まさかここに来てショートアニメのネタを引っ張り出すとは思わないじゃないですか。
「ふぅ、これで片付いたかな」
不幸中の幸いと言うべきか、基地にいたのはほとんど残党のような寄せ集めしかおらず、大した被害も出ずに掃討が完了した。
だが、目的は残党狩りではない。
「で、目的の座標は?」
『こちらです!』
アヤネの指示に従い、ミラたちは指示された座標へと向かう。
発掘が目的のためか、目当ての作業通路はすぐに見つかった。
「地下への入り口があるわ!」
「はい、かなり深そうです・・・」
「うへ~、行ってみよっか」
「私が前に行くよ」
まだ何が出てくるか分からないということで、先頭をミラ、最後尾をホシノがそれぞれ襲撃に備え、ノノミとセリカがその間に入る。
そんなミラたちの警戒に反して襲撃どころか生き物の気配すら感じさせない静寂に不気味さを感じ始めた頃、通路の雰囲気がガラッと変わった。
『ここは・・・』
「機械の、廊下・・・?」
「何かの配線かパイプライン・・・にしては、少し違う気もするけど・・・」
「・・・先に進もっか」
“近未来的”と言うには明らかに異質な、金属で出来た通路。
施設の機能はすでに消失しているであろうにも関わらず、ホコリすら見当たらないほど清潔に保たれている。
少なくとも、普通ではない何かがあるということに説得力を持たせるには十分だった。
「こっちに階段があるわよ!」
敵の気配は感じないということで少しバラけながら散策をしていると、セリカがさらに奥へと続く階段を見つけた。
駆け足気味で降りたいった先、そこにあったものを目の当たりにして、ミラたちは思わず言葉を失った。
「なにこれ・・・」
「これは・・・」
「・・・なるほど、ね」
「・・・」
ミラたちの目の前にあったのは、船のような形状をした巨大な構造物。
それこそが、今回の目的であり最終兵器でもある“ウトナピシュティムの本船”だった。
「へぇ~、ここがブリッジかぁ。結構ちゃんとしてるんだね」
「ここは・・・オペレーションルーム・・・?」
「あっ!これ、操縦席だよね?」
目的の本船が見つかったということで、さっそくアビドス校舎で待機していた連邦生徒会とオペレーター組も合流して解析を始めた。
だが、状況は早くも難航していた。
「想定よりも規模が大きいです・・・ざっと見積もっても、10名以上いないと動かせないかと・・・」
「・・・戦艦内部の他にも、地上で管制する人員も考慮しなくてはなりませんね」
「何より、解析のための人手も欲しいよね。機能もそうだけど、本当に動かせるのかすら分からないし」
“宇宙戦艦”と呼ばれるだけあってウトナピシュティムの本船は大きく、自分たちの知識に当てはまるようなものはほとんどない。
だが、足りない人手はシャーレによってすぐに召集できる。
ということで、先生はさっそくウトナシュピテムの本船を解析するためのスペシャリストを呼んだ。
「う!」
「ちゅう~」
「せーん!」
「かん!」
「賑やかになったねぇ」
「何て言うか、ごめん・・・」
先生の召集に応じたのは、ミレニアムの中でもトップクラスの技術力を持っているエンジニア部の面々だった。ついでに、なぜか無関係のはずのゲーム開発部もいるが。
先生曰く、エンジニア部と一緒にはしゃいでいる生徒が持っているレールキャノンはエンジニア部が開発したもので、その接点から同行することになったらしい。
