シュポガキ?申し訳ないですけど趣味ではないので・・・。
「ハハッ、さすがにやるね・・・!」
ゲマトリアの時とは違い真っ向からの正面戦闘となった二人だが、現在の戦況は6:4でミラが有利という状況だった。
最初は防衛システムを巧みに利用しているシロコが優位に立ち回っていたが、周囲を削ってからシロコに攻撃させる先生の采配によって徐々に巻き返しつつあった。
「けど、本命はこっち!」
「!」
だが、作戦目標はあくまで多次元エンジンの破壊。
零距離で組み合ってシロコの意識が完全にミラに向けられた隙をついて、シロコの真横からアブソリュートをぶっぱなして防衛システムを破壊し、さらに発射時の衝撃と轟音で怯んだシロコに渾身の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
シロコは辛うじて銃を盾にしたことで直撃は免れたが、完全に防ぐことはできず壁際にまで吹き飛ばされた。
『第1エリアの“次元エンジン”、破壊成功だよ!』
「よし、それじゃあこっちも・・・」
防衛システムが完全にダウンしたのを確認してから、ミラはシロコを拘束するために向かおうとする。
だが、防衛システムを見た一瞬の内にシロコはすでに立ち上がっており、空間転移のゲートをくぐろうとしているところだった。
「しまった!」
「ま、待って!!」
その姿を見たミラは慌てて駆け寄ろうとするが、思い切り蹴り跳ばしたせいで距離が遠く間に合わない。
引き留めようとする先生の叫びも空しく、シロコは虚空へと消えてしまった。
『し、シロコさんは撤退・・・姿を、消しました』
『ミラさんの攻撃が効いていた、ということでしょうか』
「どうだろうね・・・仕留めるつもりでやったけど、大してダメージはなかったかも」
渾身の力を込めて放った後ろ回し蹴りだったが、思い返してみれば手応えは思っていたよりも軽かった。
おそらくは咄嗟に後ろに跳ぶことで衝撃を逃がしたのだろう。
向上している身体能力と合わされば、最低限のダメージで済んでいてもおかしくはない。
かなり長丁場になりそうな可能性に、ミラは思わずため息を吐いた。
『シロコちゃん、また逃げたんですね・・・』
通信では、ノノミがシロコを捕まえられなかったことに落ち込んでいた。
下手を打ったミラを責めるつもりはないが、それとは別にシロコの頑なに話し合いを拒むような姿勢を見てしまい心配や不安を覚えずにはいられなかった。
それはセリカやアヤネも同じで表情が暗くなっていたが、暗い雰囲気を払拭するようにホシノとミラが励ましの言葉をかける。
『まぁ、大丈夫なんじゃないかな。シロコちゃんがあちこちで邪魔してくるっていうなら、私たちは箱舟を壊せばいいだけなんだし』
「最後まで追いつめてからでも、話し合うには遅くないと思うよ。少なくとも、第3エリアまで制圧できれば逃げ場はほとんどない。その方が捕まえやすいんじゃない?」
『そ、それはそうだけど・・・なんか“捕獲”に張り切り過ぎじゃない?』
セリカのツッコミによって、僅かだがアビドス組の間に和やかな空気が流れる。
だが、その余韻に浸る暇もなく、一行は第2エリアを占領するために移動を開始した。
* * *
防衛戦力も何事もなく撃破して第2エリアにたどり着いた先生とミラだったが、そこにはすでにシロコが次元エンジンの前に立ちはだかっていた。
「さっそくお出ましだね」
『待ってたよ~!』
『位置を確認しました!第2エリア“次元エンジン”前です!!』
『すぐそっちへ向かうわよ!私たちが到着するまで、足止めをお願い!!』
『はい!シロコちゃんに会いに行きます!!』
今度こそシロコを捕らえて事情を聞き出そうと、ホシノたちのやる気が溢れ出す。
これなら自分が仕留めることに拘らなくてもいいだろうと、ミラは自身の方針を改める。
シロコの無力化はホシノたちに任せ、自分は適度に時間を稼ぎつつ次元エンジンを破壊すればいい。
「さて、第2回戦といこうか」
2回目の戦闘は、終始ミラが優位に進めていた。
今回は防衛システムの破壊に重点を置き、シロコの相手は軽くいなす程度に留めた。
そのため、シロコはピンピンしているもののミラもほとんど消耗していない。
『第2エリアの“次元エンジン”、破壊しました!』
アユムの報告を、今回はミラは軽く聞き流すにとどめた。
守るべき防衛システムを破壊されたとなれば、シロコにはこれ以上留まる理由はない。
ミラの予想通り、シロコのすぐ近くに空間転移のゲートが現れた。
「同じ手は通用しないよ」
