621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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日常回です。今回は平和。山も谷もオチもなく雪だるまつくる話。



雪の日

 

 

 一段と冷え込みの強い朝だった。出撃前のオキーフに偶然行きあったので、これを幸いと厄介な話を持ちかける。

 彼は時間に余裕を持って行動するタイプだ。手早く終わらせれば大丈夫だろう。

 

「オキーフ長官、出掛けにすみません。例の情報提供、一回目をお願いしたいことが」

「構わんが……何かあったか」

 

 オールマインドとG5の件ではないかという意味だろう。素直に首を振った。

 

「いえ、私の個人的なトラブルです。独立傭兵Rb23『レイヴン』について、情報を集めていただけませんか」

「お前について? 噂話の収集か?」

「……実はこのライセンス、撃墜されていたACから乗っ取ったもので」

 

 ぎょっとしたオキーフが、周囲に視線を走らせた。

 

「……さすがに予想していなかった。多少は耳に入っている名前だ、確かに違和感があったが……」

「思っていたより厄介な経歴の持ち主だったみたいで、先日も惑星封鎖機構の特務部隊に絡まれました。ちょっと背景を洗っておいたほうが良さそうだな、と」

「……わかった。できるだけ早く対応しよう」

「ありがとうございます。では、任務お気をつけて」

 

 厄介事を持ち込んでの挨拶ではなかったかもしれない。オキーフは苦笑いで手を上げた。

 ちょうどそのとき、通信が入った。

 

「V.Ⅲだ。……何? ……そうか……承知した。待機する」

「何かありましたか」

「作戦は延期だ。どうも、外は大雪が積もっているらしい」

「そんなに?」

「まあ、上が延期すると言うなら是非もない。先にお前さんの依頼を片付けるとするさ」

 

 アーキバスは割と安全策を取る傾向にあるが、それにしてもめずらしい話だ。

 気になって外に足を運ぶと、予想以上の光景が広がっていた。

 

 雪に埋まっている。見事なくらいに。

 すでに働き者の社員が主要動線の雪かきを終えてくれているようだったが、それでも「埋まっている」という印象だ。積雪は50cmほどだろうか。おまけに中央氷原にしては天気が良く、差し込んだ日光がきらきらと光っている。

 

 真っ白な雪景色を見ていると、なんだかうずうずしてきた。

 いい大人がとは思うが、我慢してしまうのも勿体ない。

 そろりと雪面に足を踏み出し、白い息を吐きながら歩いて行く。なだらかなカーブを描く雪の壁があまりにも綺麗で柔らかそうで、欲求のままに倒れ込んでみた。

 ぼふ、と音を立てて身体が沈む。思ったほどの柔らかさではなかったし、めちゃくちゃに冷たかったが、ものすごく満足した。

 さすがに目撃されたら気まずいので、名残惜しいながらも身体を起こす。

 

 これだけでも結構堪能できたのだが、折角だ、もう少し遊びたい。

 

 両手ですくって雪を固め、建物の脇に積み上げていく。

 ちんまりとしたスノーマンが3兄弟になったあたりで、扉が開いた。

 メーテルリンクだった。

 現行犯を目撃されたことで、なんとなく見つめ合ってしまう。

 

「……何してるの、雪まみれで」

「……童心に返ってる」

「まったく……。風邪を引かないようにね。手袋くらい使ったら?」

 

 それもそうだと一度部屋へ帰り、懲りずに戻ってくると、スノーマンが4兄弟になっていた。

 いや、これは女の子だろうか。自分の作ったものに比べ、なんだかとてもできが良い。

 ちょっと悔しさを感じた。こうなったら大きさで対抗しよう、と雪玉をせっせと転がしていると、今度はホーキンスとペイターが顔を見せた。

 

「酔狂ですねえ。これ、何か生産性がありますか?」

「ないわね。私はアーキバスからお給料をもらってないもの、別に遊んでいても問題ありませんよね、ホーキンス隊長?」

「そうだねえ……まあ、風邪には気をつけて」

「あ、ついでに一体作っていきませんか? 実は大物を作りたくて」

「うん、それを見ればわかるよ。……そうだなあ、じゃあ、ちょっとだけ手伝おうか」

「本気ですか? 私は遠慮しておきます」

 

 心底から怪訝な顔をして、ペイターは言葉通りその場を後にした。

 人の良いホーキンスは断われなかっただけかもしれない。

 

「それは胴体?」

「そうです。うまく乗せるのが難しくて。一回失敗しました」

「下段の形を変えた方が良いかな。接触面は平たい方が安定すると思うよ」

「なるほど。……お上手ですね」

「子どもたちと一緒に作ったことがあってね。あのときは大変だった、なにせ注文が多くて」

「今の、なんだかすごく、お父さんって感じでしたね」

「もう顔も忘れられてる頃だろうなあ……」

 

 切ないぼやきが割と本音のようだったので、そんなことはないと思いますよ、と慰めを口にする。彼のことだ、きっと家族仲はいいのだろう。

 うまく胴体を安定させられたとき、通信が鳴った。さすがに時間切れらしい。

 途中離脱を謝るホーキンスに首を振って、二つ重なったスノーマンを見やった。あとは頭だけだ。

 さてどうやって乗せようか、と考えているところに、ちょうどよく通りかかった青年を見つけた。

 上がったテンションのまま、扉を開けて、気安く呼び止める。

 

