TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから!   作:桜霧島

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ストック、尽きる



蒼穹のカルテット

 

 

 特異災害対策機動部二課本部最奥区画『アビス』。そこに保管されているのが、数少ない特級呪物―――じゃなかった、完全聖遺物『デュランダル』。

 

 俺が二課に来てからも何度か起動実験の実施計画までは立てられていたが、『ネフシュタンの鎧』の時の惨劇を危惧する米国政府や本邦政府の横槍により、計画が上がるたび中止ないしは延期されていた。

 本当にそれだけが理由かはわからないが、まぁ当たり前だわな。

 

 こいつはそもそもEUが財政破綻した際に不良債権の一部肩代わりを条件に日本が確保した剣型の完全聖遺物だ。「不滅不朽」の名が示す通り、起動されたあかつきには圧倒的なエネルギーを無尽に生み出す剣として機能する。

 しかしながら現状こいつが唯一起動したのは、移送計画の際に響の歌に反応した時だけだ。あの時は戦場となった化学プラントごとクリス(ver.ネフシュタンの鎧)にダメージを負わせたのだが、その後はここ『アビス』に再度封印されている。

 まともに使える人間がいない、という意味では特級呪物といっても差し支えないだろう。

 

 というわけで俺はこいつを触ったことがない。そもそも移送計画のときはベッドの上でお寝んねしてたしね。

 

「気は済んだか。間違っても触ろうとするんじゃないぞ」

「ん? まぁ、そうですね。たぶん触れないと思いますし」

 

 風鳴司令に注意されるも、おそらく俺は触れない。目に見えない、何かこう、バチバチとしたものがデュランダルと俺―――正確にはマヘーシュヴァラの欠片との間で生まれているのだ。

 

「そもそも、俺が此処へ来たのはただの『ついで』ですので」

「何だと?」

「『カ・ディンギル』―――それを見たかっただけです」

「『カ・ディンギル』だと!?」

 

 あ、言ってなかったっけ。

 

「『カ・ディンギル』とは天を貫く巨塔。かつてヒトが神に近づかんとし、罰を与えられた建造物」

「巨塔―――では、このエレベーターシャフトが?」

「でしょうね。でもこの内部のペイントは何なんだろうなー。設計者の趣味? 思想? それとも何かの記録? 一から作ったのではなくて元々此処にあったとか? でもなぁ、元になった建造物があったとしてもシュメール神話だから日本じゃなくて中東だろうし、それは無いか。うーん、それにこの局所的なピラミッド構造に何の意味が……あ、デュランダルの出力をここで増幅しようってこと? ははーん、我が国の血税が異国の技術にこうもつぎ込まれるとはねぇ」

「……アリアくん」

「ふむふむ」

 

 いや待てよ……そもそも荷電粒子砲なわけだからどっかで加速させなきゃならんわけだ。あーなるほど、底面と側面部分を擬似鏡面化することで円形加速だけじゃなくレーザー方式で……とすればあのペイントも……

 

『ゴツン!』

「痛ぁ!!」

 

 何すんじゃい! 素手でネフシュタンの鎧を欠けさせることが出来る奴が、濫りに美少女に手を上げるんじゃないやい。

 

「話の途中だ。つまりここがフィーネ……了子くんの言っていたカ・ディンギルに間違いないのだな」

「いつつ……えぇ、そうですよ。高い建造物なんて作っていたらバレバレです。なら逆に地下へ潜るしか無い。ここなら動力源になるデュランダルまでご丁寧に設えてある」

「これで彼女は何をしようと……」

「それは彼女から直接聞いてください」

「……誘い込むか」

 

 いやーキツいっしょ(ikze感)。

 

「彼女単独ならまだしも、ソロモンの杖がありますからねぇ。ノイズに襲われたらリディアンと一課に被害が出かねませんよ? 責任、取れます?」

「……兄貴にとらせる」

 

 わぉ、だいたーん。まぁ娘(娘とは言っていない)にゲロ甘な兄上ですからね、何とかなるか。

 

「翼と響は出撃させるとして、俺の配置は?」

「もちろん君も出撃だ。クリスくんも加えて考慮したとしても、君は単独で飛行できるから身軽だろう」

「航続距離には不安がありますけどね」

「気合と根性で何とかしろ」

「権力の横暴だー! 我々装者は団結して労働者の権利を……『ゴツン!』あ痛ぁ!」

 

 二度もぶった……おやじにもぶたれたこと無いのに!

