男ですけどお姫様抱っことかされたいししてみたい。
そんでもってツルギよ、お前そんな顔できたんか・・・。
「・・・クリア。ここまでは安全」
「は、はい!大丈夫です!」
土地勘はスクワッドの方が上ということで、ミサキとサオリが前に出てヒヨリが後ろから索敵をすることしばらく。
順調に先に進んでいるかのように見えたが、違和感を覚えたミラがポツリと呟いた。
「な~んというか・・・やけに都合がいいと思うのは私だけかな?」
「あぁ、おかしい・・・街が静かすぎる」
ミラの呟きに、サオリも同調する。
現在は自治区の市街地にいるのだが、不自然なほどに静寂に包まれていた。
もちろん普段が賑やかだとかそんなことは決してないのだが、見回りの足音すら聞こえないというのは明らかにおかしい。
「ついでに、なんかよく分からないものも転がってるね。何か知ってる?」
「い、いえ。私たちも知らないです・・・」
「そうだね。違和感は私にもある・・・自治区から長く離れていたとはいえ、私のまったく知らない街になってる」
違和感を覚えながら周囲を見渡せば、アリウス自治区ではもちろん、キヴォトス全体でも見かけないようなものがあちこちに積まれていた。
何か心当たりがあるかとミラが尋ねてみても、ヒヨリとミサキも首を横に振る。
そこで、不意にサオリはかつてアズサが言っていたことを思い出した。
『いつからアリウスは、巡航ミサイルなんてものを?それに、いつの間にあんな不思議な力を操れるようになったんだ?・・・“ヘイローを壊す爆弾”も』
まるで、昔はそんなものはなかったかのような言い方。
だが、今思えばそうだ。
ベアトリーチェから提供された数々の兵器。自分たちは特に疑問に思うこともなく受け入れていたが、そもそも技術も出自も不明なものに疑問を抱かない方がおかしかったのだ。
疑問を抱くことすら許さない、不自然なまでの自然。
それもまた、ベアトリーチェによる影響なのだろうか。
「それに・・・見知ったやつもいるみたい。隠れて」
そこで、ミラが注意を促したことで物陰に隠れる。
バレないように覗いてみると、見回りとして複数のユスティナ聖徒会の
「あれは・・・」
「せ、聖徒会!?ユスティナ聖徒会ですよね?それに、あの姿は・・・」
「・・・何故だ?エデン条約が取り消された以上、使役は不可能なはずだ」
「いや、たぶんそうでもない」
サオリの困惑を、確信のこもった声でミラは否定する。
「どういうことだ?」
「あくまで私の推測だけど、あれは感情か何かを動力にして動く人形みたいなもの。あれの出現は能力というより現象に近いだろうけど、トリガーさえ用意すれば再現と使役は難しくないっぽいね。アリウス自治区自体がユスティナ聖徒会と縁があるし。それに・・・あの調印式の襲撃。最優先事項は『トリニティとゲヘナの占領』じゃなくて『
そう言われて、サオリたちもベアトリーチェからの命令の内容がその通りであったことを思い出した。
当時は制圧のために必須だからと考えていたが、よくよく思い返してみれば「制圧することができる」とは言われても「制圧しなさい」と命令されてはいない。
「たぶん、必要だったのは『能力の確保』じゃなくて『現象の発動』。データときっかけさえあれば、自力でどうにでも出来たってことなのかな。それで、目的は最初からそれだけで、それ以外はどうでもよかった、と」
『その通りです』
不意に、ミラの推測を肯定するようにスピーカーから音声が流れた。
気がつけば、周囲を取り囲むようにユスティナ聖徒会が展開していた。
「・・・包囲されています!?」
「チッ、罠か」
「やっぱバレてたかぁ」
『えぇ、もちろんです。ここは私の支配下にある領地。皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで全て把握しています』
『そこの彼女が言っていたように、あなた達の任務は最初から「ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させること」それだけです。パスは一度接続さえすれば、次からは私が統制できるので』
「・・・やはり、最初から約束を守るつもりなんてなかったのか・・・」
『まぁ、不毛な話はこの辺りで。私の興味は、そう・・・』
そう言いながら視線を逸らすと同時に、サオリたちに向けられて銃弾が放たれる。
それに気づいたミラが翼を広げて庇うが、着弾箇所に視線を落として小さく舌打ちした。
(あの時より、威力が上がってる?まぁ、手を加えられるならそうしない理由はないだろうけど・・・)
結果的に大したダメージにはなっていないが、それでも集中攻撃を受けたくないと思う程度の威力を持っていた。
今までのように積極的にスクワッドを庇うのは難しいだろう。
そんなミラには目もくれず、ベアトリーチェは先生へと話しかけた。
『はじめまして、先生』
「・・・・・・!!」
『私はベアトリーチェと申します。すでにご存知かもしれませんが、“ゲマトリア”の一員です。黒服やマエストロ、ゴルコンダから、あなたについてはいろいろと話を聞いております』
“いろいろ”について先生はその内容を知り得ない。
生徒を食い物にすることを良しとしている“ゲマトリア”とは決して相容れることはできないが、今まで会ったゲマトリアのメンバーからは半ば一方的とはいえ好感や期待を持たれていた。
