忌み子の僕を拾ってくれた魔女の師匠、ハレンチな修行ばかりしてくるけどおかげで最強になれました 作:青ヤギ
ひとまず崩落の心配のないところまで僕らは走りきった。
しかし、その先で待ち構えていたのは数え切れないほどのスライムだった。
「
風の初級魔法でスライムを細切れにする。
……よし、倒せる!
落ち着いて倒していけば、苦戦する相手ではないはずだ。
「フィーユ、とりあえず君は剣でスライムを斬るんだ!」
「う、うん! わかった! えいや!」
フィーユが剣を横薙ぎに一閃。
スライムはあっけないほどに断ち切れ、消滅した。
これなら大丈夫そうだ! 一気に片付けよう!
……そう思っていたが。
「くっ! 数が多い!」
いくら弱小モンスターとはいえ、こうも数が多いと体力も魔力も消耗していく。
思えば、群れに対して実用的な魔法はまだ習得していなかった。
こんなことなら、先に師匠に教えてもらうんだった。
そんなことを後悔していると……。
「ローくん! 大変!」
フィーユの焦った声がする。
「何!? どうしたの!?」
「……狭い場所だと長剣がうまくふるえない!」
「えええ!?」
さっきから金属がぶつかる音がすると思ったら、フィーユの剣が洞窟の壁に当たる音だったらしい。
思うように剣がふれないためか、いつのまにかスライムの群れはフィーユを中心にして集まっているではないか!
『ローエンス様、あの女やっぱり役立たずですよ~。もう見捨てちゃいましょう~』
キャディが呆れ声で言う。
ぶっちゃけ、もはや僕もそうしたいところだけど……ここで人助けしなきゃ、師匠に顔向けできない!
「待ってろフィーユ! いま助け……うわっ!」
「ひゃあん! 体ベトベト~!」
無数のスライムがフィーユの体に飛びかかる。
剣を握る腕と足下を拘束されたフィーユは地面に倒れ、そのままスライムたちに絡みつかれる。
このままでは捕食されてしまう! ……と思いきや、予想外の光景が広がっていた。
「うわあああん! やっぱりこうなる~! いつもこんなばっかり~! ひゃん! おっぱいとお尻にスライムが絡みついて……やぁん! ローくん見ないで~!」
「なななな……」
どいうわけかスライムたちはフィーユの体に絡みつくばかりで攻撃らしきものはしていない。
……いや、攻撃と言えば攻撃なのか?
胸元や尻や太もも。なぜか際どい箇所ばかりに群がったスライムたちは、フィーユの十三歳とは思えない発育の良い柔肉を揉みしだいている。
「あっ。ダメ、そこは……んっ……や~。変な気分になるよ~」
フィーユは涙目でスライムに為すがままとなっている。
短いスカートからはショーツも丸出し。
ついには、そのまま大事な場所へとスライムが侵入しそうに……なったところで僕は正気に返った。
「はっ!
僕は慌ててスライムの一体を転移させて、風の刃で倒す。
危なかった。危うく少女の純潔がモンスターなぞに奪われてしまうところだった。
「ふえええん! まだ群がってくるよ~!」
「なっ!
連続で転移魔法を使い、フィーユの体から何とかスライムを引き剥がしていく。
しかし、僕の転移魔法は一体にしか使えないため、その間に新しいスライムがフィーユの体に飛びかかっていく。
これじゃキリがない!
というか、何でスライムはフィーユばかり狙うんだ!?
『ふぅむ。どうやらあの娘、モンスターを引き寄せる体質みたいですね。サキュバスの
サキュバスであるキャディがそんな解説をする。
モンスターを引き寄せる体質だって?
「それじゃあ、あのスライムたちはフィーユに対して発情してるってコト?」
『ざっくり言うと、そういうことになりますね!』
マジかよ。
そういえばフィーユもこれが初めての体験じゃない様子だったし、もしかして頻繁にモンスターにこんな感じに襲われていたのだろうか?
「あへ~。もうボク、ダメかも~……」
粘液の塊に散々弄ばれているフィーユは、もはや少女がしてはいけない顔を浮かべていた。
とにかく、このままじゃフィーユはスライムにやられて脱落してしまう!
でも、どうすれば。
風の刃をぶつけようにも、フィーユにも当たってしまうし……。
そうだ、念力魔法なら一気に群れを引き剥がせるのでは!
「
ダメだ。流動体に対して念力魔法は相性が悪いらしい。
なんてことだ。
まさか弱小のモンスターにここまで苦戦させられることになるなんて!
