「んぁ~・・・どうしよ」
アビドスの郊外で、ミラは再び頭を悩ませていた。
結局あの後、考えても仕方ないということで地図を更新しながら砂漠地帯に建てられているカイザーPMCの軍事基地をマークしたのだが、その数はミラの想定を超えていた。
そもそも砂漠地帯が広大なこともあって、とてもではないが一つずつしらみつぶしに探索するだけの労力に見合うものを得られるとは思えない。
「無駄に金を持っているとはいえ、よくもまぁ・・・いや、発掘現場みたいなところもあったし、何か探してるのかな?こんな砂漠のど真ん中に金になるようなものが埋まってるとも思えないけど・・・」
考えても答えは出ない。答えを得ようにも身を隠しながら探るには数が多すぎる。
いっそ基地を壊滅させてから探索する手もなくはないが、ここがアビドスの自治区である以上、それは最終手段にしたい。
手詰まりと言うほどではないが、何をやるにしても必要なものが足りなさすぎる。
「う~ん、アビドスに手伝ってもらう・・・いや、下手してカイザーに喧嘩を売るようなことはさせられない。先生は・・・そもそもアビドスの土地勘がないか・・・ふぁあ、眠くなってきた」
地図の更新作業をしているうちに日はすっかり暮れており、何だったら砂漠の彼方にうっすらと光が差し込もうとしていた。
普段なら3徹程度でもなんら行動に支障はでないが、砂漠の環境と突貫作業が災いしてさしものミラも疲労を感じていた。
「さすがに無理しすぎたかな。やっぱ一日で終わらせようなんて欲張るんじゃなかった。今日一日頭を使いっぱなしだったし、明日はゆっくり・・・」
これからの予定を考えていた矢先、ふと猛々しいエンジン音が響き渡る。
何事かと音がした方向に振り向いたその刹那、ミラの眼前にトラックのヘッドライトが迫っていた。
* * *
「・・・それにしても、思ったよりあっさり成功しましたね」
「油断はするな。ランデブーポイントに着くまで気を抜くな」
すでに砂に埋もれて放棄されたアビドスの郊外を、一台のトラックが走っていた。
乗っているのはカタカタヘルメット団のメンバーで、その目的はアビドスの生徒の一人であるセリカの誘拐だった。
確保はすでに完了しており、現在は引き渡し場所まで運転しているところだったのだが、助手席に座っていたメンバーがあるものを見つけた。
「あれ・・・」
「何か見つけたのか」
「あそこにいるの、例の白い女じゃないですか?」
いくらまだ夜中とはいえ、それでもミラの白い外套や外見は闇の中で目立っていた。
それを見つけた運転しているメンバーも一度停車してその姿を確認する。
「たしか、この前の襲撃を返り討ちにした女だったか?」
「それです。どうします?」
「・・・取引に乱入されても面倒だし、何より手ひどくやられた借りがある。車両で轢いた後に捕縛するぞ」
幸い、ミラはトラックの存在に気付いていないようだった。
そのため、一度ライトを消してからミラがいる方向に曲がり、狙いを定めて一気にアクセルを踏み込んだ。
ここでようやくミラもトラックの存在に気付いたが、目つぶしのためにライトを点けてそのまま轢き飛ばした。
・・・かのように思えた。
「フンッ!」
「「ッ!!??」」
車体がミラに激突したかと思った瞬間、人一人に当たったとは思えない衝撃と共にトラックが停止した。
かなり勢いをつけていた分、その反動も凄まじくシートベルトが体にめり込んでいた。もしシートベルトをしていなければ、それこそ砲弾の如き勢いで車外に放り出されてもおかしくなかった。
だが、事態はそれで終わらなかった。
「せぇ、のッ!!」
トラックの衝突を受け止めたミラは、がっしりとトラックの車体を掴んだ後、まるで背負い投げのようにトラックを投げ飛ばしたのだ。
運転席と助手席に座っている2人は何が起こっているのかわからないまま天地が逆になり、凄まじい衝撃と共に転がっていった。
「アッハハ!眠気覚ましにはちょうどよかったかな!ずいぶん乱暴だったけど、こういうのは嫌いじゃないよ」
対するミラは、まるで気にしていないとばかりに笑い飛ばしながら、扉を破壊して中のカタカタヘルメット団員を引きずり出した。
「それで、いったいどういうつもりだったのかな?てっきり昨日・・・いや、もう一昨日かな?あの件で懲りたものだと思ってたけど」
「ばッ、化け物・・・!?」
「あ~なるほど、懲りてなかったパターンね。私もずいぶんと舐められて・・・いや、知らないならこんなものか。ちなみに、ずいぶんと立派なトラックだけど、中には何があるのかな?それとも、あわよくば私を捕まえようとしたとか?」
「ひっ!?ち、ちがっ・・・!」
暗闇に浮かぶ紅い瞳に、ヘルメット団員は軽く恐慌状態に陥ってしまう。
碌な受け答えもできそうにないと察したミラは、ため息を吐いてから投げ捨てて荷台へと向かう。
「はてさて、中身はなんじゃろな・・・って、あら?」
宝探しの気分で荷台の扉をこじ開ける。
中を見てみると、武装や物資の類以外で目についたのは、物ではなく人だった。
「う、うぅ・・・なんなのよ・・・」
中にいた人物は、ミラが盛大に投げ飛ばしたせいで物資に埋もれながら呻いていた。
所々がボロボロになっているその少女を、ミラは知っていた。
「えっと、セリカちゃん、だっけ?たしか」
中で倒れていたのは、ミラも先日会ったアビドスの1年生、黒見セリカだった。
