「・・・っ」
「姫、無事か!?」
アズサによってヘイローを破壊する爆弾が起爆した。
サオリは重傷とはいえ無事だったものの、代わりにサオリを庇ったアツコは爆弾の効果をもろに受けてしまう。
だが、聞かされた効果の通りヘイローを破壊されたと思われたが、実際は爆風によってサオリと同程度の重傷を負ったもののそれ以外はガスマスクが破損した程度で済んだ。
意識を取り戻したアツコは、弱々しくもサオリの呼びかけに対してこくりと頷いた。
「あぁ、良かった、姫・・・」
アツコが無事だったことに安堵の息を漏らすサオリだが、次第にその瞳に憎悪の炎が灯っていく。
「・・・許さない。アズサ・・・よくも姫にこんな怪我を・・・絶対に許さないぞ!まずは貴様からだ、アズサ!!」
ミラに向けられていた苛立ちはアズサへの憎悪で上塗りされ、これによってサオリの標的はゲヘナからトリニティへと変わった。
その後、サオリとアツコは分断された二人と合流する。
「標的を変更する。ゲヘナの前に、まずはアズサとトリニティだ」
「さ、サオリさん・・・」
「リーダー・・・」
「今すぐ、トリニティへの攻撃を・・・!」
完全に頭に血が上っているサオリだったが、ミサキとヒヨリが一瞬目を合わせてから諭すように現状を説明した。
「その前に、やらなきゃいけないことがある」
「ひ、姫ちゃんが怪我をして、“ユスティナ聖徒会”の顕現に問題が生じてますし・・・」
「・・・あの古聖堂に戻って戒律を更新しないと」
結果的にアツコは無事だったが、負傷による影響が皆無というわけにはいかなかった。
現在の
それらを解決するためにも、まずは古聖堂に向かわなければならない。
二人の言葉で、ようやくサオリは平静を幾分か取り戻すことができた。
「・・・分かった、古聖堂に向かうとしよう。すぐに出発だ・・・行くぞ!」
今度こそすべてに決着をつけるため、サオリたちは古聖堂へと向かった。
路地裏でうずくまっていたアズサは、罪悪感に押し潰されそうになっている中で違和感に気付いた。
「・・・ユスティナ聖徒会が消えていない」
サオリとアツコをヘイローを破壊する爆弾に巻き込んだことでユスティナ聖徒会は消滅したと思っていたが、実際は不安定ながらも存在を保っていた。
その意味するところは一つしかない。
「サオリも、アツコも無事・・・それは・・・いや、でも・・・」
二人が無事であったことに安堵する反面、事態は何も変わっていないということであり、このままではまたキヴォトスが戦火に包まれることになるだろう。
「行かないと・・・何をしてでも、サオリを・・・でないと・・・」
傷ついた身体に鞭を打ち、必死に己を奮い立たせてアズサは再び戦場へと向かった。
* * *
「・・・ここは・・・」
「あ、起きた」
「ハスミ先輩!大丈夫っすか!?」
救護騎士団本部の一室、ミラとイチカ、先生が訪れたタイミングでハスミは目を覚ました。
「はぁ~、目が覚めて良かったっす!助けた時はヤバかったんで心配してたんすけど・・・」
「イチカが、救助を・・・?」
「だって。おかげで正義実現委員会の損耗は最小限らしいよ」
「そんな、むしろ先輩たちに加勢できなかった自分が不甲斐ないっす・・・」
「いえ、イチカはよくやってくれました・・・昨日話した通りに動いてくれて何よりです」
エデン条約調印式の前日、ツルギとハスミはイチカを呼び出してあることを頼んでいた。
『イチカ、もし明日、私とツルギに何かあったら、その時はあなたが正義実現委員会を指揮してください』
『えっ、自分がっすか!?』
限定的とはいえ、いきなり指揮権を預けるという話を持ち掛けられてイチカは混乱しそうになった。
『この前も話しましたが、明日の調印式にはアリウス分校が介入してくる可能性があります』
