TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから!   作:桜霧島

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Q S I
急に 仕事が 忙しくなったので



愛しているから傷つける

 

 昼間にノイズの大群と戦い、その後全力疾走でトンボ帰り。リディアンを襲うノイズを片付けたと思ったら、そのままラスボス戦に突入。

 

 息が整わない……辛い……。今にも体力が尽きそうだ。

 正直、このまま倒れ込んでしまいたい。

 

 文句を言っていてもしょうがない。半分わかってて飛び込んできたから自業自得だし、一課と自衛隊の損耗をちょっとは軽く出来たと思う。そういう意味では億単位のコスト削減をしているわけだ。

 

 歌うという動作は息を吐き続けることだ。そも、戦うという動作も同じく息を吐くか、止めるかという動作だ。つまりシンフォギアというのは機能からして長期戦を想定していないのだ。

 

 だけどもう少しだけ、俺に力を……!

 アンコールの演奏はミュージシャンの本望だろう……!

 

「……推して参る!」

 

 トリシューラ(三叉の槍)を構え、精一杯の気構えを吐く。

 

 

IMPERIAL EDGE

 

 

 フィーネが鎧から棘鞭を伸ばし、こちらを打ち据えようとしてくる。2本しか無いはずなのに、まるで無数の鞭で襲い掛かられているようだ。鞭独特の読み辛い軌道に加え、棘が攻撃範囲の幅を増やして俺の逃げ場を削ってくる。

 

 機先を制された俺はフィーネの周りに大きく円を描くように、回避に専念する。

 

「アハハハハハッ! 威勢が良いのは口だけなのかい? 逃げて回ってばかりなら、サッサと終わらせましょうか!」

「ちッ……!」

「アリア、私の前から消えなさい!」

「そいつは! ちょっと! ご勘弁ッ!」

 

 最初のうちは避けきれていたが、暫くするとやはり体力の限界か全てを避けきることは出来なくなり、時間を経るにつれトリシューラを使って捌くのがやっとになってきた。『ガガガッ』という削るような音と衝撃が腕を通して伝わってくる。

 

 だけど守ってばかりでは駄目だ。攻めなければ。

 

「くッ……おらぁッ!」

「その程度、ネフシュタンの鎧の前では蚊に刺されたようなもの!」

 

 離れ際に何とか一撃を入れることが出来たが、まるで効いちゃいない。僅かなダメージでは鎧の再生能力を超えられない。

 手を変え品を変え反撃の糸口を探るが全く見えてこねぇ……。どこかで絶唱を使うタイミングがあれば形勢を変えることができるのに……!

 

 ならば捨て身でこそ拾える身あれ!

 

「フィン・ファンネル!」

「ちょこまかと鬱陶しい……!」

「せいッ!」

 

 上下左右からの射撃とトリシューラを振り回すことでフィーネに圧を掛ける。

 おまけとばかりに拳からエネルギー波を放ちつつ、距離をとり胸の(うた)に集中する。今なら……!

 

「Gatrandis babel ziggurat……」

「歌わせないわよッ!」

「しまッッ……げふぅッッッ!?」

 

 絶唱しようと無防備になった状態で棘鞭の直撃をくらってしまった。地面に打ち付けられ、意識が飛びそうになる。―――いや、一瞬飛んだが痛みで現実に引き戻されたという方が正確か。

 何とか手足は動くが、動くだけだ。目から火花が飛んでいる。打ったときに頭を切ったか、髪から血が滴り落ちる。

 

「私の勝ちよ、アリア。安心なさい、直ぐにカノンのところへ送ってあげる」

 

 ……情けねえ。

 

 昼間は昼間でいいトコ無かったし、今は今でネフシュタンにダメージ1つ与えられねえ。

 俺はいつもそうだ。ダリアを亡くした時も威勢ばっかり、肝心な時に役に立たない、誰も救えない。後悔ばかりの人生だ。

 

「貴女の絶唱……アレを此処で使われるとカ・ディンギルごとこの一帯が焼け野原になりかねないわ」

 

 呆れ混じりの声を出しながら、動けなくなった俺にとどめを刺すため彼女が近づいてくる。

 もう身体は動かないが、俺は首だけを彼女の方へ向ける。

 

 ―――遠目から光?

