キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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思ったより筆が乗りまくったので早めの投稿です。
実質的なエデン条約本編が始まります。
存分に人の心がないミラが書けますね。


エデン条約編・1

トリニティの治安維持組織である正義実現委員会。

その本部の中にある応接間にて、イチカは顔を青くしながらダラダラと冷や汗を流していた。

 

(どうして、こんなことになったんすかね・・・)

 

イチカが今にも死にそうな顔になっている理由。

その理由は目の前の光景にあった。

 

「~♪」

「・・・キヒヒッ」

「・・・・・・」

 

現在、イチカの隣ではミラが鼻歌混じりに茶菓子を頬張っており、対面では表面上は普段通りなものの闘志を隠しきれていない笑みを浮かべるツルギと不満不機嫌その他諸々の負のオーラが駄々漏れになっているハスミが座っている。

地雷を踏んで後は足を離すだけみたいな現状に、イチカの胃はすでに限界ギリギリだった。

 

(いや、本当になんでこんなことになったんすかね・・・?)

 

遠い目を浮かべながら、イチカは経緯を振り返った。

 

 

* * *

 

 

ミカのクーデター未遂からしばらく経った後、イチカはすでにトリニティを発っているミラに電話をかけた。

 

『正義実現委員会に来てほしい?どういうこと?』

「あの時の事件がおおよそ終息したんで、事情聴取に来てもらいたいんす。たぶん、ミ・・・アンさんの他に詳しく把握してるのは補習授業部のハナコさんくらいなんすけど、そっちはティーパーティーとシスターフッドで忙しいみたいなんで」

 

この時のミラとイチカは知る由もないが、ハナコがサクラコに増援を頼んだときに出された条件の一つが『表舞台に上がることになるシスターフッドを出来るだけサポートしてもらう』ことだった。

そのため、現在ハナコはサクラコと共に様々な場所で動いている。

別にハナコに正義実現委員会に来てもらうことに問題があるわけではないが、図らずともクーデターの片棒を担ぐような形になった負い目やコハルが世話になった恩からなかなか言い出せない状態になっている。

そこで、今回のクーデター未遂に関して独自に動き正義実現委員会のイチカとも仲が良いミラに白羽の矢が立ったというわけだった。

 

「もちろんこれは強制じゃないですし、もし来てもらえるならささやかですけどもてなす準備もするってツルギ先輩が言ってたっす」

『なるほど。それなら、せっかくだし行かせてもらおうかな。調印前にある程度状況は把握しておきたいし』

 

ミラからすれば敵陣のど真ん中に赴くようなもののはずなのだが、大胆不敵と言うべきか軽い調子で了承してきた。

 

「わかったっす。日時はこっちで指定してもいいすか?」

『いいよ。大した予定もないからね』

 

ただ、この時のイチカは「話をしにくるだけっすし、こんなもんすよね」と大して気に留めていなかった。

あくまで情報交換をするだけ、ミラも大人しくするだろうし問題ないだろうと楽観視していた。

その認識が砂糖もりもりの紅茶よりも甘いものであると気づかないまま。

 

 

* * *

 

 

そして、現在に至る。

いくらか過程をすっ飛ばしているのではと思うかもしれないが、本当になにもなかったのだ。

運命アンとして訪れたミラをイチカが出迎え、ツルギとハスミが待っている応接間に案内した、ただそれだけだった。

にもかかわらず、応接間の中はすでに一触即発の危険な状態に陥っていた。

唯一幸いと言えるのは、この四人の他に誰もいないということだろうか。もしこの場に気弱な生徒がいれば、中に入る前に怯えてしまうに違いない。

イチカからすれば、むしろ他に誰かいてほしい気持ちも多分にあるが。

だが、よくよく考えればこうなるのは必然だったのだ。

正義実現委員会の中でも一番のゲヘナアンチであるハスミは言わずもがな、ツルギだって“キヴォトス最強”を前にして戦闘狂の血が騒がないはずがないし、ミラだって自分から手を出すことはなくても相手の方から手を出してくるのはウェルカムな性分なのだ。

