キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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ミカのパワーはいくらでも盛っていいと、自分は信じています。


アリウス編・11

仕掛けたのは、ほとんど同時だった。

ミラとミカ、それぞれが障害の排除を優先するべく、前へと踏み出す。

二人の距離は瞬く間に0になり、いつかと同じくミカが振り下ろした右の拳をミラは左腕で受け止める。

次の瞬間、ミラの足元が陥没すると同時に窓ガラスが割れるほどの衝撃が撒き散らされた。

 

「ひゃあ!?」

「なんて馬鹿力・・・!」

 

思わずのけぞってしまいそうになるほどの暴威に、ヒヨリは悲鳴を漏らしてミサキも冷や汗を流す。

だが、サオリは二人とは違うことに驚きを隠せなかった。

そして、それはミラも気づいていた。

 

(あの時よりも、さらに力が上がってる!)

 

受け止めたミカの拳が、地下通路で会った時よりも重くなっている。

あの時はまだサオリへの執着が強かったからかミラに対してはいくらか注意が散漫気味だったが、今は目的の前に立ち塞がる障害として強く意識している。

つまり、今のミカは本気でミラを排除しようとしている。

その事実を前に、ミラは口元に笑みを浮かべた。

 

(そう、それでいい・・・)

 

ミラからすれば、ミカが抱いている憎悪や怒りは八つ当たりや癇癪の類いでしかない。

悪く言えば幼稚な感情の発露だが、ミラはそれを悪いと言うつもりはない。

何が悪いかと言われたら、トリニティとベアトリーチェ、あとはその他諸々の間だろう。

トリニティに巣食っていた悪意に晒されなければ、壊れることもなかった。

ミカの打診がベアトリーチェによってねじ曲げられなければ、本当に和平が実現していたかもしれない。

もちろんミカが悪い部分もあるのだろうが、それでもここまで壊れるようなほどのものを背負うことはなかっただろう。

そして、それはスクワッドにも同じようなことが言える、かもしれない。

確信できるものはないが、ミラにはそんな予感があった。

少なくとも、ベアトリーチェの被害者という点では擁護できる余地がある。

ならば、自分に出来ることは何か。

 

(全部、私にぶつければいい)

 

不満も、憎悪も、憤怒も、全て自分が受け止める。

受け止めた上で、全て捩じ伏せる。

自分にはそれしか出来ないし、同時にそれが出来るのはキヴォトスでも自分くらいだろう。

 

(その猛りは、スクワッドにぶつけるものじゃない)

 

アツコ救出のこともあるが、それを抜きにしても互いにとってプラスになることはないし、何よりベアトリーチェの思う壺になるのが気に食わない。

身を焦がすほどの憎悪を以て復讐しようというのなら、自分の赤雷で炎ごと灼き尽くしてみせよう。

 

(だから、もっと全力でぶつかってきて。私は、さらにその上をいく!)

 

ミラはミカの拳を受け止めたまま、右手のアブソリュートの銃口をミカに向けた。

それに気がついたミカは、間一髪のところで体を捻って銃弾を回避する。

だが、咄嗟の行動だったために体勢が崩れてしまい、その隙を突いたミラはさらに深く踏み込んで赤雷を纏わせたひじ打ちをミカの腹部に叩き込んだ。

ひじ打ちの衝撃と感電にミカは苦悶の表情を浮かべ、短機関銃を乱射しながら距離を取ろうとする。

だが、2,3歩離れたところを狙いすましたかのように赤雷がミカの体を貫いた。

さらに追撃しようと、左手のアブソリュートをミカに向ける。

 

「ミラ!後ろ!」

「がはっ!?」

 

次の瞬間、先生の焦ったような警告と同時にミラの背後から巨大な物体が押しかかってくるような衝撃が襲ってきた。

それは、ミカがミラから離れると同時に召喚した隕石だった。

ミラの背後かつ先生たちの視界ギリギリから召喚したそれは、完全な不意打ちとなって先生の警告よりも早くミラに襲いかかった。

巻き上がる砂煙によって、ミラとミカの姿が一時的に見えなくなる。

先生は2人の身を案じて思わず近づこうとするが、サオリがそれを制止する前に砂煙が内側から押しのけられるように晴れた。

そこでは、全身に赤雷を纏うミラと背後に隕石召喚のゲートを複数展開しているミカがにらみ合っていた。

互いに服に煤が付いていたり、体のあちこちに擦り傷や火傷があるものの、ダメージを感じさせない様子でしっかりと立っている。

 

