621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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燃料基地襲撃

 残念ながら、フロイトの期待ともいえない予想が実現するにはかなりの時間がかかった。

 本拠地から潰しにかかると思いきや、惑星封鎖機構の襲撃は予想以上に広範囲かつ波状的に行われ、ヴェスパーのみならずレッドガンも同様、番号付きは誰もが調査拠点の防衛と撤退に追われたからだ。

 

 拠点を放棄するにも引き上げたいものは山ほどある。人員も、情報も、物資も。ほとんどが襲撃を打ち倒し追い返すためではなく、その時間を稼ぐための仕事だった。つまりは負け戦だ。

 

 三日三晩ろくに眠ることなく駆けずり回り、そろそろ誰か疲労で倒れるのではないかという頃合いで、ようやく情勢が落ち着いた。

 とはいえ、体勢を立て直すのと反撃の準備を整えるには少しばかりの時間が必要だ。

 当然ながらアーキバスに撤退という選択肢はない。今頃、スネイルが過労と寝不足に苛まれながら作戦を立案している頃だろう。

 そんな折、その話を持ってきたのは、V.Ⅳ ラスティだった。

 

「ちょうどよかった。相談があるんだ、レイヴン。少しいいか?」

「めずらしいわね。どんな内容?」

 

 いつも通りの好青年然とした男前ぶりだが、さすがに疲労の色が見えた。妙に色気があるなあ、と筋違いに感心してしまう。

 

「今はとにかく人手が足りない。それを解消するための手段として、独立傭兵へ惑星封鎖機構の燃料基地の破壊を依頼しようと考えている。いわばパフォーマンスだな。派手に報酬をつけて盛り上げれば、やる気になる連中も増えるだろう」

「なるほど……そういうことなら、私だと不適格ね。宣伝塔にするにはアーキバスの色がつきすぎてる」

「そういうことだ。君の知る傭兵で、使えそうな奴はいないだろうか」

 

 ううん、と腕を組んで考えた。

 今まであまり人と組んでこなかったので、紹介できるほど実際に腕を知っている相手がいないのだ。いても大体撃墜してしまっている。

 

「指名じゃなく公示にしたら? 報酬が高ければ集まるでしょうし」

「特務機体の増援投入が予想されている。執行部隊の中でもエースだな。本格投入前の慣らしだろうが、その辺の独立傭兵には少々荷が重い」

「確かに、蹂躙されたら宣伝としては逆効果だものね。……そういえば、起用担当のV.Ⅷ(ペイター)は? リストを持ってるのは彼でしょ」

「よほど疲弊しているのか、頭が働かなくなっているようでね。『第4隊長殿、やるならぜひそちらでやってください。ええ、全面的にお任せします』……だそうだ」

 

 疲労感まで加えて声真似をするものだから、思わず吹き出した。

 

「……今のすごく似てた。言いそう」

「君が笑ってくれるならやった甲斐があったな。傭兵リストはこれだ」

「うーん……やっぱり、知ってる相手はいないわね……。リスト外のランク上位に声をかけるか……もしくは適当に数を集めて、特務機体が出てきたときだけ私が対応するってプランは?」

「なるほど、その方が確実性が高いか……」

「宣伝目的なら“おいしい仕事”にしておく必要がありそう。基地を制圧する必要はない、あくまでゲリラ的に燃料タンクとエネルギー精製プラントを破壊する、と……。あとはまあ、敵機の撃破にも加算報酬をつけて……失敗しそうならフォローはするけど、そうならないためには数が欲しいところね」

「そうだな。特務機体投入の可能性は提示するか?」

「腰が引けてもらっても困るわ。基地外から増援があった場合にはV.Ⅸが対応する、交戦は不要、あたりでいいと思う」

「わかった、それで行こう。君も疲れているところを申し訳ないが……」

「気にしないで。貴方には借りがあるもの」

「借り?」

「覚えてない? 初対面のとき」

 

