キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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マジで・・・?


アビドス編・1

「相変わらず、ここは変わらないね・・・いや、前より砂漠化が進んでるか」

 

アビドス高等学校。

かつてはゲヘナやトリニティを凌ぐほどの規模を誇っていたキヴォトス最大の学園だった。だが、数十年前のある時期から大規模な砂嵐が頻発し始めたのをきっかけに砂漠化が進んでいき、現在では本館も砂に飲み込まれていくつかの別館と5人の生徒を残すのみとなり、さらには砂漠化対策のために負った借金もどんどん膨らんでいったため、かつての姿は見る影もなくなってしまった。

 

「たしか、前に来たのは1年くらい前だっけ?砂漠ってのは広がるのが早いんだねぇ」

 

辛うじて砂漠化を免れているところに住人は存在するものの、そこ以外の砂漠に飲み込まれた住宅街などはすでに放棄されており、大規模なゴーストタウンと化している。

できることなら賑わっていた頃の光景を見てみたいとは思うが、それも難しいだろう。

 

「・・・懐かしいね。ホシノちゃんと会った時のことを思い出すよ」

 

2年の月日を長いと言うか短いと言うかは意見が分かれるだろうが、ミラにとっては「懐かしい」と思えるほどに鮮烈なものだった。

あるいは初めてヒナと会った時と同じくらいの刺激を感じた出来事は、目を閉じればすぐにでも思い出すことができる。

 

 

* * *

 

 

「動くな。武装を解除して両手を上げてください」

「あらら、見つかっちゃったか・・・」

 

ホシノと会ったのはゲヘナから姿を消した時の1週間ほど前、思い付きでアビドスに天体観測をしに向かった日のことだった。

この時はまだ在学生は二桁いたものの、広範囲にわたる砂漠のすべてを監視できるはずもないと両方の学園に無断で侵入した。

だが、偶然かミラの慢心からか、哨戒中のホシノに発見されてしまい武装解除を突き付けられることになった。

 

「たしか、小鳥遊ホシノだっけ?話は聞いてるよ」

「そう言うあなたは、ゲヘナの風紀委員の暁ミラですよね?何が目的ですか?」

「ん~、今日はオフなんだけどね。休暇をとって天体観測に来たんだけど・・・」

「見え透いた嘘を吐かないでください!」

「厳しいねぇ」

 

ホシノの威圧を意に介さずマイペースに無実を証明しようとするミラの態度に、だんだんと空気が張り詰めていく。

今回は本当に休暇モードで穏便に済ませたいミラだったが、キヴォトスでも最大規模の学園のトップの戦力が単独かつ無断で自治区内に侵入していることでホシノの警戒度が限界まで引き上がっていた。

 

「それなら、バッグの中身を見てみる?天体観測用のノートとか望遠鏡が入ってるんだけど・・・」

「動くな!それ以上動けば敵対の意志があると見なします!」

「・・・本当に厳しいね。話に聞いた以上だ」

 

どこまでも厳しいホシノに、ミラはやれやれと肩を竦めながら肩にかけたバッグを地面に下ろし、

 

「あぁ、それとも・・・乱暴な方が好みなのかな?」

 

次の瞬間には、凶暴な笑みを浮かべながら警戒するホシノの目前にまで迫っていた。

対するホシノも即座に銃口をミラに向けて発砲、応戦を開始する。

 

「おっと!いい反応だね!」

「減らず口を・・・!」

 

反撃を難なく避けただけでなく上から目線のように褒めるミラに、ホシノの怒りのボルテージが徐々に上がっていく。

とはいえ、戦いのペースを掴んでいるのはホシノだった。

ホシノ、というよりアビドスはミラの詳しい情報を知っているわけではなかったが、噂の内容と素手で接近してきたことから戦闘スタイルは格闘による近接戦と判断、素手の間合いのギリギリを付かず離れずの絶妙な距離を保ちながら得物のショットガンを叩き込み、さらに噂でのみ聞いているミラの愛銃を抜かせないために絶えず攻撃を叩き込む。

対するミラも防戦一方というわけではなく、楽しむ素振りを見せながらも冷静に銃口と引き金を注目しながら発砲とほぼ同時に回避、時には腕と翼で受けてダメージを最小限に抑えながら距離を詰めようとする。

