キヴォトスの白い龍   作:リョウ77

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今回で最終編は最終回になります。


最終編・20

“色彩”の襲撃による事件も解決し、キヴォトスにはいつもの日常が戻りつつあった。

とはいえ、人的被害はともかく建物の損害はひどく、特にサンクトゥムタワーは全壊してしまったため、それら全ての復興には時間を要するだろう。

また、虚妄のサンクトゥム攻略戦やアトラ・ハシースの箱舟占領戦の詳細は公表されていないため、あちこちで様々な噂や憶測が飛び交っており連邦生徒会もそれらの対応に追われている。

そんな誰もがいつもの日常に戻ろうと奔走している中で、小さな変化が起きているところもあった。

 

 

 

「暁ミラ、本日より風紀委員会に復帰します」

 

ゲヘナ学園の風紀委員会本部、その執務室でミラがヒナの前で敬礼をした。

衣装はいつもの白いワンピースではなく、風紀委員会の制服を着用していた。

そう、想定と少し違う形とはいえ、ゲマトリアが壊滅したことでミラが風紀委員会に復帰することになったのだ。

 

「・・・なんと言うか、違和感がすごいですね」

「否定はしないけど、やっぱり形式ってのは必要じゃない?」

 

アコの指摘にミラは苦笑を浮かべるが、指摘自体は否定しなかった。

今までわりと好き勝手やってきたことを考えれば、型に嵌まっているミラを見て違和感を覚えるのは当然と言える。

ちなみに、ミラの役職は副委員長になった。

最初はヒナが「私よりミラの方がふさわしいから」と風紀委員長の座を譲ろうとしたが、それをミラがアコ以上に固辞したのだ。

 

「ヒナが風紀委員長になったのは、ヒナの今までの努力の証。それを私が横からもらうだけってことはできないよ」

 

そう言われてはヒナもあまり強く出ることはできず、風紀委員長はそのままヒナが務めることになった。

なのだが、それはそれとしてミラが下っ端として所属することには問題がある。

なにせ、ミラの戦闘力はヒナと同等以上であり、それこそ人によってはミラ一人でヒナを含めた風紀委員会の他戦力に匹敵するとさえ思われている。

そんな生徒が下部構成員として活動しているというのは、対外的にも外聞がよろしくない。

そういうわけで、ミラはヒナが風紀委員長になってから空席となっていた副委員長に就任することになった。

これによってアコが名実共に風紀委員会NO.2の座をミラに奪われてしまって血涙を流したりしているのだが、それはまた別の話である。

その時の複雑な心境を押し殺すように、アコは他に気になっていたことを尋ねた。

 

「そう言えば、万魔殿からは何も言われなかったのですか?特に議長はいろいろと言いそうなものですが・・・」

 

日々妨害の対処をしているアコからすれば、ヒナのことを目の敵にしている万魔殿の議長の羽沼マコトが素直にミラの復帰を受け入れるとは思えなかった。

まず間違いなく、どこかで難癖をつけてくる。

だが、それはミラも想定していたことだった。

 

「あぁ、うん。それに関しては大丈夫。何か言ってくる前に私の方から挨拶しておいたから」

「そうなんですか?それなら、少しは安心できますか」

 

ヒナ相手に妨害工作をし続けているだけでも大概だが、さすがにミラにまでちょっかいをかけようとはしないだろう。

マコトがミラのことを知らない可能性もなくはないが、一応留年込みの3年生であるならその可能性も低い。

少しは仕事が楽になりそうだと安堵の息を吐くアコだったが、反対にミラは微妙な笑みを浮かべていた。

 

「あー、うん、そうかな・・・?」

「何か気になるとこでもあるの?」

「いやぁ、実はね・・・」

 

歯切れの悪い言い方に疑問を持ったヒナの質問に答えるように、ミラは当時のことを説明した。

 

 

 

『議長!暁ミラという生徒が議長に会わせろと押しかけてきました!』

 

ミラが正式に風紀委員会に復帰することが決まる前日、万魔殿はミラの来襲によって慌ただしくなった。

万魔殿内でミラのことを知っているのは一部の3年生くらいで、ミラの対応をしている生徒や報告に来た生徒は知らない側の生徒だった。

だが、マコトは数少ないミラのことを知っている側の生徒であり、さらに言えば少なからず因縁もあった。

 

