いやでも、アビドス3章のホシノみたいに公式から提供される可能性もあるはず・・・!
今回も原作に近い解説回です。
舞台はトリニティじゃないですけど。
「さて・・・これからどうしたものかな」
古書館を後にしたミラは、古聖堂の残骸の上でぼそりと呟いた。
ウイのおかげで出入口候補の場所は分かったものの、どうしても候補が多すぎる。
ひとまず襲撃された古聖堂の周辺を重点的に調べてはいるが、たとえ道があったとしてもそれが正しい保証はない。
仮に入り口が正しかったとしても、その先の道で迷ってしまったら本末転倒だ。
ウイに調べてもらったはいいものの、それでも突入できずに足踏みしている現状にミラは歯噛みする。
「・・・やっぱ、手っ取り早い方法でいくか」
ウイに頼んだ手前、使わずにどんどん先に進んでいくのは失礼な気がして後回しにしていたが、やはり変な出し惜しみはするものじゃないとミラは考えを改めることにした。
アリウス自治区を見つけ出す、最も手っ取り早い方法。
「アリウスを見つけて尋問、だね」
逃げているスクワッドにしろ、追っている他のアリウス兵にしろ、帰還用の経路は把握しているはず。
問題があるとすれば、どちらを頼るにしても素直に応じてくれないだろうことか。
あの事件でスクワッドとユスティナ聖徒会を含めたアリウスの軍勢をボコボコにしたミラに大人しく従ってくれるとは考えづらい。
必要なら協力的になってもらうまでお話(物理&電撃)もするが、あまりそれに時間をかけたくもない。
ついでに言えば、スクワッドの方は用済みとして処分されるらしいことから新たなルートを知らされていない可能性が高い。
見つけるのに手間取ったあげく使えるルートがありませんでは目も当てられない。
もっと言えば、他のアリウス兵に口封じの手段が用意されていたら徒労にしかならない。
一応、他の当てもあるにはあるが、そちらは接触の時点で現実的ではない。
「まぁ、ひとまず見つけてからかな」
捕らぬ狸の何とやら、得てもいないものをあれこれ考えても仕方ない。
アリウスを捕まえるため、ミラは狩人のように目を細めて廃墟郡へと足を踏み入れていった。
* * *
その頃、場所は変わってゲヘナ学園。
「そう緊張しなくてもいいわ」
「は、はひ・・・」
風紀委員会本部の執務室にて、ヒナの前ではラルがガタガタと震えながらコーヒーを口にした。
手元はコーヒーが溢れてしまうのではないかと思うくらいに震えているが、商人としての意地か単純に不興を買いたくないからか、表面張力いっぱいまで水を入れたコップくらいギリギリながらもまだコーヒーを溢す醜態を晒してはいない。
とはいえ、そこまでビビり散らかしてしまうのも無理のない話だった。
目の前にいるのはゲヘナにおける絶対的な武力の象徴であり、自分では逆立ちしたところでデコピン一発で沈む自信がある。
何より問題なのが、自分が元ゲヘナで中退した身であるということだ。
年齢ではラルの方が上だが、そんなことは何の気休めにもならない。
そんなことなど関係なく問題児であれば問答無用で捕縛するのが目の前の人物なのだ。
緊張しなくていいと言われたところで、安心できる要素など一つもあるはずがない。
ついでに言えば、ヒナの後ろに立っているアコがやたらと敵意むき出しで睨み付けてくるのも落ち着かない。
『あぁ、ここまで怖い思いをするのはミラさんとの初対面のとき以来ですねー・・・』などと現実逃避していたが、それを知ってか知らずかヒナは前置きもなく本題に入った。
「それじゃあ、あのときのアリウス襲撃事件について、あなたの知っていることを話してもらうわ」
「で、ですけど、そっちも情報部から何か聞いているんじゃ・・・?」
「私も情報部を信じてないわけじゃないけど、情報源は複数あるに越したことはない。それに、ミラだからこその情報もあるかもしれない」
(まぁ、そうなりますよね)
ラルも、自分が風紀委員会に呼ばれた理由は分かっていた。
つまり、ミラとの繋がりを持てる数少ないコネだ。
特にヒナからすれば喉から手が出るほど欲しいものだろう。アコが不機嫌な理由もそれだろう。
ミラと関わりを持ってから覚悟していたことではあるが、捕まるよりマシと考えるか面倒なことに巻き込まれたと考えるかは微妙なところだ。
