TS転生者だけど絶対に唱(うた)ったりしないんだから!   作:桜霧島

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リグ・ヴェーダ

古代インドのバラモン教の聖典〈ヴェーダ〉4種のうちの一つ。リグとは〈賛歌〉の意。前1200‐前1000年を中核とする数百年の間に成立した《リグ・ヴェーダ》は神々への賛歌を集大成したものである。




春の雪、鮮血に染まり

 

 

 俺が二課に加入して間もない頃。

 りょーこさんは俺のシンフォギアを隅から隅まで調べつくす勢いで、それこそあーん♡なことまでやらされた。

 分娩台って意外と座りやすいんだな、初めて知ったよ……。くっころ。

 

「そう言えば、りょーこさん。俺って『絶唱』は使えるのかな?」

「そうねぇ。正直、あなたのシンフォギアはこの天才“科学者”である櫻井了子の理論をもってしても解明しきれないから『やってみなきゃわかんない』ってのが結論だけど……多分、使えるわね」

「へぇ……。って言うか、天才“考古学者”じゃねぇのかよ」

「そう、ある時は天才考古学者! またある時は天才科学者! しかし、その正体は!」

「ミステリアスな絶世の美女なんだろ?」

「ん~わかってるぅ! だから……ねえ、アリアちゃん♡ 絶唱、やってみない?♪」

「バカ! 絶ぇっっっっ対に嫌だ!」

「どうしてぇん!? 死なないわよ、多分?」

「そこは言い切れよ!」

「ワンチャン、生き残れるわよ」

「どう考えても今じゃねぇよなぁ」

「あなたは死なないわ―――」

「それはダメだろ」

 

 

 

 ―――そんなこんながあり、俺は今まで絶唱を使ってこなかった。

 今までもピンチは何度かあったけど、ここまでのものは無かった。それは多分、単なる自然災害が相手であるからであり、翼が隣に居たからだ。

 

 基本的に俺は戦う時に安全マージンを最大限に取るようにしている。後先考えずに突っ込んだのは、それこそツヴァイウィングのライブ会場の時くらいだ。

 だがアレはそもそも死んでもいいレベルに自暴自棄だったし、何より後ろには翼が控えていた。だから出来たことだ。

 

 だが今回は真面目にヤバい。単純に体力が尽きかけているし、しかもこの後にはかなりの確率で雪音クリス(ver.ネフシュタンの鎧)が控えている。下手打ちゃ月崩壊からの人類滅亡まで一直線だ。

 一方でクリスを意識して体力を温存していたら目の前のノイズにやられかねない。本末転倒だ。

 最悪、響が生きてさえすれば何とかなるか……。

 

(出来るか出来ないかじゃない。やるしか無いんだ。腹をくくるんだ、俺! ここが俺の生命(いのち)の燃やしどころ!)

 

 覚悟を決め、司令部へ繋ぐ。

 

「―――司令部へ。こちらアリア。りょーこさん、居る?」

『はいはーい♪』

「データ収集の準備。『絶唱』を使う」

『お任せあれ~♪ ―――無事に帰ってこないと、承知しないから』

『待て、お前たち! 俺は許可を出していないぞ!』

「お小言は―――ベッドの上で聞かせてもらおう!」

 

 但しこの場合は俺がベッドの上だけどな! 棺桶じゃないことを祈る!

 

 

 

 

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

 

 

 

 

 

 歌った瞬間、トリシューラを通じてエネルギーが胸の内に広がっていく―――!

 

 

 身体が熱い……全身の骨が砕け散りそうだ。

 

 心臓の音がうるさい……けど、外の世界は静かだ。

 

 目を開けられない……けど、光の奔流が瞼の裏を焦がし尽くしている。

 

 頭が割れるように痛い……全身の毛穴から何かが吹き出ているようだ。

 

 「破壊し尽くせ」と誰かが言う。

 

 「愛し続けなさい」と誰かが言う。

 

 

 光の奔流が落ち着いて目を開ける時、誰かが笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 ―――ママ? ここに居たの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッッッッッ!!!!」

 

 

 何だ、この感覚は!?

 体中が金色に光っている―――ダメだ! このエネルギーは早く解放しないと危険だ!

 

 響の方へ駆けつけようとするが、今までとは全然スピードが違うッ! 制御が難しい!

 

 

「お嬢ちゃん、俺の後ろに居ろッ! 動くなよッ!」

「アリアさん、血が!?」

 

 血ぃ!? さっきから顔面を流れてるのは汗じゃなくて血か!? (あな)という孔から出ているぞ! ちゃんとアームドギアを介した絶唱のハズなのにか!?