そんや興奮を隠そうとしないエンジニア部+αをケラケラと笑いながら眺めるミラに、ヴェリタスの副部長であるチヒロが頭痛を堪えるように頭を抑えながら謝る。
「噂に聞くミレニアムのエンジニア部なら、そりゃあ興味も尽きないと思うけど」
「それはそうかもしれないけど、あの子たち、本気で宇宙戦艦を作ろうとしてるメンバーだから・・・」
「それ正気?」
ずいぶん先の未来を見ているものだと、ミラは思わず呆れる。
そのために予算を使っているとなると、セミナーはさぞ苦労しているのだろう。
それはそれとして、ミラの興味の対象はすでにエンジニア部ではなく+αの生徒に向けられていた。
(天童アリス・・・)
エンジニア部と共にはしゃいでいる、レールキャノンを背負ったゲーム開発部の部員・天童アリス。
パッと見はどこにでもいそうな普通の生徒だが、ミラは薄々だがその正体を看破していた。
(・・・なるほど、ヘイローを持つ人間そっくりの高性能ロボット。あの子が・・・)
ゲマトリアを追う中で得た“名もなき神々”の情報。
その中に、かの司祭が作り上げた最終兵器“名もなき神々の王女”というものがあった。
詳細は分からなかったが、ロストテクノロジーで作られた機械仕掛けの神というのはどうにか把握していた。
それに対し、アリスの俗世離れした言動とレールキャノンを扱える膂力、そして人にしか見えないはずなのに僅かに聞こえた駆動音。
確証はないが、アリスがそうだと思わせる材料は少なくなかった。
とはいえ、あぁも無邪気な姿を見せつけられると変に警戒する気も失せてくる。
そちらは先生やユウカに任せることにして、各々が別れて分析を始めた中、ミラはブリッジで解析をしているヒマリとサポートをしているハナコに話しかけた。
「どう?制御できそう?」
「それはまだですが、つい先ほどメインシステムの接続は完了しました。このまま中枢を制御できれば、全体の掌握も可能になるでしょう」
「なるほど、さすがです」
「では、教えてくださいな。古代技術によって生み出された、
さすがの手際の良さを称賛するハナコにヒマリは得意げな表情を浮かべながら、コンソールを操作してメインシステムを立ち上げた。
ヒマリが操作する画面に次々と本船に関する情報が表示されていくが、その内容にヒマリは僅かに目を細めながらミラとハナコにも分かりやすく説明するために本船の全体像を表示した。
「・・・こちらが、この戦艦の全体像です」
「ふーん?たしかに船っぽい形をしてるけど・・・」
前に突き抜けた船首と後ろに突きだしている船尾というデザインは、横から見ると包丁のようにも見える。
斬新な見た目はたしかに超技術的なものを感じさせるが、それはそれとしてミラには気になることがあった。
「・・・ねぇ、
「はい、先生はそう仰っていました」
「・・・武装と推進装置、なくない?」
そう。画像で見た限り、本船には砲塔などのような武装やロケットなどのような推進装置がどこにも見当たらなかった。
その疑問は当然ヒマリも同様で、さらにコンソールを操作して情報を洗い出していく。
「・・・全長135m×23m×13m。内部に15のエリアが存在するものの、詳細は不明・・・そして、ミラさんの疑問通り、この戦艦に武器と飛べるものが見当たりません」
(黒服の奴、適当抜かしたとかじゃないだろうね・・・?)
