キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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今回は前話の後ろの方に入れる予定だったものなので、少し短めです。


最終編・18

暁ミラのその行動(急接近)は、黄昏ミラにとって想定外のものだった。

自分より優れた身体能力の持ち主に自ら近づくことはないだろう、と。

だが、実際は一つだけメリットがあった。

それは、武器の違い。

暁ミラの武器は埒外な大きさとはいえ二丁の拳銃であるのに対し、黄昏ミラの武器は常識はずれなサイズのブレードを取り付けた馬鹿げた大きさの対物ライフルだ。

いくら身体能力に優れていようと、密着した状態の取り回しは最悪に近い。

零距離まで近づいてしまえば、銃とブレード両方の間合いから外れてしまい塞がった両手で何も出来ない。

慌てて片手を離そうとするが、時すでに遅く暁ミラの肘打ちが黄昏ミラの顎を捉えた。

 

「ァがっ・・・!」

 

黄昏ミラの意識が揺さぶられるが、ブレードを床に突き立ててどうにかバランスをとる。

暁ミラはその隙を見逃さず、アブソリュートの銃口を下顎に突きつけて引き金を引いた。

零距離のアブソリュート直撃によって、黄昏ミラの体が大きく仰け反る。

さらに暁ミラがその隙をついて脇腹を蹴り飛ばそうとするが、黄昏ミラの両手から対物ライフルが握られたままであることに気が付き咄嗟に身を翻させる。

次の瞬間、暁ミラの顔を掠めるように黒いブレードが振り上げられた。

黄昏ミラの目は暁ミラを捉えていないため、ほぼ勘によるものだろう。

吹き飛ばされながらの攻撃であるにも関わらず、逆に暁ミラの方が吹き飛ばされてしまいそうな威力の一撃を放ったことに思わず冷や汗を流す。

 

(普通なら意識が吹っ飛ぶはずなんだけどなぁ。せめて武器から手を離すくらいはしてほしかったんだけど)

 

とはいえ、自分も同じようなことが出来るかと問われたら『たぶんできる』と答えるようなものを、自分より身体能力が優れている相手が出来ないと考えるのは甘いだろう。

実際、暁ミラにとってもこの反応は想定内だった。

少しは楽になってほしかったという当てが外れた程度のこと。

対する黄昏ミラは、振り上げたブレードの勢いに身を任せて後方に跳躍し、着地してすぐさま暁ミラに斬りかかる。

黄昏ミラの連撃を暁ミラは最低限のスキップで躱し、時にはアブソリュートで反撃する。

どうにか黄昏ミラの戦闘スタイルに慣れてきたところだが、それでも根本的な身体能力の差は埋めがたいほどに離れている。

出来る限り密着状態を作り出すために紙一重の回避を続けているが、一撃でも食らえば形勢逆転されかねない状況は長くは続かない。

 

「終わり」

「くっ・・・!」

 

力任せの横薙ぎをバックステップで躱したものの、大きめの回避で僅かにたたらを踏んだ暁ミラの隙を見逃さず、黄昏ミラは無理やり銃口を暁ミラへと向けて発砲した。

不可避の一撃だったようにも見えたが、黄昏ミラも無理な姿勢で発砲したためギリギリのところで仰け反るように回避することができた。

そんな暁ミラが避けた先では、黄昏ミラの射撃によって箱舟の壁に穴が開いていた。

その壁はちょうど外壁だったらしく、プシューという音と共に空気が抜けていく。

 

(よし!後はあいつをどうにか・・・)

 

僅かに体が吸い寄せられそうになる感覚を覚えながら、暁ミラは穴と黄昏ミラを交互に観察する。

馬鹿げたサイズの銃口とはいえ、対物ライフルということもあってか穴はそこまで大きくない。とはいえ、ミシミシといやな音が響いているため穴を広げるのは容易そうだ。

黄昏ミラの方は、武器の重量もあってか踏ん張りも効いてそこまで気にしている様子はない。

だが、あと一撃でも攻撃を加えれば黄昏ミラも暁ミラの狙いに気が付くだろう。

可能ならあと一撃で破壊したいところだが、アブソリュートでは威力が足りず、“雷球”や“神雷”では追撃に繋げられない。

 

(・・・いや、そうじゃないな)

 

今この状況、自分は先生たちの危機に関わっていない。

具体的に何が起こっているかまでは把握できないが、もし自分が戦っている最中に解決しようものなら、この場において自分という存在は極論必要ないということになる。

ならばいっそ、戦いの勝敗ではなく勝った後の生存を賭けた方がまだ建設的だ。

最良は外壁破壊から生存、最悪は上空75,000mからの落下。

箱舟への突撃の最中は自分でも生命維持すら出来ないと考えていたが、全力で生き残ることに集中すればどうにかなる・・・かもしれない。

試してみるだけならタダ、と言うにはリスクが高いが、どうせ開始前に算出された成功確率が3%なのだ。

自分の命を賭けた博打の一つや二つは今さらだろう。

あとは、黄昏ミラが動いたら仕掛けるだけ・・・

 

