キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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アリウス編・8

「・・・先生・・・私の言葉が届いているなら、どうか耳を傾けてくれ・・・」

 

微睡む意識の中、真っ白な空間の中で先生はセイアの声を聞いた。

今までにも似たようなことはあったが、ティーパーティーの一角だった以前までとは光景が異なり、セイアの声音も警告と後悔が入り雑じったものだった。

 

「私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている・・・いつまでここに留まれるのか、定かではない・・・時間があまり残されていない・・・先生に、今の状況を伝えなければ・・・」

 

そう前置きをして、セイアは今自分たちの身に起きていることを話しはじめた。

発端は、セイアが予知夢でゲマトリアの会議を盗み聞きしたこと。

その中で、先生をスクワッドに殺させるという旨の会話を聞いてしまった。

セイアはその後ミカと接触してアリウスやスクワッドのことについて聞きながら先生の危機を伝えようとしたが、その前にセイアの盗み聞きに勘づいたベアトリーチェによって意識を夢越しに捕えられてしまった。

捕らわれた際に見た場所はアリウス自治区のバシリカであり、そこで何らかの存在を呼び寄せる儀式をしていることを知った。

それが何なのか詳細は分からなかったが、ベアトリーチェが呼び出そうとしているものはキヴォトスに終焉をもたらすものであり、その断片に触れてしまったことでセイアの器は崩壊を始めてしまった。

そして、恐慌状態に陥ってしまったセイアはミカを責め立ててしまった。

その結果が現在のミカの暴走に繋がり、さらにはベアトリーチェまでもが先生の命を狙っている。

 

「だから、先生、逃げてくれ。そして、出来る限りアリウス自治区から遠ざかってほしい・・・そうでなければ・・・先生・・・は・・・」

 

 

「あっ、起こしちゃった?」

「ミラ・・・」

 

夢の余韻に引っ張られながら目を覚ますと、目の前に先生の顔を覗き込んでいるミラがいた。

少し辺りを見渡せば、サオリの近くにミサキとヒヨリが座っている。

 

「夢でも見たの?まぁ、こんな環境じゃ難しいよね。私たちは慣れてるけど」

「・・・みんなは何をしていたの?」

 

ミラとミサキは周囲を警戒していたはずだが、いつの間に戻ってきたのか。

状況を把握するため3人に問いかけた。

 

「追手が来てる様子もなかったし、休憩がてらサオリの様子を見てた。あまり動きすぎると逆に見つかりそうだしね」

「リーダーは解熱剤が効いたみたいで、熱はもう治まって今は眠っています・・・」

「いつまでも休んでいるわけにはいかないけどね・・・あと30分くらいしたら出発しよう」

「30分か・・・」

 

ここまでの道のりを考えれば短い時間だが、今の寝てた時間と夜明けまでのタイムリミットを考えればこれでも長い方なのだろう。

 

「うん、何か必要なものはある?」

 

ミサキが気を遣ってそう尋ねると、先生は少し考えてから先ほど聞きそびれたことについて尋ねることにした。

 

「さっきの話の続き、聞かせてくれる?」

「そんなこと聞いてどうするの・・・まぁ、私が知っている範囲で良ければ話すけど。どうせ時間も余ってるし」

 

そう言われたミサキは少し嫌そうな顔をするが、ここまできて誤魔化す理由はそこまでないし、何よりミラまでもが『さっさと話せ』と視線で訴えてきたため、諦め混じりに話すことにした。

 

「・・・最初の記憶は、長年続いた内戦の終わりを宣言する“マダム”の姿。私たちは幼かったから、当時は内戦のことも“マダム”のことも何一つ知らなかった。ただ、そうなんだ、って漠然と受け止めていた“マダム”は自分が新たなアリウスの生徒会長であり、主人であり、支配者だと言っていた。そうして、残っていた生徒に多くのことを教えるようになっていったの」

 

