまず、本隊と合流しましょう。ミカ様の拘束にナギサ様の安否確認、やらなければならないことは多いですから。イチカさんも、ここからは正義実現委員会としてお願いします」

「そりゃそうなるっすよね・・・皆になんて言われることやら・・・」

 

イチカが心配しているのは、正義実現委員会でありながら今回の件に首を突っ込んだ(実際はミラに首根っこを掴まれて引きずりこまれたのだが)ことよりも、その立場が危うくなってでもアンに協力したと思われることによる周囲からの評判だった。

イチカ×アンを推している生徒はそれなりにいるのもそうだが、正義実現委員会の中でもあれこれ妄想を膨らませながらイチカにアンとの関係を聞いてくる同僚は決して少なくない。

なんなら、周囲から『わざわざ休みをとってまでアンに加勢してトリニティの危機を救った』と思われても不思議ではない。というかまず間違いなくそう思われる。

実際は最初から巻き込む気満々だったミラとこうなることを見越して手綱を手放したツルギの共犯によるものでしかないのだが、言ったところで信じてもらえないだろう。

若干肩を落としているイチカを尻目に、ミラとシスターフッドたちは片付けを終わらせて合宿棟へと向かった。

合宿棟に到着するとちょうどミカを正義実現委員会に引き渡しているところで、当然と言うべきかハナコとサクラコが驚いたような表情でミラの方を見た。

 

「アンさん・・・」

「お疲れ様です、と言った方がよろしいですか?」

「いえ・・・ですが、わざわざこちらに来ずともよかったのでは?」

「間接的とはいえ今回の件に加担したのは事実ですから、顔見せくらいはした方が良いかと思いまして」

 

もちろん、半分くらいは方便だ。

本当の目的は別にある。

 

「えっと、君は?」

「初めまして、シャーレの先生。運命アンと言います。普段は病弱なのであまり学園に通うことはないのですが、偶然今回の騒動に関する情報を耳にしたので、イチカさんに協力してもらいながら独自に動いていました」

 

ミラの自己紹介に何か言いたそうにしている先生に対し、ミラはそっと唇に人差し指を当ててそれ以上の詮索をやめさせた。

言ってしまえば、自分の正体を知り得る人物に釘を刺しにきたのだ。

先生の前に姿を現したのは、主にハナコ経由で自分のことを聞かされた可能性が高いサクラコに対する牽制のため。

もしそれが事実だったとして、必要であったのであればミラとしてはハナコを責めるつもりはない。

だが、それはそれとしてサクラコがどのようにその情報を使うかはまた別問題のため、ここには“運命アン”としていると強調するために最後に先生の前で自己紹介をしたのだ。

ミラの意図は伝わったのか、サクラコはそれ以上の追求はせずに大人しく引き下がった。

ある程度場が落ち着いたタイミングで、イチカが手を上げて声を出した。

 

「それじゃ、自分はミカ様の引き渡しに行ってくるっす」

「えぇ、ツルギさんやハスミさんにもよろしく伝えておいてください」

「あはは・・・」

 

はたしてどのような意味の“よろしく”なのかイチカには推し量れなかったが、どんな意味があったところで伝えたら碌なことにならない予感しかしなかった。

イチカが連行のために来た正義実現委員会と合流すると、不意にミラとミカの目が合った。

あくまでフード越しで、ついでに言うならそれで何か伝わり合ったわけでもない、ただの一瞬の偶然。

すぐにミカの方から興味を失ったかのように視線が切られ、大人しく正義実現委員会に連行されていく。

だが、そんなほんの一瞬の偶然で、ミラが抱いた第一印象は、呆れだった。

 

(・・・なるほど。どうしようもない女だね、君は)

 

ミラもまたミカから興味を失い、代わりに視線をハナコへと向ける。

 

「そういえば、ハナコさんたちはここにいて大丈夫なのですか?たしか今日が最後の特別試験を行う日だと伺っていますが」

「え?あっ、そうじゃないですか!開始時間まであとどれくらいですか!?」

「現在時刻は7時50分。あと1時間で着かないと」

「それってけっこうギリギリでは・・・?」

 

ついでに言えば、現在試験会場は正義実現委員会によって封鎖されているため、仮に時間通りに着いたとしても中に入れるとは限らない。

とはいえ、その心配はないだろうとミラは考えているが、補習授業部の面々にそれを気にするだけの余裕はない。

 