『それはそうっすけど、ツルギ先輩とゲヘナの風紀委員長が一緒にいるんなら大丈夫じゃないんすか?』
『普通に考えればそうでしょう。ですが、アリウスが抱えている憎悪はおそらく“普通”ではありません』
『っ!』
『先のクーデター未遂も合わせれば、トリニティとゲヘナが一堂に会する場に考えなしで襲撃するとは思えません』
そう言われて、イチカも以前のクーデターのことを思い出す。
ティーパーティーのホストのミカによる隠蔽があったとしても、あれだけの戦力を一切察知されずに送り込んだ手腕だけでも相当なものだ。
アリウス分校がどこに存在するかどうかすら分からない現状、向こうがどれだけ自分たちの知らない手段を用意しているか想像すらつかない。
『もちろん、私たちもやられるつもりはありません。ですが、万が一ということもあります。もし私とツルギで対応できない状況になった場合、方針を戦闘から救助及び撤退に切り替えてください。すべての掌握が難しいのであれば、一部だけでも構いません』
『そういうことなら、まぁ・・・了解っす』
必ずしも全員を指揮する必要はないと言われたイチカは、それくらいなら出来そうだと了承した。
その結果、ミサイル直撃後からツルギたちと連絡が取れなくなったイチカは近くの数個小隊を率いて避難誘導と救助活動を開始し、ボロボロになった二人を回収してからはバラバラになった正義実現委員会の回収も並行して行うことで最小限の被害と最短の時間で正義実現委員会の生き残りを掌握することができた。
「誰にでもできることではありません。本当にありがとうございます」
「そうそう。もっと誇ってもいいんだよ?」
「そ、そうっすか・・・?」
上級生2人から手放しで褒められ、イチカは赤くなった頬を掻きながら照れ隠しのように視線を明後日の方向に向ける。
その様子を微笑まし気に見届けてから、ハスミは次に気になることを尋ねた。
「それで、ツルギはどこに?」
「ツルギならそこに・・・」
「ぎゃああああっ!?」
ハスミも質問に答えようと先生が隣のベッドに視線を向けると、いつの間にか目を覚ましていたツルギが奇声を上げながらベッドの上で飛び起きた。
「わーお、思ったより元気だね」
「さすがツルギ先輩っすね。こう言っちゃアレですけど、怪我もハスミ先輩よりはひどくなかったですし」
「心配せずとも、私もツルギと頑丈さで比べられても気にしませんよ。というより、するだけ無駄です」
顔を真っ赤にして「せ、せせせ先生!?ど、どうしてこちらに・・・!?」と挙動不審になっているツルギに感嘆やら呆れやら様々な空気が渦巻く中、ひとまず正義実現委員会のトップ2人の安否を確認できたミラは立ち上がった。
、
「どちらに?」
「風紀委員会の方。向こうも向こうで大変だったみたいだしね」
「・・・なんであなたがここにいるんですか。まさか、わざわざ私たちの無様を笑いにでも来たんですか?こんなときにずいぶんと暇なんですね」
「わぁ辛辣」
風紀委員会が治療を受けている別館に訪れて最初にかけられた言葉は、アコからの盛大な皮肉だった。
正確には負け惜しみという名の強がりであり、ビビりまくっていることを悟られたくないという精一杯の見栄なのだが、それを寸分違わず悟ったミラが向ける眼差しは非常に生暖かい。
ミラはアコの背後に懸命に吠えて威嚇する小型犬を幻視した。
「何か失礼なことを考えていませんか?」
「気のせいじゃない?まぁ、それだけ吠えられるなら大丈夫そうだね。ミサイルの着弾位置が風紀委員会の担当エリアだったから少し心配してたけど」
「あっ、あなたに心配されるほどではありません!」
「えっと、アコちゃん、一応それくらいにした方が・・・」
「先生もいらっしゃいますから、そろそろ・・・」
