キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

75 / 114
アリウス編・14

「せ、先生・・・!?どうしてここに・・・!?」

「先生・・・姫を助けに行ったんじゃ・・・」

「もちろん行くよ。サオリと一緒に」

 

先生は何でもないことのように言うが、完全にバシリカに向かったと思っていた2人からすればそれどころではない。

そんな心情を察してか、先生の後ろから呆れ半分疲れ半分のミサキが顔を出した。

 

「ごめん、リーダー・・・説得したけど止められなかった。ついでにミラにも邪魔された」

「こういう時の先生って頑固だからね。言っても聞かないし、余計な時間は省略しないと」

 

ミサキからすれば現状そのものがその“余計な時間”なのだが、それを突っ込ませるつもりはないのかミラは良い笑顔でミサキのジト目をスルーする。

先生もミサキの忠告を無視したことは申し訳なく思っていたのか、あははと曖昧な笑みを浮かべながらもミカに向き直った。

 

「サオリと戦ったんだね、ミカ」

「せ、先生・・・えっと・・・」

 

目の前で跪いた先生に、ミカはタジタジになる。

もしや怒られてしまうのか、当然のことではあるが、やっぱり嫌だなぁなどと思っていたが、先生の対応はミカの予想とは違うものだった。

 

「ごめんね、ミカ」

「せ、先生・・・!?」

 

いきなり頭を下げた先生に、ミカは思わず狼狽する。

それはサオリ達も同じで、ミカほど分かりやすく狼狽えてはいないものの目を丸くしていた。

 

「私がきちんと説明しないといけなかったのに、ミカと向かい合ってきちんと話をしなければいけなかったのに、それができなくて」

「ど、どうして先生が謝るの?先生は悪くないよ・・・悪いのは私でしょ!?それなのに、どうして・・・」

「生徒の命が懸かっていたから、サオリの手伝いをしているんだ。だから・・・アツコを助けたら、一緒にトリニティに戻ろう」

 

ミカには分からない。

先生が自分に真摯に話しかけてくれる理由も、まだ自分に救いがあると信じている根拠も。

 

「ど、どうして・・・そんなことしたって、何も変わらないのに・・・」

「私が手伝うよ」

「・・・!!」

 

それは、ミカが欲していた言葉だった。

だが、今となってはそれすらも素直に受けとることができない。

 

「私はミカがどんな子なのか、知っているから」

「あはは・・・先生は何を言っているの?私がどんな子なのか知ってる?・・・私の何を、知っているの?私は・・・“魔女”だよ?」

 

あらゆる方面に迷惑をかけ、トリニティを混乱に陥れ、セイアが死にかけるきっかけを2回も生み出した。

そんな“魔女”が、どうやって救われるというのか。

 

「そうだね・・・ミカは悪い子だ」

 

先生にそう言われて、ミカはギュッと唇を噛みしめる。

やっぱりそうなんだ、と。

だが、先生の言葉はそれで終わりではなかった。

 

「悪いことをしておきながら、結果を受け入れることが出来ずに泣いてしまう・・・そんな子だ。でも、和解の手を手を差し伸べようとする優しさも持ち合わせているし、嫌われることを恐れて自傷してしまう、不安定な子供でもある」

 

ミカ自身には、自分が不幸をばらまいたということしか見えていなかった。

それもそれで事実ではあるが、サオリが言ったようにアリウスとの和解を本気で望んでいたのも事実であり、間違いなくミカが持っている側面の一つでもあった。

 

「ミカは魔女じゃないよ・・・人の言うことを聞かないだけの、不良生徒だ」

「!」

「だから・・・ちゃんと、話を聞かせてほしいな」

 

そう言って、先生はミカの瞳を覗き込む。

どこまでもミカのことを慮るその優しさすら、今のミカには辛かった。

 

「なんで・・・そのまま、振り向かないで行ってくれたらよかったのに・・・どうして私を苦しめるの?こんな、最後まで・・・まだ私にチャンスがあるって信じさせるの?」

「大丈夫、ちゃんとあるよ。チャンスは、なければ創り出せばいいからね」

「・・・そ、そんなの無茶苦茶だよ」

 

そんなの、ノープランと何も変わらない。

それでなんとかできるほど、トリニティは甘くない。

まさか、本当に無策でどうにかするつもりなのか。

 

「もしそれがダメでも、次のチャンスを作ればいい。失敗したとしても、何度でも。道が続いている限り、チャンスは何回だって生み出せる。一度や二度の失敗で、道が閉ざされるなんてことはないんだよ。

この先に続く未来には、無限の可能性があるんだから」

 

先生のその言葉に、ミカだけでなくサオリ達も反応する。

今まで、自分たちがしてきたことは取り返すが付かない、決して許されることがない過ちだと考えていた。

だが、先生はそれは違うと語る。

たとえ過ちを犯しても、それがいつまでも許されないなんてことはない、道を失う理由にはならない、と。

 

「チャンスがないというのなら、私が何度だって作るよ。生徒が未来を諦めることなんてあってはいけない。そう言うことは、大人に任せて」

 

そう言って、先生はミカに手を差し伸べる。

最初こそ先生の言うことが信じられなかったミカも、真っすぐに見つめる先生の瞳を見て嘘でも出まかせでもないことを悟る。

先生の手を取れば、本当に救われるのかもしれない。

誘われるように、ミカはそっと先生に手を伸ばし、

 

 

 

『戯言もそこまでになさい!』

 

