忌み子の僕を拾ってくれた魔女の師匠、ハレンチな修行ばかりしてくるけどおかげで最強になれました   作:青ヤギ

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Lesson⑯不穏な影

 

 冒険者となって、フィーユと一緒にクエストをこなす日々が繰り返された。

 最初は水質の調査とか荒れ地の掃除など、初心者向けのクエストなどで成果を上げた。

 そうして徐々に難易度の高いクエストを請け負い、モンスターと戦う頻度が多くなった。

 

「ローくん! そっち行ったよ!」

「任せて!」

 

 そして現在、僕たちは山村を悩ませるモンスターの討伐をおこなっていた。

 亜音速で飛び交う巨大なハチ型のモンスター、ブラストビー。

 群れで行動し、動くものすべてに攻撃を仕掛ける凶暴なモンスターだ。

 あまりにも素早い動きをするため視覚でその姿をとらえることは難しく、毒針の攻撃も一発でも喰らうと即死レベル。討伐難易度の高い危険な相手だ。

 ……だが、いまの僕たちなら!

 

 まずフィーユの高火力広範囲魔法で標的を巣から炙り出し、キャディの魅了魔法で僕のほうへ引き寄せる。

 空気を破る勢いのスピードで大型のハチたちが向かってくる。

 いまだ! 新しい魔法を試すときだ!

 

遅緩(スロー)!」

 

 広範囲に展開される魔法。

 すると、目でも追えなかったブラストビーたちの動きが突然ピタリと止まる。

 いや、正確には動いているのだが、その動きはあまりにも緩慢だ。

 この遅緩魔法は、一定の空間に入ったものの動きを緩やかにする効果を持つ。

 しかし持続効果はたったの三秒だ。ここで決めるしかない!

 

「いまだフィーユ! 一緒に片付けるよ!」

「了解! 豪炎斬(ブレイズザッパー)!」

 

 フィーユの大技が炸裂し、ブラストビーの群れが瞬く間に半壊する。

 さすがフィーユ。一振りだけでも凄い威力だ。

 よし、僕も負けてられないぞ!

 

照準(ロックオン)!」

 

 瞳に魔力を込めて、残存する敵すべてを目視し、位置を把握。

 

「これで終わりだ! 雷槍(ライトニングランス)!!」

 

 複数の雷の槍を出現させ、一匹残らず串刺しにする。

 視界を広げ、あらゆる角度から標的を捉えることができる照準魔法に加え、特定の位置に振り下ろすことができる雷の中級攻撃魔法。

 これで群れのモンスターにも対応できるようになった。

 実技試験のときのように、もうモンスターの群れに苦戦させられることはない。

 

「残る群れの気配は……うん、無しだね。討伐完了だ」

「やったねローくん! えへへ、ボクたち絶好調だね! つい最近冒険者になったばかりなのにお互いにもうCランクだし! この調子ならあっという間にBランクに……いや、Aランクも夢じゃないよ!!」

 

 フィーユが目を星のようにキラキラさせながら言う。

 確かに新米冒険者としては異例のスピードでランクを上げている僕たちだけど、さすがにまだAランクは気が早いと思う。

 

「もう、フィーユはすぐに調子のるんだから。でも確かにここまで順調だね。新しく覚えた魔法も何とか使いこなせているし」

「ローくんって本当にいろんな魔法覚えるの早いよね~。前に話してくれたお師匠さんだっけ……その人とよっぽど過酷な修行をしてるんだね! いったいどんな修行なの!?」

「え? それは……ちょっと口にできないかな……」

「口にできないほどの過酷な修行なの!? こわ~い!」

 

 フィーユが勝手な想像をしてビクビクと恐怖に震える。

 彼女の頭の中でいったいどんな恐ろしい修行光景が広がっているのか知らないが、これは勘違いさせたままのほうがいいかな。

 だって女の子のフィーユには絶対に言えないよね、あんな修行内容。

 

