TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから!   作:桜霧島

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ガングニールの少女

 

 

 不思議な少女だった。

 

 馬鹿なのかと思えば(さか)しらなことも言うし、底抜けに明るいのかと思えば(くら)く沈んでいるときもある。

 妹のように無邪気な顔を浮かべることもあれば、姉のように慈愛に満ちた顔を浮かべることもある。

 

 アリアと出会ってから2年と少しが経った。

 

 初対面は混乱の極地だった。彼女は奏を(うしな)って幾分の間もない私を叱咤激励し、ノイズを殲滅したかと思えばいきなり気を失って倒れたのだ。

 

 もちろん、最初は奏のポジションに収まろうとする、気に食わないやつだという印象もあった。だが彼女の生い立ち、家族のことを聞くと、そうも言ってられなかった。

 彼女の育ての親は私の弱さ、愚かさによって失われてしまったのだ。だが、その事についてアリアは私や他のみんなを咎めるような発言をしたことはない。彼女が正式に二課のメンバーとなり、ネフシュタンの鎧のことを知った後もだ。

 

 それからの彼女はまるで最初からそこに居たかのように二課に馴染み、訓練や実験、任務にと精力を尽くしている。

 学院生活を(ないがし)ろにしていることを除けば、装者として高い適性を持つ少女だと思う。

 

 だが彼女に対して一番感謝をしているのは、奏との想い出を大事にさせてくれることだ。

 私が酷く落ち込んでいる時、基本的にアリアは下手に声を掛けてこない。ただ側に居て優しく見守ってくれている。おそらく、私が今そこにおらず、過去と対話しているのに気づいているのだろう。

 

 唯一声を掛けてくるのは、私が間違えそうになったときだけだ。そんな時、いつもの茶羅化(ちゃらけ)た顔を引っ込ませ、私を真っ直ぐに見つめてくる。

 

 そう、優しい―――優しい少女なのだ。その少女を地獄へ引き摺り込んだのは私だ。

 

 

「翼は片翼では飛べない。俺は奏さんの代わりにはなれない。だけど―――俺は翼と、翼の夢を守ってみせる!」

「―――私も……アリアを乗せるのは嫌いではないぞ!」

「翼も意地悪だなぁ。そこは『好き』って言ってくれなきゃ!」

「フッ……だったら大人しく帰って来い、()()!」

 

 

 好きなんて言ってやらない。調子に乗ってニマニマとする顔が思い浮かぶからな。手のかかる妹と言えばしっくりくる。

 

 だけどそれ以上に『相棒』と呼ぶくらいには、お前のことを赦してやる。

 

 大丈夫。お前に独唱(アリア)なんて歌わせないさ。

 

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 

 『相棒』だなんて嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、翼!

 全力全開! 最初からクライマックスだ!

 

「司令部へ! 敵集団捕捉! これより殲滅します!」

『了解!』

「翼はこのまま直進、会敵後はガングニールの確保を優先!」

「了解! アリアは!?」

「先行してノイズをぶっ潰す!」

 

 いいねぇ、(たぎ)ってきたよ! 会話ってのはテンポが大事なんだ!

 

「ファンネル展開! フォニックゲイン、フルチャージ!」

 

 ブースト全開で敵集団へ迫ると、ぴょんぴょん飛び跳ねてノイズから逃げている響を見つける。あーもう鬱陶しい、ちょこまかするなよ!

 

「司令部へ! ガングニールの装者は民間人を保護している模様! 翼、頼んだ!」

「任せておけッ!」

『了解! 民間人の保護班を現場に急行させる!』

 

 間違えても響には当てられない……だとすれば。

 

「絡め取るように撃つ! 『ヴァジュラ』!」

 

 ヴァジュラとはマヘーシュヴァラのアームドギアの一つである『棍』だ。如意棒のように伸縮自在で、投げると手元に戻ってくるからこういうときには便利だ。

 歌で戦う俺たちにはぴったり(?)の名前だよな。

 

「どっっせいっ!!」

 

 ヴァジュラを投擲し、響を囲うように群がるノイズの外周部を一掃する。翼が内側から、俺が外側から倒していけば最短だ!