意識が朦朧としていたセリカだったが、聞き覚えのある声にだんだんと意識が覚醒していった。
「あんた、ミラ、だったわよね?私は・・・カタカタヘルメット団に襲撃されて、それから・・・ッ!そうよ!ここはどこ!?」
「アビドスの郊外。私は偶然出くわしただけ・・・なるほどね。セリカちゃんを人質にして学校を明け渡すよう脅そうとしたわけか。とはいえ、私まで欲張ったのが運の尽きだね」
おおよその経緯を察したミラは、セリカの上の荷物をどけて荷台から下ろした。
『セリカちゃん、発見しました!傍にはミラさんもいます!』
ちょうどそのタイミングで、少し離れた場所からセリカにとって聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「あっ、アヤネちゃん!?」
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」
「!?」
「何ぃ~!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの!?それともまさか、ミラが泣かせたのか!」
「なんでそうなるの?・・・いやまぁ、トラック横転が原因なら言い訳できないけど。怖がらせちゃったならごめんね?」
「泣かないでください!私たちがその涙を拭いてあげますから!」
「うっうるさい!別に泣いてなんてないんだから!」
「セリカが無事でよかったよ」
「って、なんで先生までここにいるのよ!?」
続々とアビドスの対策委員会の面々が集まってくるが、その中には先生の姿もあった。
ミラとしてもアビドスが来るのは想定内だったが、まさか先生までこんな時間に来るとは思っていなかった。
「先生までいたんだ。まさか、アビドスにお泊りでもするつもりだったとか?ていうか、どうやって見つけたの?ずいぶん早かったけど」
「セリカのバイトが終わるのを待っていたんだ。ここを見つけたのは、セントラルネットワークにアクセスしたからだよ。ミラも、セリカを助けてくれてありがとう」
「割とアレな手段なのはツッコまないでおくけど・・・礼には及ばないよ。私も出くわしたのは偶然だし、あんな風にしちゃったからね・・・」
そう言うミラの視線の先には、盛大に横転しているトラックと中身がぐちゃぐちゃになった荷台があった。
そのことに気付いたホシノが、なんとなく察しながらもとりあえず何が起こったのかを尋ねた。
「ちなみに、どういう経緯であんな風になったのかな?」
「セリカちゃんを護送してるときに、偶然見つけた私を欲張って捕縛しようとしたんだろうね。それでトラックごと突っ込んできたんだけど、とりあえず正面から受け止めて投げ飛ばした結果があれ」
「うへ~、相変わらず豪快なんだから・・・」
あれを豪快の一言で片づけるのは無理があるのでは。
そんなことを言いたくなったセリカたちだったが、次のミラの言葉で気を引き締める。
「それよりも、さっさとここから離れよう。ここはもう敵のテリトリーみたいだし、人質を奪い返すどころかここで私たちを殲滅しようと動くだろうね」
『前方にカタカタヘルメット団の兵力を多数確認!巨大な重火器も多数存在しました!徐々に包囲網を構築しています!』
「ほらきた」
「だよねー。それじゃー、せっかくだから包囲網を突破して帰りますかー」
「・・・気を付けて。奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ」
「知ってる、Flak41改良型」
「へぇ~、そんなものまで用意してたんだ」
出会いがしらの交通事故だったが故に知り得なかった情報に、ミラが口角を吊り上げる。
それを見たホシノは、せっかくだからと声をかけることにした。
「それなら、ミラも手伝ってくれるよね?セリカを泣かせたお詫びって感じで」
「だから!泣いてなんて・・・」
「いいよ。私もちょっと悪いことしちゃったと思うし、思ったより楽しめそうだからね」
「ちょっと!私の話を・・・!」
どうしても自分が泣いていたという情報を払拭したいセリカの言葉には耳を貸さず、ミラは先陣を切るべく前に出る。
たったそれだけなのにも関わらず、ホシノ以外はその姿から思わず息を呑むほどの威圧感を振りまいていた。
そんな中、ミラたちの姿を確認したFlak41改良型がミラに照準を向けて発射した。
「それに、せっかくの機会だからね。“白い龍”なんて呼ばれていた私の力、特別に見せてあげる」
対するミラは怯むことなく真っすぐ進み、あろうことか裏拳で砲弾を殴り飛ばした。
すでにその片鱗を見ているとはいえ、改めて非常識としか言いようがないミラの芸当にホシノは口笛を吹くが、それ以外の面々は唖然とする他なかった。
「それじゃ、討ち漏らした分はよろしくね」
それだけ言って、ミラは敵軍のど真ん中に突っ込んでいった。
結果的に、ミラ一人によって全体の三分の二ほどの戦力が蹂躙され、その残りをアビドス勢が刈り取ることでカタカタヘルメット団は壊滅。
あっさりと校舎までたどり着いた後、これからも関わる機会が増えそうということで先生と連絡先を交換してから別れ、その後セーフハウスに戻ったミラは遊び疲れた子供のようにぐっすり眠ることになった。
ツルギとはちょっとベクトルの違う怖さのミラ。
力が強すぎるせいで人間を投げ捨てがちです。