 遅緩魔法を教わったときは……。

 

『あはーん♡ 遅緩魔法のコツは範囲指定よ♡ 標的を逃がさないためにも意図した場所に展開できるようになりなさ~い♡』

『師匠! 理屈はわかりますが、なぜ揺れる胸と捲れたスカートだけに遅緩魔法を使う必要があるのでしょうか!?』

『ふ、複雑な操作を覚えるために必要なことだからよ♡ さあ、三秒間じっくり見なさい♡ スローモーションで動く私の乳揺れとスカート捲りをおぉぉん♡♡♡』

 

 照準魔法のときだって……。

 

『いやーん♡ ほら、いろんな角度から見るのよ♡ 上から胸の谷間を♡ 下からスカートの中身を♡ あん♡ いろんなところからローエンスの視線を感じるぅ~♡』

 

 雷の槍のときだって……。

 

『魔法はイメージが重要よ! 槍よローエンス! 槍なのよ!? 男なら馴染み深いものがあるでしょ!? 思いきり突き込むの! 穴に突っ込むように♡ そして先っぽから思いきり熱いのをぶちまけるの♡ ドバァーって雷を♡」

 

 最後のはよくわからなかったけれど、凡そ人様には見せられない痴態の数々。

 まあ、相も変わらずそのハレンチな修行のおかげで僕は成長できているわけだが。

 

『覚えたい魔法があったらいつでも言いなさい♡ 前以上に過激に……げふんげふん! 厳しく指導してあげるから! 強くなりたければ勤勉であり続けなさい! ……だからちゃんと頻繁に帰ってくるのよ!? フィーユとかいう小娘とあまり夜営とかしちゃメッですからね~!?』

 

 僕が冒険者になったからか、この頃の師匠は以前以上に僕の育成に熱を入れてくれている。

 何だかんだ、僕のことを考えてくれているんだなぁ……。

 よ~し、師匠のご恩に報いるためにも、もっといろんなクエストをこなしてAランクを目指すぞ~!

 

 

    * * *

 

 

「ブラストビーの群れの討伐……うん、確認完了! お疲れ様!」

 

 受付嬢のビスケさんにクエスト完了の報告を済ませ、報酬を貰う。

 

「凄いわ! あなたたちの歳でブラストビーを倒せちゃうなんて! 熟練の冒険者でも苦戦する相手なのに!」

「あ、ありがとうございます。対策可能な魔法があったから、何とか無事に倒せた感じです」

「それでも大したものよ! ほら、この間のクエストの依頼者からお礼の手紙が届いてるわ。胸を張りなさい。あなたたちはもう立派な冒険者なんだから」

「は、はい」

 

 ビスケさんから賛辞を貰い、思わず照れくさい気持ちになる。

 なんか嬉しいな。こうやっていろんな人から褒められたり、感謝されるのは。

 

「おう! 最年少コンビじゃないか! 今回も大活躍だったみたいだな!」

「新人とは思えない強さね! 良かったら今度わたしたちのパーティーと組まない?」

 

 ギルドで最年少である僕たちの活躍は他の冒険者さんたちの間では目立つようで、こんな風に声をかけてもらう機会が増えた。

 

「おい、嬢ちゃん。あんまり高火力魔法にばっか頼ってローエンスに迷惑かけんなよ?」

「むぅ! なんだよ~! ボクだって最近は火球(ファイヤーボール)とか小回りの利く小技も使えるようになったんだから!」

「いや普通はそこから覚えてくもんだからな!?」

「ははは! ローエンス君! 困ったことがあったらいつでも俺たち先輩を頼ってくれよ! 魔法に関しちゃ君のほうが優秀だが、経験者なりの知恵ってのはいくらでも教えてやれるからさ!」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 ギルドの人たちは皆優しい。

