フウカが運転するトラックに乗り込んでからすぐ後、ミラはあることに気が付いた。
「あ、そうだ。通信機貸して。私の壊れちゃったから」
「えぇ、どうぞ」
ミラの通信機は先ほどの襲撃で破壊されてしまった。
せめて無事の一報くらいはしておこうかと、ミラはハルナから通信機を受け取った。
通信機からは、美食研究会を援護するために通信を繋げていたアコが何度も呼び掛けているところだった。
『聞こえますか!?先ほど通信が切れましたが、いったい何が・・・』
「アコ?聞こえてる~?」
『って、ミラさん!?ご無事だったんですか!?』
「まぁね。でも、その話は後で」
『ッ~、分かってます!』
いろいろと言いたいことはあるが、今その暇はないと諸々を飲み込む。
そして、フウカが急ブレーキをかけて停止したのは、ほぼ同時だった。
「到着したわよ!今、セキュリティシステムの前!」
『ミラさん、美食研究会・・・お願いします!』
「了解」
「さぁ皆さん、セキュリティシステムの解除装置を破壊してくださいな!」
セキュリティシステムを破壊するには東西に存在する解除装置を破壊しなければならないのだが、東側にはアビドスが、西側にはゲーム開発部が陣取っており、今か今かと破壊のタイミングを伺っていた。
ハルナが制御装置の破壊を要請すると同時に、アカリがグレネードランチャーを、ミラがアブソリュートを構え、タイミングを待つ。
ハルナの要請から少しして、セキュリティシステムを守っている扉が開いた。
「セキュリティシステムの開錠を確認。一撃で終わらせるよ。タイミングは任せた」
「はい☆装填完了、照準を合わせます・・・!」
扉が開いている時間は5秒。
決して焦らず、されど確実に破壊するために2人は照準に意識を集中する。
「スペシャルな一発、いきます!」
「これで、終わり!」
アカリがグレネードランチャーを発射した後、ミラは敢えてタイミングを遅らせてアブソリュートの引き金を引いた。
ミラの狙いはグレネードの着弾予測地点。
少しだけミラの赤雷が込められた特大の銃弾は、着弾と同時に炸裂した赤雷によって穴を開けながらセキュリティシステムの奥深くへと突き刺さる。
そこへさらに追撃をかけるように、アカリのグレネードが穴を大きく抉るように爆破した。
この連携攻撃に耐えられるはずもなく、セキュリティシステムは内部から大きく爆発した。
「きた!端末破壊!」
「熱いうちに召し上がれ~」
セキュリティシステムの破壊を確認したミラたちは、爆発から逃れるためにフウカの運転によって即座にその場を離脱し、ある程度落ち着いたところで通信に話しかけた。
「どうなった?」
『・・・連結解除、完了しました。自爆のカウントダウンは停止し、ハッキングもしばらくは大丈夫でしょう』
「そっか。よかった~・・・」
「・・・で、フウカは何してるの?」
ミラの視線の先には、ぐったりしてシートに深く沈み込んでいながらも左手の親指を立てるフウカの姿があった。
さっきまで割と余裕のなさそうな悲鳴を上げながら運転していたはずだったのだが、実は思ったより余裕があったのか。
そんなミラの疑問に答えたのはハルナだった。
「私の要望です。様式美というのは必要でしょう?」
「あぁ、そう・・・」
どこの様式なのかは知らないが、考えるだけ無駄だろう。ハルナとはそう言う人物である。
『そうですか・・・ひとまず、ミラさんがご無事でなによりです』
ようやく状況が落ち着いたところで、ミラは自分が音信不通になった経緯をざっくり説明した。
ミラに不利な条件が揃っていたとはいえそれでも押されていたというのはにわかに信じがたいが、この状況で嘘を吐く理由はないとアコは無理やり納得することにした。
だが、そんなアコの複雑な心境をミラは違う風に捉えていた。
「なに、心配してくれたの?」
『そ、そういうわけでは!私はただ、ミラさんが無事に戻ってこなかったら風紀委員長に合わせる顔がないと・・・!』
「あーはいはい、わかったわかった」
『本当ですか!?』
実際はミラも分かってはいるが、それはそれとして良い反応をするアコが面白いため訂正はしない。
とはいえ、状況が状況のためミラもすぐに意識を切り替える。
「それじゃあ、ひとまず山場を一つ越えたところで・・・今度は先生のところに行かないと」
「あ!そうだった!」
「なんでそれを忘れてたの・・・?」
素っ頓狂な声をあげたイズミだけでなく、アカリとジュンコもまた忘れかけていたのかハッとした表情を浮かべていたことに、ミラは呆れを隠さない。
一応、全員の生存がかかっていた山場を乗り越えて意識から外れていたというのも分からなくはないが、それでも先生ごと忘れるのは如何なものだろうか。
「さっさと向かいたいところだけど・・・さすがにまたフウカに運転させるのは酷か」
「あっ、でしたら私が運転します☆」
完全に緊張の糸が切れて気を失っているフウカに代わり、アカリが運転席に乗って慣れたようにトラックの運転席に座る。
「さて、最後の一品まで平らげてこそ、コース料理というもの。ミラさんが仰った通り、まだ戦いは終わっていません。仕上げと参りましょうか」
