キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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二話を試行錯誤しながら並行して書いてたら、また二話同時投稿になってしまいました。
どこをどこまで書くか、エデン条約編はマジでいろいろと複雑すぎる・・・。


エデン条約編・5

アリウスによる襲撃が始まった頃、トリニティは大規模な混乱状態に陥っていた。

理由はミサイルを用いた古聖堂爆破による主要人物の安否不明。

特にティーパーティーのホストであるナギサとシスターフッドのリーダーであるサクラコと音信不通状態になっているのが大きかった。

そんな中で、最も気を吐いて動いていたのはハナコだった。

サクラコとの約束を守るため、補習授業部が戻る場所を守るため、急いで大聖堂に戻ったハナコは臨時でサクラコの代わりにシスターフッドの指揮をとっていた。

状況が動いたのは、先生が銃撃されて救護騎士団の部室に運び込まれた報告を受け、事件発生時の映像を復元した少し後のことだった。

 

「報告!ナギサ様とサクラコ様が発見されました!」

「本当ですか!ご無事でしたか!?」

「重体で意識不明ですが、容態は安定しているそうです!」

「発見したのは、正義実現委員会のイチカさんが指揮している部隊です!数は多くないですが、救助活動を行っているとのこと!」

「通信が入りました!繋げます!」

 

ナギサとサクラコの発見。

この意味は言葉以上に大きい。

これでトリニティ内の混乱が一時的に治まる可能性が高くなった。

それに、一部でも正義実現委員会が正常に機能しているというのもありがたい。

シスターフッドだけではすべての混乱に対応できないため、このまま通信を繋げて連携しよう。

そう考えながら、ハナコはイチカと通信を繋げた。

 

「こちら、臨時でシスターフッドの指揮をとっている浦和ハナコです!」

『うえっ!?あっ、せ、正義実現委員会の仲正イチカっす!』

 

この非常事態にそんな反応をすることはないのではと思わなくもないが、完全に自業自得のためそれには触れずに本題に入った。

 

「そちらはどのような状況ですか?」

『ツルギ先輩が重傷、ハスミ先輩が重体でダウンしてやばかったっすけど、今はユスティナ聖徒会が他所に行ったおかげでなんとか立て直せてるっす!』

「ユスティナ聖徒会が?いったいどこに?」

『それなんすけど・・・』

 

少し口ごもるイチカに、まさか何か悪いことが起きているのかと身構えた次の瞬間、通信の向こうで立て続けに激しい轟音が鳴り響いた。

 

『うわ危な!ここでもヤバいんすか!?退避!退避っす!!』

「イチカさん!?大丈夫ですか!?」

『こっちはまだ大丈夫っすけど、少し離れたところでミラさんがめっちゃ暴れてるっす!』

「暁ミラさんがですか!?」

 

思わぬタイミングで出た名前に思わずハナコも驚くが、幼馴染みだというゲヘナの風紀委員長のことを考えればいてもおかしくはない。

むしろ、派手に暴れてアリウスとユスティナ聖徒会を引き付けてくれているのはこれ以上ないほどの好機だ。

 

『かなり広い範囲に赤い雷が落ちまくってるんで近づいたら危ないっすけど、おかげでアリウスとユスティナ聖徒会はほとんどそっちに釘付けになってるっす!』

「わかりました!ミラさんが敵を引き付けている間にこちらも何とか立て直します!」

『こっちも出来る限り負傷者を回収してから合流するんで、そっちは任せ、ってちょっ、今度はビルが倒れてる!?どんだけハッスルしてるんすかあの人!!』

 

どうやら現場は相当めちゃくちゃなことになっているらしい。イチカの悲鳴が如実にそれを表していた。

だが、余波に巻き込まれかけているだけの自分たちが混乱しそうになっているということは、アリウスの方は混乱どころの騒ぎではないだろう。

 

「暁ミラとは、まさかゲヘナのあの?いったいどういう・・・」

「私たちの敵はゲヘナではない、ということでしょう。この事を広めて反ゲヘナの方たちを牽制してください!」

(感謝します、ミラさん・・・!)

