キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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前回の息抜き番外編が思ったより反響があってびっくりしました。
本当は読み切りのつもりだったんですけど、また時間がある時に続きを書いてみましょうかね・・・。

今回は最終編のプロローグ、よりかはアリウス編の後日談に近いです。


最終編・1

「ここをこうしてこう・・・いや、違うか・・・?」

 

アリウスのとある一角にて、ミラは虚空とにらめっこしながら忙しなく何もない空間に手を動かしていた。

厳密にはとある建物の扉の枠に対してあーでもないこーでもないと頭を捻っているのだが、どちらにしてもシュールな光景であることに変わりはない。

もしここがトリニティやミレニアムのような人通りの多い場所であれば、間違いなく悪い意味で注目を浴びていただろう。

 

「あ~、これがこうでこっちをこうして、あとはこれで・・・」

 

何かを試行錯誤してから、ミラは立ち上がりドアノブに手を掛けて扉を開け閉めした。

すると、廃墟へと繋がるべき扉の先には金属質な通路が現れた。

 

「おっ、上手くいった!いやー、セイアがいなかったらどうなってたことか・・・」

 

目の前の成果に胸を撫で下ろしつつ、ミラは数日前のセイアとの会話を思い返した。

 

 

 

「久しいな、ミラ」

 

ミラがアリウスのあちこちを散策していたある日、セイアはミラと会うためにアリウスを訪れた。

 

「セイアじゃん。たしか、私とミネがやり合って以来かな?」

「付け加えるなら、アリウスの一件があった日でもあるな。まさかミカの聴聞会が終わってすぐとんぼ返りすることになるとは思っていなかったよ」

 

再会を喜ぶミラに対し、セイアは当時を思い出して疲れたようにため息を吐く。

アリウスでミラと別れたあと、セイアたちは予定通りミカの聴聞会を行った。

結果として、ミカはティーパーティーの資格剥奪など重い処分が下ったものの、退学は免れ後任が決まるまではティーパーティーに所属することになった。

これで終われば“めでたしめでたし”で終わったのだが、聴聞会が終わってほとんど間もなくアリウスにいるハスミから緊急の通信が入った。

 

『ミラさんと救護騎士団のミネが喧嘩を始めました!』

 

この知らせにナギサは紅茶を噴き出し、セイアと先生は思わず天を仰いだ。

まだ聴聞会の後処理が残っていたのだが、さすがに放置はできないということで念のためにミカを加えた4人で再びアリウスへと向かった。

幸いにも、セイアたちが到着した頃にはツルギとハスミによって2人とも鎮圧されていたため、改めて事情を聞くことになった。

 

『あなたが暁ミラさんですか?』

 

事の発端は、応急処置を終えて作戦本部で休んでいたミラにミネが話しかけたことだった。

 

『そうだけど・・・あっ、あなたが蒼森ミネ?話は聞いてるよ。昏睡中のセイアの看病をしていたんだって?』

『そのことまでご存知でしたか。私も、あなたの噂は失踪する前から聞いていました』

 

周囲の正義実現委員会や救護騎士団、特にイチカの心配を余所に、初対面の二人の挨拶は和やかなものだった。

もしや何か問題が起こるのではと冷や冷やしていた周囲は安堵の息を漏らすが、それはあまりにも早計だった。

 

『ですが、それはそれとして今のあなたの容態は看過できません。すぐに救護騎士団の本部で治療を受けた方がいいかと』

 

今のミラは簡単な治療はしたものの、流血や打撲の青あざなどかなり痛ましいことになっている。

ミネの提案は、常識的に考えていたって普通のことだった。

 

『いや、これくらいなら食べて寝れば治るからいいよ。それに、いちいちトリニティとアリウスを往復するのも面倒だし』

 

だが、ミラはそのような常識や普通に当てはまらない。

本人の言う通り、打撲程度であれば簡単な処置をすれば一日二日で治ってしまう。

ミラからすれば、それこそが自明の理だった。

とはいえ、ミネがそれを知るはずもなく、というか知っていても止まるかは別問題であり、

 

『いえ、そうするわけにはいきません。救護騎士団の本部まで来てもらいます』

『だからいいって。そんなお節介をかけてもらうほど、私も柔じゃないから』

 

この辺りで、周囲は「あれ?」と思い始めた。

ミネは頭が固くてよくトラブルを起こすというのは、救護騎士団に限らずトリニティでは割と知られている。

そして、ミラが生粋の戦闘狂であるというのも、一部の3年生の間では有名な話だ。

では、その2人が巡りあってしまったら?

