TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから!   作:桜霧島

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神様なんて信じちゃいない
正義なんてまやかしそのもの
三叉の槍の向かう先は
キミの敵を穿つ軌跡




守りたいもの

 

 

 ツヴァイウィング……天羽奏と風鳴翼によるアイドルユニットだ。

 つまりこれは原作が始まるということに他ならない。

 

(どーすっかねぇ……行けばおそらく死ぬ。行かなくても特に問題は無い、むしろ行きたくないまであるが……)

 

 でも観たいよねぇ。奈々様……もとい、SAKIMORI……もとい、風鳴翼の生歌。カッコいいとカワいいが同時に楽しめる、一粒で2度美味しいライブになることは間違い無い。

 前世で音楽を演っていた身としては、この世界の技術を詰め込んだこのライブを観たいという気持ちもある。

 

(逃げやすい位置に入れば大丈夫か……?)

 

「アリア、固まっちゃってどうしたの?」

「あ、いや、1枚しか無いから忍びないなと思って」

「ウフフ。大丈夫よ、ほら」

 

 そう言いながらもう1枚、チケットを取り出す。

 

「ステージから遠い席だけどね、何とか1枚は取れたのよ。だから、一緒に行きましょ♪」

 

 逆に安心出来ねえんだよなあ。

 

 ダリアはカノンが亡くなってからというものの、俺の前ではまるでママのように努めて明るく振る舞うようになった。

 だけど俺は知っている。時折ママの遺影の前で涙を流していることを。

 俺も似たようなもんだから何も言えねえけど。

 

 ダリアがママに向けていた感情は正直よくわからん。恋慕なのか友情なのか親愛なのか。でも、少なくともこの10年で俺がダリアにもらった愛情だけは嘘なんかじゃないと信じている。

 

 40手前になったんだろうが、相変わらずダリアは美しいままだ。男の影すら見当たらない。こんな美人を俺みたいなヤツに縛り付けるママの呪いは半端ねえな。

 だからこそダリアにだけは危険な思いをして欲しくない。いざというときには―――命懸けで守ってやる。

 

 だから俺はこう答えるしか無かった。

 

「―――うん、一緒に行こう」

 

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 

 ライブ当日になった。

 

 ダリアにはああ言ったものの、俺は今でも行くべきかどうか迷っている。

 逃げ切れる自信ねえんだよなぁ。貫通攻撃をされたら身を盾にしたってダリアを守れないし、スタジアムの崩落に巻き込まれることだって想定される。

 ノイズだけじゃなくって『ネフシュタンの鎧』強奪に巻き込まれても死ぬ自信がある。

 

 あーもうこれわかんねえな!

 

「アリア、準備はできた?」

「うん、でも―――」

「どうかした?」

「やっぱ、行くの止めない?」

「どうしたの? あれだけツヴァイウィングのこと好きだったのに」

 

 いや、好きは好きなんだけど、奈々様が好きというか風鳴翼が好きというか。死の危険を冒してまでも行きたいわけではないというか、決意が鈍ってきたというか。

 

「むぅ……」

「いい、アリア?」

「なに?」

「『悩んだ時は、心の楽しい方を選ぶ』のよ。貴女のママもそう言っていたわ」

 

「―――わかった。じゃあ……行こうか!」

 

 なに、一度拾った生命だ。ダリアのために使えるなら、ダリアが笑顔になれるなら安いものか。いざという時は生命という名の盾になろう。

 

 もしかしたら、ママが守ってくれるかもしれないしね。

 

 胸のペンダントを握りしめ祈りを捧げると、私達は手を繋いでコンサート会場へ向かった。

 

 

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 

 これがツヴァイウィングのライブ……! 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!! もうっ!! 最ッッッ高だぜッ!!!!」

 

 誰も彼もが雄叫びをあげながらサイリウムを振る。正気と狂気の(はざま)、狂気寄り。

 生の風鳴翼もロリ味を残しつつ可愛いが、天羽奏のシャウトもまさに魂を震わせる叫び……!