 

トリニティのために戦っているのではないと理解しつつも感謝の念を送りつつ、ハナコは再び自分のすべきことに注力し始める。

長い戦いが始まろうとしていた。

 

 

* * *

 

 

それは、どれほどの確率だったか。

あるいは、砂漠から砂金を見つけ出すようなものだったのかもしれない。

それだけの奇跡を、ヒフミはたしかに掴んでいた。

良いものだったのか悪いものだったのか、それはまた別の話だったが。

 

「アズサ、ちゃん・・・?」

 

トリニティから古聖堂へと続く大橋。

ハナコがシスターフッドで、コハルが正義実現委員会で頑張っている中、自分でもできることをといつの間にか姿を消したアズサを探していたヒフミは、そこでアズサを見つけた。

 

「・・・ヒフミ」

「アズサちゃん、今までどこに・・・学園は今、大騒ぎで・・・」

「・・・うん、知ってる」

「アズサちゃん・・・?」

「・・・これを、誰かが止めなくちゃいけない」

「それは、どういう・・・」

「来ないで!!」

「・・・!!」

 

いきなり大声を出して制止したアズサに、ヒフミは思わず肩を大きく震わせながら立ち止まった。

その姿に僅かな罪悪感を覚えながら、アズサは簡単に訳を説明した。

 

「・・・ここからは、私の居場所。ヒフミみたいな善良な人は、これ以上来ちゃいけないんだ」

 

アズサは、今古聖堂周辺で何が起きているか、ほとんど理解していた。

アリウスの襲撃にユスティナ聖徒会の顕現、そしてミラの介入。

自分だけが、今起きている全てを把握している。

だからこそ、これを止められるのは自分しかいない。

そして、それに親友であるヒフミを巻き込みたくなかった。

なぜなら、ここから先は『人殺し』の場所だから。

だが、それでヒフミが納得するわけもなく、

 

「あ、アズサちゃん?・・・なんのお話ですか?私じゃ、何がダメなんですか・・・?」

「・・・平凡で優しいヒフミには、似合わない話だよ」

 

これ以上ヒフミを関わらせないために、アズサはさらに語気を強めるように言葉を続ける。

 

「これは、私のせいだ。私のせいで、ティーパーティーや正義実現委員会に、ゲヘナの人も、みんなが傷ついて・・・先生が、撃たれた・・・全部、私のせいだ。このままじゃ、みんなまで危険になる」

「そ、それは、アズサちゃんのせいじゃありません・・・だ、大丈夫です。先生は・・・先生もきっと、すぐに目が覚めるはず、ですし・・・ですから・・・!」

「ヒフミ。そんなハッピーエンドは・・・この世界にはないんだ」

 

『すべては虚しいもの』。

アリウスで()()から徹底的に教育された言葉は、未だにアズサの中に残っている。

もしそれが違うものだとしても・・・否定するには、何もかも遅すぎた。

 

「今から私はサオリのヘイローを()()()行く。それ以外に、この事態を止める方法はない」

「ま、、待ってください!方法・・・方法なら、きっと・・・!」

 

ヒフミは必死に説得を続けるが、それを遮るようにアズサは黙ってガスマスクを装着した。

 

「私はこれから、人を殺す。それが当たり前の場所で、それが当たり前だと教わり、それが当たり前みたいに動けるように訓練された存在・・・それが、本当の私。こんな私が、ヒフミと同じ世界になんていられない」

「アズサ、ちゃん・・・?」

「・・・ヒフミ。私を友達だと思ってくれてありがとう。“アズサちゃん”って呼んでくれてありがとう。可愛いぬいぐるみをくれて、ありがとう。

学ぶことは、本当に楽しいことだった・・・これまでの時間は、死んでも忘れない。少しでも、補習授業部の生徒でいられてよかった」

 

そう言って、アズサは戦場へと続く橋を渡っていった。

 

「ま、待ってください、行かないで、アズサちゃん・・・アズサちゃんっ・・・!!!」

 

必死に叫ぶヒフミが伸ばした手は、何にも届かなかった。

 

 

* * *

 

 

「くっ、まさかここまで手酷くやられるとは・・・」

 

ミラに一方的に蹂躙されたアリウススクワッドは、負傷した体を引きずりながら何とかアジトまで撤退した。

 

「追跡はされていないな?」

「それは大丈夫。さすがに、向こうも無傷じゃなかったと思いたいけど・・・」

「ほ、本当になんだったんでしょう?あそこまでデタラメに強いなんて・・・」

「だが、追撃してこないなら少なくとも手負いではあるはずだ。それに暁ミラを直接狙わずとも、先にゲヘナを潰せばいい。こちらに複製(ミメシス)がある以上、ゲヘナとトリニティの主力が復活するよりも早くこちらが仕掛けられる」

「でも、例の『戦術兵器』でも、相手になるか・・・いや、時間稼ぎさえできれば、ってところかな」

 

ゲマトリアの一員であり協力者(?)でもある木偶人形、マエストロが寄越した『戦術兵器』についてミサキが言及すると、アツコが手話でそれについての見解を述べた。

 

