TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから! 作:桜霧島
―――マナト、マナト!
「―――はっ!? シンフォギアは、響は!?」
目を開けるとそこは……前世の、軽音部の部室……か?
俺は絶唱を使って意識を失ったはずだったが……。
「なんだ、マナト。まだ寝てるのか? まったく、相変わらずアニメが好きなことで」
確かに
「それよかさ、聞いたか? ヒデにも彼女が出来たんだってさ。バスケ部1年の何と言ったか、ほら、あの可愛い子」
「―――そう、なのか?」
「おうよ。こないだのライブでファンレターをもらって、連絡取ってそのまま―――って寸法だとよ。まぁ、そんなショックを受けるなって。『マナトの書いた歌がウケたのが良かったんだ』ってヒデも感謝してたぜ?」
この会話は俺がトラックに轢かれたあの日の会話だ。この後、ヒデの彼女を紹介されてという流れだったが……。
「―――お、噂をすればヒデからグループRINEだ。なになに……『今日の練習に彼女を連れて行ってもいいか』だとよ。どうする?」
「―――すまん。少し体調が優れないみたいだ。今日は休んでもいいか?」
「む……確かにいつになく確かに顔色が悪い。まぁ、ライブも終わったことだし無理するな。ヒデたちには言っておくからさ」
「ありがとよ」
礼を言い、部室をあとにする。今話していたアイツはドラムのユウトだ。軽い印象を受ける奴だが、付き合ってみると意外と繊細で気遣いの上手い男だ。
どうなってしまったのだろうか。
放課後の校舎から外に出る。やはり外は雨が降っていた。
しかしこれが夢だろうと現実だろうと約15年ぶりの光景だ。何と言うか、不思議さよりも懐かしさが込み上げてくる。
―――会いたいな、母さん。
傘をさし、とぼとぼと家路を辿る。何もかもが懐かしい。みんなが
この生活が永遠に続くと思っていた。母さんと、親友と、かけがえのない日常。命の危険のない日常。
やり残したことなんて山のようにある。歌も作れなかったし、アニメも途中までしか見てないのもあったし、彼女も出来なかったし、親孝行も出来なかった。
しかし俺は見逃していた。命なんて、ほんの少しの切掛で失われてしまうのだ。自分で体験した――本当にしたか?――のだから間違いない。
もうすぐ駅だ。そして俺が轢かれた交差点だ。
このまま家に帰れるのだろうか。それともまたトラックが突っ込んでくるのだろうか。
ふと横を見ると、小学生くらいの女の子がいた。あの子だ、俺が放り投げた女の子だ。
彼女の横顔を見つめていると、視線を感じたのか彼女が此方を見上げた。
―――何処かで見た顔だ。いや、あの時じゃない。もっと最近、何処かで……。
「自分の顔も忘れちゃったの、アリア?」
その美しい少女は歌い上げるような鈴の音色で声を発した。
「は―――」
「此処は夢。此処は現実。数多ある世界の中の一つ」
「君は一体何を―――」
刹那。
世界が暗転した。
星星が煌めく
「アリア、あの星を見て。あの輝きは
白い輝き。全ての
何と美しいのだろうか。
「何故、俺が」
「理由なんてない。しいて言えば偶々。本来なら溶け合い1つになる魂の中で、ふとしたこと―――例えば『せめて来世では幸福に生きて欲しい』という或る星の母の願い、或いは『何とか無事に生まれて欲しい』という或る星の母の願い―――そう、偶々君がそこに居ただけのこと」
全ての音色が溶け合い、調律されて、シンフォニーを奏でていく……
「どうする? このまま此処に居たって良いんだよ。或いは何処かの星の光に混ざって、全てを忘れ、新たな生に踏み出したっていい」
「俺は―――帰る。翼の元へ、響の元へ、みんなの元へ」
「いいのかい? 辛いことも多いだろう?」
「俺はまだ
母さん、ママ、ダリア、俺が守れなかった人たち……この無数の光の渦の何処かに居るのだろうか。
「マヘーシュヴァラ、俺をあの世界に返してくれ。―――いや、違うな。一緒に帰ろう」
「―――これは驚いた、気づいていたのか」
「俺はお前で、お前は俺だ。それくらいわかるさ」
「だったら、もう少し上手く使って欲しいね。マヘーシュヴァラが司るは再生と破壊。神々の願いの残滓。即ち世界への愛。それが分かれば、君はもう少し上手く
「
「―――さて、軽口も叩けるようになったんだ。準備はいいかな?」
「おう、いつでもいいぞ」
何よりも美しい光景を目に焼き付けながら、俺たちは手をつなぎ、一つの彗星になった。
「おはよう、寝坊助さん♪」
人工的な光が目蓋を照らす。その光に導かれるように目を開くと、いつもの調子で白衣に身を包んだりょーこさんが居た。
あの世界から帰ってきて最初に会うのがりょーこさんというのも、因縁というか運命を感じる。
体中が管だらけだ。人工呼吸器が鬱陶しい。
「―――おはよ、りょーこさん。やくそく、どおり、かえってきた、よ……」
思った以上に声が出ない。カスカスである。無理もないか。
「んー、でも不合格かしら。あれだけボロボロになったんですもの」
「しんぱい、かけて、ごめんなさい」
「……ま、無事に生きているだけで合格かもしれないわね。暫くはゆっくり休みなさい」
「ありがと、りょーこさん。……大好き」
小声で言ったものの、聞こえていたのか彼女は目を丸くして微笑んだあと、俺の額に口付けを落とし治療室から出て行った。
交代するように男の医師達がやってきていくつかのメディカルチェックを受けさせられ、それが終わったら一般の病室へ移されることとなった。
その後、病室に飛び込んできた翼の髪を俺は力の入らない手でいつまでも梳いていたのであった。
♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬
