キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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今回は二話連続投稿になります。
これは連続投稿の二話目になりますので、前話からお読みください。


エデン条約編・4

「ヒナ、大丈夫?先生は、っ」

「ミ、ラ・・・?」

「話さなくていい。動かないで」

 

翼を大きく広げて間に割り込んだミラだったが、1,2発だけ弾がすり抜けたようで先生の腹部には赤い染みが広がっていた。

急所ではないものの出血量は多く、放っておけば命に関わるだろう。

 

(備えあれば憂いなし、ってことかな。念のためにくすねておいてよかった)

 

そんなことを考えながら、ミラは懐からその辺で盗んだ止血剤を打ち込んだ。

効果はすぐに現れ、先ほどよりも出血量が減っていき僅かだが先生の息も落ち着いていった。

 

「遅くなってごめん、トリニティのナギサとか探して分かりやすい場所に放り投げたり、途中で見つけたアリウスの連中を片付けたりしてたから。ヒナはこのまま先生をお願い。ここは私が受け持つ」

「っ、で、でも!」

「私なら大丈夫。私が強いのは知ってるでしょ?それに、必要な分の時間を稼ぐだけだから」

 

理性的に考えれば、ミラの言う通りに撤退するべきだ。先生が危険な状態だし、自分もボロボロで戦闘の継続は難しい。

だが、感情は一緒に戦いたいと叫んでいた。自分はまだ戦える、ミラの隣に立って戦いたい、と。

しかし、現実はどこまでも無情で、

 

「先生!こちらに!」

 

ヒナが何かを言うよりも早く現れたのはゲヘナ救急医学部の車両で、後部扉からセナが顔を出してヒナたちを呼んでいた。

それに反応したミラは素早くヒナと先生を揺らさないように担ぎ上げ、有無を言わせずに車両に乗せた。

 

「あなたは?」

「ここに残るよ。ヒナと先生をお願い」

「・・・ご武運を」

 

セナはミラのことを知らない。だが、先輩から数多の問題児を救急医学部送りにしてきた、今はいない風紀委員の武勇伝を聞いたことがある。

その内容から目の前の生徒こそが武勇伝の主であると判断し、大人しく指示に従って車両を走らせた。

車両が交差点を曲がって姿を消したところで、ようやくミラは後ろを振り向いて先生を撃った生徒であるサオリに視線を向けた。

 

「わざわざ待っててくれたの?案外優しいところもあるじゃん」

「・・・放っておいても死ぬと判断したまでだ」

 

そう冷酷に告げるサオリの声は、ほんの僅かに震えていた。

言ったことに嘘はない。が、それはそれとして引き金を引くこと、引かせることができなかったのもまた事実だった。

少しでも手を出せばしっぺ返しではすまない反撃が返ってくると、本能が警鐘を鳴らしていた。

だからこそ手を出せずにいたのだが、それもここまでだった。

 

「いくつかの分隊と連絡がとれなくなっている。犯人は貴様だな?暁ミラ」

「私のこと知ってるんだ?まぁ、噂に聞くアリウスならそりゃそうか」

「・・・その軽薄な態度がいつまで続くか見物だな」

 

元より、ミラもまた排除対象だった。

あくまで“その場にいるなら排除する”程度の受動的なものだったが、こうして対峙したのであれば是非もない。

 

「憎いか?トリニティとゲヘナを滅ぼさんとし、シャーレの先生と貴様の幼馴染みを排除しようとした我々が。だが、貴様たちが我々に与えた屈辱と憎悪は・・・」

 

「この程度ではない」と続けようとしたサオリの言葉は、だんだんと尻すぼみになっていった。

先ほどまでミラが放っていた気迫は、アリウスの精鋭であるスクワッドをして足をすくませるものだった。

当然だ。大切な幼馴染みをボロボロになるまで痛めつけ、慕っているだろうシャーレの先生を殺そうとしたのだから。

だからサオリは、ミラは怒りを覚えているか、あるいは憎しみを抱いているものだと思っていた。

だが、実際にミラの瞳に浮かんでいた感情は、

 

「なるほど。何となく予想はついてたけど、可哀そうなものだね」

 

憤怒でも憎悪でもなく、()()

心のそこから、ミラはアリウスのことを憐れんでいた。

 