様々な戦闘技術はもちろんのこと、感じている苦痛は全てトリニティのせいでゲヘナはそもそも共存できない存在であること、そして『全ては虚しいもの』が世界の真理であるということもベアトリーチェが教えたものだった。

さらに、アリウスの生徒は誰かを憎み嫌う『殺害の意志』を持っているから『人殺し』と同じであり、この自治区以外で『人殺し』に居場所は存在しないこと、ベアトリーチェこそが真実を教える真の存在であり、生徒たちが従い、尊敬するべき大人であると説いた。

 

「みんな、その教えに従ってました。反抗すると、怒られるから・・・アズサちゃんとか、姫ちゃんみたいに」

「・・・・・・」

 

ミサキとヒヨリの話を聞いている内に、だんだんと先生の表情が険しくなっていく。

敵として相対したときすら見なかったほどの怒りの形相に、ヒヨリが思わず悲鳴をこぼした。

 

「ひっ!?せ、先生!?すごい顔になってますが・・・!?」

「・・・言ったでしょ、楽しい話じゃないって」

「まぁ、これで気兼ねなくボコせるって考えれば、聞いて損はなかったんじゃないかな。胸糞悪いのはそうだけど」

 

おどけるようにミラが口を挟むが、その目は一切笑っていない。

先生と違って怒りをあらわにしているわけではないが、感情が見えない分不気味でもあった。

 

「・・・ごめんね。アツコについても教えてくれる?」

 

自分が険しい表情をしていることに気がついた先生は、ヒヨリを怖がらせてしまったことを謝りつつ気を取り直すようにアツコについて尋ねた。

 

「姫は・・・幼い頃からお姫様だった。自治区を統治していた、かつてのアリウスの生徒会長の血を引いているんだって」

 

その血筋故に“ロイヤルブラッド”とも呼ばれ、他のアリウス生と違って気品のある服を着ていた。

だが、だからといって他の生徒を見下したりするようなことはせず、特に当時貧民街で暮らしていたサオリたちとは仲良くしていたという。

だが、それもベアトリーチェが来たことで変わってしまった。

 

「・・・内戦が終わった後、姫は“彼女”の手で生贄として捧げられるらしいって噂が流れ始めた。いったいどうしてなのか、私たちはよく分かってなかったけど・・・みんなに尊敬される貴い存在だから、選ばれたんだって思ってた」

 

少なくとも、サオリたちなんかと比べれば替えが効かない、特に希少な存在であることに違いはない。

漠然と理由を思い浮かべるだけで何を目的としているのかはわからなかったが、それでも全員が納得したわけではなかった。

 

「でも、リーダーはそれに納得しなかった。だから、生贄として捧げられるはずだった姫を私たちの下に連れてきた。どうやって連れてこられたのかは、分からないけど・・・“彼女”が素直に姫を手放すとは思えないから、リーダーと“彼女”の間で、何か約束でもしたんだと思う」

「まぁ、十中八九エデン条約関連だろうね」

 

直近でサオリが表立って動いたのはそれしかないとミラが話すと、ミサキも同意見なのか小さく頷く。

 

「・・・そうして、姫は顔と声を隠して、私たちと一緒に訓練を受けるようになったの」

 

後からアズサも合流するようになったその訓練はサオリが自ら指導したものだったが、その日々はとても辛い記憶でもあった。

ベアトリーチェの気を変わらせないため、アツコを守るために厳しい特訓を課すようになった。

今までとは打って変わった態度にヒヨリも思い出したくないくらい怖がったが、何となくでもサオリの意図は分かっていたため途中で止めたりはしなかった。

それらの甲斐もあって、サオリたちは“スクワッド”と呼ばれるほどの実力を身に付け、アリウスの多くの任務を遂行するようになり、最終的に指揮官としてアリウスを率いてエデン条約の調印式を襲撃した。

 

「・・・でも、結果的に私たちは任務を果たせなかったし、姫は約束通り生贄として捕まってしまったけど」

「・・・」

「・・・それに、私たちは元々ターゲットだった暁ミラやシャーレの先生と一緒に、裏切者としてアリウスに戻ってるし・・・本当に笑えない話だね」

 