とはいえ、情報そのものは口止めもされておらず、前の事件の分も含めて報酬は受け取っているため、ラルは素直に口を開いた。
「はぁ・・・それじゃあ、まずは情報のすり合わせからやりますか?」
「お願いするわ」
「では、事の発端から確認していきましょう」
そう言って、ラルは知る限りのトリニティ側の情報を話した。
ティーパーティーのホストであるミカがアリウスと接触したことから始まり、百合園セイア襲撃事件に裏切り者探しを巡ったゴタゴタ、そして桐藤ナギサ襲撃未遂事件。
内容に細かい誤差はあったものの、おおよそは両者とも知っていることは同じだった。
そして、話題は調印式の日に移る。
「あそこで私たちは大きな被害を受けたけど、いくつか疑問がある」
「エデン条約妨害の目的やアリウスの計画、それと武器の出所ですよね?」
「えぇ、そうね」
未だ謎多きアリウス分校。
その中でも、今回の一連の事件にはいくつか不可解な点があった。
その一つ一つに視点を当てていく。
「妨害の目的についてですが、普通に考えればゲヘナとトリニティを同時に滅ぼそうとした可能性が高いです。事実、先生やミラさんがいなければそうなっていました」
「普通に考えれば、ね。何か含みのある言い方だけど」
ヒナからの指摘に、ラルも頷く。
あくまでミラの受け売りの部分が多いが、ラルにも納得できる部分はあった。
「あれだけのミサイルを用意できるなら、わざわざエデン条約の日を狙わずとも十分痛手を与えることができます。それこそ、何でもない日常にいきなりあれを撃ち込まれたらどうしようもありません」
例えば、補習授業部の三次試験前夜に行った襲撃作戦の時、合宿棟に向けてあのミサイルを放っていたら?
少なくとも先生と補習授業部は壊滅的な被害に遭い、ナギサは巻き込まれなかったとしても悠々と探してとどめを刺すくらいはできただろう。
正義実現委員会も当時はティーパーティーから試験会場周辺の警備を命令されていたため、簡単には動けず混乱状態のまま不意をつけたに違いない。
「・・・たしかに、『憎い敵2つを同時に倒す』というのは利点に見えますが、見方を変えれば『普通に戦うよりも倍近い戦力を相手にする』ということになります。結果的にあの亡霊によって戦力差すらひっくり返ってしまいましたが、あれがなくとも個別で相手をすれば十分戦えたでしょう」
「あのミサイルを複数用意できなかった可能性もあるけど・・・それはいったん置いておこう」
たらればを言えばキリがないため、ヒナはラルに話の続きを促す。
ラルも頷いて、続いて2つ目の疑問を提示した。
「次に、アリウスの全体的な計画です。もしあの時トリニティとゲヘナを滅ぼしたとして、その後は?あれだけの戦力です。復讐を果たしてきれいさっぱり終わるとも思えません」
「ですけど、私たちが見た限りは復讐だけを原動力にしているように見えました。目的を達成した後、無気力状態になるのでは?」
いわゆる燃え尽き症候群のようになるのではとアコは予想するが、それを否定するようにラルは首を横に振る。
「それが、最後の疑問に繋がります。つまり、不可解な武器の出所。主にミサイルとユスティナ聖徒会の亡霊ですね」
「ミサイルは、私はラムジェットエンジンによるものかと思っていたのだけど・・・」
「実際は違います。何もかもが未知の技術、ほとんどオーパーツの類いと言ってもいいでしょう。キヴォトスに存在しない技術で作られたもので、ミレニアムでも再現どころか分析できるかどうか怪しいところです」
もし万が一、億が一ミレニアムが用意できたところで、それをアリウスに提供するとも思えない。
そもそもミレニアムは技術者集団であり、結果的に発明品が余計な被害を招くことは(割としょっちゅう)あっても、最初から侵攻を目的とした兵器はあまり作ろうとしない。
いたとしても、ミレニアムのトップであるセミナーがそれを許さないだろう。技術者集団である以上、不用意に周囲に敵を作りたがらないはずだ
だが、ミサイル以上にどうしようもなく理解できないものがあった。
「まぁ、それを言ったらあのユスティナ聖徒会の方がよっぽど不可思議な存在ですが。べつに幽霊を信じてないとかじゃないですけど、ミサイルよりも分からないことが多すぎます」