 ああ、と零したラスティが、気の抜けたような笑い方をした。夜中に菓子を作ろうとした一件だ。

 

「そういえば結局、賄賂はもらえないままだったな」

「人にあげられるほどのできではなかったのよね……メーテルリンクが作ってくれるようになったから、作る理由もなくなったし。これで返したってことにしておいて」

「それはそれで残念だが……そうだな、よろしく頼むよ」

「お任せください、第4隊長閣下」

 

 似ているとはいえないV.Ⅷの中途半端な物真似に、しかしラスティは噎せ返った。

 

「やめてくれ、笑ってしまう。疲れて笑いの閾値が低くなっているんだ」

「そんなに面白かった?」

「そうだな……『私が立案した作戦行動に臨めること、光栄に思いなさい』……というのはどうだろう」

 

 打って変わってとんでもなく似ていた。高飛車な嫌味具合まで完璧だ。たまらず、口と腹を押さえて身をよじる。

 間が悪いことにスネイルが通りかかって、ものすごい顔をされた。

 

 

 

***

 

 

 

 今回の作戦では現場の状況を把握する必要性があるので、第4部隊からオペレーターを借り受けた。

 それがオペレーターにはめずらしく男性だったのは、ラスティの気苦労の一端なのかもしれない。もてる男というのも厄介事が多いものだな、と少しばかり気の毒になる。容姿がどうこうよりも、本人のふるまいによるものが大きい気もするが。

 

《独立傭兵部隊、第三エリアに侵入しました。燃料貯蔵タンク破壊数は6。現時点で脱落者はありません》

「ありがとう。順調のようね」

 

 レーダー範囲ぎりぎりの高台から戦況を見下ろしながら、報告を聞いた。

 参加していなかろうがこうして時間を拘束されているのだから、ほとんどお守り役だった。これでやる気を出した独立傭兵たちが、今後頑張ってくれればいいのだが。

 動かない的に敵機の撃破より一桁違う報酬をつければ、普通は可能な限り交戦を避けてそちらを目指すものだ。作戦に参加した独立傭兵は12名。基地を落とすわけでもないのだから、最低限の数は揃ったと言っていいだろう。

 そのうちでも一人、少し目立つ戦果を上げているACがいた。

 燃料タンクを目指すつもりがないのか、敵機の撃破数が突出している。進行速度も遅く、丁寧に一体ずつ潰して行っている印象だ。

 新人でも紛れ込んだのだろうかと思ったが、それにしては仕事が手堅い。これまでほとんど交戦する経験のなかったであろう、LC機体まで片付けている。

 

 登録名を確認する。Rb40 ケイナイン――犬、を意味する言葉だ。

 少し感情がざわめいたが、ニュアンスは彼の猟犬とはほど遠い親しみがある。何かと重苦しくなりがちなウォルターがつける名前には思えなかった。さすがに偶然だろう。

 

《V.Ⅸ。独立傭兵部隊、架橋を突破しました。現在、燃料貯蔵タンク破壊数は12。離脱者3名です》

「PCAの動きは?」

《お待ちください。――ついさきほど救援要請が行われたようです》

「そう。プラント破壊までもてばいいんだけど」

 

 横から持って行っては恨みを買う。できれば初期目標は独立傭兵部隊だけで達成して貰いたかった。

 そもそも自分も独立傭兵なのだが、高みの見物を決めておいしいところを持って行く図式には変わりない。作戦立案者たるラスティの顔を立てるためにも、ぎりぎりまで待つつもりだ。

 そこで、ふと気付いた。

 

「あ、違うか。……こちらから迎撃すれば良いんだわ。この調子ならお守りは必要なさそうだし」

《了解しました。広域レーダーの接近検知を最優先事項に変更します》

「ありがとう、お願い」

 