「知りもしない屈辱やありもしない憎悪を押し付けられ、身勝手な復讐の駒に使われる。なにより捨て駒ってのがどうしようもない。何も知らされずに使い捨ての道具として消費されるなんてね」

「なにを、言って・・・」

「分からない?あー、そりゃそうか。道具として使うなら思考なんて余計でしかないし、そういう教育・・・いや教育か?どっちかというと洗脳とか刷り込み?まぁ、そういうのをされててもおかしくはないか」

 

サオリたちはミラの話についていけない。というより、ミラについてこさせるつもりがない。

何故なら、両者にはゲマトリアという前提知識の有無があるから。

ゲマトリアについてある程度の知識と理解があるミラからすれば『連中ならそうするだろうね』と納得できるし、その毒牙にかかったアリウスは被害者でしかない。

対し、アリウススクワッドはミラの言葉に困惑を隠せない。

厳密には、ミラの言っていることに心当たりがまったくないわけではない。

だが、“彼女”から受けた教育が疑問を抱くことを許さない。そういう教育を受けさせられた。

そして、

 

「まったく、ここまで不憫となると、思わず同情しそうになるよ」

 

疑問を抱くよりも前に、ミラの言葉がサオリの逆鱗に触れた。

 

「同情?同情だと・・・!?ゲヘナの貴様に、私たちの何が分かると言うんだっ!!」

「べつに何も?まぁ、だからと言って引きこもってばかりだったのに世の中を理解した気になっているのは滑稽でしかないけど」

「調子に乗るなよ!こちらには、ユスティナ聖徒会の無限の戦力が・・・!」

「ふっ、アハハハハ!」

 

サオリの言葉に、ミラが堪えきれないといった様子で笑いだした。

その様子がさらにサオリの精神を逆撫でするが、すぐに言葉を失うことになる。

 

「新しい玩具をもらって、気が大きくなってるみたいだね。まぁ、気持ちは分かるよ。でっかい花火に数えきれない人形、初めて見る玩具はいつだってワクワクする。私だって同じだもん。でもね・・・

 

 

 

 

玩具で私を倒せると思うのなら、それはちょっと心外だなぁ」

 

次の瞬間、ミラの全身から赤雷と共に物理的な影響力を持っていると錯覚するほどの圧迫感が放たれた。

いや、実際にミラの周囲の砂埃は放射状に吹き飛んでいる。

つまり、錯覚ではなく本当にミラから圧力が放たれていた。

翼や雷によるものだと頭で理解しようとしても、本能がそれだけではない()()を訴えてくる。

 

「別に私が全部片付けてもいいんだけど、それは先生も望んでないだろうし、時間稼ぎに遊ぶ程度にしてあげる」

「っ、総員戦闘態勢!」

 

全身が総毛立つ感覚に襲われながら、それでもサオリはアリウスのリーダーとして指示を出す。

それが、合図となった。

 

「それじゃ、せいぜい私を楽しませてね?」

 

白い龍が、アリウスに赤い銃口と牙を向けた。

 

 

* * *

 

 

『暁ミラですが、()()が手中に入れば問題ないでしょう』

 

作戦実行前、()()はそう言っていた。

 

『たしかに一つの企業を潰すだけの力を持っているようですが、所詮は個の力。無限の兵力で圧迫し続ければ、いずれ押し潰すことができるでしょう。なので、最優先事項はユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の確保とします』

 

()()の命令に、サオリは異論を唱えなかった。

そもそもそのように育てられたというのもあるが、もしそうでなかったとしても素直に従っていただろう。

それだけ、()()の言っていることは至極尤もで、普通のことだった。

 

(何なんだ・・・)

 

だが、

 

(いったい何者だというんだ・・・!)

 

目の前にいる存在は、

 

(本当に、こいつは同じ生き物なのか!?)