師匠の言う通りだった。環境と条件次第で、どんなモンスターもいくらでも脅威になり得る。
弱小モンスターだからと言って、経験不足だと痛い目を見る……なるほど、ギルドはそういう点を重視しているのだ。
もしも僕が審査官なら……この状況で如何に最適解を見つけるか? そこを見定めると思う。
落ち着け。
考えるんだ。
いま自分が持っている手札で、最も有効な方法を見つけるんだ!
あのスライムを一掃し、お互いが無事に助かるには……。
「あっ」
そこで、ひとつの閃きが生まれた。
「キャディ、ひとつお願いがある」
『待ってました! 使い魔キャディ! 喜んであなた様のお力になりましょう!』
「ありがとう。じゃあ早速、君が使う
* * *
やっぱり、ちゃんと基礎魔法を学んでおくべきだった。
いや、それ以前に、知恵を身につけなくてはならなかった。
フィーユはそう後悔する。
『フィーユ。冒険者に必要なのは、決して強力な魔法が使えることだけではない』
祖父の言うとおりだった。
祖父の反対を押し切って、半ば家出同然に飛び出してきたが、おかげでこんな有様だ。
まさか弱小モンスターであるスライム相手にも苦戦してしまうなんて。
とても冒険者としてやっていけない。
これが現実。
所詮は夢のまた夢だったということか。
もう自分が試験が通ることはないだろう。
ローエンスにも迷惑をかけてしまった。自分が足を引っ張ったせいで、彼はきっと本領を発揮できなかった。
──お前みたいなバカが勇者になれるワケないだろ!
村のいじめっ子たちに言われた言葉が蘇る。
悔しい。
でも実際、力だけではどうすることもできないことを思い知らされている。
(やっぱり、ボクなんかじゃ勇者になれないのかなぁ?)
涙が出る。
ずっと勇者になりたかった。
幼い子どもなら、一度は誰でも憧れる夢。
いつかは忘れてしまう夢。
でも、フィーユは本気だった。
だって……許せなかったから。
父と母を殺した魔族が、許せなかったから。
何もできず、逃げることしかできなかった無力な自分が許せなかったから。
力。とにかく力が欲しかった。奴らを滅せるだけの強力な力を! 弱い魔法なんて必要ない!
……でも間違っていた。
そんな考えは、憎しみの対象である魔族と変わらない。
やっと気づく。
本当に強き者とは、他者を本気で思いやれる者のこと。
自分はちっともそれができなかった。自分勝手に他人を巻き込んだ。
勇者失格だ。
「ローくん……」
だから、せめての気持ちで伝える。
こんな自分とパーティーを組んでくれた少年に。
──ボクを見捨てて、逃げて。
だが、その言葉を放つ必要はなかった。
「スライム! こっちだ!」
ローエンスの掛け声。
フィーユを群がっていたスライムたちは、一斉にローエンスを目がけて飛んでいった。
「え?」
いったい、何が起こったのか?
* * *
使い魔が持つ能力は、主人である魔法使いも使うことができる。
そこで僕は活用することにした。
サキュバスの
「うおおおおおお!!」
あれほどフィーユに執心していたスライムたちが瞬く間に僕に矛先を変える。
すごいな、さすがはサキュバスの魅了魔法だ。
発情したスライムたちは僕の体に我先と絡みつく。
うわぁ、ねちょねちょして気持ち悪い!
『ローエンス様! たいへん色っぽい姿にキャディ興奮しております! あとで師匠と視界共有しよっと! きっと鼻血出して喜びますよ!』
そんなことしなくてよろしい!
とにかく作戦はうまくいった。
あとは……。
「ローくん! 大丈夫!?」
「フィーユ! 僕に向けて最高火力の魔法を撃て!」
「え!?」
おそらく、いま洞窟内にいるすべてのスライムが
一網打尽にするなら、いまがチャンスだ!
