621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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惑星封鎖機構襲来

 

 氷原の天候はとても不安定だ。晴れていても風があると気温がぐっと下がる。

 降水量が少ないのか、さして雪が降らないことだけは幸いだった。もしも豪雪地帯だったなら、調査拠点を作るのにも、いちいち頑丈な「入れ物」が必要になったところだ。

 重力によって生じる滑降風は、強い放射冷却に引き寄せられて猛威を振るう。こんな谷間を見下ろす拠点だと尚更だ。

 今日だけで3回ほどその強力な突風に襲われていたが、簡単にひっくり返りそうな調査ドローンは意外にも持ちこたえていた。

 MT部隊が報告に訪れる。

 

《定期警戒巡視完了しました。異常はありません》

「そう。引き続き警戒監視を。来るとしたらたぶん上からね」

《承知しました》

 

 そろそろ十分な情報が集まる時期だ。ベイラム辺りが仕掛けてくるに違いないと、スネイルはヒアルマー採掘場調査キャンプの警護をV.Ⅸに命じた。

 厄介なのは、組むのが第7部隊の分隊だということだ。

 先日因縁ができたばかりの部隊と組ませるあたり、良い趣味をしている。スネイルの狙いは、トラブルを防止するための力の誇示か、それとも背後から撃たせたいのか、または単純に嫌がらせなのか。最初からはっきり言って欲しいものだ。やっぱりなけなしの敬意がすり切れる。

 

 MT部隊は武装に似通った特徴があった。スタンガンをはじめとして、妙に非殺傷兵器が多いのだ。これはスウィンバーン麾下第7部隊の特色らしい。敵機体を撃破するより、捕縛するほうが評価が高いのだという。

 別に部隊ぐるみで妙なことを計画していたわけではないだろうから、特に嫌悪感はなかったのだが――なんとなくフロイトから聞いた話と似た傾向が見えて、少しばかり微妙な気持ちになる。

 妙な動きがあったら遠慮なく落とそう、と内心で腹を括ったとき、通信が入った。

 

《敵襲! AC単機……これは……レッドガンG5、ACヘッドブリンガーです!》

《なんだと!? ベイラムめ、まさか直接やってくるとは……!》

 

 辟易していた気分が急に浮上した。久々の遭遇だ。

 思わず口角が上がり、指示を出した。

 

「私が対応する。援護はいらないわ」

《えっ!? で、ですが!》

「調査ドローンの防衛が最優先よ。解析プロセスは中断。データ収集が完了次第、順次本部に送信を開始して。解析前のローデータだけでいい」

《……了解しました!》

 

 ブースターを噴かして、交戦地点へ急行する。淡い雪がちらつき始めていた。

 はたして再会した緑色の機体にミサイルを放つ。警告が鳴ったのだろう。調査ドローンから距離を取らせることには成功した。

 

《テメエがいるとはな、クソ狂犬。チッ、ぞろぞろ手駒を連れやがって……!》

「アーキバスの拠点にやってきたんだから、まあ、普通そうなるわよね。こっちが地道に集めてきたデータを横取りしようなんて、ベイラムはちょっと怠惰がすぎるんじゃない?」

《ハッ! すっかりアーキバスの犬らしくなったじゃねえか……つーかまた妙な機体組んでやがんな!?》

 

 たまには近接武器なしで組んでみようと、両手に軽ライフルを持っていた。フロイトと同じTURNERだ。肩はレーザーキャノンとミサイルで、おかしな組み合わせだという自覚はあった。

 弾をばらまきながら距離を詰める。

 

「言ったでしょう、色々試してるところなの」

《クソが、遊んでんじゃねえぞ……!!》

 

 お互い射撃機だったこともあり、円軌道を繰り返して撃ち合う形になった。

 ダンスだと口にしたのは胡乱なドーザーだったか。確かに、ワルツを踊っているような軽やかさがあった。

 右旋回、左旋回。斜め左上にジャンプ、そのまままた左に機体を滑らせる。

 イグアスがどうにかドローンに近づこうとしている。アクセス範囲にさえあれば、相棒がどうにかしてくれるという目論見だろう。

 レーザーキャノンでそれを阻む。

 