「『あれは“太古の教義”に基づいて作られた失敗作』・・・失敗作?あの人形、失敗したの?・・・『失敗作でありながらも戦術兵器としては十分』・・・?ならそれでいいけど」

「どっちでもいい。早くゲヘナ方面に複製(ミメシス)を展開させて・・・」

 

ミラへの報復を果たすべく指示を出そうとしたサオリだったが、ふと何かが引っかかったように言葉を止めた考え込み始めた。

 

「リーダー?」

「ど、どうかされましたか?」

「・・・私たちがここを空けていたのは、どれくらいだ?」

「え?7時間くらい、ですかね・・・」

 

本来であれば3時間くらいで戻る予定だったが、ミラの乱入によって大幅に時間が遅れてしまった。

とはいえ、追跡されていないのであればそれは大して問題にならない。

だが、もし自分たちの動向を予測できる人物がいて、奇襲をしかけようとしているのだとしたら?

4時間の遅れは、自分たちを襲撃する準備にかける時間として十分すぎる。

 

「・・・あいつがいる」

「あいつ?」

 

サオリが呟いた言葉にミサキが反応した次の瞬間、近くの壁が爆発によって吹き飛んだ。

 

「ひっ、ひいぃぃっ!?」

「ブービートラップ、いつの間に・・・!?」

「あ、こ、こっちにも!?」

「・・・!!」

「動くなっ!」

 

あちこちで爆発が起こりパニック状態に陥りそうになったところで、サオリが鋭い声で動きを止めた。

 

「この爆発は私たちの隙を突くための陽動だ。相変わらずそういう手法は上手いが、冷静に対処すれば・・・」

「いえこの感じ、おそらくまだ周囲にもありますよ!?早く脱出しないと・・・!」

「ヒヨリ!」

 

だが、元々気弱な性格なヒヨリは連続する爆発に耐え切れず、出入り口へと向かって走り出してしまう。

それを狙いすましたかのように、ヒヨリの進行方向をすぐそばで爆発が起き、巻き込まれたヒヨリは気絶してしまった。

 

「・・・明らかにヒヨリから狙った。狙撃手から処理したってことは・・・」

「・・・接近戦に持ち込む気か?」

 

アズサの動きからその狙いを読み取ろうとするが、確信を得る前にガチャッと物音が響いた。

 

「上っ、手榴弾!」

 

ミサキの警告に咄嗟に反応した三人がその場から退避することで、爆発の直撃を避けることが出来た。

だが、サオリは煙の向こうにアズサの姿を確認した。

 

「白洲アズサ!・・・逃がすか!」

「リーダー。追いかけたら、それこそ思うつぼ・・・まぁ、仕方ないか。姫、ヒヨリの状態は?」

 

ミサキが止めようとするが、完全に頭に血が上っているサオリはかけられた言葉も聞こえない様子でアズサを追いかけていった。

サオリを止めきれなかったミサキは、軽く肩を竦めてからアツコにヒヨリのことを問いかけた。

それに対し、アツコは手話で『気絶してるけど問題ない』と返した。

 

「そっか・・・『長期戦になる?』まぁ、アズサが本気になったらたしかに・・・」

 

そう話していると、爆発音の中に聞き慣れた銃声が響くようになった。

 

「・・・リーダーの銃声、追いついたかな。仕方ない、私たちも行こう、姫」

 

ブービートラップが相手が動くことを想定して配置しているのであれば、気絶したまま放っておいても問題ないと判断してサオリの後を追った。

だが、合流する頃にはアジトの中はボロボロになっており、未だにアズサが逃げ回れていることから相当サオリの頭に血が上っているようだった。

 

「アズサっ!!」

「待って、リーダー。このままじゃキリがない。ユスティナ聖徒会を呼んだら?」

「・・・聖徒会は、トリニティとゲヘナの紛争にしか介入しない。それに、アズサはトリニティの生徒ではないと解釈される可能性もある。それどころか、アズサが“アリウススクワッドだ”と解釈されたら・・・」

「・・・ふぅん、けっこう面倒な構造なんだね。まぁ、結局は解釈次第だし、そういうペナルティがあるのも当然かもしれない」

 

いくらでも復活する無敵の戦力だと思っていたユスティナ聖徒会だったが、どうやら相応に制約や弱点も多かったらしい。

だが、それでもこの場において然程問題ではなかった。

 

「だが、あいつの戦い方や考え方は、全て基本的に私が教えたものだ。私じゃないと倒せない・・・追うぞ」

 