『なにっ!?いや・・・キキキッ、構わん!通せ!』

『は?は、はっ!分かりました!』

『チアキ、外に出てイブキの写真を撮ってこい!』

『? はいです!』

 

最初は困惑の表情を見せたマコトだったが、すぐに不敵な笑みを浮かべミラをつれてくるように命じた。

ついでに、チアキに頼んでイブキを外に連れ出させる。

ミラは純真無垢なイブキに悪影響を与えかねないし、何よりイブキを怖がらせてはいけない。

イブキを退避させてからしばらくして、執務室にミラが現れた。

 

『久しぶりだね、マコト』

『キキキッ、このマコト様と話をしに来たということは、万魔殿に入るつもりになったということだな?』

『んなわけないでしょ。風紀委員会に復帰するから、挨拶も兼ねて来ただけ』

『ほう?殊勝なことだな』

 

いつもと変わらない様子で話しているマコトの後ろでは、イロハがヒヤヒヤしながらその様子を見守っていた。

イロハはマコトと違い、ミラのことをよく知らない二年生だ。

だが、かつてのエデン条約調印式での暴れっぷりは話に聞いている。

そして、かつてアビドスでミラの怒りを買った風紀委員会の大隊が全滅した、ということも。

ただでさえマコトは以前ハスミの地雷をタップダンスの勢いで踏み抜いた前科があるため、またいつ地雷を踏み抜くか気が気でない。

それに何より、

 

(たしか、幼馴染みなんですよね。風紀委員長の)

 

そう、ミラはヒナの幼馴染みらしいのだ。

マコトがいつも妨害工作という名の嫌がらせをしまくっている、()()ヒナの。

もしそのことを知られたら、まず間違いなく終わる。

一応、長いことゲヘナを離れていたことから把握していない可能性もあるが、本人から告げられてはどうしようもない。

余裕の表情でティーカップを持ち上げるマコトの気が知れないが、まさかミラにバレていないと考えている根拠が・・・

 

『聞きたいこともあるしね・・・ヒナにいろいろと嫌がらせをしてるんだって?』

(あ、終わりましたねこれ)

 

希望などあるはずもなく、問答無用で罪状を突きつけてきたミラにイロハは全てを諦めた。

出来ることなら逃げたいところだが、ミラが撒き散らす威圧がそれを許さない。

もしこの場から逃げようとしたらひどい目に遭う。そんな確信を抱かせるほどの威圧に、イロハは一歩も動くことが出来ない。

イブキの相手をしているチアキはともかく、別件で席を外しているサツキが恨めしい。

なぜこういう時に限ってサボらずに執務室にいてしまったのか・・・まぁ、「一緒に遊ぼ!」とサボり先に突撃してきたイブキの相手をするためなのだが。

 

『理由はともかく、まさかヒナにちょっかいを出しておいて私が許すと思ってないよね?』

 

窓がガタガタと震えているような錯覚を覚えるほどの威圧をまき散らすミラに対し、マコトはティーカップを片手に持ったまま余裕の表情を崩さない。

命知らずとも思えるような態度にイロハは冷や汗をダラダラと流すが、対するミラはむしろ獰猛な笑みを浮かべる。

もちろんマコトのヒナに対する所業は許しがたいが、それはそれとして簡単にビビるようならわざわざ出向いた甲斐がないというもの。

マコトを試すように、ミラはさらに詰め寄る。

 

『そういうことだから、もしこれからも同じことを続けるようなら・・・?』

 

重ねて脅しをかけようとしたところで、不意にミラが放つ威圧が霧散した。

怪訝な表情を浮かべながら立ち上がったミラは、マコトに近づいて目の前で手を振った。

・・・マコトは反応を見せない。

続いて右耳の近くで指を鳴らし、最後に左耳の近くで指を鳴らしても、マコトは一切の反応を示さない。

ここまでして、ミラもようやく目の前で起きていることを受け入れるしかなかった。

 

『・・・気絶してるね、これ』

 

そう、ミラがヒナへの嫌がらせを口にした時点でマコトは意識を失っていたのだ。

それでもなおティーカップを持ったままの体勢を維持しているのは、器用と言うべきかギャグ時空に生きていると言うべきか。

 

『まったく、こうなるなら最初から手を出さなければよかったのに・・・いや、そこまで頭が回るとも思えないけど・・・まぁ、仕方ないか』

 

