キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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最終編・5

「さて、人員の配置は決定したわけですが・・・」

 

現在、先生の指揮によって住民の避難と攻略戦の準備を並行して行っている。

攻略に割り当てられたのは、それぞれ以下のようになった。

対ビナーには、アビドス廃校対策委員会とゲヘナの便利屋68。

対ケセドには、ミレニアムのC&Cと特異現象捜査部からエイミ、トリニティの正義実現委員会からツルギとイチカ。

対シロ&クロには、ミレニアムのゲーム開発部、SRT特殊学園のRABBIT小隊、ゲヘナの風紀委員会からヒナ。

対ヒエロニムスには、トリニティの救護騎士団とシスターフッドから精鋭を抜粋。

対ホドには、ミレニアムのセミナー、エンジニア部、ヴェリタス。

そして、D.U.の塔は他5ヵ所の攻略が終わり次第これらの戦力を終結させることになっている。

とはいえ、攻略の最中に守護者が現れる可能性も0ではないため、攻略の戦力とは別に斥候を配置していた。

トリニティの補習授業部からアズサとヒフミ、ゲヘナの美食研究会、そして・・・

 

 

 

「いやー、先生もお目が高いね」

 

D.U.シラトリ区に存在するビル群、その一つの屋上でミラは仁王立ちしながら虚妄のサンクトゥムを眺めていた。

傷はすでに完治している。ミラの見立てでは2,3日かかると思っていたが、シャーレの設備が充実していたからか、たくさん食べてぐっすり寝たら一晩で動けるようになった。

 

「一番ヤバそうな場所に私を配置する。よく分かってるじゃん」

 

リンやミレニアムからの報告では、ここの塔から発せられているエネルギーは他5つのエネルギーを足し合わせてもなお凌駕しているという。

いったい、どのような化け物が生まれるというのか。

キヴォトスの危機であるにも関わらず、ミラは非常にワクワクしていた。

それこそ、すでに体が疼いている程度には。

 

「さて、私を楽しませてくれるようなものを期待しているからね、ゲマトリア、色彩」

 

最近、好きに暴れる機会が少なくて消化不良が続いていたミラの闘争心は、すでに限界まで燃え上がっていた。

 

 

* * *

 

 

所変わって、ミレニアム郊外の閉鎖地域の工場地帯の付近。

そちらでも、ミラに負けず劣らず闘争心を漲らせている生徒が2人ほどいた。

というより、すでに炸裂していた。

 

「おらおら!そんなもんじゃねえよな!!」

「キヒャヒャヒャーーー!!」

 

そこでは、ツルギとC&Cのネルが派手に喧嘩を繰り広げていた。

事の発端は、作戦内容から始まる。

対ケセド戦では大量のオートマトンを倒さなければ先に進むことができない。

そのため、正面で派手に暴れる囮役と落下傘降下で裏から侵入する奇襲部隊の2つで攻略することになるのだが、どちらが囮になるかでツルギとネルが揉めたのだ。

どちらも各学園の最高戦力であり、囮役に不足はない。

ならば、どうやって決めるか。

それは大量の軍勢を相手にしても確実に生き残れる、()()()()()だ。

互いに直接口には出さなかったものの、C&Cのアスナがそれを無邪気に指摘したことでギリギリのところで抑えていた闘争心が完全に溢れだし、どちらが強いか白黒つけるために戦うことになった。

本来であればイチカがツルギのストッパーになるはずだったが、決壊前の時点ですでに怪しかったのに、今や囮役のことすら頭から吹っ飛んでいるような2人を止めるにはさすがに力不足だった。

そのため、他のメンバーは完全に喧嘩を止めることを諦めて観戦モードに入っている。

止めた方がいいというのは頭では分かっているが実行できるかはまた別問題であり、それはそれとして三大学園のうちの2校の最高戦力同士による戦いは非常に見応えがあった。

C&Cはいくら攻撃を受けてもびくともしないツルギに、イチカはツルギの気迫を受けても一切ビビらないネルにそれぞれ感心する。

戦闘の流れはネルが掴んでいるが、ツルギに有効打が入っているわけではないため、戦況は泥沼になりつつあった。

このまま泥沼の戦いが続くのか。

そう思っていた矢先に、通信から鋭い声が割り込んできた。

 

『ちょっと、二人とも何してるのよ!』

 

声の主はユウカだった。

エイミから報告を受けたノアが、なんか止めてくれそうという理由で呼び出したのだ。

唐突な闖入者に、さしものネルとツルギも興が冷めてしまう。

 

『チーム分けで喧嘩して・・・あなた達、今いったい何年生?』

『え?ツルギとネルの喧嘩?何それ私も見たいっていうか混ざりたい!』

 