 まぁさすがにうちの司令は『貴様は虫けらだ、殴って何故悪いか』なんて言わないけどさ。

 

「……身長が3cmほど縮んだ気がします!」

「大丈夫だ。今晩には3cmほど伸びているだろうよ」

「それ、たんこぶ!」

 

 まぁ、風鳴司令も冗談口が叩ける程度にはリラックス出来ているようだ。

 

 彼はフィーネから甘ちゃん呼ばわりされるし、肝心なところで詰めが甘い印象を原作からは受けるけど、実際はこうして命の選別が出来る程度には大人だ。見た目と印象に反して冷徹と言ってもいいだろう。

 

 風鳴家は風鳴八紘、先ほど言及しかけた翼の()()()()父親を嫡男としているが、弦『十』郎という名前から判断するに10人兄弟以上ではあると考えられる。

 その中で弦十郎は前任である前当主・風鳴訃堂から特異災害対策機動部二課の二代目司令官として抜擢された。つまり弦十郎の甘さを抜きにしても他の兄弟たちでは護国の任務を託すことが出来なかったのだ。

 

 あとの8人は一体どこで何をしているのか。

 

 いや、ちょっと待てよ……まさか俺の父親って風鳴の一族じゃあ無いだろうな? 怖っ。どうしよう、今まで気にしたことなかったのに急に怖くなってきたわ。

 

「DNA、調べてみるか……」

「何だ?」

「いえいえお気になさらず独り言ですのでぇッ!」

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 司令室ではオペレーター陣が勢揃いでカ・ディンギルの情報を集めている。

 どう考えても無駄足だが、先ほど風鳴司令にアイコンタクトで「言うのか」と尋ねたところ、首を振られたので黙っていろということだろう。

 

 暫くオペレーター陣の様子をうかがっていると、警報音が鳴り響いた。

 

「飛行タイプの超大型ノイズが3体―――いえ、4体出現!」

「装者たちに連絡! 直ちに現場へ急行させろ!」

「響さんは外出中! 翼さんはリディアンです! アリアさんは―――」

「ここに居るよぃ!」

「翼さんと共に出撃を!」

「アイアイサー!」

 

 ロッカーからヘルメットを引っ掴み格納庫へ駆けつけると、ちょうど翼が入ってきたところだった。

 

「待ったか!?」

「今来たところッ!」

 

 翼がバイクに飛び乗ると、俺は続けて後部シートへ飛び乗った。

 勢いよくエンジン音を響かせ、公道に飛び出していく。街中はノイズから避難している人が目立ち、目的の東京スカイタワーまでは暫くの距離がある。

 

「ナビゲートは頼むぞ、アリア!」

「お任せあれ!」

「しかし、大型が4体とは……今までとは規模が違うな」

「……フィーネの仕業だろうね」

「ああ、許しては置けん!」

 

 ノイズはバビロニアの宝物庫と呼ばれる亜空間に格納された、先史文明期の人類により作り出された「人間を殺すために作られた兵器」である。

 

 奴らは位相差障壁によって物理法則の外におり、りょーこさんによればノイズ自身の『現世に存在する比率』を自在にコントロールすることで、物理的干渉を可能な状態にして相手に接触できる状態、相手からの物理的干渉を減衰・無効化できる状態を使い分けているとのことだ。シュレーディンガーのノイズかな?

 ニュートン力学じゃなくて量子力学の範囲にいるという意味ではあながち間違ってはいないだろう。

 

 そんな奴らも様々なタイプがあり、どうやらソロモンの杖はある程度どのようなノイズを呼び出すかコントロール出来るようだ。今回は強襲空母型ってところかな。

 

『翼さん、アリアさん、超大型飛行ノイズは各個に東京スカイタワーへ侵攻中です。お二人は直接現地へ急行してください』

「こちらアリア、了解。―――だとよ、お姫様!」

「ああ! だが私のバイクはじゃじゃ馬だぞ!」

 

 じゃじゃ馬は翼の方では? アリアは訝しんだ。

 

 前の翼のバイクはジュラル星人ノイズに特攻したため、尊い犠牲となった。納入されたばかりのこの子は果たしてどのような結末を辿るのであろうか。

 