 

普通ではなかった。

 

「はっははは!まだまだいるんでしょ?ほらほら、もっとこっちにおいでよ!」

 

戦闘が始まってから、1時間はとうに過ぎ去り、2時間も越え、3時間から先は時間感覚すら曖昧になっている。

すでに日が落ちかけているにも関わらず、ミラは一切の衰えなく狂笑を振り撒きながらの全力戦闘を続行していた。

手負いだったゲヘナの空崎ヒナは言わずもがな、トリニティの剣先ツルギでさえ他の正義実現委員会と共に戦っても1時間足らずで決着がついた。

だが、ミラはたった一人で押されるどころかむしろ押し返すほどの勢いでユスティナ聖徒会の軍勢を蹴散らしている。

被弾がまったくないというわけではない。射撃やグレランなどの爆発は何度も受けている。

そのどれもが、ミラに通用していない。かすり傷を負うことはあれど、それ以上の有効打になり得ない。

そんな馬鹿げた持久力と耐久力もさることながら、攻撃力も化け物じみていた。

絶え間なく降り注ぐ赤雷は一撃でユスティナ聖徒会を消し飛ばし、建物に隠れようと雷球やアブソリュートの射撃によってコンクリートの壁ごと吹き飛ばされる。

周囲に存在していたビルはほとんどが倒壊し、かろうじて原型を留めているビルも壁に大穴が空いていたりと到底人が入れない状態になっている。

少なくないアリウス兵とユスティナ聖徒会が生き埋めになっており、アリウスは比喩抜きで壊滅状態に陥っていた。

現在アリウスで戦闘を続行できるのは、ユスティナ聖徒会を除けばスクワッドの4名のみ。他はすべて戦闘不能か撤退に追い込まれ、残っている物資も心許ない。

 

「・・・リーダー、どうする?勝てる気がしなくなってきたんだけど。さすがにロケットランチャーの弾を素手で投げ返されるとは思わなかった」

「そ、狙撃も何度か当たったはずなんですけど、少しも効いてる様子がないですし、バレたら一発で狙撃地点ごと吹き飛ばされて、そろそろ使えるポイントが・・・」

「・・・口惜しいが、撤退だ。狙いをトリニティとゲヘナに戻す」

 

瓦礫の裏で隠れながら溢したミサキとヒヨリの弱音を、サオリも肯定せざるを得なかった。

生物としての格と強度が違いすぎる。

人が素手で熊を倒せるイメージが浮かばないように、銃火器だけでドラゴンを倒せるイメージなどできるはずもない。

 

「幸い、奴は複製(ミメシス)にかかりきりになっている。今なら・・・っ、離れろ!」

 

肌がピリつく感覚を覚えたサオリは、警告と共にその場から飛び降りた。

次の瞬間、先ほどまでサオリたちがいた場所が雷球によって粉々に吹き飛ばされた。

 

「あれ、避けたんだ。なかなかいい反応をしてるんだね」

 

入れ替わるように瓦礫の上に君臨しているミラの身体には相変わらず傷らしい傷はついておらず、両手に巨大な拳銃を持ちながら喜色の表情を浮かべたまま。

疲労や苦渋など少しも感じさせない。

ミラが言った通り、本当に遊びのつもりで戦っているのだろう。

徹底したゲリラ戦と無限の兵力を以てしても、追い詰めるには程遠い。

それどころか、自分達が追い詰められつつある。

 

「あぁ、そうそう。あの人形を動かしてるのって誰?出てきたタイミングからしてエデン条約が関連してるんだろうけど、調印したお仲間さんがいるのかな?」

「誰が貴様に教えるものか!」

「なるほど、君たちに近しい誰かってところか。そんなに必死になるってことは、幼馴染みみたいな関係だったり?」

「ッ・・・!」

 

あぁ、これだとサオリは妙な納得感を覚えた。

赤い光彩に縦に割れた黒い瞳。

その目に写る自分達を、ミラは等しく格下であると認識している。

それも、チンピラとか不良みたいなものではない。

言うなれば、小動物。生かすも殺すも気分次第、気にしようが気にしまいがどうでもいい、そんな感じ。

ユスティナ聖徒会がいるから辛うじて認識されているだけで、もし自分たちだけであればすでに興味を失っているに違いない。

その確信が、ある意味で今まで教えられてきた憎悪以上にサオリを苛立たせていた。

 

「あぁ、あそこで隠れている子だったりするのかな?」

「っ!姫、逃げろっ!」

 

ミラは目の前に生み出した雷球を別の瓦礫の山に向けて放つと同時に、サオリは咄嗟に瓦礫の陰に隠れているアツコに向かって叫んだ。

サオリの警告のお陰で咄嗟に回避して直撃は免れたものの、完全に回避することはできず着弾の衝撃によって吹き飛ばされてしまった。

 

「姫っ!」

「ふぅん、ヒメって言うの?それとも愛称?どっちにしても可愛らしい呼び名だね」

「貴様!!」

「うんうん、さっきよりはいい表情になったんじゃない?少なくとも、復讐とか屈辱がどうこう言ってた時よりはマシになってるよ」

 