だが、闖入者はユウカだけにとどまらず、新たな声が通信に乱入してきた。

 

「あ?誰だ?」

「・・・暁ミラ・・・」

「ミラ?あぁ、例のゲヘナのあいつか」

 

ネルは聞き覚えのない声に首をかしげるが、ツルギの口から出た名前を聞いて思い当たった。

というより、ネルを始めとした実力に自信がある3年生でミラの名前を知らない者はほとんどいない。

とはいえ、ユウカにとってそんな情報は知ったことではないのだが。

 

『ちょっと!ミラさんはD.U.で見張りのはずですよね!』

『いや、何も起こる気配がなくて退屈だったから、ちょっと暇つぶしに他の通信を聞いてた』

『ちゃんと真面目にやってください!キヴォトスの危機なんですよ!?』

 

とてもではないが、キヴォトスの存亡をかけた戦いの前のテンションとは思えない。

他が真面目に作戦に取り組んでいる中で“退屈”だとか“暇つぶし”なんて言葉を持ち出したミラに憤慨するユウカだが、ミラはユウカの小言を右から左に流していく。

完全に興が削がれたネルの興味も、そんなミラへと移った。

 

「んで、混ざりたいってのはなんだ。三つ巴をご所望ってことか?」

『ん?それはそれでいいけど、2人同時にかかってきてもいいよ?そっちの方が楽しそうだし』

 

だが、対するミラの返答に周囲の動きが止まった。

時間が停止したと錯覚するような空気の張りつめ方に、イチカは顔を青くしながら脂汗をダラダラと流し、先ほど焚き付けた側であるアスナも含めたC&Cのメンバーも冷や汗を流す。

その静寂を破ったのは、ゆっくりと口を開き始めたネルだった。

 

「・・・へぇ、タイマンなら負けねぇってか?たいした自信じゃねぇか」

「・・・きひひっ」

『私は欲張りな方だからね。どうせなら、一人ずつより二人同時の方がお得じゃない?』

「ハッ、上等だ。いいぜ、何なら今すぐにでも・・・!」

 

完全にやる気を漲らせ始めたネルに同調するように、ツルギもヒートアップしていく。

なんかもう本当にミラのところにすっ飛んでいきそうに周囲は狼狽えるが(アスナだけ乗り気)、その勢いを止めたのはまたしてもユウカだった。

 

『あーもう!その話は作戦が終わった後で!ミラさんは自分の仕事に戻ってください!!ヒマリ先輩!!』

『はぁ、仕方ありませんね』

『え?あ、ちょっ・・・!?』

 

実は途中からこっそり通信を聞いていたヒマリが自身の仕事の片手間にミラを通信を閉め出したことで、どうにか収拾がつくことになった。

ちなみに、作戦の班分けはこの後ユウカの鶴の一声によってジャンケンで決定した。

 

 

* * *

 

 

「・・・切れちゃった」

 

強制的に通信を切断されたミラは、ビルの屋上で半ば呆然と呟いた。

たしかに少し調子にのり過ぎたと思う部分もなくはないが、まさか自分を相手にあそこまで強気に出られるとは。

ミレニアムとの関わりは薄かったためユウカの人物像を把握していなかったが、どうやらずいぶんと肝が据わっているらしい。

ついでに、自分の仕事の片手間に容易く通信をハッキングした生徒にも興味が湧く。

 

「チャンネルも他の作戦区域と繋がらないし・・・さすがは“全知”のヒマリ、ってところかな」

 

ゲヘナやトリニティと比べれば歴史が浅いとはいえ、ミレニアムでも史上で3人しか授与されていない最高位の学位である“全知”の持ち主。

他を寄せ付けないほどの高みにいる凄腕ハッカーの存在は噂で聞いていたが、どうやらその腕前は自尊心の高さに引けをとらないらしい。

それはそれとして、これから再び退屈になる元凶となったことに思うところがないわけではないが。

 

「どうしよっかな・・・ただ見回りするだけってのもつまらないし」

『でしたら、私とも少しお話しませんか?』

 

今後のことについてどうするか考えていると、通信から新たな声が話しかけてきた。

それは、ミラにとってそれなりに馴染みのあるものだった。

 

「ハルナ?久しぶりだね。いつ以来だっけ?」

『ミラさんがいなくなられる一ヶ月前に、ゲヘナ自治区郊外の高級レストランを爆破した時に捕まった時が最後でしたね』

「あぁ、監査対象が吹き飛ばされてごたごたしてたアレか。懐かしいなぁ」

 

