トリニティの学区の郊外、廃墟が目立ちゴーストタウンのようになっているエリアでミラはアリウスを探していた。
野営や銃痕などの痕跡はいくらか見つかるものの、スクワッドや本隊はなかなか見つからない。
「ここは・・・行き止まりで包囲されたけど何とか脱出。散らばったのは・・・3人?スクワッドって4人だったよね?2:1:1じゃなくて?比較的新しいみたいだけど・・・」
足跡からある程度の状況を推測するミラだが、ほとんどが本隊らしき足跡で踏み荒らされており分かる情報はそれほど多くない。
足跡も比較的新しいため、これを頼りに探していきたいところだが、空模様は若干怪しく短い間でも雨が降られたら足跡は洗い流されてしまう。
足跡の向きから潜伏場所を予測するのが無難だろう。
そんなことを考えながら、「それにしても・・・」とミラは再び戦闘跡を見回してみる。
(調印式からそれなり経っているはずだけど、その間ずっと逃げ続けていたのか。大した根性と実力だね)
ユスティナ聖徒会がいなくとも、アリウスの兵力は大規模な学園に匹敵する。
生徒全員が兵士で教育機関として成り立っていないという点に目を瞑れば、アリウス分校の実力はキヴォトスでも上位に入るだろう。
ある意味、治安が学級どころか本校舎ごと崩壊しているゲヘナとは似た者同士かもしれない。
大きな違いとして、誰もが好き勝手やってるゲヘナに対し、アリウスは碌でもない大人によって統治されているという点があるが。
「その点、うちのトップは適当だし、それくらいがちょうどいいか」
まともに支配しようとしても何一つ上手くいかない魔境、それがゲヘナである。
トップが他のバカと一緒にバカをやるくらいがちょうどいいのだろう。
なお、その分の負担はだいたい風紀委員会が被るため、遠慮なくしばき倒すことに変わりはないが。
「っと、余計なことを考えてた。誰がどの足跡かは分からないけど・・・これでいこう」
余計な思考を振り払いつつ、ミラは適当に選んだ足跡に目をつける。
適当とは言うものの、実際はある程度当たりをつけている。
狙うのは、スクワッドのリーダーである錠前サオリ。
アリウス自治区までの道のりを把握している可能性が最も高いのは彼女くらいだ。ついでに一度ボコボコにしたことから尋問もしやすいだろう。
何度か見た体格からおおよその足のサイズを割り出し、それに当てはまるものを見つけて辿っていった。
とはいえ、調印式から今まで逃げ続けていた実力は伊達ではなく、すぐに痕跡は途絶えてしまう。
「ここからここまでこのルート、となると・・・次の候補はこことここ、あとはこの辺かな。本隊も追ってるだろうし、ついでにそっちも探すか。とはいえ、人気がないにしても昼間にドンパチするかわからないし・・・まぁ、探すだけ探してみようかな」
近くで戦闘が起こりさえすればすぐにでも駆けつけるつもりだが、アリウスどころか一般不良の気配すら感じない。
正義実現委員会の見回りは少しばかり目にするが、簡単にやり過ごすことができる程度には数も捜索も甘い。
結局、決定的な手がかりを得ることもできず日が暮れ雨も降り始めてしまったが、そこでようやく進展を得られた。
「探せ!スクワッドはこの辺りにいるはずだ!」
「絶対に逃がすな!」
裏路地の先から聞こえる会話と、チラッとだが見えた白い制服にガスマスクを着けた異様な格好。
間違いなく、アリウスの本隊だった。
「ハハッ、当たり!」
ようやく得られる手がかりを前に、ミラは笑みを浮かべて疾駆した。
「! 止まれ!足音がする、警戒しろ!」
「敵発見!っ、まさか、あれは・・・!」
「やっほー!久しぶりぃ!!」
アリウスが気づいた時にはすでに遅く、ミラの進行方向にいた面々はなす術なくミラの飛び蹴りによって蹴散らされた。
「なっ、暁ミラ!?」
「散会!散会しろ!」
「遅い!」
相手がミラだと知るや否や、アリウスは敵う相手ではないとすぐさま逃げようとする。
だが、その時点でミラはすでに中心部まで潜り込んでおり、手近にいたアリウスを掴んでぶん投げることであっという間に片側を制圧した。
「くそっ、化け物め!どうしてあいつがここに!」
「知るかっ!話す暇があるならさっさと逃げろ!!」
調印式の日、ユスティナ聖徒会による無限の戦力を以てしてもなお抑えることができなかった、常軌を逸する戦闘力。
ユスティナ聖徒会どころか、スクワッド捜索のために分けた小隊しかいない現状では一瞬の抵抗がやっとだ。
応援を要請するべきか悩む小隊長だったが、その矢先に先頭が止まってしまう。
「何をしている!」と叫ぼうとするが、続く報告に思考が一瞬止まってしまう。
「っ、スクワッド!スクワッドを発見!」
「なに!?いや待て、今は・・・!」
ミラに追われているという状況の中で、その一瞬の躊躇は致命的だった。
ミラが欲していた情報を口にしてしまったのであれば、なおさら。
「案内ご苦労様!」
「ぐぁ!?」
立ち止まったアリウスに一瞬で追い付いたミラは、あっという間に地面や壁に叩きつけられ、あるいは顔面を蹴り飛ばされて気を失ってしまう。
「さぁて、それじゃあ話を・・・」
邪魔者を一通り片付けたところで、ミラは視線をスクワッドへと向ける。