《チッ……わかってんだよ、せかすんじゃねえ!》

 

 向こうは相変わらず喧嘩ばかりのようだ。ドローンから引きはがすために、弾を撃ち込みながら接近する。

 決して悪くはないのだが、やはりこのライフルは今ひとつしっくりこない。マガジンもそうだが、もう少し連射能力が欲しい感じだ。じれったくなる。

 

 やっぱりもうちょっと突っ込むほうが好きだな、と考えていると、敵性反応がレーダーに映った。

 覚えのある感覚に、思わず舌打ちして指示を飛ばす。

 

「周囲にステルス機体! MT部隊、スキャンで捕捉して!」

《なっ……!? りょ、了解! 所属は……不明……!?》

《またかよ!?》

「まったくよ! ……射撃型は任せる。M5から11は私が交戦する不明機にスタン攻撃!」

《俺に指図すんじゃねえ!!》

 

 イグアスではなくMT部隊に出した指示だったのだが、文句を言いながらも射撃型を片付けに向かった。意外に素直だ。

 鞭状の武器を持つ近接型に接近しながらライフルをパージする。青く伸びる光線を見極めて避け、次撃を繰り出すのを見計らって銃身を押し当て――ワイヤーを、絡め取った。

 

《……はあッ!?》

 

 フロイトが以前くりだした反撃だ。悔しくて練習した甲斐があった。

 しっかりと掴んで引きずり倒す。そのままブーストで距離を詰め、着地がてら背中を踏みつけて動きを封じた。

 姿勢を回復しようとするプログラムを力尽くで服従させ、ライフルの銃口をメインカメラ辺りにねじ込む。見ている“誰か”がいるのなら、多少は威圧になるだろう。

 

「……毎回毎回、いいかげん邪魔で鬱陶しいのよね……貴方を部品ひとつに至るまでバラバラにして、中身のプログラムを隅々まで丸裸にしたら、少しは、面白いものでも出てくるかしら……?」

 

 できたてのように綺麗な装甲を踏みにじり、苛立ちに低くなる声で言う。

 なぜだか味方に怯えられた。イグアスまで、いかれてやがる、などと呟いている。心外だ。

 

《V、V.Ⅸ……その、観測データの送信が完了しました……》

「そう、お疲れさま。これを持って帰るわ。無人機だから中身はないと思うけど、捕縛を――」

 

 そのとき、妙な音が上空から響いた。

 何か大きなものの駆動音だ。

 振り仰ぐ前にその場を動いた。レーザーが辺りを焼いていく。折角捕まえた無人機が巻き込まれたので、思い切り顔をしかめた。何をしてくれるのだ。

 巨大な艦船が、宙を滑るように上空を塞ぐ。

 

《この識別信号……惑星封鎖機構です!》

《馬鹿な! まさか、執行部隊が投入されたのか!?》

 

 艦船から敵性機体が下りてくる。表示は「軽騎兵(Light Cavalry)」――見たことのない機体だった。

 母艦から叩くべきかと考えたが、少し高度が厳しい。そのまま離脱していく。

 

 味方の損耗が激しい。降りてきた機体はよりによって盾を構えていた。近接武器を持ってこなかったことを悔やむが、そうしている場合ではない。蹴りを叩き込んで、キャノンとアサルトライフルで沈黙させた。

 数が多い。母艦が無事でいる以上、まだ投下される可能性が高い。

 単独ならどうとでもなるが、味方を守りながらの戦いは手が足りない。焦りを覚えながら、とにかく目の前の敵を叩き伏せていく。

 

《くそっ、なんだって執行部隊が……!》

《V.Ⅸ、敵艦が再度接近しています!》

「総員待避! 私が――」

 

 近くに垂直カタパルトがあったはずだ。あれなら母艦に取りつける。

 焦りながら旋回したが、イグアスの機体がすでにその近くへ先行していた。

 

《……おっ前、こないだ無茶苦茶させやがったこと覚えてるからな!!》

 

 吐き捨てながらカタパルトから射出される、深緑の機体を仰ぎ見た。その軌道は、いつの間にか薄く晴れていた空に良く映えた。

 最高地点でブースターを使い、機体が加速する。

 ――まるで、鳥のようだと思った。

 

