2年ぶりのホシノとの邂逅を果たした結果、解釈違いを起こして発狂したミラを楽しんでいただけたようで何よりです。
「ふぅ~ん・・・そういうことね」
アビドスの学区内に存在する廃墟群。
ミラはその中のいくつかを簡易的なセーフハウスとして利用している。
その一つで、ミラはカタカタヘルメット団を撃退した際に報酬としてもらった物資を検分していた。
「ぱっと見いいもの使ってると思ってたけど、やっぱりブラックマーケットに流れてたやつと同じだったか」
そもそもミラがアビドスに訪れるきっかけとなったのは、最近になってブラックマーケットの市場、特に武器関連の商品が大量に入ってきたという情報を掴んだからだった。
何となく気になって調べてみれば、連邦生徒会長の失踪をきっかけに露骨に活発化してはいたものの、入荷量自体は1,2年前から徐々に増えていた。
さらに気になって詳しく調べてみた結果、その資金の中にアビドスから流れてきたものがあることが発覚、本格的にアビドスで調査することを決めたのだ。
ただ、その直後に先生の赴任と例の事件が重なったのはまったくの偶然だったのだが。
そして、今回のごたごたで思わぬ再会となってしまったわけだが、怪我の功名と言うべきか予定外のトラブルは予定外の収穫をもたらした。
カタカタヘルメット団が使用していた武器や弾薬が、アビドスに来る前にいくつかリストアップしたものと一致していたのだ。
だが、多くの武器が入荷されたことで多少値崩れしているとはいえ、ただでさえ物価が高いブラックマーケットでも高性能な装備となれば、たかが不良の集り程度では数を揃えるのも難しいはず。
にもかかわらず、そんな高価な代物が全員に行き渡っていた。あるいは、今日襲ってきた部隊だけでなく全員に配られている可能性だって存在する。
もしそれが事実だった場合、カタカタヘルメット団はどこかから装備の支援を受けているということになる。
そして、ミラはそれがどこかだいたい見当がついていた。
「カイザーコーポレーション・・・武器ってことは動いているのはPMCがメインかな」
カイザーコーポレーション。
キヴォトスで様々な事業を展開している大企業であり、その内容は一般的な商業はもちろん、銀行経営やリゾート開発など多岐にわたる。
だが、その実態は金稼ぎのためなら武力行使や詐欺まがいの行為も平然と行う、清廉潔白からは程遠い悪徳企業である。
その毒牙にかかった客は数多く、それはアビドスも例外ではなかった。
数十年前から頻発し始めた砂嵐に対抗するべく借金をして様々な対策を講じてきたアビドスだが、その主な借金先がカイザー系列の銀行なのだ。
その額は9億を超え、返済には数百年かかるとされている。
とはいえ、借金自体は正当な取引によるもののため、これだけを指してカイザーを悪者扱いすることは出来ないが、それを差し引いてもカイザーコーポレーションの黒い噂は絶えない。
そして、その中にはアビドスにまつわるものもいくつか存在する。
今回の件はそれを証明することにもつながるだろうと思ってはいたが、それにしても動きがきな臭かった。
「それにしても、わざわざ不良集団に支援なんかして、なんのつもりなんだか」
アビドスは砂漠が広がる不毛地帯。それも現在進行形で広がっている。
たしかに砂に埋もれていない地域も存在するが、その中でもわざわざ別館校舎を狙う理由はまずない。
校舎を狙うくらいなら、商業地区を手中に収める方がよっぽど利益がある。
だが、逆に考えるとするなら?