ムキになって必死に噛みつきにかかるアコの後ろでは、イオリとチナツが内心で冷や汗を流しながらアコを宥めようと声をかけていた。
ミラの被害者代表である二人からすればあまりミラを挑発してほしくないため、本当は無理やりにでも口を塞ぎたいくらいだったが、まだ怪我が治りきっておらずベッドの上から動けないため実力行使ができない状態だった。
幸い、ユスティナ聖徒会との戦闘とその間の対応を風紀委員会が間違えなかったおかげでミラの機嫌が良いため、ちょっとやそっとではキレなくなっている。
とはいえ、さすがに精神衛生的に良いとは言えない状況のためセナと先生も会話に参加した。
「大人の治療は初めてでしたが・・・ご無事で何よりです、先生」
「セナのおかげだよ。イオリとチナツも、怪我はともかく無事みたいだね」
「あ~、なんていうか・・・ぶっちゃけ、あの時と比べればまだマシって思える自分がいる」
「私もです・・・衝撃は今回が上ですけど、ミラさんの打撃は奥に響くので・・・」
未知の技術が使われたミサイルよりも個人の打撃の方が辛いという普通に異常事態なのだが、いい加減慣れてきた先生は「そっか」と軽く流す程度にとどめた。
そのおかげか、いい感じに場の空気が和んだところで話さなければならないことについて言及した。
「まぁ、それはさておいて・・・ヒナはまだ見つかってない?」
「・・・はい。部室にもおらず、連絡もつかないまま・・・」
ミラがアリウスと対峙していた頃、先生と共にセナによって搬送されたヒナは戦闘での負傷が原因で気を失い救護騎士団の部室で寝かされていたのだが、先生の目が覚めるよりも早い段階でいつの間にか行方を眩ましていたのだ。
それを聞かされた風紀委員会、特にアコは必死にヒナを捜索していたのだが、未だに見つけられないままでいる。
状況が状況だったためミラが知ったのはティーパーティー本部から戻った後だったが、おおよその見当はついていた。
「そっか。まぁ、ヒナが居そうな場所なら心当たりはあるかな」
「本当ですか!?」
「うん。ていうか、先生もなんとなく分かってたり?」
「なんとなく、だけどね」
「でしたら・・・委員長のことを、よろしくお願いします」
「うん、任せて」
負傷や諸々のごたごたで動けない自分たちの代わりにヒナのことをアコは頼む。
だが、ためらいなく頷く先生に対してミラの返答は歯切れの悪いものだった。
「あ~、うん、ここは私も先生にお願いしようかな」
「ミラ・・・?」
「どういうことですか?あなたは委員長の幼馴染なんですよね!?」
ヒナのことが心配ではないのかとキレるアコだが、ミラなりに理由があった。
「情けない話、なんて言えばいいのか分からなくてね・・・アビドスで話した時も、たぶん言うこと間違えちゃったし」
アビドスではさっさと別れたために気が付かなかったが、今回は最後まで見送ったためにはっきりとヒナの表情が見えてしまった。
ヒナが浮かべていたのは、失望。
それも他者に対するものではなく、ミラに頼り切りになってしまった自分への失望だった。
おそらく、アビドスでの去り際でも同じ表情を浮かべていたはず。
そんなヒナにかける言葉を、ミラは持ち合わせていなかった。
このままヒナと会って話をしても、また選択を間違えてしまうだろう。
そうなるくらいなら、ここは先生に任せて自分は身を引く方がいいとミラは判断した。
ミラの言い分にアコは再びキレそうになるが、先生が片手を上げてアコを制してあることを提案した。
「それなら、こういうのはどうかな」
先生の提案を聞いたミラは、それならと提案を受け入れて先生と共にヒナが居るであろう場所に向かった。
次回はいよいよ例のシーンの予定です。
順序は若干前後しちゃいますけど、こっちの方が収まりが良さそうなので。