 

「うひょー! 狙いをつける必要もないぜ!」

 

 とは言いながらも出来る限り建物や設備を傷つけないように戦っている。

 翼の方も無事に響と合流出来たみたいだ。

 

 残りは―――あのビルみたいにでかい緑のノイズ。

 だが俺が手を出すまでもない。『天ノ逆鱗』が間もなくヤツを両断するだろう。

 

 所要時間は約2分。カップラーメンが出来るより早く片付いちまったな。

 

「―――状況終了。本部へ。装者2名の回収とガングニール及びその装者の確保を」

『了解!―――お疲れ様でした、アリアさん』

「あんがと。後は―――歓迎会の準備だな」

『そちらの方も抜かり無いですよ。司令と了子さんが張り切ってますから』

「仕事せぇよ」

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 二課の処理班が到着するのを待って、俺はギアを解除した。

 

「あったかいもの、どうぞ」

「あったかいもの、どうも」

「ふふっ。あの娘と同じこと言うのね、アリアは」

 

 そりゃあリスペクト元だからね。

 

「よっ! お嬢ちゃん、半日ぶりだな」

「あ、カフェテリアの……!」

「よく頑張った。―――ほら、お前が守ったものを見てみろ」

 

 頭をガシガシと撫でてやる。

 視線の先には小さな女の子が母親と抱き合っている、俺には出来なかった光景だ。

 感動的な光景に響も表情を柔らかくし「良かった……」と呟いている。

 

「あの、助けて頂いてありがとうございます!」

「おう、これで2回目だな」

「―――やっぱり! えへへ~覚えていてくれたんですね!」

 

 フヤフヤした笑顔を浮かべる響に手錠をかける。海楼石の手錠くらいがっしりしてやがんな。

 

「……というわけで二課の皆さん、対象確保!」

「えぇぇぇぇ!? あっ!? つ、翼さん!?」

「ごめんなさい。でも、貴女をこのまま帰すわけにはいきません」

「特異災害対策機動部二課までごあんなーい♪」

「うぇ!? うぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 司令室は万全に飾られていて、差し詰めお誕生日パーティーのようだ。

 部屋中にクラッカーの音が響く。この時間に家でやったらお隣さんにどやされるな。

 なお俺のお隣さんは翼な模様。

 

「翼、あの娘の相手はアホ共に任せて何か摘もう。晩飯まだだったからな」

「いや、私は……」

「お? もう9時過ぎたのか。じゃあ仕方ない。何か飲み物を……友里さん、オレンジジュース2つくださいな」

「私に構わず、アリアは食べてもいいんだぞ?」

「ん、部屋に帰ってお腹空いてたら食べるよ」

「ほんとに……」

 

 向こうでは大人組が自己紹介をしている。

 

「俺は風鳴弦十郎、ここの責任者をしている」

「そして私はぁ、デキるオンナと評判の櫻井了子♪ よろしくね♪」

 

「……オトコはデキない34歳」

「おぅこら、じゃりんこ。表出んかい」

 

 俺はジュースをストローでちゅうちゅうと飲みながらりょーこさんに小声で野次を飛ばすが、どうやら聞こえていたようだ。

 完全に岸和田あたりの血が混じってそうな恫喝だ。フィーネが表に出てんぞ。

 

「えっと……私の身体、どうなっちゃったんでしょう?」

「その質問に答えるためには、今日のことは誰にもナイショ♪ それから……服を脱いでもらえるかしら♡」

「なんでぇぇぇぇぇぇ!」

 

「賑やかなヤツだな」

「……そうね」

「翼はああいうの、苦手だろう?」

「……そうね」

 

 ジタバタしながら響が検査室へ連行されていく。どなどな。

 

 しかし響と絡ませると翼が変なストレスを溜めそうだ。まぁ、主役が居なくなった以上、ここに留まる理由もあまり無い。早めに退散するとしよう。

 

「俺たちも帰ろうか。翼の家の洗濯もしなきゃいけないし」

「洗濯ぐらい自分で出来る」

「残念ながらネットに下着を入れるのも出来ない女の子は洗濯が出来るとは言わないんだよなぁ」

「……なら、任せる」

「おうよ。俺は全然苦じゃないからな。むしろ翼のお世話ができて幸せだ。翼しもべ妖精と呼んでくれ」

「何だその珍妙な妖精は……」

「いつか翼の家に住んで『屋敷しもべ妖精』になることを夢見る可愛い女の子だ」

「……ダメだぞ?」

「添い寝もダメ?」

「ダメだ」

「翼」

「何だ、アリア」

「りょーこさんがちゃんと調べてくれる。大丈夫、翼の思い出は誰にも(けが)させないよ」

「アリア―――」

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 今日は非番。朝から私服に着替え、とある所を目的地にして愛用のアコースティックギターを背負い街をぶらつく。平日だけどね。