 

『・・・そうですか。なら、私はあなたを救護しなければなりません』

『・・・へぇ?手負いで弾切れの私なら、タイマンでも勝てると思ってるのかな?』

 

ライオットシールドを構えたミネと、ゆらりと立ち上がったミラを見て、周囲はようやく事態がまずい方向に向かっていることに気付いた。

ついでに、イチカも「あ、終わった」と顔を青くしながらハスミに連絡をとり始める。

 

『まぁ、ここで暴れるのもなんだし、いったん外に出ようか』

『では、そのままトリニティまで・・・』

『それはそれ、これはこれ』

 

そうして、最後に残った理性で作戦本部から出ていった二人は、ミネからの背後からの急襲を皮切りに盛大にドンパチを始めた。

その勢いは凄まじいもので、イチカがハスミに連絡を入れる前にツルギが異変に気付いたほどだった。

最終的に、疲労と負傷で動きが鈍っていたミラをツルギが、ミラに意識が向いて周囲の警戒を怠っていたミネをハスミがそれぞれ強襲することで、最低限の被害で事態を収拾することができた。

それからハスミの説教(ミラは更なる応急手当付き)が始まり、その途中で先生たちが到着した。

最終的に、ミラにはアリウスで救護騎士団の治療を受けてもらうということをミネに納得してもらう形で決着がついた。

 

「まぁ、それはさておきだ。少し話をしてもいいかな?」

 

当時のことを思い出してため息を吐きながら、それでもセイアは真剣な表情で本題を切り出した。

 

「・・・けっこう真面目な話っぽいね。いいよ、どこで話す?」

「人気のないところに。護衛として正義実現委員会も同行しているが、彼女たちには聞かせたくない」

「ならこっちに来て」

 

そう言って、ミラは自身が拠点に使っている建物へと案内した。

それなりに広いアリウスをあちこち歩き回っているため、ミラはその時目についた空き家を整理して簡易的な拠点として使っている。

向き合うようにボロボロのソファーに座ってから、ミラはセイアに話を促した。

 

「さて、それじゃあさっそく話を始めようか」

「あぁ。だがその前に聞きたいことがある」

「なに?」

「君は“色彩”について何か知っているか?」

 

セイアの口から出てきた名称に、ミラはスッと目を細める。

それは、失踪するよりも前、ゲヘナの書庫で知ったものだった。

 

「・・・多少の知識はあるけど、まさかセイアからその名前を聞くことになるなんてね」

「私も詳しいことを知っているわけではない。良ければ、ミラが知っていることを教えてくれないだろうか?」

 

セイアの要求に、ミラは記憶を辿りながら少ないながらも自分が知っていることを口にする。

 

「・・・超常的な災害とも言える“名もなき神”の一柱。人々を狂気に陥れ、性質を反転させる狂乱の光の概念。古文書に度々書かれている滅びの予言にその存在が示唆されている。私が知っているのはそれくらいだけど、そいつがどうかしたの?」

「具体的にいつかは分からないが、まず間違いなくキヴォトスに現れる」

 

セイアの言葉に、ミラは動きを止める。

ミラは色彩の実物など当然見たこともなければ、解読した古文書にも具体的にどのような災いがもたらされたのか書かれていたわけでもない。

だが、それがキヴォトスに終焉をもたらすものであるということだけは本能的に理解していた。

 

「続けて」

「私は以前・・・具体的に言えば君がアリウススクワッドと共に行動した日か。私は夢の中で偶然ゲマトリアの会合を盗み聞きしてしまった。詳細は省くが、そこでベアトリーチェに私の存在に気付かれ、夢の中で彼女が儀式で召喚しようとしていたものと接触させられた」

「それが“色彩”ってわけか・・・」

 

たしかに、ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)を呼び出せるような生徒を媒介に使えば、不可能ではないだろう。

だが、とんでもないものを呼び寄せようとしてくれたものだとミラはため息を吐く。

ついでに、それを阻止した先生に改めて感謝の念を送りつつ、そんな存在と鉢合わせて生還したセイアに感嘆の息をこぼす。

 

「よくもまぁ、無事で済んだね・・・」

「以前も少し話したが、夢の中でとある人物と取引を交わしてね。予知夢の能力と引き換えに元に戻してもらったのだよ」

「そんなことが出来るとか何者なの・・・」

 

ミラの知っている限り、セイアの他に夢に干渉できるような生徒に心当たりはない。

様々な伝承が渦巻く百鬼夜行学園であればその限りではないかもしれないが、ゲマトリアが干渉している気配がなかったことと調べることが多いかつ複雑すぎたためにそちらはノータッチだ。

 