「狂人め!」と叫びたいところだが、今のサオリにそこまでの余裕はない。

ミラの見立て通り、ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)はアツコがキーになっている。

だからこそ自分たちよりも一歩下がらせ離れた位置に置いていたが、それが仇になったようだ。

アツコを守るため、サオリは即座にアツコの近くに駆け寄った。

 

「さて、遊びとは言え他のみんなのことを考えたらユスティナ聖徒会はある程度潰しておきたいところなんだけど、その辺どう思う?」

 

言外に「アツコをどうしてやろうか」という問いかけに、サオリは咄嗟にアツコを背後に庇う。

とはいえ、半端な攻撃はミラには通用しない。出来ることがあるとすれば、せいぜい身代わりくらいか。

 

「姫!リーダー!」

 

万事休すといったところに、ミサキが声を張り上げた。

反射的に声が聞こえた方向を振り向いたミラに対し、サオリとアツコはほぼ反射的にその場から飛びずさった。

ミサキは声を張り上げた時点ですでにロケットランチャーを放っていた。

狙いはミラの足元、ギリギリ直撃しない範囲の瓦礫の山だった。

瓦礫の山の内部で炸裂したロケット弾頭は手榴弾のように破片を撒き散らし、同時に砂煙によってミラの視界を奪う。

さらに追加でありったけの煙幕を放り込んで完全に姿が見えなくなった。

 

「今のうちに、早くここから離れよう」

「そうだな・・・助かった」

 

短く礼を言ってから、アリウススクワッドはすぐにこの場から離脱した。

今のはあくまで足止めであり、それも長くはもたない。

再びあの怪物に追いかけられないことを祈りながら、4人は拠点へと撤退していった。

 

 

* * *

 

 

「・・・まぁ、こんなものかな」

 

未だに煙幕が立ち込めている中、ミラはアリウススクワッドが撤退している様子を近くの建物の窓から確認した。

ロケットランチャーによる爆発を受けた時点で、ミラは爆発を遮蔽代わりに死角から離脱していた。

理由は、ミラもまたこれ以上の継戦が難しかったから。

ミサイルの余波を受けた段階では体に感じた痛みは問題ないと判断したが、アブソリュートの連続射撃による反動や爆発の衝撃が予想以上にミラの体を蝕んだ。

アブソリュートが弾切れしかけていたのはともかく、これ以上戦闘を継続して爆発を受けていたら今後の戦闘に支障をきたす可能性があった。

先のことを考えれば、このまま逃がして自分も安静にした方がいい。

 

(だいぶ暴れたし、立て直しにはかなり時間を使うはず。たぶん・・・早くても日は跨ぐかな。朝までかかれば御の字ってところか)

 

幸い、当初の目的である時間稼ぎは十分果たしたし、ついでにスクワッド以外のアリウス兵もあらかた排除したことを考えれば十分すぎるくらいと言っていい。

あとは、再びアリウスが動く前に先生が目を覚ますかどうか。

こればかりは運次第だが、生徒のためなら身を惜しまない性分とセイアとの接触の可能性を考えれば意地でも起き上がろうとするだろう。

ならば、これからすべきは少しでも先生の負担を減らすための状況を作ることだ。

そのために、ミラは携帯を取り出してある番号に電話をかけた。




改めてスタミナ切れしない代謝能力を持ってる古龍って生物としてチートすぎる。
クシャルダオラ?奴は所詮一般モンスとの縄張り争いに敗れた敗北者じゃけえ。

以前めちゃくちゃ不評だった敗北回について改めて捕捉。
ミラの得意分野は広域殲滅戦で、どれだけ数を用意しても古龍特有の無限スタミナの前では大して意味はありません。
逆に狭い建物内での戦闘はそこまで得意ではなく、作中のような地下なら状態異常や爆発物をフル活用することでハメ殺しできます。
というか基本的にハメないと勝てません。
さらに、量や種類などにもよりますが一度食らった毒や薬剤には耐性がつくので、基本的に同じ手は使えません。
もっと言えば、あの時使って現在耐性を獲得している麻酔はゲマトリア特製の特別なやつなので、今後は他の麻酔薬を使っても睡眠ハメはできません。
今さらですがそう事情があったので許して・・・許して・・・。
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