 だがそんなことを気にしている時間はないッ!

 

「『Rig・Veda(リグ・ヴェーダ)』!」

 

 胸の内に浮かんだその言葉を叫ぶと、胸部装甲がパージされ、中から血のように真っ赤な珠が出てきた。

 

 ここから撃つのか!? 狙いをつける時間はない。敵集団のド真ん中にこいつをくれてやるッ!

 俺は響を守るように前に立ち、両手の拳を新たに現れた赤い珠に重ねるようにぶつける。

 

「間、に、合、えェェェェェェェェ!!!!」

 

 その瞬間、俺は全てのフォニックゲインを解放した。

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

 

「敵勢力、沈黙」

 

 ぼそりと呟き、腕を組み、仁王立ちをしながら眼前の光景を見遣る。

 

 ―――地獄だ。

 

 公園? そんなものありゃしない。元に何があったのかもわからないほどの焼け野原。着弾点を中心に半径400~500mほどの円状に跡形もない。やべぇな、ちょっとだけだが市街地にも被害が出てしまった。

 

 辛うじて自分と響を守ることは出来たようだが、既にギアを維持出来る力はもう残っていない。

 俺は装備を解除した。もう空っぽだ。

 

「お嬢ちゃん―――立花響、生きているか」

「はい、私は大丈夫ですけど……アリアさんが! 早く病院へ!」

「いいから黙って聞けッ!」

「!?」

「その胸のガングニール、元は奏さん―――お嬢ちゃんを、そして俺を命懸けで守ってくれた人のものだ」

「それは……聞きましたけど。……え? アリアさんも?」

 

 話すたびに血反吐を撒き散らしながら、響を無視して話を進める。

 

「ガングニールは『強さ』の象徴だ」

 

 響は目を見開いてこちらを見ている。ヤバい、視界がぼやけてきた。

 

「お嬢ちゃんには、自分を犠牲にしてでも守りたい人はいるか?」

「―――はい、大切な友達がいます」

「その子が―――他の誰かの大切なものを蔑ろにしていたら悲しい気持ちにならないか?」

「―――よく、わかりません」

「そうか、今はそうかもしれない。だけどいつかはわかって欲しい。ガングニールはみんなの希望であり、強さの象徴なんだ。だから―――」

 

 

「ガングニールを受け継ぐ覚悟。ソイツを示せたら、ちゃんと名前を呼んでやる」

 

 そして俺は意識を手放した。

 

 

 

♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬ ♪♫♬

 

 

 

「痛ッてててて……」

 

(一体何だってんだ、あの化け物はよぅ!?)

 

 フィーネからの指示でノイズによる飽和攻撃を仕掛け装者2名を分断し、隙を見てガングニールの装者を拉致する計画だった。

 だがあの『絶唱』を聞いた瞬間、全身を覆うような寒気に包まれたあたしは、すぐにその場から離れようとした。

 その結果、あたしは爆風に巻き込まれるだけで済んだが、直撃していたら……今頃あたしとネフシュタンの鎧は消し炭になっていたかもしれない。

 

(あのマヘーシュヴァラとかいうシンフォギアのお陰でめちゃくちゃだ……! しかし考え方によっては、これは好都合……!)

 

 アリアとかいう女は血塗れの状態で立ったまま意識を失っているのか、ピクリともしない。ガングニールの装者は実力不足が見て取れる。先ほどから取り乱して泣き喚くばかりだ。

 それに、これ以上ここへ留まっていると増援が来かねない。

 

(早くガングニールの装者を確保しなければ!)

 

「ガングニールの女ぁ……」

「!? あなたは……?」

「大人しくあたしに着いてきてもらおうかッ!」

 

 ガングニールの装者を捕らえるため、ソロモンの杖からノイズを召喚する。戦闘能力は無いが捕獲に特化したノイズだ。

 

「ノイズを操って!? 止めてください! 早くアリアさんを病院へ連れて行かなくちゃ!」

「知ったことじゃねえなぁ……ちょこまかするんじゃねぇ!」

「きゃあッ!!」

 

 不格好に逃げ回り土塗(つちまみ)れのガングニールの装者を追い詰める。

 ネフシュタンの鎧の主武装は両肩から放つ高硬度の茨の鞭だ。それをヤツの進行方向を塞ぐようにして打つッ!

 

「おかしいですよ! 私たち、同じ人間同士なのに何で戦わなくちゃいけないんですか!?」

戦場(いくさば)で何を寝惚けたことを! 観念しな!」

 

 

「―――そうはさせない!」

 

 

 

Imyuteus Amenohabakiri tron...