 援護は必要なかった。艦砲をかいくぐり、艦橋に迫る。ありったけの弾を叩き込まれた強襲艦は動力系統に誘爆を起こし、あっけなく地に沈んでいった。

 

 出会ったときとは別人のようだ。

 感嘆を覚えながら残る敵機を片付け、戻ってきた機体を迎える。苦々しげな声がした。

 

《チッ。強襲艦に執行部隊とはな……何がどうなってやがる……》

「封鎖圏内では運用されていなかったはずよね。状況が変わったのかしら」

《……おい、待て! あれは……嘘だろ……!?》

 

 イグアスが呆然と言った。

 レーダーがおびただしい数の赤に染まっていた。無数の戦艦が、まるで魚の大群のように空を埋め尽くしている。

 圧倒されるほどの強大な力が、今、勢力バランスを大きく変えようとしていた。

 

 

 ――ルビコンに不法侵入した全ての勢力に告ぐ――

 ――ただちに武装解除し 封鎖圏外へと退去せよ――

 

 

 無感動な声が朗々と告げる。

 ご丁寧にも、広域回線だけではなくスピーカーでのご高説だ。

 

 

 ――これ以上の進駐は 惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし

 例外なく排除対象とする――

 ――繰り返す 例外はない――

 

 

 30隻を越えた辺りで数えるのが面倒になった。

 とりあえず軽口を叩いておく。

 

「すごい団体さんね……弾が足りるかしら。一人あたり何隻? こっちはACが2機に、MTは」

《しれっと俺を頭数に入れんじゃねえ!! 自殺の予定はねえんだよ!!》

 

 やっぱり近接武器を持ってくるべきだったな、と考えたが、スネイルから撤退命令が下りていた。

 さすがにこの大艦隊は想定に入っていなかったようだ。

 

「……今回はここまでね。次はもうちょっと面白くなるよう頑張るわ」

《俺あ欠片も面白くねえがな! お前と出くわすと、マジでろくなことがねえ……!》

「つれないわね。……そうだ、貴方のパートナーさんの名前を聞いてもいい? ずっと気になってたの。ちょっとは仲良くなった?」

《姉貴かよ。死ね》

「広域回線で喧嘩されてれば気になるでしょ」

《んなもん……ああ? ……くそ、お前なあ……!》

 

 ぐう、と唸り声をこぼしたイグアスは、何かを葛藤するかのようにしばらく沈黙したのち、絞り出すように言った。

 

《エア、だ》

「そう。エア、その人に飽きたらいつでも言って。歓迎するわ」

《……はっ。お断りだとよ!》

「残念。……でも、貴方たちと戦うのは結構楽しいから、それもいいわね。また会いましょう」

《次こそはブチ殺す……!》

「そうだ、何か武器のリクエストとかある?」

《頼むから死ね!! 素手で来い!!》

「わりと得意よ、それ」

《化け物がよォ……!!》

 

 状況にそぐわないのんきな会話をしている間に、撤退準備が整った。

 

 第7部隊の面々はこちらの意向を汲んでくれたようで、可能な限り所属不明機体を回収してくれていた。そのうち一機はかなり原型を保っている。こちらが捕らえたのとは別の機体を鹵獲してくれていたようだ。称賛を惜しまず全力で褒め称えた。本当にいい加減、良いところで水を差されるのにうんざりしていたのだ。

 個人的には、第7部隊とうまくやれた気分だった。実際にどうだったかは知らないが、スウィンバーンにお礼を言っておこうと思う。

 

 回収した所属不明機体をどこに預けるかは少し悩んだが、情報部門の統括たるオキーフが名乗りを上げた。

 どうやら先に調べたいことがあるようで、得られた情報の最大限の共有を交換条件に引き渡した。

 これはあくまで推測だが、これらの所属不明機体は、どうもG5を狙いとしているように思える。

 その情報を付け加えて報告すると、オキーフの表情が深刻なものに変わった。

 

「何か?」

「……お前、元は旧世代型だったな?」

「ええ、第4世代です。たしかG5もそうですね」

「オールマインドから接触を受けたことは?」

 