 ごめんよ、コ●ン君がチラつくとか言って。

 

 前世でも大きなライブハウス、小さなライブハウスに足繁く通った俺だが、ここまで観客を熱狂させるライブは今生を通じても初めてだ。

 

 これが……シンフォギア装者の歌……!

 

「ぐぁっ!?」

 

 熱ぅッ!? 何だ!? 胸のペンダントが光って……

 

『まだまだ行くぞぉぉぉ!!』

 

 これはもしや……『ネフシュタンの鎧』の覚醒に呼応して?

 いや、まさか俺自身の―――

 

 

 

 

 

 その時、俺の前方で爆発が起こった。

 

 

 

(始まってしまったか……!)

 

 

 こんな事もあろうかとダリアの居場所は掴んである。右後方約300メートル……よし、爆発にも巻き込まれていない。

 俺は爆発とほぼ同時にダリアの方角へ駆け出していく。

 混乱する群衆が鬱陶しい。お前らなんぞ俺たちの盾になっていればいいんだ。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、……ダリア!?」

「アリア!? 無事なの!?」

 

 よし、シミュレーション通り合流出来た。後はここからの脱出だが……来たか!

 

「ノイズ!?」

「ダリア、走って!」

 

 ダリアの手を取り非常口の方へ駆け出すが、群衆に紛れる形になってしまった。ダリアとの合流に少し時間を掛けすぎてしまったか。

 上空から迫るノイズとグラウンドレベルから迫るノイズを振り切らなければならない。

 ノイズとの距離は上空を無視すれば100メートルといったところ。

 ……大丈夫、行ける!

 

 だが非常口もいくつかが崩落して使えなくなっている。

 

「チィッ! 退けぇ!」

 

 瓦礫を避けながら、群衆を掻き分けながら出口を目指す。

 ダリアの席がアリーナから遠かったのが助かった。二人とも前列なら助からなかっただろう。

 今頃ツヴァイウィングの二人も戦っているのだろうか。地下の特異災害対策機動部二課は……ヤバいんだろうな。

 オッサンも忍者も肝心なときに役に立たない。体鍛える暇があったら知能を鍛えろってんだよ。

 

 ……ヤバいのは俺もそうかもしれない。

 

 先ほどから胸のペンダントが熱を持ったままだ。チッ、なんてものを俺に渡しやがるんだ櫻井了子(フィーネ)の奴は。

 ママが亡くなった後、俺たちのところへ来た櫻井了子が既にフィーネだったのかどうかはわからない。櫻井了子なら打算無しの可能性が微レ存だが、フィーネなら何らかの意図を持って渡してきたことは確実だ。

 

 そうこう考えてる内に出口が近づいてきた。ノイズは……見える範囲には居ない。良かった、助かる―――!

 

「ダリア! もうすぐ出口だ!」

「―――!? アリア、危ないッ!」

 

 出口に気を取られていた俺は落下してくる天井に気づくのが一瞬遅れた。

 

 

 

 どん、という衝撃を身体に受け、俺は瓦礫が散らばる床に勢いよく倒れ込んだ。巻き上がる埃が視界を遮る。

 

 

 

 

「げふっ! げほっ! ぐッ……だ、ダリア、無事か!?」

 

 

 埃が落ち着いた時に見えたのは、下半身を天井の下敷きにされたダリアと……徐々に迫りくる人型ノイズだった。

 

「ダリアッ! ダリアッ!」

「アリア、逃げて……」

「出来るかよぉッ!」

 

 瓦礫を持ち上げようとするが女子中学生の力ではどうにもならない。絶望感だけが込み上げてくる。

 

「いま、助けるからッ! すぐにッ! だからッ! ()()()()()()()()()()()()()!」

「アリア、私を置いて逃げなさい……」

「嫌だよ……嫌だよ……! 俺、一人じゃ何も出来ないよ……ママもダリアも居ない世界なんて意味がないよ……ッ!」

 

 顔中から液体が流れている。涙も、鼻水も、血も。さっき倒れた時にどこかで打ったみたいだ。瓦礫を支える手のひらからも血が流れている。

 

「ぐッ……!うぅ……ッ!」

「アリア……可愛い娘……私とカノンの娘……どうか……あの娘の分まで生きて……」

「ダリアッ! ()()()()!」

 

 ダリアは俺に優しく微笑みかけると、力強く俺の身体を手で突き放した。

 その瞬間、更に上層部が崩落してノイズとダリアを押し潰した。

 

「ダリア!? ダリアぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 何が生命を盾にするだ、何が命懸けで助けるだ。俺は何一つ守れやしない……俺は……俺は、無力だ……!