それを見越していたミラは、シロコが何をしても即応できる距離を保って銃口を突きつける。
少しでも逃げようとすれば引き金を引くという意思を感じ取ったシロコは身動きがとれず、硬直状態に陥る。
「待って!!」
「シロコちゃん!!」
そのすぐ後に、通路からホシノたちが現れた。
シロコを発見したことで急いで駆け寄ってくる最中も、ミラは油断なくシロコを捉え続ける。
「っ・・・なら、こうする」
僅かに動揺したシロコだったが、それを抑え込んで離れた場所に転がっていたドローンを動かした。
ドローンの向かう先にいるのは、先生だ。
「ちっ!!」
ドローンは僅かにアブソリュートの射程から外れている。雷球はチャージが足りず先生を巻き込むリスクもある。
やむを得ずミラはその場から飛びずさり、アブソリュートで的確にドローンを撃ち抜いた。
だが、それは決定的な隙となり、シロコは空間転移のゲートを通って姿を消してしまった。
『あぁっ・・・!?ま、また、逃げられました・・・』
後一歩のところで逃がしてしまったことで、アヤネが落胆の声をあげる。
先生も、自分が狙われたことでミラが離れざるを得ない状態を作ってしまったことに負い目を感じてしまう。
「ごめん、私のせいで・・・」
「・・・気にしなくていいよ。私の判断ミスだった」
そう言って、ミラは破壊したドローンを持ち上げてばらし始める。
中を確認すると、カートリッジ部分には一つもミサイルや弾薬が残っていなかった。
つまり、先生に仕向けたドローンはせいぜい体当たりすることしかできなかったのだ。それも、先生でも避けれるようなスピードで。
「元からそのつもりはなかったのか、それとも偶々だったのか。さて、どっちだろうね」
シロコはシャーレに所属している生徒の中でもかなり先生に懐いている方だ。
色彩によって反転したとはいえ簡単に傷つけるような真似をするとは考え難いが、突入前のバリアのことを考えればないとは言い切れなかった。
それは先生も似たようなもので、かつて夢で見たシロコが自分に銃口を向けている光景がフラッシュバックしていた。
そんな先生の内心など知るはずもなく、ノノミとセリカは終わらない追いかけっこに焦りを感じ始めていた。
「ずっと、これを繰り返すのでしょうか・・・」
「アレを引き留めることなんてできるの・・・?」
「いや・・・何か、違う」
「・・・え?」
そんな中、ホシノだけは先ほどの一幕に違和感を覚えた。
去り際に一瞬だけ見せた動揺。あれは・・・
「あの子・・・あのシロコちゃんは、私たちを避けているように見える」
『わ、私たちを・・・ですか?』
「そんな感じがしたの。私たちと向き合うのを、どこか恐れているような・・・」
「な、なんで・・・!?怖がる必要なんてないじゃない!」
反転したとしてもホシノたちと戦うことに躊躇いがあるというのなら、まだ分かる。
だが、それは今までの思い出だとか友情とかの話であって、恐れを持たれるような心当たりはまったくなかった。
だが、ホシノの話を聞いてミラの中に一つの仮説が思い浮かんだ。
自分たちが知っているシロコであれば、ホシノたちを恐れるようなことはない。
なら、自分たちの
とはいえ、これは推測に推測を重ねたものでしかない。
確定した答えを得るためにも、作戦を進めるのが先決だ。
「なんにせよ、これで半分のエリアを占領した。後は第3エリアさえどうにかできれば、逃げ場は一つしかない」
「それじゃあ、これからは私たちも手伝うよ」
「え?防衛は大丈夫なの?」
先ほどまではここに来るだけでも苦労していたほどだ。
敵の抵抗も激しくなる可能性を考えたら攻略に参加する余裕はないのではと思ったが、それはミラの杞憂だった。
「はい!エリアを2つ占領できたので、防衛側も余裕ができたんです」
『船の防衛はゲーム開発部と美食研究会のみなさんにお任せして、私たちはお2人と共に行くことになりました』
「そうよ!シロコ先輩を探して、捕まえてやるんだから!」
「うんうん!捕獲作戦スタートです~♧」
今回の占領作戦の肝は、陣地構築ではなく機能の奪取だ。そのため、占領すればするほど箱舟の機能を利用することで占領した区画の防衛を有利にすることができる。
箱舟の機能のうち50%を掌握した現在であれば、ホシノたちが抜けても戦力としては十分な程度に余裕が生まれていた。
やる気に溢れているセリカとノノミにミラは頼もしい限りだと笑みを浮かべながら、先生と共に第3エリアへと向かっていった。
* * *
『シロコ先輩、来ましたね・・・』
「今度こそ逃がさないよ~」
