ですので、ここは敢えてゲヘナのメインストーリーで伏線回収する可能性に賭けることにします。
「ん?なんか晴れそう?」
つい先日、アリウスとユスティナ聖徒会を相手に大暴れした残骸の上に腰掛けながら、ミラは空を見上げた。
ついさっきまで雨が降っていたのだが、いつのまにか雨は止んでおり、さらには雲の流れから晴れそうな気配すら漂っていた。
予報では今日はほぼほぼ雨で一日中晴れないだろうと言われていたが、こんなこともあるものなのかと呑気に考えながら視線を下に移した。
「思い切り暴れるには、ちょうどいい天気かな」
そう問いかけるミラの眼下には、多くのアリウス兵とユスティナ聖徒会が展開していた。
その兵力は、一度に展開している数で言えば昨日よりも多い。
昨日のような波状攻撃ではなく、一気に数で押し潰すつもりなのだろう。
それでもなお、ミラは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
「さて、これで4つの戦力が揃った。補習授業部がアリウススクワッドの相手をするとなると、私たちの役割は敵の足止め、要するにあの子達のための露払いってわけだ」
まさかここに来てホシノたちアビドスが参戦するとは、ミラも予想しておらず、トリニティで先生たちと分かれる前に顔を合わせたとき、思わず「そっかぁ、そう来たかぁ」とこぼす程度には驚いた。
ついでに、自分も“怪盗ファントム”として参加しようかと一瞬脳裏をよぎったが、接点がない上に余計変な空気になる予感しかしなかったため引き下がることにした。
とはいえ嬉しい誤算であることに違いはなく、これでミラの理想通り4つの盤面を押さえることができる。
あるいは、補習授業部の働き次第で5つの盤面すら対応可能だろう。
「ここにいるのは、アリウスが最小限と他は全部ユスティナ聖徒会か。そっちの目的も、私の足止め?私を倒せなくても、その間にゲヘナとトリニティを潰せれば良し、余裕があれば私も数で押し潰すってところかな」
先の戦闘から、ミラはついでで倒せる相手ではないと察したアリウスは優先目標をゲヘナとトリニティに絞り、ミラは後回しにすることを決めた。
ユスティナ聖徒会でも相手にならなかったが、本来の
たとえ倒すことが出来ずとも、その場に釘付けにすることくらいであれば不可能ではないのだ。
そして、それはミラも重々理解していた。
「まぁ、なかなか悪くない着眼点なんじゃない?これだけの数を他所に連れていくわけにもいかないし。でもね・・・」
特に言い聞かせるつもりがあるわけでもなく、独り言のように言葉を溢すミラを止めたのはラルからの電話だった。
アリウスが一斉に銃口を向けるのも構わず、ミラは通話を始めた。
「はいはい、どした?」
『そろそろ作戦開始の時間です。こっちは風紀委員会と正義実現委員会、アビドスが集まって準備万端ですけど、ミラさんはどうですか?』
「いつ始めようか考えてたところ。ずいぶん歓迎されててね」
『え、もしかして敵が目の前にいるのに通話してるんですか?』
「そうだよ?一向に仕掛けてこないから、もういっそのことこっちから始めようかなって・・・」
ミラの視線がアリウスから携帯に移った途端、アリウスとユスティナ聖徒会による一斉攻撃が始まった。
ミラがいる場所が砂煙で見えなくなるほどありったけの銃弾と榴弾が叩き込まれるが、先日の蹂躙を聞かされている彼女らは一切油断することなく火力を集中させる。
「そういうわけだから、もう切るね」
『はぁ・・・わかりました。ちょうど先生が戦闘開始の指示を出しました。やり過ぎない程度でお願いします』
「善処するよ」
「っ!?」
だが、いつの間にか元いた場所から離脱していたミラは、アリウスの一人と背中合わせの状態で携帯をしまった。
咄嗟に反応したアリウスは反射的にその場から飛びずさり、再び銃口をミラに向ける。
「がっ!?」
次の瞬間、ミラに銃口を向けたアリウスが背後から銃撃に晒され、倒れてしまった。
撃ったのは、アリウス側の味方であるはずのユスティナ聖徒会だった。