基本的に学区の全域でトラブルが絶えないゲヘナだが、それでも比較的事件が少ない区画では商店街だったりが存在している。

だが、治安が基本的に底辺を突き抜けているゲヘナで真っ当な商売をしている店はほとんどおらず、風紀委員会の監査対象になっている場所も珍しくない。

なのだが、その中の飲食店、特に高級を謳っているいる店はだいたいハルナによって爆破されていた。

ハルナが美食に対して自分なりの美学を持っているからこその悲劇と言うべきか、飲食関連の店でハルナによってそれまでの調査がお釈迦になってしまうことはミラが行方不明になった後でもザラにあった。

 

『それで、ここにいらっしゃるということは、いずれゲヘナに戻ってくるということですか?』

「この戦いが終わったらそのつもり。時間がある時にヒナにも会っておかないと」

『そうですか。でしたら、私がおすすめのお店をご紹介しましょうか?復帰祝いということで』

「お、本当?楽しみにしてるよ」

『えぇ、期待していてください』

『しれっと後で問題になりそうな約束が交わされてる・・・』

 

ハルナの通信の後ろで、イズミが「嘘でしょ・・・?」とばかりに呆然と呟く。

一応、風紀委員会にとって美食研究会は温泉開発部と並ぶ要警戒対象のはずなのだが、ハルナはそんなことしったことじゃねぇとばかりに楽し気に話しているし、ミラもミラで普通に旧来の友人に対するものと同じようなノリで会話を続けているのが一周回って怖い。

ミラのことはハルナの会話でしか知らないが、あのヒナの幼馴染というだけでも恐怖を感じさせるのに、そんな人物を可愛がろうとするハルナの感性も信じられないし、それを知ってか知らずか指摘する様子をまったく見せないミラの態度も理解できなかった。

それはジュンコも同じだったようで、ハルナの後ろから恐る恐る会話に入り込んだ。

 

『ね、ねぇ。そういうこと言って、後で一網打尽にするとか、そういうのじゃないのよね?』

「いやぁ、私は戦うのに都合がいいから所属してるだけだし・・・私がプライベートでそっちが現行犯じゃなければ、積極的に捕まえたりはしないよ」

『ほ、本当?』

「ホントホント」

『えぇ、ミラさんは公私の区別をつける方ですから』

 

どちらかと言うと自分たちは公私問わず狙われる立場では?と思わなくもなかったが、藪蛇になりそうな気がしたためどうにか口をつぐむ。

それに、それとは別に自分たちにはやるべきことがある。

 

『さて、本当はもう少し話を続けたいのですが、生憎とこちらも立て込んでいますので・・・では、これで』

「またいつかね」

『えぇ、またいつか。さぁ、せっかくの機会です。水槽から根こそぎ・・・』

 

不穏なワードを零しながら通信を終えたことで、ミラは少し微妙な表情になった。

最後、ハルナは『水槽から根こそぎ』と言ったか。

最初はペットショップにでもいるのかと思ったが、根こそぎで持ち出すほど食材に出来るようなものはないだろう。

他に考えられるとすれば、D.U.に存在するキヴォトスでも最大級の水族館だが・・・

 

「・・・まぁ、うん。有事、有事だし・・・いやでも、さすがにアウト、かなぁ。いや、どうだろ・・・」

 

D.U.の避難区域には、たしかゲヘナの給食部が炊き出しのため出張しに来ていたはず。

ハルナの性質から、その部員の中にお気に入りの生徒がいて協力するために訪れた、という可能性はなくもないが、だからと言って根こそぎは被害が大きすぎる。

水族館が好きな人からすれば発狂ものではなかろうか。

ミラ自身はそこまで思い入れはないが、さすがに見逃せる範疇を越えている。

だが、今が非常事態であるのは事実だし、作戦開始の時間が迫っていることからハルナに労力を割くのは悪手だろう。

 

「・・・とりあえず、またの機会に上乗せしておこっか」

 

そのため、風紀委員会に復帰した時に少し重めの制裁を与えることにした。

他人のフリをすれば精神的にダメージを与えられるだろうか。

 

「さて、そろそろ攻略の準備が終わる頃合いかな」

 

それはさておき、“虚妄のサンクトゥム”攻略の準備は着々と進んでいる。

作戦開始の時は、すぐそこまで迫っていた。




ミラvsツルギvsネルはいつか投稿する予定です。
まぁ、具体的な結末は何も決まってないですし、そもそもどう決着をつけてもひと悶着起きそうな気はしますが、その時はその時ということで。

ちなみに、ヒナは内心ミラにもうすぐ会えそうでウズウズしてます。
シロ&クロ組にそれが分かるほど付き合いのある生徒がいないので気が付かれてないですが、アコ辺りには出発時点でバレたりしてます。
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