そこで、ミラは思わず動きを止めてしまった。
スクワッドがいるのは、むしろありがたい。
だが、目の前には予想はしていても想定はしていなかった人物がいた。
「えっ、先生!?」
* * *
「・・・頼む。どうか、アツコを・・・姫を、助けてくれ」
トリニティに赴いた帰り、先生の前に現れたのはボロボロになりながら土下座をするサオリだった。
元々、今日トリニティにはエデン条約の調印式における事件について話をするために訪れていた。
その中で、翌日にミカに対する聴聞会が開かれることを聞かされ、出席が難しいセイアと出席するつもりがないミカに出席するよう説得しつつ、翌日に備えるため早くシャーレに帰ろうといつもとは違うルートを通った。
その途中で、突如現れたサオリが先生に対して頭を下げて懇願したのだ。
サオリ曰く、アツコは元から“生贄”となるよう育てられたこと。それを覆すため、ユスティナ聖徒会をアリウスの力としたうえでトリニティとゲヘナを手中に収めようとしたこと。だが、それも失敗しアツコは連れ去られてしまったこと。
そして、アツコを助けるために先生の力を貸してほしいということ。
普通ならば、「そっちから襲ってきたくせにどの口で」と一蹴されるだろう。あるいは、「信用なんてできるはずがない」と見放されるに違いない。
だからこそ、サオリは“ヘイローを破壊する爆弾”、その起爆装置を先生に差し出した。
少しでも怪しい動きをしたと思ったら、それを使って起爆してほしい、と。
それだけの覚悟を持って、サオリは先生に頼み込んだ。
対する先生の回答は、非常にシンプルだった。
「わかった、手を貸すよ。生徒のお願いを無碍にはできないからね」
本来であれば、自分を撃ち殺そうとした憎んでも憎みきれない敵。
そんな感情を欠片も感じさせず、先生はサオリの願いを快諾した。
ついでに、生徒が危ないものを持ってはいけないということで起爆装置は爆弾ごと取り上げてから破壊し、爆弾もその辺にあったゴミ箱へと捨てた。
なぜ敵であるはずの自分を無条件に信用するのか理解できないながら、先生とサオリはアツコを助けるために散り散りになった他のスクワッドを探した。
「・・・え、ええっ!?どうしてシャーレの先生がリーダーと一緒にいるんですか!?ま、まさか、噂に聞くシャーレの地下牢に連れていく気なんですね!?うわぁん!もう終わりです!・・・え、違う?私たちを助けに・・・?」
「そっか、それがリーダーの選択なんだ・・・わかったよ、リーダーの命令なら従う」
アリウスの本隊に追い詰められそうになっていたヒヨリ、橋の上から飛び降り自殺をしようとしていたミサキと合流し、行動の方針もアツコの救出で固まった。
また、先生は彼女たちからアリウスを支配している大人についても聞いた。
アリウスの生徒から“彼女”あるいは“マダム”と呼ばれる人物、その名を『ベアトリーチェ』と言う。
さらには、サオリとミサキには『先生を始末すれば』、ヒヨリには『サオリの場所を教えれば』という条件を果たせればアリウスに戻れるよう便宜を図ると持ち掛けたが、3人ともそれを拒否していた。
そして、スクワッドの3人は先生と共にアリウス自治区へと向かい始める。
実質アリウスから追放された3人はカタコンベのルートや構造に関する新しい暗号を持っていないが、それでも一か所だけ使える出入り口が存在した。
だが、それも日付が変わると同時に使えなくなってしまうため、それまでにアリウスの追撃をいなしつつ向かわないといけない。
急いでその場所に向かおうとするが、思った以上に早く事態が動くことになる。
「・・・」
「ど、どうしました・・・?」
サオリが急に立ち止まったのを見て、ヒヨリは不安げに問いかけた。
おおよその事情を察して武器を構えたミサキを横目で見つつ、サオリはヒヨリの疑問に答える。
「戦闘の音だ。おそらく近い」
「え?じ、銃撃音は聞こえないですけど・・・」
「サプレッサーを使っているか、あるいは・・・」
考え込むサオリの脳裏に蘇るのは、調印式のときの記憶。
今感じている気配は、あの時に感じたものと非常に酷似していた。
あくまで直感にすぎないが、無視をするのは憚られる、そんな感覚。
「とにかく、すぐにここから離れる。巻き込まれる前に・・・」
「っ、スクワッド!スクワッドを発見!」
「なに!?いや待て、今は・・・!」
すぐにその場から離れようとしたサオリたちだったが、それも虚しくアリウスの追手に見つかってしまう。
だが、どうにも様子がおかしい。
スクワッドを探して見つけたというよりは、何かから逃げている最中に出くわしてしまったような感じだった。
そして、その答えはすぐにやってきた。
「案内ご苦労様!」
快活な声とは裏腹に、聞こえた次の瞬間には遭遇したアリウスの追手は壊滅していた。
壊滅させた正体である全身が純白のその姿は、その場にいる全員に見覚えがありすぎるものだった。
「さぁて、それじゃあ話を・・・えっ、先生!?」
調印式の時にアリウスを半壊させた張本人である暁ミラが、後ろにいる先生に驚いて動きを止めながらも立ち塞がった。
先生側の話をどこまで書くか悩みながら執筆してます。
こういう時はオリ主が完全別行動だと扱いが難しく感じますね。