「カイザーはあそこの校舎以外、すべての土地の権利を保有している・・・?」
あり得ない話ではない。
事実、買収できるだけの資金をカイザーコーポレーションは保持している。借金の肩代わりとして前生徒会が差し出した可能性は十分にある。
とはいえ、その約束が履行されているかどうかはかなり怪しいところだが。
問題なのは、アビドスの生徒会はすでに解散しているということ。ホシノは最後の生徒会役員だが、あの様子を見る限り誰がどこまでやったのかは把握していないかもしれない。
金稼ぎのためならどんなあくどいことでもするカイザーコーポレーションのこと、残った最後の土地であるあの校舎を買収するために不良を使ってホシノたちを追い出そうとしているのだと考えれば、一応の筋は通る。
だが、それはそれとして理由がわからない。
たかが校舎一つを得たところで、大した利益は生み出せないだろう。わざわざ自分たちの存在を隠して不良集団を支援してまでこだわる必要はない。
それこそ、あれこれ理由を付けてアビドスに入学をさせないよう仕向ければ、全員が卒業した後にでも簡単に手に入れることができる。
そんな確実かつ少ない労力で解決する問題を、わざわざ手間をかけて今にでも得ようとする姿勢にミラは違和感を感じる。
「目的は校舎じゃなくて生徒?・・・でも戦力目的なら借金返済をちらつかせてPMCにでも働かせればいいだろうし・・・」
とっている手段はだいぶ回りくどいが、それにしては狙いが大雑把にも見える。
まるで、目的のもの以外はすべてどうでもいいと切り捨てているかのような・・・
「・・・なるほど、狙いはホシノか」
小鳥遊ホシノ。
ミラと並び立つ実力の持ち主であり、その凶暴なまでに攻撃的な性格から各校からマークされていたキヴォトスでも最上位の実力者。
だが、その本質は別にある。
キヴォトスの中でも知っている者が少ないその真の価値は、現代最強と称されるほどの神秘を保有していること。
その真意はミラも測りかねているが、少なくともキヴォトスでも唯一無二の特徴と言えるだろう。
そんなホシノを手中に入れたとして、どのように扱うか。
戦力が理由ではないのだとすれば、欲しているのはホシノの“力”ではなく“神秘”。
だが、目の前の金儲けしか考えていないカイザーコーポレーションが、金になるかどうかわからないあやふやなものを欲するとは思えない。
つまり、カイザーコーポレーションを利用してホシノを手に入れようとしている黒幕が存在する。
そして、“神秘”を目的にするような黒幕に、ミラは心当たりがあった。
「・・・ようやく、尻尾を掴めた」
ミラがゲヘナを去った理由、姿を隠しながら追っている黒幕。
それに指がかかったことに、ミラは口角を吊り上げる。
あくまで推測、仮説に仮説を重ねた空論でしかない。
だが、ミラの直感はこれが正しいと判断した。ミラは基本的に自分の直感を疑うことはなく、実際にそれはまず間違いなく当たる。
「問題は、ホシノがどこまで把握しているのか・・・いや、もし把握していたとしても隠しているか。後輩たちも気づいていなさそうだし、私にも話してはくれないか・・・」
仮にホシノが黒幕と接触していたと仮定した場合、それは後輩たちが微塵も気づかないほど徹底的に隠されている。ホシノに問い詰めたとして、それで状況が好転するとは限らない。第一、相手があくまでアビドスの借金を手段にしている以上、ミラの方から不用意に突っ込むことができない。
ホシノを四六時中尾行するという手もあるが、ホシノは3年生ということもあって土地勘はミラよりも断然優れている。一度会ってしまったことから、気配などで容易く察知されてしまうだろう。
ミラが手を出せるタイミングがあるとすれば、それはカイザーコーポレーションが直接的に手を出してきた時だけだ。
「待つっていうのは性に合わないんだけどな・・・いや、私が気づくずっと前から仕組んでいたんなら、後手に回って当然か」
大企業と言えど、PMC程度その気になればミラ一人で壊滅させることができる。
だが、それですべて解決できると思っているほどミラはうぬぼれていない。むしろミラはかなり身の程を弁えている方だ。
暴力ですべてを壊すことは簡単だが、それは解決ではなく逃避と問題の先延ばしでしかない。他所の問題であれば尚更。
それを理解しているからこそ、今回は黒幕の方から行動を起こすまで待つという選択肢をとる他なかった。
そのことが、どうしても歯がゆい。
それでも、
「あるいは、先生なら・・・」
それだけが、ミラにとって救いとなる賭けだった。
* * *
「ようやく見つけました」
「・・・まさか見つかっちゃうなんてね」
スラムと化している廃墟群、その路地裏の一角で、あまりにも場の雰囲気にそぐわない2人が邂逅を果たしていた。
片や純白に身を包んでいる少女。片や連邦生徒会の制服を着ている少女。
明らかに浮いている光景だが、当人たちはいたって真面目な表情で向かい合っていた。
「それとも、あの“超人”と謳われる連邦生徒会長自らが私を探し出そうとするなんて、っていう方が正しいのかな?」
「私はそんな大そうな存在ではありません・・・こうして会うのは初めてですね、暁ミラさん」
連邦生徒会長。
キヴォトスの全生徒を代表する人物であり、その能力の高さから“超人”とまで呼ばれる秀才。
そんな生徒会長だが、同じく人の域を超えた実力を持っているミラと比べられることもあった。
得意分野が違うため純粋に比較できるものではないが、“政の連邦生徒会長と力の暁ミラ”として並べられることも少なくなかった。
とはいえ、本人の要望や求められる素質からミラが連邦生徒会に関わることはなく、今この時会うまで2人は名前と名声を知っているだけの他人でしかなかった。