 僕たちをこんなにも気にかけてくれて、親しみを向けてくれる。

 村に居た頃じゃ、考えられない光景だ。

 ここには僕の髪と瞳の色を、変な目で見てくる人はいない。

 リィムさんの言うとおりだった。

 勇気を出して外に出れば、こんなにも僕を受け入れてくれる人々がいた。

 冒険者になったことで、僕の世界はどんどん広がっていく。

 これからも、たくさん人助けをして、いろんな人たちと仲良くできるといいなぁ。

 

「ん? 見て、ローくん。あっちに人だかりができてるよ? 何か珍しいアイテムでも見つかったのかな?」

 

 フィーユの言うとおり、向こう側で何やら冒険者さんたちがザワザワと騒いでいる。

 その表情はどれも深刻そうだった。

 こっそりと会話に耳を澄ませてみる。

 

「見たこともないモンスター?」

「ああ、いろんな生き物が混ざり合ったようなヤツだった」

「しかも、どの魔法も受け付けないんだ。結局、うまいこと落石で押し潰して物理的に倒すしかなかった」

「新種ってことか?」

「そうとしか言いようがないな。だが……あれは自然発生したものとは思えない。何というか……『作り物』みたいなヤツだった」

「っ!?」

 

 見たこともないモンスター。

 どんな魔法も受け付けないモンスター。

 生き物というよりも『作り物』のような不自然さを持つモンスター。

 

 否応なく、湖で僕とリィムさんを襲った謎のモンスターが思い出される。

 まさか、あれと同種のモンスターが他の場所でも……。

 

 

    * * *

 

 

 一方その頃、クレアはローエンスの部屋にこっそり侵入し、ベッドで残り香を嗅いでいた。

 

「あー、クンカクンカ。ローエンスったら早く帰ってこないかしら。師匠の私がこんなにも寂しくていろんなところをきゅ~っと疼かせているっていうのに! スー、スー……はぁ♡ やっべ♡ ローエンスたんの残り香たまんね♡ この匂いを凝縮させた魔法薬作っちゃいましょグヘヘ♡」

 

 いつも通り頭の中を煩悩だらけにした変態魔女。

 しかし、だらけた表情が一瞬にして冷徹な魔女のソレに変貌する。

 

「……何かしら。イヤな気配が森に入ってきたわね」

 

 クレアはすぐさま箒に乗り、気配のする方向に飛んだ。

 鳥たちや森の動物たちが悲鳴染みた鳴き声を上げている。

 森に生息するモンスターたちも、何か危機感を滲ませて移動している。

 何かから逃げるように。

 

「っ!?」

 

 遠見の魔法でクレアはすぐさま標的を確認した。

 見たこともないモンスターだった。

 すぐに分析魔法を使う。

 ……魔法を無効化する術式が働いている。知能も高い。

 倒すには、物理的に破壊するしかないと即座に判断する。

 

岩石圧殺(ロッククラッシュ)

 

 クレアは無数の岩石を出現させ、モンスターを挟み打ちにする。

 全方位から岩石の塊を押しつけ、そのまま圧死させる。

 箒から降りて、死骸を確認する。

 

「これはっ……」

 

 潰れた肉片から何か光るカケラのようなものが出てくる。

 禍々しい紫色の光を放つ球体……それは『魔核』と呼ばれるものだった。

 膨大な魔力の塊であり、このモンスターの原動力として埋め込まれたものに違いない。

 クレアは戦慄した。

 この『魔核』を生み出せるのは、ひとつの種族しかいない。

 

「まさか……『魔人』たちが、また何かを始めている?」

 

 魔王が滅んでから十三年。

 主を失い、闇にひっそりと影を潜めていたはずの種族たちが……再び何か動きを見せている。

 魔女であるクレアですら関わることを恐れる存在。もしも、そんな連中とローエンスが出くわしでもしたら……。

 

「ローエンス……」

 

 最愛の弟子の身を、クレアは深く案じた。

 

 

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