本当はまだ釘を刺しておきたいところだが、いつ目を覚ますか分からない以上は長居もできない。

ため息を吐きながら、ミラは扉へと足を向けた。

 

『それじゃ、私は帰るよ』

『は、はぁ・・・』

(これは、見逃されたってことでいいんですかね・・・)

 

ひとまず助かったということで、イロハは曖昧に返しながらも内心で安堵の息を吐いた。

本当に見逃されたのかはまだ分からないが、少なくともこの場で暴れるつもりがない程度には許されているらしい。

 

『あっ、そうそう。そいつが起きたら「次はないからな」って伝えておいて』

『あー、はい。分かりました』

 

そう言って、ミラはさっさと執務室から出ていった。

ちなみに、ミラが出ていってから程なくしてマコトは目を覚ましたのだが、ミラからの伝言を聞いて再び気絶したのはミラも知らない話である。

 

 

 

 

「話しただけで議長が気絶って・・・いったい、何があったんですか?」

「昔、マコトの上司と殴り合ったくらいかな?」

「何があったんですか・・・?」

 

一年生の頃とはいえ、ミラと殴り合えるとはどれ程の猛者なのか。

気になるアコだったが、ヒナが凄まじく微妙な表情を浮かべているのを見てそれ以上の追及をやめた。

ヒナの表情からして、碌でもない状況だったのは想像に難くない。

話題を変えようとするアコだったが、それよりも先にヒナが先ほどから聞こうと思っていたことを尋ねた。

 

「それで、その・・・先生のことなのだけど・・・」

 

最後の最後で、先生は脱出シーケンスを自分ではなく別世界のシロコに使った。

上空75,000mから放り出されて、無事でいられるはずがない。

アコからも報告は聞いているが、出来るならそれが嘘であってほしかった。

だからこそ、改めてミラからも話を聞いておきたかったのだが・・・

 

「あぁ、タブレット片手にホコリまみれの素っ裸で駆け寄ってきたって話?写真はないけど、先生の裸が気になるの?」

「そっ、そういうことじゃなくて!!」

 

ミラのからかうような返答に、ヒナは顔を真っ赤にして立ち上がった。

そう、奇跡的に先生は生還したのだ。

ただし、さすがに無傷というわけにはいかなかったようで、空気摩擦によって先生の服は完全に灰になってしまった。

そんな有様でなぜ火傷の一つもないのだとミラもツッコみたいところではあるが、ひとまず先生の無事を喜びはした。

だが、やはりそれはそれとして絵面がひどすぎた。

先生が現れた時の阿鼻叫喚の様相は、想像に難くない。

 

「はぁ・・・いえ、アコの報告を信じなかったわけではないのだけど・・・」

「それは、まぁ・・・私も見なかったことにしたかったと言いますか・・・」

「普通に事案だからねぇ・・・」

 

あのような状況でもなければ、普通にヴァルキューレに連行されていたのではないだろうか。

先生が無事なのはよろこばしいことではあるが、素直に喜べる状況でほしかったものである。

 

「まぁ、それよりも・・・」

 

何はともあれ、後顧の憂いは何もない。

“色彩”は撃退し、ゲマトリアも壊滅した。

だからこそ、何の遠慮もなく、ミラは笑顔でヒナに言いたかったことを口にした。

 

 

 

「ただいま、ヒナ」

 

「・・・おかえりなさい、ミラ」




え~、最終編を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
そして、お見苦しい駄文を見せ続けることになってしまい、申し訳ありませんでした。
ここ最近、仕事がクソ忙しくて、あまり文章を練る余裕がなかったので・・・。
区切りをつけるまでのケジメとして週一投稿を心がけていたんですが、それでクオリティが下がったら本末転倒なんですよね・・・。
ひとまず今回で一区切りついたので、これからは不定期更新に移行していきます。
本作だけでなく新しく始めた作品とか凍結状態から再投稿を考えている作品とかもあるので、場合によってはかなり間が空くこともあるかもしれませんが、のんびり待っていただけると幸いです。

次回からはしばらくキャラストやイベストみたいな日常話を投稿しつつ、どこかしらでアビドス3章を始める予定です。
ついでに、思った以上に好評だった“アリウスIF”の第2弾も書けたらなと。
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