「それにしても、なんでまたベアトリーチェはそんなのを呼び出そうとしたのか」

「彼女が言うには、崇高に至るためだそうだ。一応、儀式は失敗したと先生から聞いているが・・・」

「いや、儀式はあくまで完遂しなかっただけで、たぶん儀式の手順そのものは順調だったはず。それなら、呼び出すことはできなくても引き付けるには充分だったかもしれない」

 

アツコが生きていることから、最終的に儀式が失敗したのは間違いないだろう。

だが、先生がミカとサオリを和解させた後、ベアトリーチェが儀式を始めて何か良からぬものを呼び出そうとした気配をミラは覚えている。

パスが繋がらなくても色彩がそれを察知したのか、それとも呼び出すことはできなかったがパスが繋がったことで誘導できているのか。

理由はともあれ、予断を許さない状況であることに間違いないだろう。

 

「ともかく、色彩がキヴォトスに現れるのは確定事項なんだね?」

「あぁ、私が最後に見た予知夢だ。ミラの話から考えても外れる可能性は低いだろう」

「となると、早いところゲマトリアの本拠地に殴り込みに行かないとか・・・」

 

ゲマトリアを排除できても、その後に帰ったらキヴォトスが崩壊していましたなど冗談にもならない。

できるだけ早くゲマトリアと決着をつけなければならないが、はっきり言って状況は芳しくなかった。

 

「ふむ、まだ見つけられていないのか?」

「そうなんだよねぇ。けっこう隅々まで探してるつもりなんだけど・・・」

 

すべての建物の隅から隅まで、とまでは言わないが、すでに怪しいところはあらかた探し尽くしていた。

しらみ潰しですべての建物を調べる最終手段もなくはないが、確実に遅くなるだろう。

どうしたものかと頭を悩ませるミラだったが、そこでふと先ほどセイアが話していた内容を思い出した。

 

「そういえば、セイアは夢の中でゲマトリアの本拠地に行ったんだよね?だったら、場所とかわからないの?」

「すまないが、それは私にもわからない」

「そっかぁ・・・そうだよね・・・」

 

少し期待していたものの、あっけなく望みが潰えてしまったことにミラは軽く肩を落とした。

だが、少し考えればそれが望み薄だったことは予想できたはずだ。

たしかにセイアの予知夢は他に類を見ない能力だが、自身でコントロールできないからこその予知“夢”であり、そう都合よく知りたいことを知れるわけではないのだから、セイアが知らないのも当然と言えば当然だろう。

とはいえ、頼みの綱があっさり千切れてしまったことに変わりはなく、珍しく軽く凹んでいるミラを哀れに思ったセイアは見た限りの情報を話し始めた。

 

「私が見た空間だが、全体的に金属質だった、というより金属で出来た建物のように見えた」

「そんなのはアリウスにないし、なら他のところにあるのかな・・・」

「いや、私がベアトリーチェに見つかってそこまで時間が経たないうちに意識をバシリカに拘束された。そこにはベアトリーチェの姿もあった。あの場所がどれほど広いのかは分からないが、アリウスの郊外ならまだしも他の場所から移動してくるには時間が足りないはずだ」

 

そう言われて、ミラも先生から聞いた話を思い出した。

ベアトリーチェはゴルコンダというゲマトリアのメンバーが回収してバシリカから去っていったという。

だからこそミラも最初はバシリカ付近や地下回廊をマッピングしながら隠し通路を探したが、結局見つかることはなかった。

それどころか、痕跡そのものが途中から消えて追跡が不可能な状態になっていた。

最初は持っている技術で痕跡を消しているのだと考えていたが、もしそうでないとしたら?

 

「・・・ゲマトリアは、ワープのような能力が使える・・・?」

「突拍子のない考えだな。だが、あり得ないとは言いきれない」

 

現実離れした推測ではあるが、ベアトリーチェは異形の怪物に変化して先生たちと戦ったという。

ヘイローを破壊する爆弾の例も考えれば、超常的な技術の一つや二つはあってもおかしかはないかもしれない。

 

「君は、私とは違う不思議な何かを見ることができるのだろう?なら、その痕跡を辿ることもできるのではないかな?」

「簡単に言ってくれるけど・・・試すしかないか」

 

 

 

「いやー、やってみるものだったね。今度セイアに会ったら礼を言っておかないと」

 

目の前に広がるセイアから聞いた通りの空間を前に、ミラは満足げに頷く。

セイアから聞いたヒントを元にしても時間がかかってしまったが、もしそれがなければさらに時間を浪費してしたことだろう。

 

「さて、それじゃあ鬼が出るか蛇が出るか、それとも虎の穴だったか、確かめてみるとしよっか」

 

ようやく決着をつけることができることに息を巻きながら、ミラはゲマトリアの拠点へと足を踏み入れた。

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