そんな三人が同じ空間に集まって、最後まで穏便に済むはずがなかった。なんなら最初から既定路線でしかなかった。

この結果は、そんな分かりきっていたことを予測しなかった自分の怠慢だ。

まぁ、分かっていたところで自分も当事者なのだから参加しないという選択肢はないのだが。

 

(誰か、誰かこの状況をどうにかしてほしいっす・・・)

 

心の中で助けを求めるが、ぶっちゃけこの状況をどうにかできそうな生徒に心当たりはない。

先生ならどうにかしてくれそうだが、先生もまたエデン条約関連でティーパーティーに詰めている身だ。簡単に頼める立場ではない。

何か適当に理由をつけて脱出しようかと考え始めた時、ようやく険悪な空気のまま止まっていた時間が動き出した。

 

「・・・いろいろと、本当にいろいろと言いたいことはありますが・・・」

 

最初に口を開いたのは、ハスミだった。

イチカはてっきり茶菓子を食べ終えたミラが話し始めるものと思っていたため少し意外に思ったが、直後にそれがどうでもよくなるくらい衝撃的な光景が現れた。

 

「今回の件、シスターフッドと共に補習授業部を助けていただき、ありがとうございます」

「え・・・?」

 

そう言って、ハスミが深々と頭を下げたのだ。

ゲヘナガチアンチに定評のあるあのハスミが、ゲヘナの生徒に対して頭を下げているという異常現象に、ハスミの隣に座っているツルギも思わずぎょっとしていた。

それはミラもまた同じで、軽く目を丸くしてから問いかけた。

 

「いいの?私ってこれでも不法侵入を繰り返しているゲヘナ生だけど」

「それについては本当にいろいろと言いたいことはありますが、問題も何一つ起こしていないようですし、ティーパーティーのナギサ様からも出入りを許可されているのであれば言うことはありません。何より、後輩とトリニティの危機に何もできなかった身です。文句ばかり言うのもお門違いというものでしょう」

 

ハスミは後輩とトリニティの危機を前に何もできなかったことに対して、強い負い目を感じていた。

ティーパーティーから命令されていた以上、立場的にも逆らえないのは仕方のないことではあるのだが、それとこれとはまた別問題であり、結果的な事実は変わらない。

それを考えれば、間接的で私情混じりとはいえゲヘナでありながら解決に協力したミラを『ゲヘナだから』というだけで責める気にはなれなかったのだろう。

ミラもそのことを何となく感じ取ったのか、珍しくフォローを口にした。

 

「別に何もしてなかったってわけじゃないでしょ。聞いたよ?試験会場を封鎖してたけど補習授業部は入れてあげたって」

 

補習授業部がどうなったかは、ハナコからメールで一通り把握していた。

事前情報の通り、試験会場は正義実現委員会によって封鎖されており、本来であれば機密保護を名目に誰も入れさせないはずだった。

だが、ハスミは事前に部下に事情を説明し、補習授業部が来たら通すように命令していた。『試験がんばってください』というメッセージと共に。

そのお陰で、補習授業部は特別試験を無事合格し退学を免れることになった。

トリニティの危機に比べればささやかかもしれないが、それでも確かに誰かのために動いたのは間違いないのだ。

そんなミラの励ましの言葉に、ほんの僅かだがハスミが口元をほころばせた。

 

「・・・そうですか」

 

長い付き合いでないと分からない程度の変化とはいえ、普段ならあり得ない光景にイチカとツルギは再び驚愕を露にする。

同時に、ハスミのゲヘナ嫌いを加速させた原因であるゲヘナの万魔殿の議長に対して少しでもミラのような気遣いを持ち合わせてほしかったものだと心からうんざりした。

とはいえ、事あるごとに風紀委員会の足を引っ張ろうとする人物にそれを期待するのも酷な話ではあるのだが。

 