 あぁ、そうか。俺は負けたが、俺()()はまだ負けちゃいない。

 

「何が言い遺すことは?」

「……ふん、月を見上げてばかりいるから、足元を掬われるんだ」

「何ぃッ!?」

 

 

 “Ya-Haiya- セツナヒビク Ya-Haiya- ムジョウヘ”

 

 

千ノ落涙

 

 

「ちぃッ! 時間を掛けすぎたか!?」

 

 俺を守るように空から降る千の刃がフィーネを襲う。

 間一髪助かった……こっちはボロボロだぜ。ようやく天剣絶刀・天羽々斬のお出ましだ。

 

「アリア! 良くぞ耐えた!」

「アリアさんッ! 血が!?」

「フィーネ……!」

 

 駆け付けた響ちゃんに抱きかかえられる。

 

「遅ェよ……もう少しで俺だけで倒しちまうところだった……」

「喋っちゃダメです! 血が!」

「いいや、みんな。よく聞け……永遠の刹那を生きる巫女・フィーネ。その正体は櫻井了子だ。月を破壊し、世界をその手にしようとしている。俺たちは騙されていたんだ」

「何だとッ!? 櫻井女史が!?」「えぇッ……了子さんが!?」

「すまんが、後は、頼む……」

「アリアッ!?」

 

 俺は疲労の限界を迎え、意識を手放した。

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 ―――やぁ、また会ったね。

 

 お、そうだな。

 

 ―――アリアちゃん、下手っぴだよ。ボクの使い方が本当に下手。

 

 うるせぇ、ハンチョウかよ。

 

 ―――いつまでも前の身体に引きずられすぎ。キミの歌は、もう世界にだって届くんだから。

 

 そうは言ってもよ、何かこう、アドバイスとか無えのかよ。

 

 ―――そもそもキミ、『自分は物語の異物だから』とか『歴史を捻じ曲げちゃう』とか『誰かの役割を奪っちゃった』とか思ってない?

 

 そりゃあ、ね。そもそも俺なんか居なくたってストーリーは進むし、何やかんや響ちゃんがグーパンで世界平和を勝ち取ってハッピーエンドになるだろ。

 

 ―――ならないよ?

 

 ……はあ? そんなわけあるかよ。

 

 ―――キミの知ってるストーリーならそうなんだろうね。でも、キミが居ようと居まいと、ボクが存在している時点でストーリーは書き換わってるんだ。確かにキミが居なくてもストーリーは進むだろう。でも、ハッピーエンドとは限らないよ?

 

 じゃあ俺にどうしろと?

 

 ―――そりゃあ、キミがよく知っているだろう。ほら、奏ちゃんが言ってたじゃない。『諦めたらそこで試合終了ですよ』って。

 

 違えよ、『生きるのを諦めるな』だ。安西先生かよ。ややこしくなるから小ボケを挟むな。

 

 ―――まぁどっちでもいいんだけどさ。ところで、キミはそこまで人類を救いたいとかそういうこと考えてないでしょ?

 

 そらそうよ。俺は俺だけのために歌う、戦う。翼の隣で、愛する人のために歌うたけだ。見たこともない奴なんて知らん。……それにお前だって言ってたじゃないか。俺が転生してきたのも『偶々そこに居たから』なんだろ? なおさら好き好んで戦おうなんざ思わねえよ。

 

 ―――でもさ、キミがやらなきゃ多分みんな死ぬよ? 翼ちゃんも、響ちゃんも、まだ見ぬ友達になれたかもしれない人達だって。

 

 ……卑怯な言い方をする。気に食わねえ。

 

 ―――じゃあ言い方を変えよう。キミだって音楽を始めるにあたって、夢とか憧れとかあったんじゃない? 何だっけ、そう……『山よ、銀河よ、今日こそ動かしてやるぜッ』て。

 

 まぁ、そりゃあったけど……。

 

 ―――夢を叶えるためにキミが歌う。翼ちゃんは守れる、ついでに人類地球も救える。みんなハッピーじゃない。

 

 何か胡散臭ぇな……。

 

 ―――まぁね、自覚はあるよ。兎に角ボクが言いたいのは、キミは恥も外聞も遠慮もなく全力を出して()わなきゃ生きられないってことさ。

 

 ……まぁ、今はその言葉を信じておくよ。それはそれとして話は最初に戻るが、何かコツとか無いのかよ。お前の武器は多いが、全部が全部を使いこなせねぇ。だいたいのシンフォギアはこんなに無いぞ。シュルシャガナだって使い方変えてるだけで基本は丸鋸だし。

 

 ―――うーん、しょうがない。じゃあボクが()()()()()()()()()。ちょーっと痛いかもしれないけどね。

 

 痛いくらいで済むならかまわん、頼む。もうこれ以上、役立たずはごめんだ。

 

 ―――あとは、キミがどれだけ世界を愛せるかだ。キミは間違っちゃいない。ボクは……

 

 あ、おい! 気になるところで消えるな!