状況が状況だったとはいえ、結果として自分の行動がスクワッドを苦しめることに繋がってしまったため、先生は口をつぐんでかけるべき言葉を考える。

それで言えばミラもまたサオリの計画をぶち壊した張本人の一人だが、先生とはまた別のことを考えていた。

 

(・・・とはいえ、あの手合いが素直に約束を守るとも思えないけど)

 

思い浮かべるのは、アビドスで暗躍していた黒服のこと。

彼は表面上の約束は果たしたが、敢えて情報を隠すことで結果的にホシノとアビドス高校を手玉にとった。

ベアトリーチェも黒服と同じゲマトリアのメンバーと考えれば、一筋縄ではいかないだろう。

とはいえ、黒服とベアトリーチェが同類かと問われたら、ミラはノーだと予想している。

話を聞いた限りではあるが、黒服が『交わした契約は表面上だけでも守る“ビジネスマン”』であるのに対し、ベアトリーチェは『利用するものはすべて道具として扱う“独裁者”』なのだ。

さらに質の悪いことに、道具は道具でも“使い捨て”が前提であり、状態など気にも留めず必要なら平気で捨てるタイプだ。

そんな相手が、捨てる前提の道具との約束を守るとは到底思えない。

 

「面白い話をしているな」

 

そんなことを考えていると、不意にミサキたちの後ろからサオリが会話に入り込んできた。

 

「り、リーダー!?」

「・・・目が覚めたんだ。体調はどう?」

「動けないほどじゃない・・・助かった」

「まぁ、どっちにせよベストコンディションじゃないだろうし、無理はしない程度にね。前線は引き続き私が受け持つから」

 

意識ははっきりしているようだが、僅かとはいえ足元に力が入っていないようにも見えた。

解熱剤込みとはいえ驚異的な回復速度ではあるが、どちらにしても病み上がりであることに変わりはない。

 

「・・・それで、これからどうする?」

「今から姫ちゃんを助けるんですよね・・・?」

「ああ。アリウスのバシリカに向かい、姫を救出する。最初から目標はそれだけだ」

 

そう断言するサオリの瞳は、以前エデン条約の調印式で見たものよりも遥かに力強いものだった。

そのことを頼もしく思いつつ、だがそれだけで通用する相手ではないだろうとミラは今後の方針について尋ねる。

 

「で、肝心のバシリカにはどう向かう?こっちの狙いはバレてるだろうけど」

「ルートは考えてある・・・アリウス分校の旧校舎に向かう」

「!」

「きゅ、旧校舎ですか?」

 

ヒヨリとミサキが知っている旧校舎は、アリウス自治区の中でも長いこと放置されている廃墟でしかないのだが、アツコの話ではそうではないらしい。

かつてアリウスを最も糾弾したユスティナ聖徒会だが、同時にアリウスの脱出と再建も支援したのだという。

その中には秘密回廊の建設もあり、ベアトリーチェも把握していない可能性は高い。

だが、回廊の存在はともかくどこにあるかまではサオリも知らないため、旧校舎にたどり着いてから手探りで探す必要がある。

とはいえ、バシリカを正面突破するよりは勝算が高いだろう。ミラがいるとはいえ、先生の護衛も考えるなら戦闘のリスクは避けるに越したことはない。

 

「それじゃ、ひとまずはその旧校舎に向かうってことで。どうする、今から行く?」

「当然だ・・・旧校舎はここからそう遠くない。目立たないように移動するぞ」

「了解」

「出発です!」

 

アツコの奪還が現実的になってきたことで士気も上がってきたサオリたちは、旧校舎へと向かうために遺跡を後にした。




早く、早くミラとミカのドッカンバトルを書きたい・・・!

ベアトリーチェの気質を書いててふと思ったこと。
こいつ、まさかゲーチスと同じタイプか・・・?
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