キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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後語りみたいな回です。


エデン条約編・14

先生&ミラとヒエロニムスの戦いは、ミラによる蹂躙という形であっさりと幕を閉じた。

アンブロジウスよりも遥かに強大な存在だったとはいえ、さすがにミラと大人のカードのジョーカー二枚がかりでは分が悪すぎた。

だが、取り巻きとして生み出されるユスティナ聖徒会も同時に相手するとなるとそれなりにてこずってしまい、ヒエロニムスを倒した頃にはアツコとサオリは姿を消していた。

それは地上でも同じで、ユスティナ聖徒会の相手をしている間にヒヨリとミサキを逃がしてしまった。

体力的にミラだけでも追跡する余裕はあったが、一定周期で構造が変化する古聖堂の立地など分かるはずもなく、断念せざるを得なかった。

そうして、アリウスによるテロ事件は幕を閉じた。

それから数日後。

 

「やっほ、お疲れ様」

「どもっす、ミラさん。すみません、自分だけで」

 

ミラは再び正義実現委員会の本部を訪れていた。

ただし、前回と違い今回はこの場にはミラとイチカしかいない。

 

「やっぱり、そっちは忙しい?」

「はい。ナギサ様も回復したとはいえ本調子ではないですし、何より問題が多すぎるっすからね」

 

過激派によるクーデター未遂を初めとして、ティーパーティーが機能不全に陥っている間にトリニティでは数々のトラブルが発生した。

それらはハナコとシスターフッドのおかげでどうにか鎮静化したものの、それらのほとんどが後処理までは手が回らず放置されたままになっている。

特にクーデターを画策した過激派の処分は完全に宙吊り状態になっており、後始末のために正義実現委員会も総動員していた。

それらの解決には未だに時間がかかりそうだとイチカはため息混じりにぼやいた。

だが、その中には嬉しい悲鳴と呼べるようなものもあった。

 

「だけど、百合園セイアが目覚めたんなら、少しは楽になるんじゃない?」

「それはそうっすけど、さすがにすぐ復帰とまではいかないっすよ」

 

かつての襲撃事件以来、ずっと昏睡状態だったセイアが目を覚ましたのだ。

これには特にセイアが首長を務める 分派の生徒が大いに沸き立ち、ティーパーティー復帰のためにいろいろと準備を進めているという。

とはいえ、セイアが病弱なのは変わらず、なんなら長い間寝たきりだったせいで体力もかなり衰えているため、復帰が現実的かと言われるとそうでもないらしいが。

 

「それに、ゲヘナの万魔殿の議長からもちょっかいをかけられているせいで余計に忙しいって、ハスミ先輩がちょっとキレてたっす」

「まったく、悪運が強いというかなんというか・・・」

 

アリウス襲撃の際に飛行船ごと爆破されたマコトだったが、落下した場所が池の上だったため、被害内容にしては軽症で済んだという。それでもしばらく入院することにはなったが。

とはいえ、事件解決後に目を覚ましてからすぐ騒げる程度には元気だったため、やはり軽症だったと言える。

 

「そういえば、ゲヘナの風紀委員会も忙しいって聞いてるっすけど、ミラさんはそっちに行かないんすか?」

「私が行ってもできることは多くないし、それに自分のケジメもつけれてないからね。まだしばらくは帰れないかなぁ」

「トリニティにいること、風紀委員長は気にしてるんじゃないすか?」

「ない、とは言えないなぁ・・・」

 

事件の後、ヒナはミラを探す暇もなくゲヘナへと戻っていった。

まだ会える自分になっていない、というのもなくはないが、根本的にゲヘナもまた治安が荒れに荒れまくっていたからというのが大きかった。

トリニティはまだシスターフッドが代行することでギリギリの均衡を保っていたが、ゲヘナは最大の抑止力であるヒナがダウンした上に、誰かが代わりに治安維持を行っていたということもなく丸々放置していたため、トリニティよりもひどい有り様になっていた。

不幸中の幸いなのは、トリニティの過激派みたく団結して宣戦布告するような生徒が存在せず、あくまでいつものトラブルの延長線上に治まったため、鎮圧の目処が分かりやすく立っているということか。

自身の幼馴染みの苦労を想像して思わず遠い目を浮かべるミラだったが、話が脱線していることに気がついて意識を切り替えた。

 

「まぁ、それはそうと本題に入るけど」

「は、はいっす」

 