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 どれくらい意識を失っていたのだろうか。辺りの地面は先ほどよりも荒れており、ふと見上げると、カ・ディンギルが聳え立っている。その向こうには―――欠けた月だ。

 

「あっ……ぐッ……!」

 

 体中が軋み悲鳴を上げる。戦況はどうなってるんだ……? 月が欠けてるってことは、クリスは散っていったのか? このクレーターは響ちゃんの暴走? 翼は、フィーネは……?

 

 あ、翼の歌が聞こえる―――

 

「―――今日に折れて死んでも……明日に人として歌うために。風鳴翼が歌うのは、戦場(いくさば)ばかりじゃ無いと知れ!」

「人の世界が剣を受け入れることなど、ありはしない!」

 

 50mほど先から二人の声が聞こえる。

 翼が戦っている―――傷だらけで、身体に穴をあけながら。

 

 

 “去りなさい! 夢想に猛る炎 神楽の風に滅し散華せよ”

 

 

 天羽々斬とカ・ディンギルの織り成す光に照らされて、ようやく周囲の様子がわかってきた。

 響ちゃん―――ガングニールはやはり暴走してしまったらしい。翼の『影縫い』により動きを止められているのか、微動だにしない。

 

(羨ましいな……)

 

 翼の胸の傷は暴走したガングニールによってあけられたモノだろう。翼は身を挺して暴走する彼女を縛り付けたのだ。そのことを察した俺はまるで場にそぐわない感情を抱いてしまった。

 基本的には良いことだと思う。俺があれだけ原作をかき乱したにも関わらず、翼が響ちゃんを仲間だと大事に想い、彼女の可能性を信じているということだから。

 

 だけどその感情は『そこには俺が居たかった』という、独善的極まりない思考の産物でもあるのだ。

 ダリアを亡くし、居場所を失った俺。奏さんを亡くし、歌う指標を失った翼。俺たちは時に傷つけ合い、時に傷をなめ合いながらこの2年間を過ごしてきた。

 翼は美しい刀剣だ。折れようとも砕けようとも、愚直に眼前の敵を切る。俺に足りないのはその愚直さだ。だからこそ彼女に憧れ、誰よりも近づきたいと思ったのだ。

 

 

 “嗚呼 絆にすべてを賭した 閃光の剣よ”

 

 

 棘鞭を華麗に避けながら翼が斬撃を繰り出すとフィーネに傷を負わせるが、フィーネはすぐさまネフシュタンの鎧の力で再生する。

 再生能力を上回る火力を求め翼が【天ノ逆鱗】を繰り出し、フィーネは棘鞭を変形させ、それを防御する。

 アレはよく翼が使う技だ。わざと大技を使い相手に防御を強制させ、本命の攻撃が本体を狙ってくる。今回の場合、翼が狙っているのはフィーネを斃すことじゃない、カ・ディンギルを打ち壊すこと。

 

 だがこのままだとフィーネの妨害に……

 

 

 ―――見てるだけで良いのかい、相棒をさ?

 

 良くねぇよ。だから手を貸せ、マヘーシュヴァラ!

 

 

 腕が満足に動かないので肘を使って上半身を起こす。刹那、背中から激痛が襲う。

 

「があぁぁぁぁッ!?」

 

 何だ……!? マヘーシュヴァラが変形して……!?

 

「手を貸すって……文字通りかよ!」

 

 激痛を耐えると、新たに左右一対の機械仕掛けの腕が生えてきた。

 なけなしの体力をさらに犠牲にして攻撃手段を加えてくるとは……俺の好みだぜ!

 

「翼ぁッ!」

「アリアッ!?」

「飛べぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 

炎鳥極翔斬

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉッ! この(かいな)なら!」

 

 バーニアを噴かし、翼を打ち落とそうとする棘鞭を新たな腕を使って阻む!

 

「アリアッ! この期に及んでまだ邪魔をするかッ!?」

「翼が舞うことを邪魔させるものかよッ!」

「アリアぁッ! 立花ぁッ! 見ていろ、これが防人の生き様だぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 高速で身体ごとカディンギルに突っ込んでいく翼。

 発射体制に入っていたと思われるカ・ディンギルは横っ腹に穴を開け、行き場を失ったエネルギーを暴発させながら崩壊した。

 

「お見事、翼」

 

 さて、乗り遅れた分は取り戻さなきゃな、響ちゃん。

 





・難産でした。
・アリア視点以外も書きたかった。無印編が完結した後に気が向いたら加筆します。視点がコロコロ変わるの嫌いなんですよね。やるとしたら閑話かなぁ。
・翼とアリアの絆について補足ストーリー作らないとダメだよね……。
・最初からマヘーシュヴァラは腕を生やす予定でしたが、アプリで翼の夢幻大輪・散刃が出たタイミングと被るという……。
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