「おはよ♪ アリアちゃん、だいぶ良くなってきたわね」
「ぉはよーっす、りょーこさん」
意識を回復して5日。今日も朝イチの問診を
原作の翼はアームドギアを介さず自身を媒体として絶唱をした結果、バックファイアを上手く緩和出来ず自爆のような形でクリスを撃退した。奏さんが肉体を失ったのも彼女の適合係数が低かったこと、適切にLiNKERを投与出来なかったことが直接的な原因とされているから、その両者を備えた俺の絶唱が
ちなみに俺には見当がついている。
「体調はどうかしらん?」
「うーん……ぼちぼち、って感じかな。今日はメディカルチェックだけ?」
「そうだけど、何か?」
「シンフォギアの状態を見ておきたいんですよね」
「翼ちゃんや響ちゃんが気になるのはわかるけど……焦りすぎよ」
「いえ、そうじゃなくて……俺、意識を失っている間に夢を見たんです。そして俺は夢の中で、俺のシンフォギア―――マヘーシュヴァラと会話しました」
りょーこさんの目が光る。
「たぶん、適合係数は格段に上昇してるはず」
「ちなみに何を話したの?」
「
「興味深いわね」
「りょーこさん、俺が意識を失っていた間の脳波データを利用してLiNKERの研究を。脳が活発に動いていた領域を調べ、作用するホルモンや神経伝達物質を分析すれば、シンフォギアへのアクセスが更に容易になるはず」
「わかったわ。―――あなた、本当に欲しくなっちゃうわね。どう? 一線を退いて、カノンみたいに私の共同研究者になるのは?」
「平和な世の中なら、それも悪くないですね」
半ば以上、本心で告げる。
将来の夢なんて大それたものは持っちゃいないが、何か一つ挙げろと言われたら考古学者になりたいと思う。
この星の歴史は元いた世界のそれよりも非常にファンタジーだ。聖遺物だの錬金術だの先史文明だの、真新しいものに飛びついてもしょうがないでしょ。
それに―――ママが何を考えてマヘーシュヴァラを探していたのかを知ることが出来るかもしれない、なんて考えもあったりする。
平和ねぇ……。何年先の話になることやら。
恒久的な平和なんて求めちゃいない。どこの国においても人類史において恒久的な平和なんてものは存在したことは無かった。
だが何年か、何十年かの平和な時代は存在することが出来た。俺がシンフォギアの力で出来るとしたら、それくらいが限界だろう。
「―――とりあえず、何かやることないですかね。そろそろ安静にも飽きてきたとこなんですわ」
「うーん……じゃあこの間の戦闘ビデオでも観る?」
「観る」
そんなもん欲しいに決まってるでしょうが。
「じゃあUSBメモリとPCを手配しておくわ」
「俺の生体データもよろしく。PCに入れといてもらえたら、何か気付きがあった時に報告するから」
「あなた、学生なのよ?」
りょーこさんはやや呆れたように言うと、機材を取りに行くため病室を後にした。
♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬
俺が戦闘データをレポートにまとめていると、風鳴司令が病室へやって来た。おいおい止めろよ、こちとらすっぴんなんだぞ?
まぁ、常日頃からすっぴんどころか裸体を晒しているのは気にしないようにしよう。
「……さては皆、暇なんですね?」
「そうだな。絶対安静のベッドの上でパソコンを開いている愚か者よりは、暇かもしれんな」
「そうでしょうとも」
「……単刀直入に言おう。明日のサクリストD、デュランダル移送計画についてアリアくんの意見を聞きたい」
ほう、明日であったか。
まぁ特に言うべきことはない。どうせ襲撃は失敗する。問題があるとすれば翼が健在なことでどのようにストーリーに影響するかだけど、結局はフィーネことりょーこさん次第だ。
クリスも強いは強いのだろうが、ネフシュタンの鎧とデュランダルでは完全聖遺物としての格が違う。ましてや相手は暴走中の響となれば、優しいクリスではダメだろう。
「移送ルートを」
「これだ」
「……まぁ、狙われるのは
「響くんがデュランダルを、翼は輸送班の
「であれば分断されることを予め想定した計画を組んでおくべきでしょう。おそらく、防衛省や政府内部―――或いは司令部に紛れ込んだ内通者から移送計画は漏れていると考えておいたほうがいい」
「……同感だ」
「ま、装者が二人も居りゃあ問題ないでしょ。最悪、奪われなけりゃ引き返してきたって良い。ところで、お嬢ちゃんの特訓はどんな感じです?」
「まだまだ半人前未満だ。―――だが、覚悟の一端は芽生えているだろう」
響の動向については了子さんや風鳴司令に聞いている。
響は俺が瀕死になって意気消沈している翼を支えるためとして、風鳴式マーシャル・アーツ(俺命名)を習い始めたそうだ。
アレはキツイからな。ちなみに根性のない俺はかつて習おうとしてすぐに頓挫した。あの特訓についていけるのはアホだけだ。
それはそれとして、翼と響の関係も悪くなっていないようで重畳だ。元々努力と根性が嫌いじゃないからな、翼は。
共同任務も何とかなるだろう。
「ま、それなりに期待してますよ。―――勘違いしないでくださいね? 俺はちゃんと響のことも評価していますから」
「わかっている。療養中に悪かったな。護送計画については参考にさせてもらうとしよう」
「よろしくお願いします」
さーて、次はクリス対策でも考えとくかなあ。
神代蓮さん、園崎礼瑠さん、なーだーいさん、ARATA3+3さん、評価ありがとうございました。
イマイチ評価の方もありがとうございます。精進します。
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