「姿形が大昔の文献の内容と一致していて、明確にアリウスに味方しつつ私たちに銃を向けてきた。ただの亡霊ではないでしょうけど、技術的な説明がいっさいできないわね」
「そもそも、銃も含めて実体があるくせに無尽蔵に生まれるってどういうことなんでしょう。ミラさんは何か言ってなかったんですか?」
アコの問いかけに、ヒナも催促するように頷いた。
ヒナもユスティナ聖徒会とはそれなり以上に戦ったが、先生の護衛を優先していたため詳しい分析はできなかった。
視線が集中して僅かに肩を縮めるラルだったが、どうにかミラとの会話を思い出した。
「ミラさん曰く、『人形』らしいです」
「人形?」
「はい。詳しいことは話さなかったですが、特別な力と何かしらの条件を元に出現し行動する、自律人形みたいなものだと。少なくとも今回のトリガーはエデン条約で、姿がユスティナ聖徒会なのは第一回公会議が関係している可能性が高い、とのことでした。ですが、それ以上はなんとも」
「・・・何か分かったようで、肝心なことは分からずじまいじゃないですか」
結局、核心に迫るようなものが何一つ得られていないことに対してアコは愚痴を溢す。
アリウスの目的は不明、ミサイルの出所も不明、ユスティナ聖徒会の正体も分からないまま。
この話し合いに意味があるのか疑いそうになっていた。
「仕方ないじゃないですか、情報が少なすぎるんですから。数百年前に消息を絶った存在がいきなり現れるなんて、宇宙人とか
「例えはともかく、備えがない、備えても意味がなかった遭遇という意味では似たようなものね」
おそらくは、当時最も強く弾圧していたユスティナ聖徒会が前身のシスターフッドですら、ほとんど情報を持っていなかったでろう。でなければ、あそこまで被害が拡大するはずがない。
「話を戻しますが、すべてが未知の技術をアリウスが単独で用意できるとは考えづらいです。おそらく、それらの提供者がいます。ですが・・・」
「その提供者の意志がアリウスと一致しているとは限らない、ということね?」
「その通りです」
あれほどの兵器の提供者となれば、アリウスに対して相応の影響力を持っているだろう。それこそ、自分の手足のように動かせるほどの。
そう考えれば、いくつか辻褄が合う部分もある。
「ただ、これらは証拠がまったくない、仮説に仮説を重ねた空論でしかありません。妄想と言い換えてもいいでしょう」
「アリウスの学区が見つかるだけでも証拠としては十分でしょうけど・・・」
「そもそも、アリウスの学区すらどこにあるか把握できてなくて頭を抱えていますからね。一応、ある程度絞ることはできましたけど」
「どこ?」
「トリニティに存在するカタコンベ、そのどこかです」
「たしか、定期的に構造が変化する地下空間でしたっけ?どちらにしろ、
あの日の事件で正義実現委員会とは共闘関係を結べたが、それは先生ありきの話だし、なによりエデン条約はすでにご破算になっている。
共同演習の回数を増やすくらいならともかく、さすがにトリニティの学区内を我が物顔で捜査できるほどの信頼関係は築けていない。
「それでも一応、こちらにも当てがないわけではありません」
「そうね。場所がわからないなら、知っている人物から聞けばいい」
「アリウス、特に現在逃亡中のスクワッドですね。ただし、私たちはトリニティの学区内を捜索できませんが」
逃げ道はなく敵しかいないゲヘナに身を隠すとは考えづらいし、捜索はトリニティとミラに任せるしかないだろう。
身軽なミラと派手に動けないヒナで対応の違いはあったが、考えることは3人とも同じだった。
そして、その先のことも。
「あと可能性があるとすれば、トリニティで最初にアリウスと接触した聖園ミカくらいでしょう」
そう、トリニティの誰にも気づかれずにアリウスと接触してきたミカもまた、アリウスの学区の位置を知る可能性の高い生徒だった。
さらに言えば、もし単身で学区に向かった場合、少なくともトリニティの他の誰よりもカタコンベに詳しいことになる。
情報を聞き出す口実としては十分すぎるくらいだ。
とはいえ、実行できるかどうかは別だが。