終止戦いを有利に進めているホシノだったが、それにも関わらず有効打をほとんど与えられていない事実と減っていく弾薬に段々と焦りを募らせていく。

対照的に、徐々にテンションが上がっていくミラの動きは時間が経つほど鋭くなり、徐々にホシノとの間合いを詰めていく。

 

「ハハハッ!いいねいいね!!さすがは“暁のホルス”、ゲヘナでもここまで楽しめたことはないよ!」

「私は楽しむつもりも楽しませるつもりもないんですよ、この狂人め!」

「気にしなくてもいいよ。私が勝手に楽しんでいるだけだから、ねっ!」

「ぐっ!」

 

そして、とうとうミラの拳がホシノの身体を捉えた。

ホシノは咄嗟に銃で防ぎつつ自ら後ろに跳躍することでダメージを抑えたが、距離を取らざるを得なくなる。

 

「うん。ホシノになら、使っても良さそうだ」

「っ、抜かせない!!」

 

ミラは吹き飛ばしたホシノを追撃せず、背中に手を回して銃のグリップを握った。

実際に使われたのは片手で数えるほどもないにも関わらず、ミラの代名詞にもなっている『最強の象徴』。

それを使わせてたまるかと、今度はホシノから一気に接近して距離を詰める。

だが一歩遅く、ミラが銃口をホシノに向ける。

 

「スト~~~ップ!!」

 

その直前、ミラとホシノの間に割り込む形で1人の生徒が巨大な盾と共に乱入してきた。

突然の事態にホシノは立ち止まり、ミラも手に持った銃をしまった。

その乱入者を、ホシノは怒鳴り声と共に迎えた。

 

「何をしているんですか、ユメ先輩!」

「ホシノちゃん!落ち着いて!」

「落ち着けるわけないでしょう!なんでよりにもよって盾を私の方に向けているんですか!?」

 

どうやらホシノは危険な状態の戦闘の間に入ったことよりも、その際に盾をホシノに向けて割って入ったことが気に入らないようだった。

 

「えっ!?だ、だって、ホシノちゃんが思い切り突っ込もうとしてたから『ホシノちゃんを止めなきゃ!』って思って・・・」

「いや、明らかに盾を向けるべきは相手の方でしょう!あのゲヘナの暁ミラですよ!?銃を抜こうとしていましたし、もし向こうが撃ってきたらどうするつもりだったんですか!」

「大丈夫大丈夫、もうちょい引き付けて撃つつもりだったし、誰かが近づいてるのは気づいてたから誤射の心配はなかったよー」

「ちょっと黙っててください!!」

 

先ほどまでの狂人ぶりはどこへやら、気の抜けた声でフォローにもならない言い訳をするミラを怒鳴り散らしながら、ホシノはユメへと詰め寄る。

 

「だいたい、どうして止めるんですか!」

「えっと、バッグの中を確認したんだけど、危険物とかはなくて天体観測に必要なものしか入っていなかったから、もしかしたらホシノちゃんの勘違いなのかもしれないって思って・・・ミラちゃん、だったよね?勝手に中を見てごめんね?」

「いえいえ、気にしないでください。私も中身は見せるつもりだったんで」

「なに和やかに話しているんですか!さっきまで嬉々として容赦なく襲い掛かってきたくせに!」

「いやぁ、どっちかと言えば先に喧嘩を売ってきたのはそっちじゃない?私は最初から天体観測に来ただけって言ってたのに、まったく信じてくれなかったし。なんなら、中身を見せようとしたら『敵対行動とみなす!』なんて言ってきたのもホシノだよね?」

「うぐっ・・・!」

 

一応ミラの言ったことは間違っていないため、ホシノは言葉を返せずに思わず唸ってしまう。

とはいえ、ミラが無断で学区内に侵入したことが根本的な原因なので、実際悪いのは断然ミラの方なのだが。

だが、そのことに気付いていないのかユメは慌てて頭を下げた。

 

「ごっ、ごめんなさい!ホシノちゃん、とても厳しくって・・・ほら、ホシノちゃんも謝って!」

「何でですか!元はと言えば・・・」

「大丈夫ですよー。できれば、私もホシノとは仲良くなりたいんで。ほら、『暁ミラ』と『暁のホルス』って“暁”でお揃いですし」

「何わけの分からないことを言っているんですかっ!?」

 