 話が早い。あまりにやりやすいので、ちょっと引き抜きたくなった。

 G5イグアスがあれだけ飛躍的に強くなったのだ。あくまでプログラムのCOMと優秀な人間たるオペレーターの存在はここまで違うものかと、実感してしまう。

 ただ、思うだけで、実際にそうするつもりはなかった。頼る相手を作ってしまえば、手放したときのリスクが大きい。優秀であれば優秀であるほどに。

 それはそれとしても、ラスティのよこしたオペレーターは掛け値なしに優秀だった。行間を読む、というのは、プログラムにはできない作業だ。そうでなければならないからだし、曖昧さにプログラムが推測をそのまま適用するようなことがあってはならない。相手の要望の推測と実際の対応の確認を両立させるには、微妙なニュアンスが多すぎる。AIを相手にするときには人間がそのプロトコルに合わせた出力を行うべきだ。AIにはAIの、人間には人間の強みがある。

 どれだけAIが発達しようと、人間という思考能力に特化した種はいまだ優位性を保っている。それは、無人機を有人ACが駆逐した歴史からも明らかだ。

 

 人を人たらしめるものが何なのか。

 つい感情論に入ってしまいそうなそれを、兵器と併せて、純粋に武力装置として評価するならどういったものになるのか。そもそも、その発想自体が誤りを含んでいるのかもしれない。

 

 つい考えに沈んでいるうち、オペレーターが淡々と告げた。

 

《検出しました。方位155、高速接近する機体が2体。……識別反応の取得には少し時間が。ただ、推定速度から特務機体である可能性が高いです》

「ありがとう、十分よ。以後は燃料基地の方を主にモニタして。失敗しそうなら報告を」

《了解。……ご武運を、V.Ⅸ》

 

 その言葉で、そういえばルビコンで特務機体を相手にするのは自分が初めてだということに気付いた。

 まあ、気付いたからといってやることが変わるわけではない。どうせ場所が違うだけの話だ。フロイトが大して興味を見せなかったことからも、「強い機体」以上の何かではない。

 できるだけ基地から距離を離すようアサルトブーストで向かった先、見覚えのない機体を捉えた。

 

《V.Ⅸ、敵機は特務機体 「エクドロモイ」です。機動力では貴方のアンラヴルを上回ります。ご注意を》

「了解」

 

 まずは足止めが第一目標だ。ミサイルを撃って挨拶に代えたが、想像以上の反応が返ってきた。

 

《コード15……貴様は……! やはり生きていたのか!》

《優先排除対象“レイヴン”と接敵。交戦を開始する》

 

 まさかのご指名だった。随分と評価してくれているようだ。

 先日の遭遇時にはイグアスに後れを取ったので、まさかそこまで脅威と見なされているとは思わなかったのだが。

 

《死を偽装しておきながら、まさかのうのうと戻ってこようとはな》

《度しがたい話だ。何が目的だ? あれだけの情報をリークしたのだ、そのまま隠れ去るものと思っていたが……ふざけた真似を》

 

 そこまで言われるほどの仕事をしていただろうか。

 一瞬困惑して、気付いた。このライセンスの正規所有者――Rb23 レイヴンの仕業だ。思っていたよりも面倒な経歴の持ち主だったらしいが、まあ、乗っ取った側としては、運がなかったとしか言いようがない。

 たしかあの機体もパイルバンカーを持っていたな、と思いだして、今日の装備の偶然に運命めいたものを感じた。

 

 雪の積もる丘で対峙する。

 おそらくは射撃型と近接型のユニットだ。早めに片方を落とした方が良い。

 

 近接機体の武器はちょっと興味をそそられた。レーザーランスでやりたい動きに少し似ていたからだ。ただ、興味以上の興奮は覚えなかった。惑星封鎖機構の武器は規格が異なりすぎてACでは使えないと聞いていたから、というのが大きい。

 同時に、惑星封鎖機構の技術力は企業を大きく上回る、とも聞いていた。

 それは、装甲の強度と機動力、攻撃威力といった「強さ」の主要素へ如実に現れる。

 

 立て続けに放ったミサイルはさして損傷を与えられなかったようだ。やはり大きな一発がいる。懐に飛び込んでリニアライフルを撃ち、頃合いを見計らってアサルトアーマーを展開する。姿勢制御を固められた敵機に迫り、パイルバンカーを突き込んだ。