(ちっ、油断した。近接戦闘なら分があると思ったけど、相討ち覚悟となると後がしんどくなるな。でも、精度の低い短機関銃とはいえ中距離は向こうの方が手数が多いし、相手の射程の外だとこっちもアブソリュートを当てられるかどうか。てか、なんで雷が直撃してるのに立っていられるんだか)

 

(噂には聞いてたけど、やっぱり暁ミラは強いね。中距離は私に分がありそうだけど、接近を止めるのは難しそうかな。できれば万全の状態でサオリと戦いたかったけど、贅沢は言ってられない、か。ていうか、なんで私の隕石が直撃してるのにピンピンしているんだろ)

 

両者ともこの後にも戦いを控えている身であり、できることならこの場での戦闘は最低限の消耗で済ませたいところだったが、今の攻防の中でそれは難しいと判断する。

ならばどうするか。

 

(短期決戦。可能なら一撃で仕留める)

 

(うん、すぐに終わらせちゃおっか)

 

言葉には出さずとも、考えることは同じだった。

ならばどうするか。

先に答えを出したのは、ミカだった。

 

「最初から、こうすればよかったね」

 

そう言って、背後のゲートから大小様々な隕石ミラに向けて召喚しつつ自らの短機関銃を構えた。

普段であれば回避しながら急速接近しただろうが、今は射程内にスクワッドがいる。

さすがに先生はさらに後ろに下がって退避しているため無事だろうが、援護のためにギリギリまで近づいているスクワッド、特にサオリはその限りではない。

仕方なく、ミラは迎撃を選択する。

迫りくる隕石を次々と落雷で撃ち落とすが、その合間で放たれる短機関銃の掃射は生身で受けざるを得ない。

顔は左腕で庇っているが、それも長くは続かないだろう。

 

(ここにきて、落雷の射程が落ちているのが痛いな。こうなったら仕方ない、か)

 

プランの一つとして考えていた“近距離で撹乱しつつ限界まで圧縮した雷球をぶつける”は不可能と判断し、できればやりたくなかったサブプランに切り替える。

覚悟を決めたミラは、アブソリュートをホルスターにしまって一気に前へと駆け出した。

 

「そうくると思ったよ!」

 

捨て身とも見える特攻を前に、ミカはさらに攻撃をミラに集中させる。

銃も満足に構えられない状況ならば、素手による超接近戦を仕掛けるしかない。

幸い、隕石の迎撃を優先していることで瞬間移動のような機動力は見せていない。

これならば、自分に近づく前に倒しきれる。

そう確信したミカは、次の標的であるサオリへと一瞬視線を向ける。

その針の穴のような隙を、ミラは見逃さなかった。

 

「助かったよ。おかげで数撃分浮いた」

「あっ・・・!?」

 

ミラから意識が逸れた僅かな瞬間を逃さず、一気にミカの眼前へと迫る。

だが、そこはトリニティでも3本の指に入る実力を持っているミカであり、ギリギリのタイミングでミラのボディブローを体を捻って躱した。

だが、強引に動いたことでバランスが崩れてしまい、今度こそ致命的な隙を晒してしまう。

 

「このっ・・・!」

 

それでも近寄らせまいと、ミカは薙ぎ払うように短機関銃を乱射する。

ミラはそれを回り込むように回避し、ゼロ距離まで接近し・・・ミカの両腕を掴んだ。

 

「えっ・・・?」

 

思った攻撃が来なかったことに、ミカは思わず困惑する。

あの状態なら、殴るなり蹴るなり赤雷を落とすなり、いくらでもやりようがあったはず。

ここに来てわざわざ拘束する必要があるのかと、その理由を考えようとする。

次の瞬間、背後から連続した衝撃が襲い掛かってきた。

 

「いたたたたたっ!」

 

衝撃の正体は、考えるまでもなくスクワッドによる総攻撃だった。

先ほど回り込んだのは、ミカの反撃の回避するだけでなくミカとミラの位置を逆転させるためのものだったのだ。

サオリの銃撃やヒヨリの狙撃はもちろん、ミサキもミラに構わずロケットランチャーをぶっ放している。

いくらミラが頑丈とはいえ、まさか本当に相討ち紛いの戦い方をするとは思っていなかった。

ミカも他より頑丈とはいえ、長くは受けていられない。

すぐに拘束を振りほどこうとするが、ミラがそれを許すはずもなかった。

 

「悪いけど、もう少しジッとしててね」

「あばばばばば!?」

 