騒ぎを聞きつけて続々と他の生徒が集まる中、どこかズレているユメとマイペースなミラに振り回されるホシノのストレスが徐々にピークへと迫ってくる。

何となくそのことに気が付き始めたミラがこのままからかい続けてみようか悩む中、ホシノの様子にあまり気づいていないユメがパンッと手を叩きながら提案してきた。

 

「あっ、そうだ!だったら、私たちも一緒にミラちゃんの天体観測に参加してもいいかな?」

「ユメ先輩!?」

「いいですよ」

「暁ミラ!?」

 

いきなり突拍子もないことを言い出すユメとその申し出を即断で快諾したミラに、ホシノの頭がとうとうキャパシティを越えようとしていた。

 

「何をどうすればそうなるんですか!?」

「だって、ホシノは私のことを信じられないんでしょ?だったら私を監視するついでに一緒に天体観測してもいいじゃん」

「それは、そうですけど・・・」

「えっと、私は星とか分からないから、ミラちゃんに教えてもらおうかなって思っただけなんだけど・・・」

「ユメ先輩は一度黙ってください」

 

どこまでも緩いユメにため息を吐きそうになりながらも、ホシノは自分の現状を確認しながら申し出について考える。

先ほどの戦闘で、ホシノは無視できないレベルの弾薬を消費している。残ってはいるがとどめを刺す前に尽きる可能性が高く、近接戦闘も膂力が違い過ぎて勝てる見込みも少ない。

何より、すでに周囲には他の先輩や同級生も集まっており、巻き込む可能性が高い現在の状況ではとてもではないが戦闘を再開できない。

ならば、自分が付きっ切りで油断なく監視する方がまだマシだ。それに、言葉通りに一緒に天体観測を楽しむ必要もない。

 

「・・・分かりました。ですが、慣れあうつもりはないのでそこは勘違いしないでください」

「釣れないなぁ・・・まぁいいや。そこは私が口説けばいいだけだし」

 

ムッとしながら不愛想な態度をとるホシノに、ミラはバッグを持ち直しながら挑発的な笑みを浮かべた。

その様子を他生徒がオロオロしたり冷や冷やしながら遠巻きに眺めていたが、ユメだけは新しい友達ができた後輩を祝うようにニコニコと笑っていた。

 

 

 

 

「これが・・・で、これとあれを繋げていくと・・・座になるわけですね」

「わぁ~、本当だ!自分で星座を見つけたの初めてかも!」

 

アビドスに広がる砂漠地帯。

ゴーストタウンとの境目にほど近い場所では、ミラを中心とした観察会が開かれていた。

アビドス生が持ってきたレーザーポインターを使ったミラの星や星座を説明にユメを始めとした面々が興奮している最中、ホシノは視線を空に向けるよりもミラの監視を優先していた。

そのことに気付いたミラは、ホシノの顔を覗き込んでニヤリと笑いながら尋ねかけた。

 

「なになに?そんなに私の顔を眺めちゃって。もしかして、『星よりも君の方が~』ってやつ?」

「はっ!?そんなわけないじゃないですか!」

「あらら、顔をそんなに赤くしちゃって~」

 

おもしろがるように顔を突こうとするミラの手をホシノは顔を真っ赤にしながら叩き落とそうとする。

その様子を、ユメは隣でニコニコしながら眺めていた。

 

「ユメ先輩!なんでずっとニコニコしているんですか!ちょっとは助けてください!」

「え?楽しそうにしてたから、邪魔しない方がいいかなって・・・」

「どこをどう見ればそうなるんですか!」

「あれ、そんなに仲良さそうに見えたんですか?だったら私もホシノちゃんって呼んじゃおうかな」

「ユメ先輩は楽しそうって言ってたんですよ耳までおかしくなったんですか!?」

 

突っ込みのし過ぎで息が荒くなっていくホシノだったが、出来るだけ関わりたくない他のアビドス生は視線を空に向けて目を合わせない。

それに、本人は否定しているものの現在のホシノは今まで見たことがないほど生き生きしているように見えているのも事実なので、それをうっかり零さないようにするためにも我関せずを貫くことにした。

 