「なっ、どういうことだ!?」
「待て!こっちも・・・ぐわぁ!?」
それを皮切りにユスティナ聖徒会の同士討ちがあちこちで発生し、続々とアリウスがユスティナ聖徒会の攻撃や流れ弾によって倒れていく。
「へぇ、まさか本当にこんなことになるなんてね」
そんな混乱のど真ん中で、ミラは飛び交う銃弾を意に介さず関心混じりに呟いた。
先生がもう一つのエデン条約機構を宣言する、という作戦は聞かされていたが、こうも上手くいくとまでは思っていなかった。
たしかに、今のエデン条約は連邦生徒会長によって発足されたもので、その連邦生徒会長によって設立されたシャーレの先生にも調印する権利があるというのは理にかなっている。
これが“大人の戦い方”なのかと、ミラは感嘆の息を溢す。
おそらく他よりもユスティナ聖徒会が多いからこその今の惨状で、比較的数が少ないだろう他所の場所はここまでではないのだろうが、この場に限ればミラが手を出さずとも終わってしまいそうな勢いですらある。
「だからといって、このまま放置ってわけにもいかないよね」
ユスティナ聖徒会はコピーのようなもので一律に効果があるものだと思っていたが、どうやら個体差も存在するようでアリウスを守ろうとする個体や好戦的で無差別に攻撃する個体も存在している。
これらを放っておくわけにはいかないし、何より先生に頼まれた身だ。ヒナたちが働いている中で自分だけサボるというのはあまりよろしくない。
そういうわけで、ニッコリと残酷なまでに微笑んだミラは、無慈悲に宣告を下した。
「まぁ、そういうわけだから。大変だろうけど頑張ってね」
次の瞬間、再びアリウスとユスティナ聖徒会に赤い雷が降り注いだ。
* * *
『赤い雷を確認!ミラさんが動きました!』
古聖堂で戦っている先生と補習授業部をアリウスとユスティナ聖徒会から守るため周囲に展開していた風紀委員会と正義実現委員会、そしてアビドス。
先生の下に集った面々は、アコからの報告を受けてそれぞれ動きを変える。
最も早く反応したのはヒナだった。
「場所は?」
『・・・先生が撃たれた地点付近です』
「わかった。予測ポイントの周囲100mを危険区域に指定、正実とアビドスにも情報を共有して、変化があったらすぐに報告して」
『り、了解です!』
ヒナに気を遣いたくとも虚偽の報告はできないと少し言いよどんでから報告したアコだったが、今は割りきっているのか普段と変わらない様子で指示を飛ばす。
その頼もしさに気を引き締め直すアコに対し、イオリは気になることを尋ねた。
「100mって、そこまで離れないといけないのか?」
「ミラのあの赤い雷が落ちる最大範囲がそれくらい。でも、ミラが落雷を制御できるのはミラの視界内とミラを中心とした半径10~20mまで。両方の条件を外れるとさっき言った最大範囲を無差別に攻撃するわ。ちなみに、視界内なら距離の制限は緩いわね」
「お、おっかね・・・」
アビドスで他のメンバーが焼かれた時は的確にぶち抜いていたため無敵の能力かと思っていたが、実際は使い勝手はそんなに良くないらしい。
味方や非戦闘員がいる場所では使いづらいし、特に先生がいるところでは無差別攻撃なんてもっての他だ。
だからこそ、アビドスのあれはまだ加減している方で、昨日アリウス相手に大暴れしたのが本気のミラなのだろう。
その事実に戦慄すると同時に、いつかミラが風紀委員会に復帰するかもしれないということに恐怖を覚える。
いつか味方ごと不良を雷で焼くような日がきてしまうのだろうか。
いや、そうならないためにヒナは敢えてここで条件を説明したのだろう。
そんなイオリの内心を見抜いたのか、片手間で動作不良を起こしているユスティナ聖徒会を薙ぎ払いながら補足を入れた。
「心配しなくても、あの力を使う前に素手で片付け終わることの方が多いわ。普段の活動で機会があるとしたら、温泉開発部みたいに大勢で一目散に逃げられるときくらいかしら」
「ヤバイやつじゃん・・・」
銃火器による戦闘が基本になっているキヴォトスを拳で渡り歩かないでほしい。