改まったミラにイチカも思わず姿勢を正しながら、今回ミラが正義実現委員会を訪れた理由について話し始めた。

 

「まず先に確認だけど、そっちもアリウス分校、特にアリウススクワッドの足取りは追えてないんだよね?」

「そうっすね。そっちに人員を回せないってのも大きいっすけど、誰も古聖堂の構造を知らない以上、おいそれと人を送り込めないってツルギ先輩とハスミ先輩が」

 

事件が終息して日が浅いものの、未だにアリウスの行方を掴めないままでいた。

特に主犯格であるアリウススクワッドは少数ながらも捜索チームが編成されたものの、痕跡すら発見できていない有り様だった。

 

「少しずつ捜査範囲を広げる予定っすけど、いつになったら見つかるかは目処が立っていない状態っすね」

「身内ですらまともに連携がとれてなかったし、そんなもんでしょ」

「あ、あはは・・・」

 

ミラのキレッキレの返答に、イチカは苦笑を返すしかなかった。

事実、あの襲撃事件においていち早く機能を取り戻したのは実はゲヘナの風紀委員会であり、派閥の違いで先生が現れるまでゴタゴタしていたのがトリニティだった。

両者にミラの恐怖があったか無かったかの違いはあれど、その点に限って言えば今回は風紀委員会の方が上手だった。

なお、もし万魔殿が健在だったらどうなっていたかという可能性については考慮しないものとするが。

 

「まぁ、それについて今さらどうこう言うつもりはないよ。どうせ私が何を言ったところで変わらないだろうし、そもそも大した立場じゃないのに自分の方が上だって勘違いしてる連中が多すぎるからね。そのくせ痛い目をみたら被害者面してくるんだから手に負えない」

 

トリニティ嫌いを隠そうとしないチクチク言葉に、イチカの苦笑がだんだんとひきつったものへと変わっていく。

話に聞いてはいたが、まさかここまで露骨に態度に出してくるとは思っていなかった。

普段潜入していたときは相当我慢していたのか、あるいは過激派の宣戦布告を目の当たりにして元から低かった評価がさらに下に突き抜けたのか。

やたらと毒舌になっているのもそうだが、このような状態にも関わらずわざわざ正義実現委員会を訪れた理由が理由なだけにイチカは意外感を露にした。

 

「・・・こう言ったらアレっすけど、ミラさんの方から『アリウススクワッドを見つけたら連絡する』って提案してくるなんて思わなかったっす」

 

ミラが正義実現委員会を訪れた理由は、アリウスの捜索における連携のためだった。

とはいえ、あくまでミラが一方的に知らせるだけで相互的なものではないが、それでもミラがここまで協力の姿勢を示しているのは上層部にとっても驚きを隠せないものだった。

ミラも自覚はあるのか、仏頂面を崩して苦笑を浮かべた。

 

「厳密には、先生に対しての言葉だけどね。なんかいろいろとキナ臭いし」

 

ミラからすれば、トリニティは先生のついでくらいの感覚しか持っていない。

あくまで先生がティーパーティーと(一応の)協力関係にあることから、正義実現委員会越しでも先生に伝えてくれるだろうという思惑で提案したにすぎなかった。

それでも、善意がまったくないというわけではないのだが。

 

「キナ臭いって、どういうことっすか?」

「なんか、スクワッドが身内から狙われるみたいな話をしててね。最初は任務失敗の粛清とかだと思ってたんだけど、それとはまた別の何かがあるっぽいんだよね」

「何かって、何っすか?」

「そこまではわからない。スクワッドのうちの一人の身柄を狙ってるみたいなニュアンスだったけど、錠前サオリとかいうリーダーは把握してなかったみたいだし・・・」

 

言いながら、ミラはあのときのアツコとサオリの会話を思い返す。

 

『だ、ダメだ、姫!喋ると、彼女が・・・』

『どちらにせよ、彼女は私を生かしておくつもりはなかったはず』

 

二人の言う“彼女”を、アリウスを支配しているゲマトリアの誰かと仮定する。

おそらく、サオリは“彼女”がアツコの身柄を狙っていることは理解していた。

だが、その理由までは推測できておらず、逆にアツコには狙われる心当たりがあった。

問題は、タイミングと目的。

いつからアツコを狙っていたのか。何のために狙っているのか。

そもそも、今回の襲撃と直接的な繋がりがあるのか。

分からないことが多すぎる。

 