「で、でもそんなことしたらローくんが! それに、さっきみたいに洞窟が崩れて……」
「それでいい! ありったけの火力をぶつけるんだ!」
「で、できないよ! ボク、これ以上ローくんに迷惑かけたくない!」
「僕を信じろ!」
「っ!?」
「一緒に試験合格するって言ったろ!?」
「ローくん……」
「君は、勇者になるんだろ? だったら……こんなところで諦めるな!」
フィーユはハッとした顔をして、瞳に涙を浮かべる。
それは、悲しみの涙ではないように思えた。
「わかった……ボク、ローくんのこと信じる!」
フィーユが剣を構える。刀身に眩い炎が纏う。
凄まじいエネルギーが剣を中心にして集まっていくのがわかる。
洞窟がまるで朝日を浴びたように明るくなる。
「
怒濤の勢いで炎の破壊光が迫る。
「
直撃する寸前で、僕は転移魔法を自分自身に使う。
スライムだけを置き去りにして。
行く先はフィーユの真横。
「ローくん!?」
「フィーユ! 手を!」
「っ!? うん!」
間近に転移してきた僕の手を、フィーユはすぐに掴む。
「
衝撃波がやってくる前に、フィーユを連れて転移!
「うわっ!」
「きゃん!」
何とか洞窟の外に転移成功。
背後からは、洞窟もろとも崩れ去る音がした。
さすがに、これで全滅しないスライムは存在しないだろう。
「やった! 作戦成功だよフィーユ!」
「え? え?」
フィーユはまだ状況を把握できていないようだ。
キョロキョロと周りを見渡している。
「凄いよフィーユ! 洞窟ごと木っ端微塵にしちゃう魔法が使えるなんて!」
「そ、そんな……いろんな魔法が使えるローくんのほうが凄いよ。ボクなんて、ずっと足手まといだったし……」
「何言ってるんだ。僕だけだったら、きっと体力と魔力を消耗して終わってた。フィーユがいたから、スライムを全滅させることができたんだ!」
「ローくん……」
「君の魔法が、僕を救ったんだ。だから……ありがとう!」
「っ!? ……ぐすっ。うん。こちらこそ、ありがとう。こんなボクを、頼ってくれて」
フィーユは泣きじゃくりながら、何度も「ありがとう」と言った。
『はい時間よ~! まったく最近の若者ときたら! スライムの群れごときにやられちゃう半端物ばっかりじゃないの! さっさと故郷に帰って農家でも継ぎなさい! 合格者はたったの二人じゃないの!』
空から審査官であるゴーレムの声が響く。
合格者、たったの二人?
それってまさか……。
僕たちはドキドキしながら結果を待つ。
『というわけで……おめでとう! 合格者はローエンスとフィーユ! 最年少の二名よ! よく頑張ったんじゃないかしら!』
「っ!? やったぞフィーユ! 僕たち合格だって!」
「合格? ボクが……」
喜ぶ僕と打って変わって、フィーユはどこか浮かない顔だった。
「いいのかな? 足引っ張ってばっかりだったボクが、このまま次の試験に進んで。正直、辞退したほうがいいかなって思ってるんだけど……」
「なに言ってるんだ! ギルドの審査官が認めたんだ! いいに決まってるじゃないか!」
「でも……」
「……なあ、フィーユ。失敗したら、できるようになるまで何度も試せばいいんだよ」
「え?」
「師匠もよく言ってる。一回の失敗だけで諦めるのは早い。何度も何度も挑戦して、上達していけばいいんだって」
思い出す。師匠との修行の日々も。
あの頃の僕も、失敗の連続だったけど、師匠の励ましのおかげでだんだんと使える魔法が増えていったんだ。
『あ~ん♡ ほら諦めないでローエンス♡ 念力だけでブラジャーのホックを外してごらんなさ~い♡』
『いや~ん♡ ほらほら、転移魔法で着せたい服を着せてごらんなさ~い♡ 今度はどれを着てほしいの? 看護服? バニー服? それともビキニ水着? 好きな衣装を着せて~ん♡』
『お~ん♡ 水魔法のコントロールも様になってきたわね~ん♡ そのまま激しくお尻を叩いてごらんなさ~い♡ うひぃぃん♡』
うん、どれもろくな思い出じゃないけど、あの日々があったからこそ、いまの僕があるんだ。
「だからフィーユも、ここで挫けたりしないで頑張ってみようよ。基礎魔法なら、僕が教えるからさ」
「ローくん……」
「その代わり、フィーユも僕に魔法を教えてよ? 僕は、まだあんな高火力の魔法使えないからさ」
「……うん! わかった! ボク、諦めずにやってみるよ!」
出会った瞬間と同じ明るい笑顔で、フィーユは僕の手を握った。
「じゃあ約束ね! お互い無事に合格したら、一緒に冒険に出ようね!」
「ごめん。それはちょっと考えさせて」
「ええ~!?」
かくして、僕たちは無事に実技試験を乗り越えたのであった。