ハルナの掛け声を合図にトラックが走り出す。
決着の時は、もうすぐそこまで迫っていた。
「制御室前に到着した!」
制御室前に停車したトラックから飛び降りたミラだが、着地した直後に連鎖的に大きな爆発音と衝撃が響き渡った。
「っとと、自爆が始まったか。これは悠長にしてられないね」
具体的なタイムリミットは知らされていないが、思っていたよりも猶予は短いだろう。
急いで制御室の奥へと駆け出そうとすると、ちょうど通路の反対側からゲーム開発部が合流した。
「あっ、美食研究会と、すっごい強い人だ!」
「ちょっと!ミラさんだよ、暁ミラさん!」
「一気に賑やかになったねぇ」
良くも悪くも賑やか、といったところだが、状況を楽観視しているわけでもなく変に緊張しているよりかはマシだろう。
聞けばアビドス組はすでに突入しているとのことなので、残りはミラたちだけだ。
急いで奥へと向かえば、そこでは先生たちがプレナパテスと対面していた。
そこで、ブリッジにいるアヤネから通信がつながった。
『私の声が聞こえていますでしょうか?こちらはみなさん脱出しました!箱舟は、まもなく完全に崩壊します!脱出シーケンスの準備はできていますので、急いで脱出をお願いします!こちらも続きますので!』
「・・・それではまず、フウカさんから行きましょうか」
フウカは現在、ハルカの背中の上で気を失っている。
本船の自爆阻止の立役者でもあるフウカをこのまま戦闘に参加させるのは酷だろう。
そんなわけで、フウカを真っ先に地上へと転送させる。
そこで、ミラはプレナパテスの方を見て異変を感じ取った。
「・・・なんか、プレナパテスの様子がヤバそうなんだけど」
プレナパテスの頭上には、計測機器やミラのような特殊な目が無くとも分かるような膨大なエネルギーが渦巻いている。
何のためのエネルギーかまでは分からないが、どうせ自分達にとってろくでもないことに違いはない。
「・・・わかった。みんな、最後の戦いだよ!」
ブリッジからの通信を聞いて頷いた先生の号令を合図に、生徒たちが一斉にプレナパテスへと攻撃を加える。
別世界のシロコは完全に膝をついており、戦闘の続行は難しそうだった。
だからこそ、あからさまな脅威であるプレナパテスに攻撃を集中させているのだが・・・
「なんか、いくら撃ち込んでも倒れる気配がしないんだけど・・・!」
どれだけの銃弾を受けようとも、プレナパテスはびくともしない。
アサルトライフルやショットガンはもちろん、スナイパーライフルやミニガンはおろか、ミラのアブソリュートですら僅かによろめかせるのが精一杯だった。
これもまた、色彩の変異による影響なのだろう。
だが、ここでミラたちが倒す必要はない。
「・・・来た!みんな、伏せて!」
先生の指示に従い、一斉に身を伏せた次の瞬間、ミラの“神雷”に勝るとも劣らない閃光がプレナパテスに直撃した。
それは、いざというときのために残していた『光の剣:アトラ・ハシースのスーパーノヴァ』による砲撃だった。
緊急チャージで貯めたエネルギーのため突入時の最大出力ほどではなかったものの、それでもプレナパテスが膝をつきエネルギーを霧散させるには十分だった。
「さすがに、あれを食らえば・・・っとと、いよいよヤバそうかな!」
いよいよ足場が崩れかねないほどに崩落が始まりながらも、置き土産とばかりにプレナパテスへの攻撃の手は緩めない。
あわよくば後ろに倒れこんでいる別世界のシロコごと、と思っていながら銃撃を続けるが、プレナパテスは別世界のシロコを庇うように仁王立ちしてすべての攻撃を受け止める。
その姿は、ミラにも思うところがあった。
(お願いだから、バカな真似はしないでよ、先生)
心の端で何か嫌な予感を感じつつも、ミラは脱出シーケンスによって地上へと転移された。
即興で組み上げたシステムだからか転移場所にいくらか差はありつつも、続々と地上へと脱出していく。
だが、いつまで経っても先生が脱出したという報告は挙がってこず・・・とうとう遥か上空で箱舟が完全に爆発した。
それでも先生の姿はどこにも見えず、代わりに箱舟が存在したと思わしき場所から彗星のような青い流れ星のような光が地上へと落ちていくのが見えた。
「まったく、こっちの気も知らずに・・・」
結局こうなってしまったか、とミラは軽くため息を吐いた。
おそらくは、自分用に残っていた脱出シーケンスを別世界のシロコに使用したのだろう。
何よりも生徒を優先する先生のことだ。あの別世界のシロコも生徒であるならば、やってもおかしくはない。
だが、それでも出来ることなら自分の命を軽々しく投げ出すような真似はしてほしくなかった。
「・・・ちゃんと帰って来てよ、先生」
こうなった以上、あとは先生が戻ってくるのを祈るしかない。
普通であれば放り投げだされた時点で1秒ももたずに死ぬだろうし、最初を生き延びてもその後は75,000mの自由落下が待ち受けている。
そこから生還するなんて、それこそ奇跡でも起きなければ叶わない。
そんな僅かな可能性に賭けながら、ミラは青い流星が落ちるだろう場所へと向かい・・・
よ、ようやくここまで来ました・・・。
次回で最終編は最終回になります。