 

 

 

 

「天羽々斬……邪魔をするか!」

「ネフシュタンの鎧……私たちから奪った物で! 更にガングニールまで奪っていこうと言うのかッ!」

「ふぅん……この鎧の出自を知ってたんだぁ?」

「二年前、私の不始末で奪われた物を忘れるものか。何よりッ!私の不手際で奪われた命を忘れるものかッ!」

 

 くッ……時間を掛けすぎてしまったか。多少なりともダメージを負った身体でいけるものか……!?

 

 諦めるのはナシだ。フィーネの失望した顔にあたしは耐えられる自信がない。居場所の無い自分の、仮にも居場所を作ってくれたフィーネのために……。

 

「ちょっせぃ!」

 

 渾身の力で打ち付けるが、ヒラリヒラリと躱されてしまう。

 チッ。イチイバルなら遠距離からハメて串刺しできるのに、ネフシュタンではバカ正直に正面から打ち合うしかない。

 

 だが隙をついて2,3発良いのを入れることができた!

 

「完全聖遺物の力だとか思うんじゃねえぞ! あたしが! 強ぇんだッ!」

「くっ……! おい、立花! アリアを抱いて逃げろ!」

「翼さんを置いて!?」

無礼(なめ)るな! これしきの相手でこの私の剣が折れるものか!」

「お前こそなめてんじゃねえッ!」

 

 巫山戯たことを言いやがる風鳴翼にラッシュを仕掛ける。こっちは格闘術だってお手のモンなんだよ!

 

 雑魚ノイズを召喚し、肉壁として利用する。死角から仕掛ければ―――何ぃ!?

 

「悪いがその程度の性格の悪さ、私には慣れたものだッ!」

 

逆羅刹

 

 斬撃を飛ばして目眩ましにし、逆に回り込んで死角となる地面から独楽(コマ)のように脚で打ち付けてくる……しまった! ガングニールの装者が逃げる!?

 

「勝機ッ!」

「なめるんじゃ、ねえッ!」

 

 あちらに目を取られた隙に風鳴翼が斬りつけてくる。何とかネフシュタンで防御したが、半分運のようなものだ。

 鞭で反撃するが簡単にいなされ、逆に一撃をもらってしまう。

 

「ぐわぁっ!?」

 

 押されている……このあたしが!?

 

「貴様は何故自分が劣勢なのかわかっていないだろう」

「ごちゃごちゃうるせェ!」

「確かに貴様の戦闘技能は高い。だが私は防人、一振りの剣。守るべき者(アリア)の前だからこそ戦えるのだ!」

「寝言は寝て言えッ!」

「寝るのはお前だッ!」

 

 

 

蒼ノ一閃

 

 

 

「ぐわァァァァァァァッ!!!!」

 

 直撃ッ……! 鎧が……!?

 クソっ、さすが鎧のシンフォギアと言いたいところだ。お陰で致命傷は避けられた。

 だがこれ以上のダメージはキツイ。

 

「大丈夫か、翼、響、アリア!!」

 

 手間取っている内に男が車でやって来た。―――これ以上の戦闘継続は無理、か。

 

「ちくしょう……覚えてやがれ……!」

 

 あたしは全力で地面を穿ち爆煙で奴らの視界を閉ざした後、戦場を最大スピードで離脱した。フィーネに何と言えば……。

 

(次は……ぶっ潰すッ!)

 

 





○アリア
 スリラーバーグのゾロみたいになってる。何も゛……な゛がっ゛だ……!(あった)

○翼
 アリアにもなにかあったら多分立ち直れない。

○クリス
 割とドン引きしてる。

○りょーこさん(フィーネ)
 ドン引きしてる。


シヴァ神はFFの印象があって氷の神と思っている人もいますが、本来は火の神です。
本話のリグ・ヴェーダはガンバスターのバスタービーム、あるいは天空の城ラピュタの「天の火」をイメージしてもらえたらOK。

フルパワーで撃ったら? 月なんて余裕だよ。但し装者は死ぬ。
フォニックゲインを纏うようにすれば真ゲッターのストナーサンシャインも撃てるよ。但し装者は死ぬ。

あと御礼です。
ほんの一瞬ですが、日間総合ランキングに入ることが出来ました。
lkustさん、あざまる水産さん、きっちーさん、Saihさん、タイヨーさん、評価ありがとうございました。
いつも感想を下さっている方もありがとうございました。

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