「覚悟してよね!」
「シロコちゃん!おとなしく捕まってください!」
第3エリアにたどり着くと第2エリアの時と同じく待ち構えていたシロコに、ホシノたちのやる気が溢れる。
対して、シロコの方は先ほど見せた怯えを感じさせず静かに見据えていた。
落ち着いた様子を見せるシロコに、先生は一歩前に出てずっと気になっていたことを尋ねた。
「シロコ、一つだけ教えて欲しい・・・どうして、プレナパテスの命令を聞いてるの?」
先生の知る限り、シロコは自分から望んで滅びをもたらそうとするような生徒ではない。
もし脅されていたり弱みを握られているのであれば、戦わなくてもいい選択をとれるかもしれない。
そんな僅かな可能性に賭けた問いかけは、思わぬ形で裏切られることになった。
「・・・違う、先生。私がプレナパテスの命令を聞いてるんじゃなくて・・・逆」
「逆・・・?」
「・・・“色彩の嚮導者”が、私の命令を聞いてるの」
シロコの言葉に、先生の思考が止まりかける。
黒服の言葉が正しければ、“色彩の嚮導者”が色彩の意思を代弁・実行する者であり、色彩によって変質したシロコは“色彩の嚮導者”から命令されている立場であると考えていた。
だが、シロコからもたらされた返答はその前提を覆すものだ。
「どういうこと・・・?」
『シロコさんの現在位置を特定しました!』
シロコの言葉の意味を考える暇もなく、通信にヒマリが割り込んできた。
だが、こちらはすでにシロコと遭遇している。
そのことをヒマリに伝えようとするが、それよりも先にヒマリが自ら特定したシロコの位置を告げた。
『シロコさんは、箱舟の第4エリア、閉鎖されたセクションにいます。そこから信号をキャッチしました!』
『!?』
「第4エリア、というと・・・」
『えぇ、今みなさんがいる第3エリアの次元エンジンとは距離があります』
ヒマリの報告に、アヤネやノノミは戸惑いを隠せない。
シロコは、確かに現在目の前に存在している。第4エリアの具体的な距離まではわからないが、少なくともマップ上の自分たちの位置は間違っていないはずだ。
「ん・・・?シロコちゃんは目の前にいるけど・・・?」
『・・・そちらにも・・・ですか?』
ホシノの困惑混じりの疑問の声を聞いて、ヒマリは再びシロコの位置を特定し始める。
ただの再確認のつもりだったが、次第に自らの技術に絶対の自信を持っているヒマリの表情が驚愕に染まっていった。
『こ、これは・・・いったい・・・そちらにもシロコさんが存在すると表示されて・・・?』
「・・・やっぱり、か」
ヒマリの動揺を他所に、ミラは小さく納得の言葉を溢す。
ヒマリの報告は、ミラの推測を裏付ける決定的な情報だった。
『ま、さか・・・この天才美少女である私が、ミスを・・・!?』
「いや、ヒマリのミスじゃない。私たちの目の前にいるのも、正真正銘シロコだよ。同一人物かは置いといて」
「・・・なるほど、そういうことかぁ」
ミラの言葉を聞いて、ホシノもようやく事の真相に勘づいた。
「ミラは、いつから気づいてたの?」
「きっかけは第2エリアでホシノちゃんの推測を聞いてから。まぁでも、考えてみればヒントは出撃前からあったね」
「ちょ、ちょっと!いったいどういうこと!?」
勝手に納得し合う二人に周囲はついていけず、セリカが食ってかかる。
確証はなく、時間にも余裕がないため2人は手短に自分たちの推測を口にした。
「今までみんなは、彼女が“色彩”によって変質したシロコだと考えてたけど、それは半分正解で半分間違いだった」
「
「・・・・・・え?」
一瞬、先生はホシノが言ったことの意味を理解できなかった。
何を言ったのかは辛うじて認識できたが、それはあまりにも突拍子が過ぎるものだった。
それは、他のメンバーも同じだった。
「えっ!?」
「な、何言ってるのよホシノ先輩」
『私たちの知っている・・・シロコ先輩じゃ、ない・・・?』
ホシノが言っていることを理解できずに狼狽える先生たちだったが、それに対してシロコは否定も肯定もせず黙ったまま銃を構えた。
『し、シロコ先輩、再び戦闘態勢に突入・・・!』
「ここで答え合わせをしてもいいけど・・・まぁ、それは後にした方が良さそうかな」
「そうだね~。真実が何かは、ちゃんとぶつかってみないとね。今はこの戦闘に集中するよ!」
「・・・わかった!今はとりあえず、進もう!!」
聞きたいことは山ほどあるが、今は目の前の状況に対応すべきだ。
湧き上がる数多の疑問を抑え込み、先生たちは三度目となるシロコとの戦闘を開始した。