ミラは思い切り自身を帯電させ、掴んだ腕から雷をミカに流し込む。

さすがに感電の経験がないミカは、全身を駆け抜ける刺激に耐え切れず体に力を入れることができない。

時間にして、およそ10秒ほど。

スクワッドのリロードのタイミングを見計らったミラは、とどめとばかりに背負い投げの要領で思い切りミカを地面に叩きつけた。

ミラはスクワッドのすぐ近くまで下がり動かなくなったミカを見据えるが、ほどなくしてミカはむくりと起き上がった。

 

「いったた・・・うぅ、まだビリビリする・・・」

 

普通であれば致命的なダメージを受けているはずのミカはところどころ焦げているものの、それでも痛がる素振りを見せる程度で意識ははっきりしているようだった。

とはいえ、戦闘を継続しようとしないことから、それなり以上のダメージにはなっているらしい。

 

「・・・ミカ、セイアはたぶん無事だよ。だから、トリニティに戻って・・・ミカを傷つけたくない」

「先生・・・」

 

ここで戦う理由はないと、先生はミカに優しく語りかける。

先生の言葉に反応したミカは、そっと目を伏せてぽつぽつと話し始めた。

 

「ごめんね・・・私はいつもこんなだよね・・・私みたいな問題児はさ・・・先生に何度も心配をかける生徒は・・・先生の傍にいられないってことも、よく分かってる・・・でも・・・私・・・わたし、には・・・」

 

そこまで言って、ミカの目からポロポロと涙がこぼれ始めた。

 

「もう、帰る場所がないの・・・トリニティにも、どこにも・・・学園から追い出されたら、ナギちゃんにも、大切な人たちにも・・・二度と会えなくなる・・・生徒じゃなくなったら・・・私みたいな問題児、先生だって、もう会ってくれないよ・・・」

 

泣きじゃくりながら告げるミカに、サオリたちは言葉を失ってしまう。

今のミカは、奇しくもスクワッドと同じような状況になっていた。

現在トリニティで何が起きているかは知る由もないが、結果としてミカの居場所がなくなっているという事実は変わりない。

ならば、なぜスクワッドを、サオリを憎むのか。

 

「なのに、あなた達は・・・どうして?私は大切なものを奪われたのに!ぜんぶ、奪われたのに!あなた達は、どうして!?」

 

先生を殺そうとしたはずのスクワッドを、先生が助けている。

先生をエデン条約のごたごたに巻き込んだという点では、ミカも同罪と言えるだろう。

だからこそ、同じような罪を持っていながら先生に助けられているサオリたちが羨ましく、憎らしかった。

 

「あなた達が何の代償も支払わないで、何も奪われないでいるなんて、そんなの・・・そんなこと、許したら・・・私は・・・何者でもなくなってしまう・・・だから、私を止めないでね、先生」

 

そう告げて、ミカは逃げるようにこの場から去っていった。

 

「ミカ!」

 

先生がミカを呼び止めようとするが、ミカの姿はあっという間に路地裏へと消えてしまった。

一瞬ミラも追いかけようとするが、土地勘もない市街地での追撃は時間がかかりすぎると動きを止めた。

 

「い、行ってしまいました・・・?」

「一体なんなの、あの女・・・」

「そんなに・・・私が憎いのか、ミカ」

「それは、どうだろうね」

 

襲撃の理由に納得の声を零したサオリを、ミラは否定した。

それが意外だったのか、サオリは軽く目を丸くしてミラの方を見た。

 

「私には、それとは少し違うように見える」

「どういうこと?」

「さて、私も的確に説明できるだけ理解してるわけじゃないけど・・・」

 

そう言いながら、ミラはチラリと先生の方を見る。

自分が何となくでも気が付いているなら、先生が分かっていないはずがない。

だが、それはそれとしてのんびりしていられる状況でもなかった。

 

「まぁ、それはいったん置いておこう。どちらにせよ、あまり時間も残ってない」

「・・・そうだな。このまま旧校舎の回廊を通ってバシリカに侵入しよう。ミラは動けるか?」

 

確実かつ短時間でミカを倒すためとはいえ、(傍から見れば)相討ち覚悟の立ち回りをしたことでミラも少なくないダメージを負っていた。

だが、先ほどのやり取りのおかげで多少は回復することができた。

 

「一応ね。ちょっとあちこち痛むけど、戦闘に支障はないよ」

「わかった。では・・・行くぞ」

「は、はい!」

「行こう、先生」

 

不安要素はあるものの、立ち止まっている暇はないと旧校舎に向かって走り出す。

先生も、若干後ろ髪をひかれながらスクワッドの後ろをついていった。




感電のせいでちょっとギャグっぽく見えてしまったのならすまぬ。
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