宇宙戦艦どころか船と呼べるかどうかすら怪しくなってきた事実に、ミラは情報源だろう黒服に悪態をついた。
もし先生に適当な情報を寄越したのであれば、ミラは黒服を始末するために再び姿を眩ませなければならなくなる。
「戦うために作られたわけではない、のでしょうか・・・“戦艦”ではない別の何か・・・?」
「・・・判断するのはまだ早いかと。もう少し解析を進めていきましょう」
ハナコの推察を早計として、ヒマリはさらにコンソールを操作する指を加速させて本船を暴いていく。
「ふむ・・・」
「・・・」
「うーん・・・」
それほど時を経たずして、ヒマリは本船の性能の全てを暴き出した。
その結果、ブリッジは3人の何とも言えない空気に包まれていた。
「宇宙戦艦、なんて言ってたけど・・・これ、結局のところ“空飛ぶスパコン”だよね?」
「言い得て妙ですね。武装の類は一切なく、飛行可能高度も10,000mが限度。そして、船体の75%以上を占める論理演算装置。これは、飛行可能な量子コンピュータです」
世界最大規模の演算装置が空を飛ぶ、という字面はそれなり以上のインパクトを持っているだろう。
とはいえ、最初に“宇宙戦艦”と聞いていた身としてガッカリしていないと言えば嘘になる。
だが、ミラたちからすればこれはたしかに“戦艦”足り得る最終兵器でもあった。
「つまり、これがあればあのバリアを突破できるということですね?」
「えぇ。この量子コンピュータを活用すれば、“多次元解釈”が可能になります。それだけではありません。このレベルの演算装置であれば、この世の全てをハッキングすることができるかもしれません・・・うふふっ」
「戦艦と呼ぶには用途がピンポインチすぎるとはいえ、カイザーが暴走紛いのことをしでかすわけだよ」
サンクトゥムタワーは各校に関する情報処理はもちろん、キヴォトスのほぼすべてのインフラにまで干渉することができる。
それらを人質にとられてしまえば、三大学園でも簡単には逆らえない。
ミレニアムであれば可能性は0ではないかもしれないが、それでもかなり分の悪い戦いになっていただろう。
だが、現実はそうならず、さらに本船を操ろうとしてあるのはミレニアムでもトップクラスのハッカーだ。
「さらに、この超天才病弱美少女ハッカーである私が使えば、あの“アトラハシースの箱舟”をも手中に収めることができるやも・・・」
「では、箱舟を墜落させたり、自爆させることも・・・?」
「・・・そうですね。自爆させるのは難しいですが、推進システムをハッキングできれば墜落させることは可能です。そのためには、箱舟のシステム自体に接続する必要がありますが・・・」
「何だかんだ言って、ようやく光明が見えて来たって感じだね」
か細い糸で綱渡りを強いられるような心許なさだが、それでもたしかに攻略の糸口が見えてきたことにミラの口角が吊り上がる。
あとは、無事に渡りきれるように全力を尽くすだけだ。
「それでは、多次元解釈の理論を構築してまいりますので、失礼します」
「こうなると、私のやることがなくなっちゃうな・・・とりあえず、私はアビドスのところに行ってくる」
「では、私も他の方の様子を見てきます。お手伝いが必要なときはいつでも呼んでくださいね」
ひとまず、これ以上自分にできることはないだろうと、ミラはシロコ救出の可能性が見えてきたことを伝えるためにアビドスのところに向かうことにした。
「やっほ」
「あれ。ミラ、そっちはいいの?」
「私の出る幕じゃなくなったからね。理論の構築とか、あまり得意じゃないし」
「ってことは、作戦の目途が立ったってこと?」
「一応ね。少なくとも、可能性は見えてきた」
「そっか~。それじゃあ、準備が出来たらいよいよってことだね~」
ミラからの報告を聞いて、ホシノたちの目に宿っていた光がさらに強くなる。
さらにやる気を漲らせる3人にミラは心配なさそうだと安堵の息を吐き、自身もこの作戦が終わった後のことに意識を向けられた。
「これが終わったら、私もようやくヒナのところに帰れるよ」
「ミラも私たちと行くの?」
「うん。撃たれっぱなしは性に合わないからね」
「うへ~、ミラらしいねぇ~」