「ミラさん!」

 

暁ミラがいよいよ覚悟を決めた、その時。

通路にミラの名前を呼ぶ声が響き渡る。

暁ミラが視線を上げ、黄昏ミラが後ろを振り向いた先には、黄昏ミラの後ろからゲヘナの給食部が使っているトラックの荷台から身をのり出しているハルナの姿があった。

千載一遇の好機に唇の端が吊り上げるよりも早く、暁ミラは短く叫んだ。

 

「穴にグレネード!!」

 

暁ミラの声に反応したアカリが、二人とすれ違いざまに穴に向かって榴弾を発射した。

放たれた榴弾は吸い込まれるように直撃し、穴を二回りほど大きくした。

それが決定的な一撃となり、急速に穴が大きくなっていくのと同時に外に吸い出される空気の量も加速度的に増えていく。

穴に比較的近かった黄昏ミラは、ブレードを床に突き立ててどうにか堪える。

今は外に投げ出されないようにするのに精一杯だが、それは暁ミラも同じこと。むしろ自分と違って自身の体を支えられるようなものはない。

このまま耐えれば勝手に外に放り出されるだろうと、銃に掴まることに専念する。

だが、視界の端に赤い光が映ったことで、反射的に視線を目の前に向けた。

黄昏ミラの視線の先では、暁ミラが前に伸ばしている指鉄砲の先に極限まで圧縮された雷球が生成されていた。

 

「これで、終わり」

 

暁ミラがそう言いながら軽く跳び上がった次の瞬間、暁ミラの指先から赤い閃光が放たれた。

その場に踏ん張ることが精いっぱいの黄昏ミラに通路を埋め尽くす“神雷”を避けることなど出来るはずもなく、成すすべなく赤い閃光に飲み込まれる。

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

それでもどうにかその場に留まろうとしたものの、ブレードが床から抜けてしまったことでそれも叶わず、あっという間に船外へと放り出されてしまった。

 

「暁、ミラ・・・・・ッ!!!」

 

極低温の空気と極端に低い酸素濃度に晒されながら、表情が憎悪と憤怒に歪み、箱舟へと手を伸ばす。

だが、その手が何かを掴むことはなく、

 

「アアアァァァァァaaaaaaaa!!!」

 

絶叫をあげながら、黄昏ミラは地上へと落ちていった。

一方で、暁ミラは“神雷”の反動で後方へと吹っ飛び、トラックと距離を詰める。

さらに、“神雷”が途切れたタイミングでハルナが緊急ロックを撃ち抜いて隔壁を落とし、吸い出される空気の影響を受けなくなったところで暁ミラは着地しながら再び跳躍、ハルナが伸ばした手を掴んでトラックへと乗り込んだ。

 

「はぁ~、助かったよ」

「ミラさんのお力になれて何よりです。とはいえ、このルートを通ったのは偶然ですが」

 

本船が受けているハッキングを解除するため、その発信源である端末に敵を引き連れながら最短距離で向かっていたハルナたちだったが、その進路上にミラたちがいたのはまったくの偶然だった。

とはいえ、持ち前(?)の感覚で暁ミラの戦闘の気配、それも苦戦している様子を感じ取ったハルナがいち早く支援の準備を促したからこそ援護が間に合ったのだが、そのことまで言うつもりはなかった。

姉の苦労は妹に知られずとも良いものである。

実際は隠しきれないドヤ顔から何となく察してはいるのだが、わざわざ指摘しない程度にはミラも人の心を学んでいた。

それはともかくとして、ミラは端的に現状について尋ねた。

 

「で、状況は?」

「本船はハッキングによって自爆装置が起動、私たちは元凶の端末を破壊しに最下層へ向かっているところです」

「残り時間は?」

「あと1分と少々です」

「分かった」

 

どうやら思っていた以上にまずい状況に陥っているらしい。

残り1分となると、タイミングはギリギリになるだろう。

そんな自分たちの命運を握っているのがフウカの運転技術というわけだ。

 

(まさか、こんな形でありがたみを感じるなんてね)

 

ハルナによって一方的に拉致られただけのはずのフウカがこのような形で活躍するとは、選択がどのように役立つか分からないものである。フウカ本人からすればいい迷惑だろうが。

とはいえ、残されている時間は少ない。

ひとまず余計な思考は頭の隅に放り投げ、ミラは再び戦いへと意識を戻した。




なんで幼馴染みじゃなくてテロリストがヒロイン面してるんでしょうね。

黒ミラがどうなったか?
それは、ほら・・・ねぇ?
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