それだけ言って、サオリは再びアズサの後を追い始める。

先ほどの会話のおかげか、幾分か冷静さを取り戻したサオリはじりじりとアズサに迫り、ようやく銃口をアズサに突きつけるところまで追いつめた。

 

「チェックメイトだ、アズサ」

「・・・くっ」

「お前にしてはよくやった・・・それでも無駄だ。お前の考え方、思考、最初から全ておお見通しだった。最初から、無駄な抵抗だったんだよ」

 

付近に爆発物はない。仮にあっても遠隔起動するよりも早くサオリが撃ち抜く。

アズサの銃はサオリが踏みつけているため、反撃もできない。

完全な詰みの状態だったが、アズサが口にするのは別のことだった。

 

「いつから・・・?」

「?」

「いつからアリウスは、巡航ミサイルなんてものを?それに、いつの間にあんな不思議な力を操れるようになったんだ?・・・“ヘイローを壊す爆弾”も」

「・・・アズサ、どうしてお前が勝てないのか分かるか?」

 

尋ねられたサオリは、アズサの問いではなく別の答えを口にする。

 

「それは、弱いからだ。何が人を“人殺し”にすると思う?それは“殺意”の有無」

 

そして、改めてアズサの問いに対して答え合わせをした。

 

「そういうことなんだよ、アズサ。意志さえあれば、道具は関係ない。重要なのは、ただそこに込められた“意志”だけ。ミサイルを含め、それ以外の手段やら何やらは、私たちの恨みを証明する道具でしかない・・・それ以上でも、それ以下でもないのさ」

「・・・もう一度聞く、“いつから”だ?」

 

続く問い掛けは、同じ質問の焼き直しではない。

もっと本質に迫り得るものであり、同時にあの時ミラから投げかけられたものでもあった。

 

「その恨み、私はあの時ただあそこで“習った”だけだ・・・その恨みは、いったい誰のものだ?」

「アズサ・・・!」

 

その時、サオリの瞳にはアズサの名前を呼びながらアズサではない者が映った。

その刹那に浮かんだ激情は、確かな隙だった。

意識が僅かに自分から逸れたのを見計らって、アズサは近くに設置していた爆弾を起爆させた。

爆風に怯んだサオリの隙をつき、自分の銃を回収してアズサはその場から逃げていった。

そのタイミングで、サオリの下にアツコが合流した。

 

「ちっ、相変わらず逃げ足の速い・・・まあ良い、どうせあいつはまた戻ってくる。なにせ、この大事な“友情の証”とやらを落としていってしまったからな」

 

余計なことを考えたせいで逃がしたことに苛立ちを覚えながら、サオリは意識を切り替えてアズサがいたところ近くに落ちているぬいぐるみを拾った。

それは、かつてヒフミから親友の証としてもらったペロロのぬいぐるみだった。

 

「あいつは必ず、これを取り戻しに来るだろう・・・闇の中で光を見つけた蟲は、もうそれ無しでは生きられない。こんなつまらない物が、アズサの心を支える光なんだろう。その時にまた捕えて、あらためてこの世界の真実を・・・なんだ?中に・・・」

 

そこまで話して、サオリは不意に違和感を覚える。

たしかに自分が持っているのは、どこでも売っているようなただのぬいぐるみだ。

だが、それにしては重みを感じるし、内部に硬質的な感触とピッピッとタイマーが鳴る音が聞こえる。

まさかと嫌な予感を覚えながら腹を切り裂いて中を確認すれば、中に見覚えのあるものが仕込まれていた。

 

「これは、セイア襲撃の時に渡した・・・!逃げろ、姫っ!」

 

ヘイローを破壊する爆弾。

未だに効力が未確認ながら最も凶悪であろう兵器が、二人に襲いかかった。

 

 

 

「ごめん、ヒフミ・・・ごめん・・・」

 

アリウススクワッドのアジトから脱出したアズサは、ほど近い場所で蹲りながら謝罪の言葉を繰り返し口にした。

サオリが知っている自分なら、友達からもらった大切な思い出の品を囮に使うことはない。

その裏を突くため、自分にとって一番大切だったヒフミからの贈り物に人殺しの爆弾を埋め込んだ。

そのおかげで、目的はおおよそ達成した。

 

「私は・・・もうこれで、二度と・・・うっ、うぅっ・・・」

 

だが、どうしようもない罪悪感がアズサを離すことはなかった。




メインストーリーが急展開すぎて情緒ぶっ壊れそう。
こうなったら行きつくところまで書いてやらぁ!
それはそうと、まさかゲヘナの雷キャラが被るとは・・・。
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