 

 

「ぐッがあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 ダリアのいる瓦礫を呑み込みながらノイズが迫ってくる。まるで獲物を甚振(いたぶ)るように緩慢な動作で。

 クソったれ。自我なんて無いくせに……。

 

 

 

 ―――もう、此処で終えてもいいのかもしれない。

 

 折角ダリアに託された生命だが、前はノイズ、後ろは瓦礫の山で動こうにも動けない。

 ダリアのお陰で何十秒か、生き延びただけだったな。

 

 

 

 ごめん、母さん。

 

 

 

 ごめん、ママ。

 

 

 

 ごめん、ダリア。

 

 

 

 みんな、愛してる―――。

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

 

 

 

 

 

 その時を迎えるべく目を閉じていると、あの歌が聞こえてきた。

 

「歌……」

 

 そうか、(天羽奏)は正しく生命を使えたのだな。

 

「羨ましい……」

 

 瓦礫や壁に遮られ、遠く離れているはずの彼女が歌う声が聞こえる。すると光の奔流が辺りを染め、俺の目の前に居たノイズ達を炭に変えていく。

 

 なんと美しい歌声なのだろうか。

 

 俺はノロノロと立ち上がると、歌の聞こえた方へ歩き出す。

 何か意図があってそうした訳じゃない。強いて言うなら出口が塞がっているから、助けが来るであろうステージのほうが良いかもしれないと思ったからだ。

 

「ありがとう、ダリア……」

 

 彼女の作った何十秒かは、俺を死の淵から生の側へと引き寄せることになった。彼女もまた、正しくその生命を使ったのだ。

 

 間違えたのは、俺だけだ。

 

 悲しみを通り過ぎると、怒りしか湧いてこない。

 なぜ危険を承知でこのライブ会場に来てしまったのか。

 なぜダリアを連れてきてしまったのか。

 なぜ自分は逃げ切れると愚かにも過信してしまったのか。

 

 ―――なぜ、自分だけがのうのうと生きているのか。

 

 

 

 光が見える。意外と屋外からは遠くなかったようだ。俺は脚を引き摺りながら夕陽が照らすライブ会場へ足を踏み入れた。

 

 

 泣き崩れる防人の卵が見える。そうだ、君はここから強くなるんだ。

 

 その向こうには血を流した少女が見える。そうだ、生きるのを諦めるな。君には帰りを待つ友が居るじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「―――爆発っ!?」

 

 轟音とともに地面が弾け飛ぶ。すると、天羽奏の絶唱で駆逐されたと思われたノイズが再び現れた。

 原作ではこんな展開は無かった筈だ……。

 

 まさかフィーネ……貴様、俺が出てきたからシナリオを変えてきたなッ!?

 

 翼は―――ダメだ、奏を失った悲しみから立ち直れていない。二課の連中も来る気配がない。

 

 守れるのは―――俺しか居ないのか。

 

 胸のペンダントは相変わらず熱を持って光っている。……これに賭けるしか無い!

 

 

 

 

 

 ママ、ダリア、愛してる。

 

 

 ―――だから俺を守ってくれ!

 

 

 

 

 

Prajatroi Mahesvara tron...

 

 






無印エンディングでダリアさんの笑顔が一瞬映るのが尊いんですよね……(存在しない記憶)

ちょっとでもいいなと思っていただけたら、お気に入り登録、ここ好き、評価、感想など頂けると作者は泣いて喜んでアリアちゃんその他を曇らせにいきます。

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