闘争心剥き出しのミラが大人しくしているはずがないと思っていたが、案の定同行する気満々だったことにホシノは呆れ気味に笑いをこぼす。
だが、次の瞬間にはホシノが浮かべる笑みは憂いを帯びたものになり、視線もどこか遠くへと向けられた。
「・・・まぁでも、風紀委員長ちゃんとは会える時に会った方がいいと思うよ?いつ、何が起きるかなんて分からないんだからさ」
普段見ないホシノの姿にノノミとセリカは首を傾げるが、ホシノの言葉に心当たりがあるミラは真剣に受け止めた。
「そうだね、考えておく」
ホシノが気にしているのは、まず間違いなくユメのことだ。
具体的に何があったかまではミラも把握していないが、ホシノの言葉から察するに日常の延長線上で起きてしまったことなのだろう。
そんなホシノの経験談からくる忠告なら、無視する訳にはいかない。
とはいえ、今のホシノにそれっぽいことを言われるのも癪なため、ミラは意地の悪い笑みを浮かべてホシノの顔を覗き込んだ。
「それはそれとして、“風紀委員長”は名前じゃないよ?ちゃんと空﨑ヒナって名前があるんだから」
「うへっ!?わ、わかってるよ?わかってるから・・・」
「ホシノ先輩、エデン条約?の時も風紀委員長ちゃんって呼んでたわよね?」
「セリカちゃん!?今その話は・・・」
「へぇ~?ホシノちゃんは、人の名前も覚えられない悪い子になっちゃったのかな~?」
「いひゃいいひゃい」
ホシノの両頬を掴んで横に引っ張りつつ持ち上げるミラに便乗するようにセリカはホシノに反省を促そうとし、ノノミも苦笑を浮かべながら仲裁に入る。
そんな平和な光景は、先生が作戦立案が完了したことを伝えにくるまで続いた。
それからしばらくして、作戦計画書が完成した。
作戦名は『アトラ・ハシ―スの箱舟占領戦』。目標はキヴォトス上空に存在する“アトラ・ハシースの箱舟の破壊”。
概要としては、箱舟の周囲に展開している多次元バリアを本船を用いて突破。そのための計算はヒマリが行う。
バリアを突破した後は物理的に箱舟を突破して内部に侵入し、主要施設のハッキングや破壊工作を行う。
最終的に箱舟の制御権を奪い、箱舟自体を自爆させるか地上に墜落させることで破壊する。
ハッキングは主にヒマリの仕事だが、現在諸事情で失踪していたはずのミレニアムのセミナー会長である調月リオが小型AMASの通信越しに協力することになっている。
以上が作戦の全容であり、キヴォトスの存続を賭けた戦いとしては比較的シンプルだが、余裕があるわけではない。
「アユム、私たちに残された時間は?」
「えっと、サンクトゥムの再出現まで・・・約12時間と予想されています」
「うう~っ・・・それまでに箱舟を占領しなきゃいけないんだよね?言いたかないけど・・・これって本当に実現できる作戦なんだよね?」
無謀としか思えないような作戦時間に、モモカは思わず弱音をこぼした。
まだすべての準備が整ったわけではないため、実際に残された時間はさらに少ないだろう。
たった数時間でキヴォトスを救うと言われても、欠片の実感も湧かなかった。
そんなモモカを励ますために、ヒマリがドヤ顔を浮かべながら先ほどまでの計算結果を告げる。
「はい。何度もシミュレーションした結果・・・成功確率は、なんと3%もあります」
「さん、パーセント・・・?」
「・・・奇跡みたいな確率を味方にするしかありませんね」
だが、普通に絶望的な数値を聞かされてモモカは顔を青くし、ハナコも思わず苦笑いを浮かべる。
微妙な空気になりかけるが、そこはそこで前向きに捉える人物もいる。
「まぁ、キヴォトスの存亡がかかってる戦いだし、0とか小数じゃないだけマシってことで」
「うん。やる価値は十分あると思うよ」
「はい、先生とミラさんのおっしゃる通りです」
元より今回起きていることは全て自分たちの知識の埒外にあるものであり、一目で見て分かるような数値に大して意味はない。
つまり、成功率3%という数字が示しているのは確率の大小ではなく、“成功の可能性が存在している”という事実そのものが重要なのだ。
「成功率が3%だろうと構いません。私たちは、今まで通り作戦を遂行するしかないのです」
「そうだね、みんなで力を合わせて、やってみよう」
先生の言葉に、その場にいる全員が強く頷く。
最終決戦は、すぐそこまで迫っていた。