「あ、安全最優先で頼むよ?」

「無論、市民の安全が最優先だ!」

 

 あ、ダメかもしれない。

 一抹の不安を覚えながら翼の腰を掴み、共に前傾姿勢を保つ。手のひらを介して翼の温もりが伝わってくる。

 

 季節は間もなく夏を迎える。こんな逼迫した状況の中でも翼と、そして風と一体となる心地良さを翼の背中で感じてしまう。

 一人では感じることの出来ない暖かさ、冷たさ。羽よりも命が軽いこの世界で見つけることの出来た、俺の居場所。

 

 そんな温度を感じながら、徐々に自分のテンションを戦闘仕様に高めていく。

 

「―――見えたッ! 翼!」

()ッ!」

 

 翼がバイクのスピードを上げる。強襲用ヘリコプターの音が空から響く。

 音につられて空を見上げると、ヘリから響ちゃんが降下してくるのが見えた。ついこないだまで一般通過JCだったくせに、あの度胸の付き方は流石と言うか何と言うか。変身するとは言え、紐なしバンジーとか絶対に女子高生のすることじゃないよな(自分から目をそらしながら)。

 

「翼! 俺は空から仕掛けてあのデカいのを何とかする! 翼は響ちゃんと合流して地上付近のノイズを!」

「応ッ!」

 

 

Prajatroi Mahesvara tron

 

Imyuteus Amenohabakiri tron...

 

 

 俺が飛び立つと同時に翼もシンフォギアを纏う。

 あー! やっぱりバイクを使い捨てにして!

 

 空では行き掛けの駄賃と言わんばかりに響ちゃんが拳で空母型を撃ち抜いている。

 ほんと、頼りになるようになったなー。

 

「響ちゃん、空は任せろ!」

「はい!」

 

 全身のバーニアをコントロールし、宙に浮かぶようにして残り3体となった空母型の位置を確認する。

 

「小手調べと行こうか! ふんッ!」

 

 牽制に両手の珠からエネルギー波を打ち出すが、相手の装甲に阻まれて有効なダメージを与えられていないようだ。

 なら溜めてパーシュ(以下略)かマハーバーラタを……

 

「チイッ!」

 

 どうやら様子見をさせてくれる余裕は無さそうだ。周囲に展開された鳥型ノイズがこちらを目掛けて襲いかかってくる。

 

「チャンドラハースよ!」

 

 飛ぶ武器庫とは俺のことだ! 以前、翼との模擬戦で使っていた片手剣を取り出し、すれ違いざまにノイズを消し炭に変えていく。空中なら槍よりも剣のほうが取り回しが効く。

 

「あとどれくらいだ……10、20、100、いっぱい! ちくしょうッ!」

 

 バーニアを全開に噴かして空中でターンし、鳥型の突撃をいなす。

 

「カットバック・ドロップターン! はーはっはっは! 当たらなければどうということは無い!」

「格好良い、アリアさん!」

「アリア、巫山戯るのも大概にしろ! 頭上を取られると鬱陶しい! とっとと撃ち落とせ!」

「わーってるよ! 出来たらやってらい!」

 

 避けてばっかりじゃ状況は好転しないし、溜める時間を何とか作らなくては……

 

「南無三……Wake up! サード・アイ!」

 

 覚悟を決めて近場の高層ビルに向かって空を駆け上がり、ビルの屋上に着地する。ええい、(まま)よ!

 両手の拳を胸の前で打ち鳴らす!

 

 

MAHABHARATA

 

 

「よっしゃあ!」

 

 収束されたエネルギー波が鳥型を巻き込みつつ空母型の1つを貫き、空中で大爆発を引き起こす。

 

「残り2つ!」

「危ない、アリア!」

「―――なっ!? ぐうッ!」

 

 爆炎に紛れた鳥型の強襲を受けてしまった。何とか身体を捻って直撃は避けたものの、左肩と右脚を掠めてしまった。血が少しばかり滲んでいる。

 

「アリアさん、避けて!」

「何!?」

 

 ダメージに気を取られた瞬間、残っていた数十の鳥型の一斉攻撃が襲ってきた。避けられねえ……ッ!?