せめて銃を使えよと言いたいが、使わないということはたぶん殴る方が早いのだろう。殴るよりも強力な銃を使おうと思っても、おそらく過剰火力になるし加減もできない。
まさしく、生ける災害としか言いようがない。
通信の裏でも、アコもまた返事を返さないだけで内心で同じようなことを考えていた。
「まぁ、最初はそうなるよね~」
すると、ちょうど合流したホシノが会話に加わった。
「でも、ミラって踏み込みが速すぎて気づけば目の前にいるとかザラだから、基本的に素手で通用しちゃうんだよね」
「あぁ、言われてみればあの時もそんな感じだったな・・・」
「いつの間にか目の前にいて、いつの間にか殴り倒されてましたからね・・・」
ヒナやツルギもたいがい身体能力がバグっている方だが、ミラはそれに輪をかけてバグり散らかしている。
後方支援が多いチナツはともかく、前線に出ることが多いイオリは乱戦や近接戦闘に備えてCQCはある程度習っている。
だが、ミラのあの動きは戦闘ではなく“蹂躙”を前提としたものだ。
相手の攻撃はほとんど痛手にならず、ミラの動きを見切れる相手もほとんどいないため、躊躇なく懐に飛び込んで攻撃を仕掛けることができる。
質が悪いのは、暴力の化身でありながら技術面にも隙がないということだ。
状況判断がずば抜けて早く、対応のための切り替えも一切の無駄がない。
近接を警戒すれば雷で焼かれ、雷を警戒すると殴り倒される。
どうしようもなくね?というのが正直な感想だった。
「まぁ、変なことしなければわりと優しいし、“敵だと怖くて味方だと心強い”くらいでいいと思うよ?」
「どちらにせよ、敵になった時のことはあまり考えなくてもいいわ。前が特殊な状況だっただけだから」
『ヴッ』
2人から言外に以前の独断行動を責められたような気がしたアコは思わず変な声を漏らし、それ以外の面々は先輩からのありがたい助言に深く頷いた。
一人だけいたたまれない空気に包まれるアコだったが、レーダーが新たな反応を示したことで一気に意識を切り替える。
『っ、高エネルギー反応を検出!場所、は・・・』
「・・・アコ?」
だんだんと尻すぼみになっていくアコにヒナは不審感を覚えるが、それはすぐに納得に変わった。
『・・・場所は、ミラさんのすぐ近くです』
「そう、なら問題ないわ」
「そだねー」
おそらく、エデン条約の妨害も合わさって足止め戦力が蹂躙されていることで最終兵器的な何かをミラにぶつけたのだろう。
その正体がなんにせよ、ミラの実力に絶対の信頼がある二人は目の前のアリウスとユスティナ聖徒会に意識を戻し銃を構えた。
「ミラのことは大丈夫だから、私たちは引き続きここで敵を食い止める」
「そーそー。今は先生たちを守らないとだからね~」
* * *
「ふぅん、こんなのも用意してたんだ」
アリウスとユスティナ聖徒会の半数を蹴散らした辺りで、妙な気配を感じたミラは後ろを振り返った。
そこには、異形の存在が佇んでいた。
細すぎる体に異様に伸びた爪、下半身に足のようなものはなく、頭部は花のような構造物になっている。
ユスティナ聖徒会と比べてあまりにも人間離れした姿の怪物を前に、ミラは感嘆の息を吐いた。
「見かけはともかく、ユスティナ聖徒会と同質の存在かな?たしか教義とか戒律がどうのこうのって話だったはずだけど、何をどうしたらこんなのができるのやら」
ミラは
だが、目の前の異形はどう見てもトリニティに似つかわしくない。
かつてのユスティナ聖徒会の悪名は把握しているが、どんなことをすればこんな化け物が生まれることになるのだろうか。
とはいえ、それは今考えることではない。
「本命かどうかはともかく、新しいおもちゃを用意してくれたんなら楽しまなきゃ損だよね」
そう呟いて、ミラは獰猛な笑みを浮かべながらアブソリュートを両手に構えた。
「さて、私を楽しませることができるのか、確かめさせてもらうよ」
なんか現時点で原作よりも比較的ヒナとホシノの仲が進んでいるようなそうでもないような。
でも、原作メインストーリーの最新話のあの関係性も捨てがたいねんな。