「あっ、そうだ!せっかくだし、ミラちゃんも一緒に校舎でお泊り会もしよっか!」

「いいんですか?ありがとうございます。今夜はゴーストタウンの適当な建物にお邪魔しようと思ってたんで、すごい助かります」

「しれっと問題行動をしようとしたことを暴露しないでください。いやそれよりも!暁ミラが何をするか分からないのにいいんですか!?」

「大丈夫大丈夫、ミラちゃんはそんな悪い子じゃないよ」

「ユメ先輩は楽観的すぎるんですよ!そもそも・・・」

「そんな、これでもまだ信用してくれないなんて、お姉さんは悲しいよ・・・」

「私とあなたは同い年ですよね!?勝手なことを言わないでください!」

 

結局、この後のお泊り会でもミラの悪乗りに振り回され続けたホシノだったが、最後までミラのことを心から疎んでいたのか、それとも違ったのか。

この時点では、ホシノ自身でもどうだったのかは定かではなかい。

ただ、ミラは翌朝に何事もなく釈放され、ゲヘナにも問題行動として報告されなかったという事実だけが残った。

 

 

* * *

 

 

「あれから、もう2年くらい会ってないのか・・・」

 

ゲヘナを去ってから、ミラは一度もホシノを見ていない。

姿を隠している、ということもあるが、それ以上にホシノのことを気遣ってのことだった。

 

「・・・ユメ先輩がいない今、ちゃんとやれているのかな・・・」

 

ミラが行方を眩ませてからしばらく経った後、ユメがヘイローを破壊された状態で見つかったという情報を掴んでいた。

ヘイローが破壊されることは、その人物が死亡したことと同義。

なんだかんだ文句を言いつつも心から慕っていた先輩を失ったことで、ホシノはとてつもなく荒んでいたのだろうとミラは推測した。

そのため、もしや追っている連中の仕業かと再びアビドスを訪れた際は、以前よりも増して隠密を心がけて見つからないように行動していた。

それに、初めて会った時にかなり警戒されていたことからも、もしや自分が犯人として疑われているかもしれないという可能性すら視野に入れていた。

結果としてその線はないとわかったものの、それでも下手に会って刺激するよりはと徹底してホシノと会わないようにした。

だが、初めて会った時から2年、ユメが亡くなってから1年強、おそらくはホシノも落ち着いているだろう。

身を隠しているため面と向かって会うことはできないが、それでも様子だけは気になってしまう。

 

「あの時の校舎は・・・もう砂に埋まっちゃったか。となると、今使ってそうな別館は・・・この辺かな」

 

新しい地図を用意しなければと考えながら、過去の地図に記載されている立地と実際に広がっている砂漠の範囲から、現在使われている可能性の高い別館を見つけてそこに向かう。

目的の別館を発見したミラは、双眼鏡を取り出して中の様子を確かめる。

 

「あれは、後輩の子かな?ならここで間違いなさそうだね。ホシノちゃんは・・・」

 

建物を飛び移りながら、ミラは校舎の中を探る。

そして、とうとうホシノの姿を確認した。

 

「おっ、いたいた。さて、ホシノちゃんは・・・」

 

ホシノがいる部屋の中を双眼鏡で覗いたミラは、ようやくホシノの姿を発見する。

そして、それを見てミラは思わず愕然とした。

 

「そ、そんな、ホシノちゃん・・・?」

 

ミラがのぞいた部屋の中では、過去の真面目で攻撃的だった姿はどこへやら、椅子を並べた上に寝そべり、欠伸をして昼寝をしながら雑務を後輩にさせている、過去の姿からは見る影もないホシノの姿があった。

 

「ホシノちゃんが、悪い子になっちゃうなんて・・・!」

 

現在進行形で悪いことをしているミラにはブーメランなのだが。




公式は早く過去アビドスのストーリーを出してもろて。
あるいは過去か別世界のユメ先輩が出てきて情緒がぐちゃぐちゃになるホシノも見たい。

攻撃的スタイルにも関わらず若干引き気味で戦ったのは、さすがに『素手でビルを壊す』とかいう噂のあるやべー奴に掴まるのはやばいと判断したからです。
あと、ミラの銃はいつか出します。
でもアビドス編では出てこないかも・・・。
それはそうと、過去現在問わずブンブン振り回されるホシノって良くない?
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