忌み子の僕を拾ってくれた魔女の師匠、ハレンチな修行ばかりしてくるけどおかげで最強になれました   作:青ヤギ

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Lesson⑪実技試験

 

    * * *

 

「よく来たわね、一攫千金を狙おうとする愚かな人間ども! あてぃしはこの冒険者ギルドで実技試験の審査を務めるゴーレムよ! 最近はバカみたいに冒険者になろうとする輩が多くて、とても捌ききれないっていうから、あてぃしみたいな使い魔がこき使われているってワケ! この実技試験も突破できないような雑魚はとっとと追い出してやるから覚悟おし!」

 

 口調は女性だが声は野太い男性のゴーレムがそう説明をする。

 広々とした試験会場には、僕以外にもたくさんの人が集められている。

 どうやら実技試験は一緒くたに審査するようだ。

 

「アンタたちには今から魔法で作った仮想空間に入ってもらうわ! その中に出現するモンスターと戦うの! 魔法研究機関が編み出した最新技術よ! とくとご覧なさい!」

 

 天井に浮かんでいる球体が眩い光を放つ。

 すると、僕らのいる場所がとつぜん荒野になったり、草原になったり、海になったり、山岳地帯になったりした!

 空気の匂いも、地面の感触もまるで本物だった。

 すごい! なんて技術だ!

 

「仮想空間のモンスターといっても、忠実に再現してるから舐めてかかると痛い目見るわよ! まあ死ぬことはないけど、みっともないところを見せたら即失格だから本気でやりなさい! いまこの場にいる連中で即席のパーティーを組むのも自由! 腕に自信があるのならソロでやるのも自由! 試験終了までモンスター相手に生き残れた者を合格者とするわ!」

 

 なるほど。

 方法は問わないので、最後までモンスターにやられないようにすればいいのか。

 僕はどうしよう。一応ソロでやれる自信はあるけど、念のため誰かとパーティーを組んだほうがいいだろうか?

 ……うぅ、でも初めて会った人に声かける自信がないな。

 

「くくく、ついにこの日が来た。俺様の実力を見せてやるぜ」

「きひひ、実技試験で躓いてたまるかよ」

「ひょひょひょ、モンスターなど諸共狩り尽くしてさしあげますよ」

 

 しかも、なんか強面でおっかなさそうな人ばっかりだし。

 みんな変な笑い声だし。

 近寄らないでおこう。

 

「ねえ、そこの君! 良かったらボクとパーティー組まない?」

「え?」

 

 おっかない人たちとは異なる、爽やかで愛らしい声がする。

 

「はじめまして! ボクはフィーユ! 魔法剣士だよ!」

 

 赤毛の長髪をポニーテールにした、同い年くらいの女の子だった。

 動きやすさを重視した身軽な格好で、腰元には長剣の鞘がある。

 魔法剣士……こんな幼い女の子が剣を振るうのか。

 

「えっと、僕はローエンス。魔法使い見習いです」

「歳はいくつ?」

「十三です」

「じゃあボクと同じだね! 良かった! 歳が同じくらいの子がいて安心したよ! なんか周りがおっかない感じの大人ばっかりだから心許なかったんだよね!」

「あ、わかります」

「わかってくれる!? ボクたち気が合うね!」

 

 そう言ってフィーユさんは僕の手を握ってブンブンと振る。

 それに合わせて……。

 

 ぶるんぶるん!

 

 フィーユさんの小柄な体に似つかわしくない豊かな胸元も激しく揺れる。

 ……同い年? 同い年ってことはフィーユさん十三歳だよね?

 十三歳で、この膨らみ?

 

『ひゃ~。最近の子どもは発育いいですね~ローエンス様。あ、よろしければあたしが催淫かけてエッチなシチュエーションに持ち込んであげましょうか?』

「っ!?」

「んっ? どったの? 急に顔赤くして?」

「い、いえ何でも!」

 

 とんでもない発言はフィーユさんには聞こえていない。

 いまのは使い魔の主人である僕にしか聞こえない念話だ。

 僕は慌てて、使い魔のキャディに注意をする。

 

『こらキャディ! 変なこと考えないで!』

『え~? でもサキュバスとしては主人のエッチな気持ちは尊重したいところがございまして……』

『そういう気遣いいいから!』

 

 契約した使い魔とは念話で会話することができる。

 そして現在キャディは姿を隠す魔法を使って、僕の傍に控えている。一応、僕のサポートをする形で付いてきてくれている。

 ただ師匠曰く、サキュバスを使い魔として連れていると知られたら結構な大騒ぎになりかねないということで、姿を見せないように言いつけている。

 なにせモンスターの中でも上位種の一角であるサキュバスだ。たとえ使い魔だとしても警戒する人間は後を絶たないだろう。

 なるべく目立つことはしないようにと伝えたが……頼むから、変な真似はしないでくれよ?