「話している時間がもったいない。今すぐに行こう」

「あっ、待ってくださいアズサちゃんって早!?走って間に合うんですか!?」

「う~ん、全力で走ってギリギリでしょうか?さぁヒフミちゃん、コハルちゃん、ファイトです!あっ、アンさんはありがとうございました!」

「いえいえ。試験頑張ってくださ~い」

「うぅ、もう歩くだけでも足痛いのに・・・待ちなさいよぉ・・・!」

「ど、どうして最後の最後でこんなことに・・・!」

 

補習授業部が各々の反応を見せてから急いで試験会場に向かったことで、ここに残されたのはサクラコ含めたシスターフッドとミラだけとなる。

どことなく微妙な空気が流れる中、最初に口を開いたのはその原因になっているサクラコだった。

 

「アンさん、改めて今回の助力に感謝します。と、私が言うのもおかしな話かもしれませんが・・・」

「お気になさらず。今後のことを考えれば、さほど不自然というほどでもないでしょう」

 

今回の件でミカの権威は失墜、セイアも未だに復帰の見通しがたたないとなると、現在のティーパーティーは実質ナギサだけで運営する必要があるということであり、言うまでもなく大幅な影響力の低下は避けられない。

それによる混乱を防ぐためにも、おそらく今回介入したシスターフッドと団長がセイアを保護している救護騎士団がサポートする形で表舞台に上がってくることになる。

それを考えれば、ティーパーティーの代わりに礼を言うのはそれほどお門違いということもないだろう。

 

「それよりも、ひとまずはナギサ様のところに向かいましょう。無事だとは思いますが、状況説明もしなければなりません」

「そうですね。お辛い報告になってしまいますが、何も言わないわけにはいきません。場所はハナコさんから聞いたので、一緒に向かいましょう」

「私もよろしいのですか?」

「今回の立役者であることに違いありませんから。他の皆さんは、念のため周囲の警戒をお願いします」

 

サクラコの命令にシスターフッドは大人しく従い、ミラとサクラコはナギサがいる部屋へと向かった。

その道中、自然な流れで二人きりになったことでサクラコは言い出せなかったことを尋ねた。

 

「・・・アンさんのことは、ハナコさんから聞きました」

「それで?」

「今回の協力に感謝している、というのは変わりません。ですが、差し支えなければあなたにとっての先生とエデン条約について、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

ひとまずこの場でゲヘナの生徒であるミラの存在を糾弾するつもりはないらしいことがわかったミラは、素直にサクラコの質問に答えることにした。

 

「そうですね・・・一言で言うなら、可能性でしょうか。意味合いはそれぞれ微妙に異なりますが」

「可能性、ですか?」

「えぇ、もっと言えば“より良い未来に繋がる可能性”です。特に先生は、これからのキヴォトスに不可欠な存在になるでしょう。まぁ、ほとんど直感のようなものですが」

「では、エデン条約は?」

「そちらはもっと単純ですね。『面白くなりそうだから』、それだけです。もちろん幼馴染みのためというもありますが、それはそれとして正義実現委員会と風紀委員会が手を組むことによる変化には興味があります」

 

などときれいな言葉で片付けているが、要するに『剣先ツルギと合法的に戦える』ことに胸を躍らせているのだろう。

そして憶測の域をでないが、もしかしたらツルギの方も同じことを考えているかもしれない。

言動で勘違いされがちなだけで執務は真面目にやるし年相応の一面を持っているのも事実ではあるが、それはそれとして戦闘狂(バーサーカー)な一面を持っているのもまた事実なことに変わりはない。

出来ることなら二人を会わせたくはないな、と思いながらも進んでいくと、ナギサが保護されているという部屋にたどり着いた。

中に入ると、ナギサはベッドの上に横になって意識を失っているままだった。

だが、今の扉の音で目が覚めたのか、ミラとサクラコが中に入るとゆっくり起き上がった。

 

「ここは・・・」

「お目覚めになりましたか」

「サクラコさん、それに・・・ッ、そうです!ハナコさんとアズサさんは!?それにヒフミさんも・・・!」

「落ち着いてください。“トリニティの裏切り者”についてですが、先ほど解決しました」

「本当ですか!?それでは、いったい誰が・・・」

 

切羽詰まった表情で問い詰めるナギサに、サクラコは一瞬申し訳なさそうに目を伏せてから真実を明かした。

 

「・・・裏切り者の正体は聖園ミカさんでした。引き込んだアリウスの兵力を用いてクーデターを起こし、ゲヘナに全面戦争を仕掛けようと画策していました。アズサさんがアリウスの先兵、スパイだったのは事実ですが、彼女は彼女で別の思惑があったようで補習授業部に味方しました。結果、ミカさんのクーデターは失敗。アリウスは撤退してミカさんは現在正義実現委員会が拘束しています」

