最初から分かってはいましたが、いざ書くなり読むなりするとめんどいのなんの・・・。
激震と轟音。
常人では立っていることすら難しい衝撃の連鎖の中で、幾度も白と黒がぶつかり合っていた。
赤い銃と黒い刃が交錯し、時に爆発と間違うような銃声が響き渡る。
この世のものとは思えない攻防の中で、押されているのは暁ミラだった。
(こいつ、強い・・・ッ!!)
手ごたえ以上に自身の劣勢を感じたのはカタコンベとアリウス自治区におけるミカとの戦闘以来だが、あの時よりもはるかに苦戦している。
黄昏ミラはミカの隕石召喚のような特殊能力を使ってはいないが、そんなことが関係ないほど身体能力が馬鹿げていた。
速度と技術は最低でも互角、膂力に至っては自分やミカを明らかに上回っている。
そして、バカげた見た目の武器も想像以上に厄介だった。
ブレードは箱舟の壁を易々と切り裂く破壊力もそうだが、自分の攻撃を防ぐ盾としても機能している。アブソリュートの銃撃すら巧みに角度を付けて受け流されることで浅傷をつけるのがようやくといったところだ。
あり得ないサイズの銃口から放たれる銃撃はもはやちょっとした砲撃と変わらず、掠っただけで体勢を崩され吹き飛ばされてしまう。一発でも直撃すれば戦闘不能になりかねない。
赤雷を十全に使えない暁ミラでは手に余る相手だ。いや、万全の状態で戦ってようやく互角といったところだろう。
(有効な攻撃手段は、ないわけじゃないけど・・・)
閉所でも使える手札の中だと雷球で有効打、天罰か神雷であれば決定打になるだろうが、どれも発動には溜めが必要な上に使用後は少なからず隙を生じてしまう。
さらに、元々自爆覚悟の全方位攻撃である天罰は言わずもがな、収束砲撃の神雷も壁に穴を開けようものなら気圧差で空気を吸い出されてしまう。
能力は満足に使えず、身体能力は相手に分がある。
有り体に言えば、かなりピンチな状態だった。
(ここまで追いつめられるのは、いつ以来か・・・いや、たぶん初めてかもしれないな)
ミカと戦った際は、苦戦こそしたものの先生とアリウススクワッドのおかげで比較的優位に立ち回れた。
シロコ*テラーの方も、最初の不意打ちを除けば先生の指揮込みで互角に戦えている。
かつて“雷帝”と殴り合った時は、今までの一対一の戦いの中で最もボロボロになったが自分が勝った。あの時はあくまで喧嘩の延長線上みたいなノリで、互いに何でもありで戦ったらまた違う結果になるかもしれないが、それでも勝つ自信はある。
もしヒナと戦うことになったら、今の段階なら自分が勝つだろう。この先ヒナがさらに強くなったとしても、その時はその時で楽しみだ。
だが、使える手段を全て用意しても勝てると断言できないような相手は、おそらく今回が初めてだ。
最初から楽しむつもりがない本気の状態で、それでもなお敗北が頭から離れない、そんな相手。
ダラダラ時間をかけるつもりはないと言ったが、一瞬でも気を抜けばむしろ自分の方が時間をかけずにやられてしまいそうである。
(どう攻略する。どう攻め込めばいい・・・?)
距離を縮めれば埒外の膂力によって押され、距離を離しても有効な攻撃手段はほとんどない。
どの距離で戦っても相手に有利を取られてしまう今の状況は非常によろしくない。
となれば、とれる手段は限られてくる。
その中で、今もっとも有効なのは、
「こうするしかない、か」
そう呟いた暁ミラは、一度距離をとるように後ろに跳んでから程々に圧縮した雷球を程々の指向性を持たせて炸裂させた。
黄昏ミラは逃げ足を読んで追撃しようとしていたため、大きめに回避行動を取らざるを得ずミラを取り逃がしてしまう。
ここでミラが選んだ行動は、『少しでも自分が有利になる空間で迎え撃つ』だった。
欲を言えば先生の指揮の下で戦いたいが、この化け物を反転シロコのところに連れていくのは論外だ。ただでさえ厳しい状況が無理ゲーになってしまう。
であれば、せめて短距離でも落雷が使えるところまで誘導したい。
次元エンジンがあったような空間なら、ギリギリ実用圏内で使えるだろう。
(どこに行くべきか・・・今までの次元エンジンの場所、は階層ぶち抜いて落ちたせいで場所が分からない。“ナラム・シンの玉座”は先生たちがいるから論外。他は・・・)
どこに行けばいいか思考を巡らせる中で、暁ミラは箱舟の構造を思い出した。
箱舟の主な構造は主に回廊のような外周エリアと塔のような中央エリアの二つに分けられる。
現在暁ミラがいるのは中央エリア。現在位置や具体的な構造まではわからないが、次元エンジンのようなスペースがあと一つか二つあってもおかしくはない。
問題があるとすれば、ブリッジや先生の支援を受けられない今のミラは箱舟の構造がわからないということか。
出来るだけ袋小路に追い込まれないように走ってはいるが、目的の空間にたどり着けるかはほとんど運だ。
それまでに捕まったら、ただでさえ苦しい状況がより苦しくなる。
さらに言えば、ミラはどちらかと言えば運が悪い。
アビドスでわざと捕まった時もそうだが、博打任せの作戦はだいたい失敗してしまう。
日常で言えば、明確に不幸に見舞われることはないが、幸運のチャンスはだいたい逃がす。ふらっと立ち寄った店の限定品が売り切れてたり、なんとなく買い出しに行ってみたらタイムセールの時間が過ぎてたり、といった具合に。
そんなミラだから、運任せの作戦はまずやらない。それはアビドスの件でより心に刻み込んだ。
だが、今回ばかりはその運任せの作戦に頼らざるを得なさそうだ。
(ひとまず、ぐるっと回りつつ階段と広い空間を探しながら臨機応変に・・・!?)