「まぁ、ティーパーティーと正義実現委員会によって拘束されている上に、近い内に聴聞会が始まる関係で接触も制限されるでしょうから、私たちには無理ですが」
「ミラでも無理なの?たしか名前を偽って潜入しているのよね?」
「それでも接触するには立場が弱いんですよね。ティーパーティーの桐藤ナギサには貸しがありますから会わせてくれなくもないでしょうけど、向こうの『運命アン』としての立場となると中立の無所属になるので確実に面倒ごとになります。そもそも、知ってたところで話してくれるかも分からないですし」
「「「・・・・・・」」」
何を思い付いても手詰まり。
かなりどうしようもない状況に、執務室は微妙な空気に包まれる。
「・・・まぁ、なんというか、あれです。いっそのこと、全部トリニティにぶん投げてもいいんじゃないですか?」
「は?私たちは指を咥えて見てろってことですか!?」
ラルのこれ以上ない投げやりな提案に、アコが憤慨する。
調印式でヒナがアリウスにひどい目に合わされた(一応、先生も撃たれた)ため、アコのアリウスに対する敵意はかなり高い。
風紀委員会の面子としても、個人的な恨みとしても、特にアリウススクワッドには自分の手でケジメをつけたい部分があった。
だが、エキサイトし始めたアコをヒナが宥める。
「落ち着いて、アコ。どのみち、風紀委員会から捜索に回せる数も場所も限られている。アリウスは元々トリニティができる前の分派の一つだったし、このままトリニティに任せても問題はない」
「委員長が、そうおっしゃるなら・・・」
あっさりヒナの言うことを聞くアコに、ラルは内心で『風紀委員長の犬がよぉ・・・!』と悪態をついたが、話をこじらせたくないためグッと堪えた。
「ゴホンッ。まぁ、この件にはシャーレの先生も関わっています。トリニティとも連携してるみたいですし、必要なら先生に連絡をとるのも手段の一つでは?」
「そうね・・・そのときになったら考えてみるわ」
本音を言えば、これ以上アリウスの件で先生の手を借りるのは少し気が引ける。先生はそれでも自分を頼ってほしがるかもしれないが、ヒナにも譲れないものがある。
だが、だからといって独自で捜索しているだろうミラとは直接連絡を取る手段がない。
もしゲヘナに対する攻撃の姿勢を確認できたら、その場合は先生の力を頼ることにしよう。
それがヒナの中での先生に対する譲歩だった。
「では、自分はこれで。もし続報が届いたら連絡します」
「えぇ、その時はお願いするわ」
さすがに緊張しっぱなしだったのか、ラルは頭を下げてからそそくさと執務室から出ていった。
その後ろ姿を、アコは何とも言えないような表情で見送る。
「・・・このまま放っておいていいんですか?彼女、一応ゲヘナ出身かつブラックマーケットの商人ですけど」
「まぁ、“元”なら積極的に追わなくてもいいと思うわ」
実際はミラのためにも捕まえないでおこうという思惑もないわけではないが、ミラが戻ってきたとしても明確に敵対しない限りは捕まえるつもりはなかった。
取り扱っている品物に目を瞑れば商売方法は真っ当だし、何より情報屋としての利用価値を考えれば切り捨てるのはもったいない。
以前のアビドスの件ではカイザーの情報をいくらか入手したようだし、それほど優秀ならできれば手元に置いておくか、せめて目の届くところにいてもらいたい。
「ひとまず、今後の方針は決まった。今度の正義実現委員会との共同演習の時に状況を共有しておきたいから、情報をまとめておいて」
「はい、わかりました!」
アコに指示を出してから、ヒナは立ち上がって自分の席に戻って背もたれに身体を預けながら先ほどの会話を思い返す。
その中で、誰を頼るかで敢えて名前が出なかったミラについて思いを馳せる。
(・・・そう言えば、ミラとどんな顔で話せばいいのか、考えたことがなかったわね)
次にミラに会う時は胸を張れるようになってから。
そう決めたはいいものの、その基準について考えていなかった。
単純に考える暇がなかった、というのも多分にあるのだが。
(・・・それも含めて、いつか先生に相談しよう)
下手をすれば、アリウスの捜索よりも難しくなりそうだ。
そう考えて、クスリと笑ってから机の上に積み重なっている書類に目を通し始めた。