「そう、でしたか・・・」

 

サクラコの説明を信じた、というより信じるしかなかったナギサは、ショックをうけたように項垂れる。

だが、そこでようやくサクラコの後ろに控えていた運命アンとしてのミラに意識が向いた。

 

「それで、あなたは・・・」

「初めまして、運命アンと申します・・・その様子ですと、私も候補の一人だったようですね。まぁ、あながち的外れとも言えませんが」

 

そう言って、ミラはフードを外して素顔を晒した。

その行動と正体にナギサは当然のこと、正体を聞いていたサクラコも驚きを露にした。

 

「暁、ミラ・・・」

「・・・なぜ、ここで正体を明かしたのですか?」

「もうトリニティに来る予定はないからね。大盤振る舞いってわけじゃないけど、後腐れは無くしておこうと思って」

 

なんてことのないように言うが、当人からすれば心臓に悪いことこの上ない。

あるいは、言いたいことも言えないこんな状況だからこそ明かしたのかもしれないが。

 

「本当は古書と遺跡だけ調べてさっさと出ようと思ってたんだけど、いろいろあってね。今回のことは貸しにしてもいいんだけど、先生に免じて見逃してもらうだけでチャラってことで」

 

チャラというのは、今回だけでなく今までの不法侵入も見逃せということだろうか。

まぁ、トリニティの命運と天秤にかければ安い方だろう。

それに、ここで断って新たな脅威を生む方がよっぽど怖い。

 

「・・・わかりました、条件を受け入れましょう。また、今後についても問題を起こさない限りはこちらから干渉しないことを約束します」

「それは別になくてもいいけど・・・まぁ、せっかくだしもらっておくよ」

 

別にミラの方から赴く理由はないが、ここまで首を突っ込んでしまったのなら相手の方から呼ばれることもあるかもしれない。そのときに心置きなく出歩けるのであれば悪くはないだろう。

そう考えて、ミラは「もらえるものはもらっておくか」くらいの気持ちで了承した。

 

「それじゃ、私はこれで失礼するよ。これ以上ここにいてもやることなんてないしね。あぁ、ついでに百合園セイアが目を覚ましたらよろしく言っておいて」

「っ!?待ってください!セイアさんが生きて・・・」

「詳しいことはサクラコかハナコから聞いてね」

 

最後にちょっとしたサプライズを投下してから、ミラはフードを被って部屋から出ていった。

 

「アンさん、もうお帰りですか?」

「はい、今日はもう疲れましたから」

「そうですか、送迎は大丈夫ですか?」

「えぇ、たぶん問題ないと思いますので」

「わかりました。ではお気をつけてください」

 

シスターフッドに見送られ、ミラは合宿棟から出ていった。

その道中で聞こえてくる会話は、浮かれているとは言わずとも安堵しているものがほとんどだった。

裏切り者は捕まった、これでエデン条約も問題なく調印できるだろう、と。

エデン条約そのものについてはまだ賛否両論といったところだったが、調印前の不安要素が消えたという点についてはほとんど同じ認識だった。

その状況に、ミラは一抹の不安を覚える。

 

(・・・これで終わり、とも思えないんだけどなぁ)

 

たしかに裏切り者は見つかり、大半を出してきたであろうアリウスの戦力も撃退した。

だが、その多数が拘束できずに撤退を許しており、さらにあれだけの戦力を投入しておきながら最精鋭と思えるような部隊もいなかった。

後者についてはそもそも存在しない可能性も0ではないが、昔の敗残兵であろうことを考えれば碌に整っていない設備と劣悪な環境であるはずなのに、あそこまでの装備と統率を持っている集団に精鋭部隊がいないとも思えない。

それに何より、アリウスからすれば数百年越しの復讐の機会だ。これで終わりなのだとしたら、あまりにもあっけなさすぎる。

ただの杞憂ならそれでいい。だが、杞憂で片付けることのできない何かをミラは感じ取っていた。

 

(・・・そう言えば、アズサの詳しい身の上話を聞いてなかったな)

 

せっかく運命アンであれば堂々とトリニティを歩けるようになったのだ。エデン条約についていろいろと聞いておきたいこともあるし、拘束されているかもしれないが時間がある時に尋ねてみよう。

そうエデン条約の行く末を想像しながら、ミラは視線をゲヘナがある方角に向けた。

おそらくこのエデン条約でナギサと同じくらい身を粉にして動いているだろう幼馴染みのことを想いながら。

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