「ラスティ、ちょっといい? 時間があるなら手伝って欲しいんだけど」

「君からのお誘いとはめずらしいな。私にできることなら」

「貴方なら絶対に適役。背が高いから」

「背?」

 

 外へ手招いて誘導すると、ラスティがあっけにとられて雪の塊を眺めた。

 

「……スノーマン?」

「そう、後は頭だけ。ちょっと一人じゃうまく乗せられなくて」

「なるほど……それにしても、スノーマンって3つ乗せるんだっただろうか」

「地域によっては違うかも。貴方のところは2つだった?」

「……ああ、そうだったな」

 

 懐かしむような、少しの苦さを含んだ苦笑だった。

 それから二人で頭を乗せ、その辺にあった石と出所不明のボルトで顔を作る。なかなか凜々しいたたずまいになった。

 

「完璧。ありがとう」

「力になれたなら幸いだ」

 

 150cm近いスノーマンに満足して、写真を撮った。やはり大きさは強さだ。

 仕事中のラスティと別れ、折角なので(といいつつ既に小一時間が経過している)クリスマスツリーのオーナメントみたいな飾りを周囲にちょこちょこ追加していると、上空からブースト音が近づいてきた。

 フロイトのロックスミスだ。

 

 衝撃で壊されてはたまらない。下がって、と身振りで示したところ、幸いにも伝わったようだった。通信が入る。

 

《何してるんだ?》

「遊んでる。見てのとおり」

《……お前、ときどき生まれ育ちが見えることをするよな》

「そう?」

 

 そうかな、と首を傾げた。そうなのかもしれない。

 苦笑しながら手伝ってくれた面々を思い返す。気に障っていなければ良いのだが。

 

「そっちは何をしてるところ?」

《折角いつもと違う環境だからな。動きの確認をしてる》

「あ、そうか、確かに。……私もそうしようかな」

《向こうに除雪した雪山がある。うっかり埋まるなよ。掘り出して貰わないと出られなくなるぞ》

「やったの?」

《大昔にやった。かなり怒られた》

 

 想像のつかない新兵時代、というやつだろうか。おそらくうっかりではなく、興味本位でやったに違いない。

 くすくすと笑っているうちに、ふと、ろくでもないことを思いついた。

 

「……ねえ、ACで特大のスノーマンって作れると思う?」

 

 考えるような間があった。

 

《……なかなか難問だな。まずACはしゃがめない。ACS(オートバランサー)があるからな。ブースターを使わないで姿勢を変えるにはACSを切る必要があるが、そうなると機体のバランスを取るのが難しい。その状態で細かい作業をするなら尚更だな》

「なるほど。面白そう」

《ああ、面白そうだ》

 

 よしやろう、という空気を止められる人間は、この場には存在しなかった。

 

 

 

 

 

「まず作戦としては、(1)雪の集約、(2)成形、(3)積み上げ、となるわけだけど。とりあえず(1)用に大型ショベルカーのパーツを借りてきたわ」

 

 貸し出しを頼まれた担当者は、雪かきに使うのだと信じて疑わなかっただろう。

 フロイトがマニピュレーターを操作してショベルを掴む。

 

《重量的には行けるな。両手で操作した方が安定はするか》

「ACSがオンのままだと……ちょっと厳しいわね。やっぱり前傾姿勢が押し返されちゃう」

《いったん装備を外して、ACSなしの動きを練習した方がいいな》

「意外。試したことがあると思ってた」

《試してはみたが戦闘で使えるものじゃなかったからな。ブースターをあまり使わない今回の方が、多分難しい》

「そういうこと。じゃあちょっと、やってみるわ」

 

 立っているだけなら問題はない。一歩踏み出した途端、バランスが崩れた。

 

「う、わっ……危な……なるほど! こういう感じなのね!」

《よく立て直したな》

「びっくりした、こんなにぐらつくなんて。ACSってすごいのね……」

《二足歩行の歩き出しは基本が転倒モーメントだからな。重心の加速度を意識して制御した方がいい》

「どうやって?」

《勘で》

 

 わいわい騒ぎながら練習しているうち、一歩ずつ歩くことはできるようになった。

 むしろブースターで滑る方が楽だ。……止まるときの制御の難しさは、歩行の比ではなかったが。ジャンプはさらにその上を行き、見事に転倒した。

 それでも小一時間もすればなんとか形になってきたので、雪面を滑ってアーキバスのマークを描いてみた。割と良い感じに描けたので、写真を撮っておく。

 

「よし、準備運動は完璧ね。これより作戦に移るわ」

《了解した。どうせなら大物を作ってやろう》

 

 

 そうして試行錯誤の上にできあがったスノーマン(途中で妥協して2段にした。雪山に頭が着いている感じの出来になった)はとんでもない大きさで、スネイルに特大の雷を落とされたのだが、雪面のアーキバスマーク写真を提供することで話がついた。

 

 実に見上げた愛社精神である。

 

 

 

 

 

 







Q:アーキバス坊やの雪像にしておけばボーナスもらえたのでは?
A:思いついてませんでした



……きっとこの話のレイヴンがここに思い至っていたら、ものっすごく頭を抱えて後悔していたはず!(その場合の面倒な細かい作業の大半はフロイトにやらせたとする)(このレイヴン器用じゃないので、自分でやったらきっとアーキ坊やと判別できない出来になる)
コメントありがとうございます、めちゃくちゃ面白かったです!
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