「つまり、ミラさん的にはアリウススクワッドを保護すべき、ってことっすか?」

「いや、先生ならそうしたがるだろうなって話」

「あ~・・・」

 

イチカはミラと比べて先生と交流があるわけではないが、ハスミやツルギの関係でそれなりに話を聞く機会はある。

さすがに“自分を殺そうとした生徒まで助けようとするのだろうか?”と思わなくもないが、同時に“なくはないんだろうな”と心のどこかで納得もしていた。

でなければ、権謀術数が渦巻くトリニティを善意だけで渡り合えるとも思えない。

 

「とはいえ、警備とか状況を考えれば牢屋とか独房に入れるのは十分有りの範疇だけどね。ただ、そっちがアリウスをどう扱うつもりなのか分からないから、私が捕まえても差し出すかどうかは別って考えておいて」

「それはまぁ、仕方ないっすかね」

 

過去の過ちを清算するのであれば、アリウスをトリニティに編入させるのが良いかもしれない。

だがあそこまで大規模なテロを起こした以上、一般生徒の心証が最悪なのは想像に難くなく、アリウス側もまたそう簡単にトリニティへの憎悪を振り切れるとも考えづらい。

そもそもアリウスを抜きにしても問題が山積みというのもあるにはあるが、仮にその全てを片付けたとしてすんなり決まることもないだろう。

少なくとも、自分達の代で決まる可能性は低い。

 

「それじゃあまとめるっすけど、『ミラさんは先生に協力するためにアリウスの情報を自分たちに伝える。それでもこっちで決めた処遇に口は出すつもりはない』ってことでいいっすか?」

「そんな感じでいいよ」

「それじゃあ、後でツルギ先輩とハスミ先輩に伝えておくっす。それで、ミラさんはこの後どうするんすか?」

「周辺の様子も確認しておきたいし、今日はもう・・・あぁいや、聞き忘れたことがあったな」

 

さっさと出ていこうと立ち上がろうとしたミラだったが、ふと思い出したように立ち止まって座り直し、イチカに尋ねかけた。

 

「補習授業部のみんな・・・いや、今は“元”か。あの子達はどうしてる?」

 

今回の功労者である、補習授業部のメンバー。

途中で折れかけながらもアリウススクワッドのリーダーであるサオリを打倒したアズサ、そのアズサを立ち直らせて援軍としてアビドスのメンバーを連れてきたヒフミ、シスターフッドと共に先生が目を覚ますまでトリニティを持ちこたえさせたハナコ、拘束されていたミカを庇い過激派の横暴に立ち向かったコハル。

先生と共にアリウススクワッドと戦っただけでなく、それぞれが自分に出来ることを尽くしたからこその今回の勝利とも言える。

さすがに英雄扱いとまではいかないが、さぞ自分に誇りを持てるようになっただろうとミラは考えていた。

 

「あ~、えっとすねぇ・・・」

 

だが、それに反しイチカは若干顔をひきつらせ、視線も右往左往して落ち着かなくなる。

なんとなく嫌な予感を覚え始めたミラだったが、その予感は当たっていた。

 

「そのぉ、あの4人はまた補習授業部行きになったっす」

「・・・・・・」

 

衝撃的な事実を聞かされて、ミラは顔を手で覆いながら思い切り天を仰いだ。

一応、以前までの補習授業部は選ばれるだけの理由があったとはいえ、裏切り者を探すためという目的の下集められた部活だった。

つまり、今回は純粋な成績不振で補習授業を行うことになったということに他ならない。

 

「・・・理由は?」

「前回とまるっきり同じっすねぇ。コハルとアズサさんは点数不足、ヒフミさんは不参加、ハナコさんは多分わざとっす」

「そっか・・・そっかぁ・・・」

 

さぞ先生も頭を抱えることだろう。

あまりにも締まらない最後に、ミラとイチカは乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。




余談ですが、実はコロナで死にかけてる時に“エデン条約4章序盤のサオリの自爆特効が実現した結果、サオリがベアおばが現れる前の10年前に逆行転生した挙げ句、自爆特攻の無限ループに囚われることになった死に戻り系短編ストーリー”が思い浮かんだりしました。
最終的に良い感じの落ちが思い浮かばなくてボツになりましたが、需要ってありますかね・・・?
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