 鈍い手応えとともに鉄杭が敵機のコアを抉る。血のように垂れ落ちる機械油が、その場を飛び離れたことでパタパタと散った。

 

 瞬く間に相棒を落とされた残り一機は、うろたえた声を上げた。

 

《コード31C! ……馬鹿な、シミュレータと戦型が一致しない。あまりに差異が……!》

「そうかしら。似たような武装なら、似たような戦術になるんじゃない?」

《貴様、何者だ!? まさか、あの“レイヴン”ではないのか!?》

「いいえ、“レイヴン”よ。名乗りでしかないんだから、それ以上の意味はないわ」

 

 とはいえ、実際に何をやらかしたことになっているのかは気になる。

 追撃の手を緩め、首を傾げた。

 

「ちなみに、何をしたことになってるの? 教えてもらえれば助かるんだけど」

《ふざけるな! 企業をルビコンに呼び込んだのは貴様だ! 我々の封鎖による秩序を、貴様が崩したのだ!!》

「……それはまた。どう聞いても戦火の元凶ね」

 

 特に解放戦線からすれば、殺しても殺したりないほどの敵だろう。その名を持つ傭兵にこうも依頼を寄せてくるのは、情報に対する鈍感さによるものか、それともこれを知り得る人間がごく一部となっているのか――おそらくは、後者だ。

 

 そう遠くないうちに露見するだろう。まあ、別人だと言って乗り切れるところまで乗り切るしかない。

 

《しらを切るか! 貴様のせいでどれだけの血が流れたと思っている!! そしてこの先、どれだけの悲劇が――》

「ごもっとも。でも悪いけど、大人しく潰されてあげる気はないわ」

《……貴様はやはり危険だ。ここで必ず排除する……!》

 

 相手が放つプラズマライフルとミサイルの乱射を小刻みに回避しながら接近する。

 残るは狙撃型1機。

 機動力でまさる機体は警戒心もあらわに距離を取っていた。放たれたプラズマライフルを避け、リニアライフルで応戦する。

 追いかけっこはこちらが消耗するだけだ。遮蔽物もない台地ではこちらが不利。相手の攻撃範囲が思いのほか広い。

 

 けれど、最適化されたプログラム的な動きは読みやすい。

 ミサイルを放つ。雪煙が上がる。リニアライフルを行く手に置いて、敵機が回避し終えたポイントへと回り込んだ。

 これが特別仕様だというなら、機動力と武器の威力が高いだけで、そこまでの脅威ではないだろう。自分が出張るまでもなかったかもしれない。

 間近まで迫って、溜めきったパイルを前に訊ねる。

 

「……他に何か?」

《ぐっ……コード5》

「それはもういいわ」

 

 刺突兵器が無情に作動する。断末魔さえ残らず、高起動機がゆっくりとくずおれた。

 無骨さや扱いにくさは嫌いではないのだが、どうにも、少しばかり殺意が高すぎる武器だ。手応えがやたらと重々しい。当てにくいし取り回しは悪いしで必然的にコアを狙うことになる。一撃必殺は好みに合わないようだった。

 そういえば、フロイトの「封印したくなるリスト」にこれも載っているのだろうか。そんなことを考えて、少し笑った。

 

《特務機体の撃破を確認。現在、傭兵部隊がエネルギー精製プラントに到達済み――目標の破壊を確認しました。作戦は成功です、V.Ⅸ》

「ありがとう。貴方もお疲れさま」

 

 ふう、と息をつく。

 

「面倒なことに巻き込んで、悪かったわ。V.Ⅳには聞いたとおり報告して構わない。まあ、大っぴらに言い回らないでもらえると、助かるのは助かるけど」

《……承知しました》

 

 高台からは、広い曇り空がよく見える。

 まだらな雲が赤く染まる、中央氷原のいつもの天候だった。

 

 

 





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