 

「こほん。僕でよければ、喜んで組ませていただきます」

「ほんと!? ありがとう! それじゃ、よろしくね! あ、敬語はいいよ! 気軽にフィーユって呼んでね! ボクもローくんって呼ぶから!」

「う、うん。わかった。よろしくね、フィーユ」

 

 随分と気さくな女の子だ。人見知りの僕でもあっという間に心を許してしまう明るさと人なつっこさが彼女にはある。

 いままで、歳の近い女の子とこんな風にやり取りしたことがなかったから、なんだか新鮮な気分だ。

 

「さて準備はいいかしら? 早速実技試験を始めるわよ!」

 

 ゴーレムの宣言で空間に変化が起こる。

 場所は深い森林の中。昼間にも関わらず、空は夜になっている。

 そして目の前には、洞窟の入り口があった。

 

「これって……」

「洞窟の中に入れってことかな?」

 

 僕とフィーユは同時に首を傾げると、空から「その通り!」とゴーレムの声がした。

 

『実技試験は洞窟の中でやってもらうわ! 洞窟の中にいるのはスライムの群れよ!』

 

 スライムの群れ?

 再生力と伸縮性に優れていること以外は、特にパワーもないモンスターじゃないか。

 そんな弱いモンスターが相手なのか?

 

「な~んだ。スライムなら楽勝だよ。ボクなんて十歳のときに村に迷い込んできたスライム追っ払ったことあるもん。良かったね、ローくん! 簡単そうな実技テストで!」

「う、うん」

 

 ……本当にそうだろうか?

 ギルドの試験がそんなに甘いものとは思えない。

 それに師匠は言っていたじゃないか。

 

『環境や条件によって脅威度が上がるモンスターもいるわ。地の利を活かすのは、決して人間だけではないってことよ?』

 

 確かに僕はスライム以上に強いモンスターとは戦ってきた。

 けれど洞窟での戦闘を経験したことがない。もしかしたら……それが大きな失敗の元になるかもしれない。

 

『冒険者を目指すならスライム程度に苦戦しないでちょうだいね~? それじゃ試験開始!』

 

 ゴーレムの意味深な発言によって、試験は始まった。

 

 

    * * *

 

 

 魔法で明かりをつけて、フィーユと洞窟の奥へと入っていく。

 いまのところ、スライムが出てくる様子はない。

 

「わ~、仮想空間の中とはいえ、本当に冒険している気分! ワクワクするな~!」

 

 フィーユは目をキラキラとさせながら僕の隣を歩く。

 こんな変哲もない洞窟の中を歩いているだけでも、彼女にとっては楽しいらしい。

 

「フィーユは、どうして冒険者になろうと思ったの?」

「ん? へへ、それはもちろん、憧れの勇者様のような凄い魔法剣士になるためだよ!」

「勇者様?」

「え~!? ローくんまさか勇者様知らないの!? あの邪悪な魔王を倒した伝説の勇者様だよ!?」

「ご、ごめん。僕すっごい田舎で暮らしてたから、そういうのに詳しくなくて」

「本当~? だったらすっごい田舎だな~。ちょうどボクたちが生まれる十三年前のこととはいえ、み~んなが語り継いでる伝説だよ?」

「……十三年前」

 

 勇者と魔王の戦い。

 僕が生まれる前に、そんな壮大な出来事があったのか。

 

「魔王ってひどいんだよ! 人間と和平交渉を結ぶフリをして……実は油断させるための罠だったの! 魔族がとつぜん人々を襲いはじめたことで、怒った人類は当時最強だった魔法剣士を勇者様にして魔王城に向かわせたの! 戦いの結果は相打ちだったけど……勇者様は見事、邪悪な魔王を倒したの! いまこうしてボクたちが生きていられるのは、勇者様のおかげなんだよ!」

 

 フィーユは嬉々として勇者の伝説を語る。

 

「ボクもいつか、そんな勇者様みたいに立派な剣士になって、苦しんでる人々を守るんだ! そのために冒険者になって、強くなるって決めたんだ!」

 