 真剣な問いかけに、目を瞬かせた。

  

「……すみません、意味がよく……」

「直接依頼を受けたことはあるか」

「オールマインドから? あれは傭兵支援“システム”では?」

 

 利害関係が発生しえない以上、依頼を発行する理由があるとも思えない。困惑しながら訊ねると、オキーフは深いため息を吐いた。

 

「レイヴン、お前に個人的な依頼がある。……オールマインドやG5の情報を、可能な限りでいい、俺に回してくれ。対価は言い値で構わない」

 

 いかにも不穏な口ぶりだった。

 とはいえ拒むような内容ではないし、人間として信頼の置ける人物だとも思っている。少し考えて、確認するように小首を傾げた。

 

「言い値での依頼は軽率では? 守銭奴ですよ、私」

「……そうだったな。まあ、払える程度の報酬にしてもらえるなら有り難いが」

「了解です。では、金銭ではなく情報で。……そうですね、3回だけ、私の求める情報を“完全な形で”提供していただけますか」

 

 実際のところ、身体を治した時点で金の必要性は低くなっているのだ。

 オキーフは意外そうに片眉を上げ、それから、にやりと笑みを浮かべた。

 

「いい判断だ。抜け目がない」

「お褒めにあずかり光栄です」

「約束しよう。その対価は必ず支払う」

 

 契約は成立だ。そのまま所属不明機のフレームについて話しているところへ、フロイトが顔を見せた。

 

「レイヴン、PCAが執行部隊を出してきたって? お前は本当に引きがいいな。戦闘ログが見たい」

「はいはい。すごい数だったわよ。近接武器を持っていけば良かったわ」

 

 隣に立って端末を覗き込み、いつものように腰に手を回す。第1部隊の面々なら慣れたものだが、オキーフは、さすがに意外そうな顔をしていた。

 

「こっちははずれだ。俺もそっちに行けばよかった」

V.ⅠとV.Ⅸ(二大戦力)が揃ってキャンプ警護か……スネイルが頭を抱えそうだな」

「そうですね。そういえば、考えてみたら、組んだのって最初の一回だけかも」

「この先は増えるんじゃないか。PCAが相手なら過剰戦力だとも言わないだろうからな」

 

 くっついたまま端末を見ていたからだろう。オキーフが苦笑した。

 

「……話には聞いていたが、随分と人間臭くなったものじゃないか、フロイト」

「そうか?」

「気のせいでは」

「おいおい、レイヴン、お前が否定するのか」

「だって、フロイトですよ?」

「……まあ、フロイトではあるんだが」

「俺を何だと思ってるんだ」

 

 揃って肩を竦める。何と言われても、AC狂の自由人だとしか言いようがない。

 

「たしか、二人は付き合いが長いんでしたね」

「ああ、アイランド・フォーからか。……骨が折れる仕事だった」

「あれは割と面白かったな。白い逆関節が強かった」

「……昔からこんな感じだったんですか?」

「俺が知っている限りでは、新進気鋭の小僧だった頃からこうだな。腕は飛躍的に伸びたが……」

「新兵時代のフロイト……」

「……想像はつかんだろうが、まあ、それなりにやっていた」

 

 フロイトは話に飽きたのか会話から抜け、端末を弄っている。

 オキーフの言うとおり、下っ端時代の想像がつかない。上下関係に厳しい軍事組織なのだから、当然その頃は周囲の指示に従っていたはずなのだが。

 ふと、思いついて訊ねた。

 

「そういえば、貴方が強化手術を受けていないのって、何かこだわりがあるの?」

「いや? まだやり尽くしてないからな。飽きたらそのうち受けるかもしれない」

 

 思わずオキーフと顔を見合わせた。

 そんな、気が向いたら、で取捨するような選択肢だっただろうか。食べ飽きた料理に胡椒をかけるかというぐらいの気安さだ。普通はそんなことを思いつく前に死んでいる。

 

「……オキーフ長官。やっぱり私と彼とでは、狂人具合に筆舌に尽くしがたい差があると思います」

「……ああ、そうだな。一括りに扱わないよう今後は留意しよう」

 

 

 

 

 

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