 

 

BILLION MAIDEN

 

 

 被弾を覚悟した瞬間、横からガトリングの掃射がノイズの群れを襲った。

 

「お前、これで貸し借りナシだぜぇ?」

「クリスか!?」

 

 地上を見ると、イチイバルに身を包み不敵な笑みを浮かべるクリスがいた。俺は地上に降り、クリスを出迎える。

 

「勘違いすんなよ? お前らの助っ人になんか来たつもりはねえ。無理やり渡された通信機がピーチクパーチクうるせえのと、ソイツへの借りを返しに来ただけだ」

「まだ公園で一発殴られたのとギターの弁償が残ってんぞ」

「うっせえ! 助けられて文句言うな!」

「クリスが言うなし!」

「「何をー!!」」

「止めんか、二人とも!」

 

 クリスと顔つき合わせて睨み合っていると、翼に止められた。響は駆け寄ってきて抱きつき、仔犬のようにクリスにじゃれついている。

 

「クリスちゃーん! ありがとー! 絶対にわかり合えると信じてた♪」

「このバカ! あたしの話を聞いてねえのかよ! お前らを助けに来たわけじゃねえ! ……兎に角、あたしの邪魔はすんなよな!」

 

 クリスは少し顔を赤くしながらそう叫ぶと連弩とガトリングをぶっ放し、突撃をかます。

 突撃は嫌いじゃないが……悪手だ。

 

「砲台が無闇矢鱈に移動してどうする! 止まれ!」

「ちんたらやってるお前らに合わせてられっかよ!」

 

 こうしてる間にも2体となった空母型ノイズはスカイタワーの周りを旋回し、小型、中型を撒き散らしている。いくら面攻撃に優れたイチイバルとて散発的な対応ではジリ貧になりかねない。

 

「クリス! 止まれと言ってるだろう!?」

「何だよ! あたしは今まで一人で戦ってきた! 確かにあたし達が争う意味は無いかもなあ。だからって、争わない理由もあるものかよ。こないだまでやり合ってたんだぞ! そんなに簡単に人と人が……」

「出来るよ! 誰とだって仲良くなれる」

 

 響がクリスと俺の手を取る。

 

「どうして私にはアームドギアが無いんだろうって、ずっと考えてた。いつまでも翼さんやアリアさんに守られて、半人前はやだなぁって」

「響ちゃん……」

「でも、今は思わない。何も手に握ってないから、みんなとこうして手を握り合える。仲良くなれるから……ね!」

「立花……」

 

 翼は剣を地面に突き立て、片方の手を俺と握り、もう片方をクリスに差し出す。

 

「ひゃっ……このバカにアテられたのかぁ!?」

「そうだと思う。そして貴方もきっと」

「じょ、冗談だろ?」

「ふっ」

 

 翼と繋ぎかけた手を恥ずかしげに離すクリス。

 何かの本で読んだが、ネグレクトにあった子どもは一次的接触を極端に拒むことがあるそうだ。クリスもまた、一度手に入れたものを手放すことを恐れているのだろう。

 

 だが甘いな。この底抜けに真っ直ぐな立花響という女の子は、ちょっとやそっとじゃ手を離してくれないぞ?

 

「―――来る!」

 

 俺の言葉に三人が空を見上げ、空母型のノイズが接近してきているのに気付いた。

 

「折角いい感じだったのに、邪魔すんじゃねえよ、クソッタレめ」

「―――だったらあたしにいい考えがある」

「奇遇だな、俺もだ」

 

 

「「とっととぶっ飛ばす!!」」

 

 





タメイキさん、no_name_さん、ayataneさん、レータさん、評価ありがとうございました!

【マヘーシュヴァラの武装】
・トリシューラ:三叉の槍。右の腰から出てくる。
・ヴァジュラ:伸縮自在の棍。投げても戻って来る。左の腰から出てくる。
・チャンドラハース:片手剣。普段はビームサーベルみたいに柄だけ右肩に刺さっている。
・光輪:アリアが『フィン・ファンネル』と呼んでいるもの。普段は羽の形をしている。
・ヴィジャヤ:弓。本編未登場。
・パラシャ:大斧。本編未登場。
ご覧の通り近接に偏った構成なのですが、これは神話のシヴァ神がこんな感じなので致し方ないのです。
俺だって盾とかビームライフルとか持たせたいよ。(本音)

みなさんの好きなシリーズは?

  • 無印
  • GX
  • AXZ
  • XV
  • 未視聴
  • パチンコ・パチスロしかしらない
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