 迷いのない瞳を輝かせて、フィーユは拳を握った。

 凄いなフィーユは。

 僕と同い年なのに、そんな立派な夢を掲げて、頑張っているんだ。

 

「そういうローくんは、どうして冒険者に?」

「僕は……フィーユの夢と比べると大したことじゃないよ。僕を拾ってくれた師匠に恥じないような立派な魔法使いになりたいと思って」

「師匠?」

「うん。ちょっと変わった人だけれど、行き場所のない僕を育ててくれたんだ。だから冒険者になっていろんな経験を積んで、立派な魔法使いになって恩返しがしたいんだ。……あはは。平凡な夢でしょ?」

「そんなことない! 偉いよローくん! すごく立派だと思う!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! よし! こうなったらお互い絶対に合格しないとね!」

「フィーユ……うん! そうだね!」

 

 叶えたい夢は違えど、僕たちの気持ちは重なった。

 彼女とならどんな試験も乗り越えられるような気がした。

 

『……っ!? ローエンス様! 杖を構えてください! モンスターの気配です!』

「っ!」

 

 キャディの警告で、僕は咄嗟に杖を構える。

 

「ローくん?」

「フィーユ、気をつけて……近くにいる」

「っ!?」

 

 明かりの届かない暗闇の奥から、ぬちゃぬちゃとした粘ついた音がする。

 間違いない、スライムだ!

 

「抜剣!」

 

 掛け声と共にフィーユが剣を抜く。

 柄に赤い魔法石が埋め込まれた両刃の長剣を、前に突き出す。

 

「任せてローくん! スライムなんてボクが一瞬で片してみせるから! 炎剣(ブレイズソード)!」

 

 フィーユが呪文を唱えると、握る剣に炎が纏った。

 え? 火の上位呪文? まさかフィーユ……こんな場所で使う気か!?

 

「待ってフィーユ! 洞窟で火の魔法は……」

「せいやあああ!」

 

 僕がストップをかける前に、フィーユは魔法を放ってしまった。

 高圧の破壊光が放たれ、凄まじい爆撃が起こる。

 

「やった! 見たローくん!? 木っ端微塵だよ!」

「フィーユ! 走って! いますぐ此処を離れるんだ!」

「え?」

 

 何考えているんだフィーユは!

 こんな狭い場所であんな高火力の魔法を撃ったら……。

 

「洞窟が崩れるぞ!」

「へ? う、うわあああ!!」

 

 あっという間に洞窟の天井が崩れ始める。

 スライムどころか、僕らまでペシャンコになってしまう!

 

念力(テレキネシス)!」

 

 落石を念力魔法で抑え、何とか逃走時間を稼ぐ。

 

「はぁ、はぁ……あれ? なんか息苦しいような……」

「洞窟はもともと酸素が薄いんだ! そこであんな火の上位呪文なんて使ったら、余計に酸素が薄くなるよ!」

「ご、ごめんローくん。ボクそんなつもりじゃ……」

「とにかく、洞窟での戦闘で激しい攻撃や火の呪文はダメだよ。使うなら別の魔法を……」

「あ、あのね、ローくん」

「なに!?」

「……ボク、火の魔法しか使えない」

「……え?」

「それも、威力の高い上位魔法だけ……」

「基礎魔法は!?」

「だ、だって……派手な魔法のほうがかっこいいし、基礎とかめんどくさいし……」

「……フィーユ」

「はい」

「……君はそんな心構えで勇者を目指しているのか!?」

「うわ~ん! 村の大人たちと同じこと言われた~!!」

 

 そりゃ言うよ!

 勇者を志していながら基礎を疎かにするだなんて!

 さっきの僕の感動を返せ!

 

『……ローエンス様、この女とは縁を切って放っておいたほうがいいですよ? 絶対にローエンス様の足を引っ張りますから』

『そういうわけにはいかないよ! パーティーを組んだ以上、運命共同体だ!』

 

 キャディが善意でパーティー解散を勧めてくるが、ここで彼女を見捨てるのはさすがに良心が痛む。

 ……それに、こうしてパーティーを組んだ時点で、きっとギルドの審査官はパーティー内でどう立ち回るか見ているはずだ。

 仲間を見捨てて、自分だけ生き残るのか、助けるのか……ここでフィーユを切り捨てたら、きっと僕は失格になるだろう。

 なんとしても、二人でこの試験を乗り越えなくては!

 

 

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