「それにしても、いいの?そっちもいろいろと大変でしょ」
「やっぱり、ミラさんにはバレていましたか」
「そりゃあね。暗いところには暗い噂が集まるものだよ。たとえ連邦生徒会のものであっても、ね」
現生徒会長を慕う者は多くいるが、連邦生徒会も一枚岩というわけではない。内部ではいくつかの派閥が存在し、中には生徒会長の失脚を望む者たちもいる。
さらには実質的な実働部隊であるヴァルキューレ警察学校の腐敗など問題は山積みであり、本来であれば連邦生徒会の長である彼女がこのような場所に来る暇はないはずなのだ。
「それで、何の用?そっちも時間がないだろうし、手っ取り早く済ませよう」
「助かります。では、こちらを見てください」
そう言って、連邦生徒会長はタブレットを差し出した。
画面にはとある人物のプロフィールが映し出されており、ミラは画面を操作して確認しながら問いかける。
「これ誰?」
「キヴォトスの外部から来てもらう先生です。この人にはこれから立ち上げる連邦捜査部の顧問になっていただきます。ある種の超法規的機関と思ってください」
「で?まさかそれに所属しろってわけじゃないよね」
「えぇ。そもそも正式な部員を集めるような組織ではありませんから。それに、これは連邦生徒会長としての命令や指示ではなく、私個人の頼み事やお願いのようなものです。ミラさんの手が空いている時だけで構いません。出来るだけ、先生に力を貸してあげてください」
「だったら、私じゃなくても会長が手を貸してあげればいいんじゃないの?」
「私には他にやらなければいけないことがありますから」
「ふぅ~ん・・・」
興味なさげな返事を返しながら、ミラは画面に映る先生の情報に目を通す。
何か特別な出自というわけでもない。プロフィール欄にも目を引くような何かはない。むしろ生身で銃弾を受ければすぐに死亡してしまうような脆弱な存在。
なぜそんな人間を外部から呼び寄せ、なおかつ自分にその人物の有事を任せようというのか。
「一応、理由を聞いてもいい?」
「・・・信じてもらえないかもしれませんが、キヴォトスを、ひいては世界を救うためです」
ずいぶん大袈裟な話だと、ミラは思わず鼻で笑いそうになる。
世界を救う云々の話を抜きにしても、資料を見た限りこの先生に与えられる権限はかなり大きい。それこそ、場合によってはキヴォトスの全権すら掌握できるほどのものだ。
とてもではないが、そんな大それたことができるような人物には思えない。
だが、
「うん、いいよ。個人の範疇なら手を貸してあげる」
ミラは生徒会長の頼みを快諾した。
「・・・いいんですか?」
「まぁね。会長が選んだ人なら、たぶん大丈夫だろうし」
本人は謙遜していたが、連邦生徒会長に求められる能力のボーダーは非常に高く、それを有している時点で十分“超人”と称されるのにふさわしい人物だと言える。
そんな会長がそう判断したのであれば、その理由は分からずともそれに見合うだけの何かを持っているということなのだろう。
何より、
「それに、私もなんとなく思う部分があるんだよね。なんか、会長の頼みとか関係なしに関わりそうな予感がするっていうか、そういう感じのやつ」
現在ミラが追っている黒幕。
その過程の中でこの先生が関わってくるだろうという、漠然とした予感があった。
「本当にそうなったら、助けて損はないだろうからね。もし私の事情に関わってくるなら、その時は積極的に手助けしてあげる」
「・・・ありがとうござます」
ミラの返答に、生徒会長は頭を深々と下げる。
対するミラは、軽い調子でひらひらと手を振った。
「気にしなくていいよ。私のことをよく分かっている駄賃も込みだからね」
ミラは自分の身の程をよく弁えている。
組織に所属した時、どうあがいても“暁ミラ”によって塗りつぶされてしまうということを理解していた。
それこそ、ゲヘナの風紀委員長である空崎ヒナよりも深刻になり得るレベルで。
生徒会長も、それを理解していたからこそ“組織”ではなく“個人”の範疇に収まるように今回の頼みを申し出たのだ。
「それでも感謝します。では、私はこれで失礼します。リンちゃんに仕事を押し付けてきましたから、早く戻らないといけません」
「あらら、かわいそうな人がいたことで」
生徒会長に仕事を任されるだけ信頼されているというのは、言葉だけ見れば良い意味に捉えられるだろう。
だが裏を返せば、いざという時にはその膨大な仕事を押し付けられるという意味でもある。
自分にした頼みごとや「他にやることがある」という口ぶりから考える限り、この先リンという生徒は散々な目に遭うのだろうという確信がミラにはあった。
* * *
「んぁ・・・夢か」
砂漠故に強い日差しに当てられ、ミラは目を覚ました。
どうやら先生のことを考えている内に寝落ちしてしまったらしい。
「あの時の夢を見るなんてね・・・」
まさかあの時は、連邦生徒会長まで失踪するとは思ってもいなかった。
この様子ではリンとやらが代行としてあの連邦生徒会を回しているのだろうと考えると、思わず同情してしまいそうになる。
とはいえ、それは連邦生徒会の問題であり、ミラが首を突っ込むことではない。
ミラにとって重要なのはホシノに関する今後の方針だ。
しかし、
「・・・いや、本当にどうしよう」
力押し以外に良いプランが思い浮かばないミラは、頭を抱えるしかなかった。
こうして書いてみると、生徒会長って役職名で連呼するの違和感がすごいというか、書いてて落ち着かなくなります。思わず前に“現”って付け足したくなっちゃいそう。
どないしてくれとんねんアロナァ!