この後の計画を考えている最中、不意に背筋に悪寒が走る。
着地のことなど考えず無理やり体を捻った次の瞬間、背後から翼を掠めるように銃弾が飛んできた。
なんとか直撃は避けたものの、強引に回避行動をとったせいで体勢を崩してしまう。
(まずい!いやでも、この威力なら向こうも反動ですぐには動けないはず・・・ッ!?)
一縷の望みをかけて後ろを振り返ってみれば、そこでは黄昏ミラが反動に身を任せて銃口を後ろに向け、振りかぶった体勢のまま引き金に指をかけていた。
暁ミラがまさかと思う暇もなく、黄昏ミラは引き金を引いて反動と背後の爆発の勢いを利用して跳躍した。
「めちゃくちゃなことをするなぁ!!」
ブーメランになっている発言はともかく、今の崩れた体勢では回避は不可能。
咄嗟に両手のアブソリュートを交差させて衝撃に備える。
「ーーーーーッ!!」
何とか防御することは出来たものの、受け止めることはできず再び床に叩きつけられる。
あまりの膂力に床が凹み、あっという間に陥没して階層をぶち抜いた。
空中に放り出された刹那、暁ミラは空中で体を捻って抜け出し、ブレードを蹴って距離を取った。
(直撃は防いだはずなのに、二発くらっただけで動きが鈍り始めてる。“雷帝”やミカだってここまでじゃなかったのに・・・)
アブソリュートはまだ撃てるが、万全の時と比べて照準がややブレ始めている。
すでに射程が意味を為しているような状況ではないとはいえ、たった二回の攻撃でそこまで追い込まれるほどのダメージを負った経験は、当然ながらミラにはない。
「・・・ずいぶんと派手に暴れてるけど、いいの?あんまり箱舟を壊し過ぎたらプレナパテスに怒られるんじゃない?」
少しでも息を整えるために、ミラは軽口を叩くように問いかける。
箱舟のどの部分が演算装置になっているのかはわからないが、それでも床下配線くらいはあるだろう。
あちこちを破壊して箱舟の機能に支障が出たら困るのはプレナパテスとシロコ*テラーのはずだ。
「・・・私には、関係ない」
だが、黄昏ミラから出てきたのは関与を否定する言葉だった。
プレナパテスとシロコ*テラーの目的など知ったことではない、と。
先生たちに被害が及ぶ可能性が減るならそれに越したことはないが、それはそれとして自分の勝利条件が減ってしまうのは非常によろしくない。
もし黄昏ミラがプレナパテスと繋がっているなら先生が決着をつけるまで耐久する手もあったが、それも無くなった。
「へぇ。じゃあ、なんで私を狙うのかな?」
「・・・」
「だんまり、か」
試しに目的を尋ねてみるが、それについては沈黙を返すのみの黄昏ミラに暁ミラは軽く嘆息する。
別に打ち解けるとは欠片も思っていないしそのつもりも全くないが、こうも無愛想だと文句の一つや二つは言いたくなる。
考えてみれば、プレナパテスと通じているならゲマトリアを襲撃した時点で現れてもおかしくはないが、なら何故このタイミングでミラを狙って襲撃してきたのか。
せめて背後関係の情報くらいは把握しておきたいところだが、この様子ではそれすら難しいだろう。
もはや本当に目的や理由があるのかすら疑わしくなってきた。
「まぁいいや。お前が“敵”としての舞台装置の役割に徹するなら、私は容赦なく壊す」
そう言って、ミラは全身にありったけの赤雷を纏わせる。
・・・今の言葉は、ほとんど強がりのようなものだ。
初めて『負けるかもしれない』と思わせる相手と戦う自分を奮わせるための鼓舞、自己暗示の類。
(本当に、使えるものは何でも使わないと負けかねないな)
頭の中で、必死に勝つための手段と道筋を模索する。
だが、黄昏ミラがその暇を許すはずもなく、一歩前へと踏み出し・・・それが再開の合図となった。
今度は、激震と轟音に加えて暁ミラが全身に纏った赤雷の余波が稲妻となって周囲を焼く。
未知の金属で作られた箱舟の内装を焦がすほどの雷を受けてなお、黄昏ミラは一歩も引かずに暁ミラと視線が交錯する。
単純な火力で倒すのは困難と判断した暁ミラは、覚悟を決めることにした。
(こうなったら、やるしかない)
幸い、不確定要素は残っているものの他の条件は満たしている。
不安はあるが、何もやらずに負けるよりは何倍もいい。
(チャンスは一度きり。失敗したら二回目はない)
後戻り出来ない賭けに身を投じるため、ミラはさらに前へと踏み込んだ。