 非番とは言え発信器付通信装置を付けているから、何かあったときも安心だ。(社畜精神)

 

 響は俺たちと接触した。今日あたり彼女は自分の身に何が起きているのかを知ることになるのだろう。翼もショックはあるだろうが、何とか乗り越えてくれると信じている。響が変なこと言わなければだが……言うだろうなぁ。

 

 聖遺物との融合……いや、侵食。俺にとっても他人事では無い話だ。

 櫻井了子によれば、俺のシンフォギアは全くの未知数であるという。細かい話はよくわからない部分もあったが、要約すれば『何故か変身できる』し、『何故か動かせている』状態であるとのこと。

 もしやと思い聞いてみたが、俺の身体には全く異常が見られなかったそうだ。

 

 つまり俺の魂はこの世界の(ことわり)から外れているということに他ならない。そして世界の音階に多分俺は必要無い。

 

「これを2つと、これを3本」

「お買い上げ、ありがとうございましたー」

「あいー」

 

 街中を流れるニュースに目を向けてみると、翼の海外進出のニュースが流れていた。居なくなったら寂しいな。着いていきたいな。

 ……まぁ言うてすぐ帰ってくるし、何やかんやでちょいちょい帰ってきてたりするけど。

 

 でも言ったら怒るだろうな。お前自身の人生を歩め、とか言っちゃって。歳が2つも違うのが憎いよ。流れる時間が全く別なんだもんな。

 とりあえず英語の勉強だけは欠かさないようにしておこう。前世進学校をなめるなよといったところ。だが歴史というか社会は苦手だ。所々違うんだもんな。

 

 バスに乗り、郊外を目指す。

 

 駅があり、商店街があり、海と山がある。ついでに建築基準法に喧嘩を売るスタジアムもある。

 ノイズが出なければ良い街だと思う。まさかアニメで観た街に住むとは思わなかったな。

 前に住んでたのは東京郊外だったし、前世は埼玉だった。海というのは非常に興味深いものだと思う。港町に住んでいる人からしたら見慣れたもんなんだろうけど、海と富士山は日本人なら特別な感情を持っていても変ではないだろう。

 

 バスを降り、少しばかり山道を登る。そういや無印最終話で未来さん(393)*1が此処でノイズに襲われていたな。

 

 墓地に到着した。バケツに水を汲んで、その中に柄杓を突っ込む。

 

 『南無阿弥陀仏』と掘られた墓の前に到着すると、枯れた花をゴミ袋に入れ、柄杓を使って墓石を濡らし、持ってきた雑巾で吹き上げる。もう慣れたもんだ。

 それが終われば先ほど購入してきた墓前の花を左右2基に差し……カーネーションを2本捧げる。1本は家に持って帰る用だ。

 本来、赤い花は血を連想させるから葬儀やこうした所に相応しくないと言われているが、今日ぐらいは見逃して欲しい。たぶん、しばらく来れないから。

 ロウソクに火をつけ、線香を立てる。この匂いは何だか落ち着いて好きなんだ。

 

 

 

 ママ、ダリア、それから前世の母さん。

 

 まだ俺が生まれ変わった意味はわかんないや。これからも色々やらかすと思うし、いっぱい傷ついたりすると思う。けど、どうか赦して欲しい。

 

 でも、翼には傷ついて欲しくないかな。大事な相棒なんだ。だからちょっとだけ世界の歴史に干渉している。

 大丈夫。極力、人には迷惑をかけないようにするよ。

 

 どうか、見守っていてください。そして、少しばかり勇気をください。

 

 今でも変わらず愛してます。

 

 ―――あなた達のアリアより。

 

 

【挿絵表示】

 

 

*1
入賞赤フラ+手紙保留の恨みは忘れない By 作者





Q.アリアの私服は?
A.意外とガーリーなものが好き。前世?その辺の犬にでも食わせとけ。

Q.アリアは変身後、何の歌を歌っているの?
A.前世のバンドで自作したオリジナル曲。ぶっちゃけ、恥ずかしくて身悶えしている。

シンフォギアは誰の歌、どんな歌でも動かせるというわけではない。とすれば――。

みなさんの好きなシリーズは?

  • 無印
  • GX
  • AXZ
  • XV
  • 未視聴
  • パチンコ・パチスロしかしらない
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