「それよりも、今はあの事件について話そう。そっちも今はエデン条約で忙しいでしょ」

「それもそうですね。私たちからも、聞かされた限りの情報をお伝えしましょう」

 

一時はどうなることかとヒヤヒヤしていたが、ひとまず思ったより平穏に終わりそうなことに安堵しつつも話が本題に入ったことで真剣か空気に変わった。

 

「すべてはミカ様がアリウスと接触したことからはじまりました。具体的な会話や経緯まではわかっていませんが、そこから密かに内通し始めたのは間違いないそうです」

「今まで誰にも知られず潜んでたアリウスもそうだけど、それを見つけたミカも大概だね」

 

最初からアリウス目当てで探し出したとは考えづらいが、だからといって偶然会ったとも思いたくない。

とはいえ、そこは重要ではないため頭の隅に置いておくことにした。

 

「続いてセイア様襲撃の件ですが、こちらの実行犯はアズサさんであると本人から証言がありました」

「本人からって・・・それはそれで大丈夫なの?」

「いろいろ複雑な立場ではありますが、悪い扱いはしていません」

 

ティーパーティーのホストの暗殺未遂の実行犯となれば、退学を言い渡されても文句を言えないほどの大罪だ。

さぞ厳しく取り締まっているのだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。

アリウスを裏切って補習授業部と共に戦った情状酌量かと思ったが、それとはまた違う理由もあるようだった。

 

「実はですね、アズサさんが証言した潜入時刻と実際に爆発が起きた時刻、この二つに1時間ほどの空白の時間があったのです」

「・・・ただ爆弾を仕掛けにきただけにしては、ずいぶんと長いね。つまり・・・」

「えぇ、そこでセイア様とアズサさんの間で何かしらの会話があり、その結果セイア様の死を偽装する方針に転換。セイア様の言伝通りに救護騎士団の蒼森ミネを頼って匿ってもらったそうです。お二人の会話の内容も、残念ながら詳しくは分からなかったのですが・・・」

「まぁ、普通に考えればトリニティとゲヘナの衝突によって起こり得る未来について話したんだろうね。それを取引材料にアズサを懐柔した、ってのが自然かな」

 

ミラはまだ直接会ったことがないためどのような人物か知らないが、ハナコ曰く「正義感の強い優しい子です♡」とのことらしい。

どこからどこまでが誰の思惑かは分からないが、少なくともアズサは味方寄りと考えていいだろう。

 

「そこでです。ミラさんに聞きたいことが二つあります」

 

ミラが思考を巡らせていると、ハスミが指を二本立ててミラに問いかけてきた。

「とうとうか」と思いながらいったん思考を中断し、姿勢を正してハスミを見据えた。

 

「どうぞ」

「まず一つ目。ミラさんはセイア様の現状を知っているような素振りでしたが、どのように把握していたのですか?」

「あー、そうだね。ちょっと話が長くなるというか、信じられない部分もあるかもしれないけど・・・」

 

そう前置きして、ミラはセイアのことについて語り始めた。

割と早い段階で死亡を偽装して潜伏していたのではと疑っていたこと、セイアの力の概要と夢の中で会話したこと、たぶん先生も同じようにセイアと接触しているだろうこと。

それらを話し終えると、ハスミは頭痛を堪えるようにこめかみを指で押さえた。

 

「・・・にわかに信じがたい話ではありますが・・・ひとまずはそれが正しいと仮定して話を進めましょう」

「助かるよ」

「もとより不思議なお方でしたし、不思議な力を持っていてもおかしくはないでしょう」

 

それは理解の放棄ではなかろうかとミラは思ったが、口には出さなかった。

どこぞの空気を読まない議長とは違うのである。

 

「さておき、二つ目の質問です。むしろこちらが本題と言えます・・・今回でアリウスは終わりだと思いますか?」

「終わりじゃないでしょ」

 

ハスミの問いかけに対し、ミラは即答で返した。

 