それまでの雰囲気をぶち壊すように、怒号が響き渡る。

通信越しのそれは、つい先ほど聞いたものと同じだった。

 

『よくも私のバシリカでそんな戯言を言えますね』

「ベアトリーチェ・・・!」

『興が冷めました。見世物はここまでといたしましょう・・・儀式を、始めましょうか』

 

その直後、周囲の空気がはっきりと認識できるほどに変わった。

通信越しの映像を見れば、アツコをモニュメントに縛り付けている赤い茨のようなものの棘がアツコの身体に食い込んで血を流し始めた。

 

「あ、アツコ・・・!」

「そ、そんな・・・まだ時間は・・・」

「た、太陽はまだ昇っていないのに・・・」

『何を勘違いしているのですか?私が日が昇るまで待つとでも?いいえ、遊びは終わりです。ロイヤルブラッドのヘイローは、もう間もなく破壊されるでしょう。そして、その神秘の欠片を通じ、私は高位の・・・』

「はぁ・・・まったく、空気が読めないんだから」

 

ベアトリーチェの宣言を、ため息と共にミラが遮る。

またしても会話を邪魔されたことに対して、あからさまにベアトリーチェの口調に苛立ちが見え始める。

 

『暁ミラ・・・!!』

「『すべては虚しいもの』だなんて喚くのは勝手にすればいいけど・・・

 

 

まさか、()()()()()()()()()()()()()()だなんて、それこそ屁理屈にもならない戯言が通用するとは思ってないだろうね?」

 

瞬間、ミラの全身を赤雷が迸る。

その姿を、サオリたちスクワッドは知っていた。

あれは、かつて自分たちを壊滅に追い込んだ、ミラの本気の姿だ。

 

『関係ありません。これで幕引きです』

 

これ以上相手をするのは不愉快だと言わんばかりにベアトリーチェは通信を切り、それと入れ替わるようにしてユスティナ聖徒会の軍勢が現れた。

調印式を思い出させるような光景を前に、ミラはチラリと後ろを振り向いてからアブソリュートを抜いた。

 

「行って。ここは私が食い止める」

「ミラ!?」

 

その言葉に驚きの声をあげたのは先生だった。

たしかにミラは単騎で無数のユスティナ聖徒会を相手取った実績があるが、それはミラの能力を最大限引き出せる屋外だったからこそ。

地下空間とはいえ多少はスペースを確保できる外ならまだしも、カタコンベよりも少し広い程度の回廊では以前と同じようにはいかないだろう。

 

「本当は私が直接ベアトリーチェをぶちのめしたかったけど、まぁそれは代わりに任せるから・・・頼んだよ、先生」

 

だが、どちらにせよベアトリーチェと戦うのにあの軍勢を引き付けるわけにはいかないし、この中で最も頑丈なミラが適任であるのも間違いない。

それでも、他に手はないかと考える先生だったが、後ろで座り込んでいたミカが立ち上がり、ミラの隣へと並んだ。

 

「ミカ?」

「私も、ここに残るよ」

 

ミカの宣言に息を呑んだのは、サオリだった。

理由や動機はともかくとして、ミカがゲヘナのことを控えめに言っても心から嫌っているのは本当だ。それこそ、おそらくはアリウスとの和解を望んでいたのと同じくらい。

 

「サオリ・・・あなたがあの子を助けたい理由が、少しだけわかるよ。私もそうだったから・・・だから・・・私たちで引き付けている間に、アツコを助けに行って」

 

だが、今はその矜持を捻じ曲げて、憎んでいるはずのゲヘナの武力の象徴とも言えるミラの隣に立った。

ミラの行動に思うところがあったのか、それほどまでに先生とサオリ達を助けたいのか、はたまたいつもの気まぐれか。

理由は何にせよ、あり得ないはずの光景が目の前で実現しているのは確かだ。

 

「・・・二人とも、気を付けて!」

 

2人が規格外に強いのは先生も知っている。

そのため、若干後ろ髪を引かれつつもミラとミカに任せることを選んだ先生はサオリ達と共にバシリカへと走って行った。

それを確認してから、2人は愛銃の調子や残弾を確認しながら声を掛け合う。

 

「さて・・・どれくらい稼げばいいと思う?」

「自信がないの?・・・そんなの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に決まってるじゃん」

「それはそう・・・っていうか、最初の一言必要だった?」

「うん☆」

 

良い笑顔で断言するミカに、ミラは軽くため息を吐くが、同時にこれでもいいかと考えを改める。

別にこれで仲直りしようというわけでもなし。二度戦いはしたが、それだけで息の合った連携がとれるほど理解してもいない。

 

「それよりも、互いに誤射には気を付けようね」

「いや、どちらかと言えばこっちの台詞だけど・・・まぁ、いいや」

 

ならば、喧嘩をしない程度に好き勝手暴れるくらいでちょうどいいだろう。

互いに重なる戦闘で物資を消耗し、少なからずダメージも負っているため万全とは言い難い。

それでも十分、今の二人なら目の前の木偶の群れを蹂躙できる。

 

「それじゃあ行くよ、ミカ」

「私の足を引っ張らないでね?()()

「・・・ハッ、そっちこそ」

 

本来交わることがなかったはずの2人が、共通の目的のためユスティナ聖徒会の軍勢へと突撃していく。

 

 

長い夜明けの時間が、今始まった。




実質ミラルーツとミラバルカンの同時討伐。
クソゲーか?
でもまぁ、相手も無限残機だし・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。