だが、今話しているベアトリーチェからは一切その気配を感じない。
『私のことが気になりますか?どうやってアリウスを手中に入れたのか・・・必要ならば、あなたが知っている情報と交換することもできますよ?』
「必要ない。あなたの手口は知っている」
『ほぉ、そうですか。私の名誉のために言っておきますが、私は特殊な能力など使っていませんよ』
そう前置きして、ベアトリーチェはアリウス自治区を手中に収めた方法について話し始めた。
ミサキが話していたように、アリウス自治区はかつて内戦をしていた。
だからこそ、アリウス自治区は十分すぎるほど憎悪に満ちており、安寧や平穏を望もうと思うことすら困難であった。
ベアトリーチェはそれを利用した。
負の感情に満たされた精神は、簡単に自分の都合のいいように価値観を捻じ曲げることができる。
子供たちにとっての地獄は、大人にとっての楽園に作り変えることができる。
捻じ曲げて作った
その中でもアツコは今まで丹精込めて仕上げてきた生贄であり、儀式を完遂させることでさらなる福音をもたらすことができる。
『えぇ・・・私は、この世界の真実を教えることもできます。いかがでしょう?この機会を逃したら・・・』
「はぁ・・・なんていうか、思ったよりも小物臭いね」
得意気に話すベアトリーチェの言葉を遮ったのは、呆れと軽蔑が混じったミラの呟きだった。
見下しているかのような声音が癪に触ったのか、若干の苛立ちを感じさせる様子で標的をミラに変えた。
『暁ミラ。今は大人の話をしているところです。邪魔をするのは・・・』
「自分の方が立場が上じゃないと気が済まなさそうなところとか、いちいちどうでもいいところでマウントを取ろうとしてる辺り、大人っていうより年増っぽくない?安っぽいプライドを気にしてるところとか特に。その傲慢さが原因で後ろから刺されるタイプと見た」
『・・・』
通信越しで黙っているだけのはずであるにも関わらず、ベアトリーチェの殺気が強まっていくのをサオリたちは肌でひしひしと感じる。
先生は一瞬ミラの煽りを止めるべきかと考えたが、相手は黒服とはまた違う意味で悪質であり、何より黒服と違って少しばかりも相容れる余地がないことから、ひとまず好きに言わせることにした。
「ずいぶんと大口を叩いてたけど、私がいることの意味が本当に分かってるのかな?まさか本気で儀式とやらが無事にできると思ってるの?」
『あなたこそ、自身のことを過大評価しているのでは?自身で思っているほど何でもできるわけではないでしょう』
「それブーメランじゃない?鏡見たことある?あぁ、自分には悪いところなんてないって思い込みたいから、鏡を使うって発想も出てこないのか。よっぽどコンプレックスで悩んでたりするのかな?」
『・・・・・・』
だが、この辺りで先生とサオリたちもベアトリーチェに対して同情しそうになってしまった。
今までの所業故にあと一歩のところで踏み留まったが、言葉の切れ味が鋭すぎる。
どうやら龍の爪と牙はレスバでも発揮されるらしい。
『・・・調子に乗りすぎないことです。調印式のあの戦いは屋外だったからこそ。地下空間のここでは・・・』
「いや、そうでもないよ」
ベアトリーチェの言葉を遮るように、ミラはパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、ミラの近くに展開していたユスティナ聖徒会に紅い雷が降り注いだ。
『なっ・・・!?』
「んー、思ったより射程は落ちるなぁ。まぁ、その分こっちから近づけばいいか」
「・・・その落雷は、外でしか使えないんじゃないの?」
絶句しているベアトリーチェほどではないものの、同じく驚きを隠せない先生がミラに尋ねた。
「使えないのは、“始点”が用意できないような狭いところ。広いスペースがあればできるよ。小屋程度の屋根なら無理やり貫通させることもできなくないけど、さすがに地下のここだと無理かな」
ミラの落雷の発動条件は『ミラの視界の外に落雷の始点を用意すること』であり、高さの指定は緩い。
さすがに狭い屋内や通路などでは使えないが、体育館程度のスペースがあれば実戦でも使えないことはないのだ。
そして、このアリウス自治区は地下空間とは思えないほどに天井が高いため、多少射程が落ちる程度で済んだ。
対して、ベアトリーチェは自分の認識が甘かったことを認めた上で、自身にも絶対の意思を課すべく宣言した。
『・・・わかりました。あなたも先生と同様、私の“敵対者”であると認めて差し上げましょう。バシリカでお待ちしております・・・もし到達できるなら、ですが』
敵が1人から2人に増えただけのこと。自分の勝利条件は大して変わらない。
先生を始末しつつ、儀式を完遂させるのみだ。
『始末してください』
そして、ユスティナ聖徒会に命令を下してからベアトリーチェは通信を閉じた。
「さて、つい出しゃばっちゃったけど・・・余計だった?」
「ううん、大丈夫だよ」
ミラは思わず口を挟んでしまったことを謝るが、相手が相手なため笑って許した。
それに、スクワッドが十分態勢を整えるだけの時間を稼ぐことができただけでも上出来だ。
目の前にいるのは調印式の時にも引けを取らないユスティナ聖徒会の軍勢。
だが、その程度で怯むことはない。
「さぁ、行こう!みんな!!」
先生の力強い掛け声を合図に、バシリカへの道を開くべくミラたちはユスティナ聖徒会の軍勢へと飛び込んでいった。