「根拠は?」

「あの戦いの後、アリウスの大多数は捕らえきれずに逃げられたから、兵力はそれほど消耗してないはず。それに、数百年越しの復讐をクーデターの失敗程度で諦めるとも思えない」

「でしたら、次に仕掛けてくるのはどのタイミングだと思いますか?」

「確証はないけど、たぶんエデン条約調印の当日。トリニティもゲヘナもまとめて狙えるからね」

「同意見です」

 

問題なのは、襲撃方法。

トリニティとゲヘナの間で結ぶ平和条約とあって、二校合同で相応以上の警備を敷くことになっている。

連携できるかどうかはさておき、単純な兵力で言えばキヴォトス史上でも最大になるだろう。

アリウスと言えど真正面からぶつかる相手ではない。

さらに言えば、先のクーデターでアリウスがトリニティに潜入した経路は未だに謎のまま。どこから現れるか分からない。

 

「一応、調印の時は私も隠れて見物するつもりだけど、あまり当てにしないでね」

「分かっています。そもそも、これは()()()()仕事ですから」

「・・・」

 

その“私たち”の中にゲヘナの風紀委員会が入っているかどうかは推し測るべしといったところか。

思ったよりミラと仲良くなったものの、ゲヘナそのものへの憎悪がなくなるわけではないし、そもそも悪いのは万魔殿の議長であって究極的に言えばゲヘナ学園すら議長のとばっちりを受けているにすぎないのだ。

とはいえ、ハスミのゲヘナに対するあれこれはミラの知るところではない。強いて言うなら、復帰した後に良好な関係を築けるかどうかというくらいだろう。

要するに、今はわりとどうでもいいことだった。

 

「それで、今日はこれで終わり?」

「そうですね。ご協力感謝します」

「それじゃ、私はこれで失礼するね」

「えぇ。イチカはミラさんを送ってあげてください」

「は、はい!了解っす!」

 

ハスミの指示に従い、イチカは慌てて立ち上がって先に部屋を出ようと歩き出したミラの背中を追いかける。

 

「・・・良かったのか?」

 

二人の姿が扉の向こうに消えたところで、ツルギはハスミに話しかけた。

様々な意味を含んだ質問だったが、ハスミは敢えて割合的に多いだろう問いにのみ答えた。

 

「悪くはなかったです。少なくとも、ゲヘナの風紀委員長とは上手くやっていけるかもしれませんね」

 

ミラがあそこまで気を遣える人物であるならば、その幼馴染みであるヒナもまた真面目なのだろう。何度か会った時はいつも気だるそうな印象だったが、伊達に風紀委員長を務めているわけではないということか。

そう考えながら、逆にハスミからも気になることを尋ねてみた。

 

「ですが、ツルギこそ良かったのですか?ミラさんと話したがっていたと思いますが」

「・・・緊張して話せなかった。それに、邪魔をするわけにはいかなかったから、我慢した」

「そうですか」

 

照れていた、というよりはうっかりドンパチ始めないように気を遣っていたのだろう。付き合いの長いハスミにはツルギがうずうずしていたのが丸分かりだった。

そしてたぶん、ミラもツルギとやりたがっていた。見間違いでなければ、意識的にツルギから視線を逸らしていたようにも見えた。

案外、自分よりもツルギの方がミラと仲良くなれるのかもしれない。周囲への被害はさておき。

なんとなくそのような未来が想像できてしまったハスミは、ミラに抱いたものとはまた別の複雑な感情が混ざったため息をこっそりと吐いた。




イチカは「あれ、自分って本当にここにいていいんすか?」と恐縮しまくっているため、ツルギは自分が口を開いたら話がどこまでも脱線しまくりそうな気がしたため、それぞれ口を閉じて大人しくしていました。
それはそれとして、まともなツルギの書き方がいまいち分からん。
片言で話せばいいのか・・・?

アニメで公式からの供給が過多すぎて書き直そうか悩みどころ。
特に戦闘シーンの描写が豊富なんで、時間があれば書き足しましょうかね・・・。
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