621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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久々に短いエピソード集です。
スウィンバーンさんどうしてるんですかね、とコメントでいただいたのでようやっと会話シーンを。単に何か流れで出せてなかっただけなんです…
残りは没シーンからピックアップです。

総務見てると経理って片手間に出来る仕事じゃないと思うよ…(年末調整は資料が揃った段階で提出する派)




間話

 

スウィンバーンとレイヴン

 

 

 所属不明機体鹵獲の件でお礼を言いに行くと、V.Ⅶ スウィンバーンが書類に殺されそうになっていた。

 

 いや、それは流石に大げさかもしれないが、それくらいの顔色の悪さだ。武力実行部隊の隊長としての任務以外に会計責任者まで担っているというから、色々と苦労が多いのだろう。

 こちらに気づきもしない様子だったので、デスクの近くに立って、声をかけた。

 

「スウィンバーン隊長、先日はありがとうございました」

「なんだ、きさ……V.Ⅸ!? な、ななな何の話だ! わ、私は知らん! 何も知らんぞ!?」

「え、知らないということはないでしょう。さすが鹵獲に特化した第7部隊、おかげで良い情報が取れそうです」

 

 ぽかん、とした顔になったスウィンバーンが、へなへなと椅子にくずおれた。一気に老け込んだ印象だ。

 

「な、なんだ、そちらか。……んんっ、わざわざ挨拶に来るなど、なかなか礼儀というものをわきまえているようだな」

「はい。なのでその前の件は水に流します」

「覚えているのではないか!」

 

 面白い人だなあ、と笑みを噛み殺した。なんとも打てば響く反応だ。

 これだけ小心ぶりを披露してもらえると、下手な疑いを持たずにすむ。やはり例の件は組織ぐるみではなく、個人の暴走だったのだろう。

 

「ところで、ずいぶんお忙しそうですね。よろしければ何かお手伝いしましょうか?」

「何? ……お前、書類整理などできるのか」

「一応高等教育は受けていますので。書類と添付データの整合性チェックくらいならできますよ」

 

 具体的な提案に、スウィンバーンが目を輝かせた。藁にでも縋るような面持ちだ。

 

「そ、そこまで言うなら使ってやろう。部外者でも問題ないものを回す」

「了解です。こちらのデスクをお借りしていいですか」

「かまわん。ああ、そこの、コーヒーを頼むぞ」

 

 いそいそと部下に指示したスウィンバーンが、さっそく端末を差し出してくる。どうやらすでに疲労で戦線離脱した部下がいるようだ。

 ありがたくコーヒーを頂いて、黙々と作業を進めていく。だが、そのうち耐えきれなくなって口を開いた。

 

「……なんでこんなにぜんぜん違う添付ファイルをつけてきてるんですかね……」

「そう、そうなのだ! 送信前に中身くらい確認せんか!!」

「数字も一致しないものが多いし……再提出、指示出しておきますか?」

「当然だ! 突き返してやれ!」

「……あ。変なものを見つけました」

「今度は何だ!」

「これ、同規格の弾の単価が3日前のものと違います。発注数も不自然ですし、裏を取ったほうがいいかも」

「ぐう……! わ、わかった、確認しておく」

「こっちもちょっと変ですね。現地のルビコニアンを雇用したみたいですけど、20歳女性無資格未経験者に武器倉庫整理業務って。……スパイでなくてもそういう仕事のお姉さんなのでは」

「なんだと、そんなものを経費で雇おうとするな! けしからん! 不法者めが!」

「……今度は死亡者手当のリストに3回同じ名前が」

「3回殺すぞ! 決裁を通したのは誰だ!?」

「……V.Ⅰですね……」

「たまに仕事をするとろくなことをしない……!! ちゃんと見ろ!!」

 

 やがてコーヒーのカップが空になる頃には、二人共すっかりくたびれ果てていた。

 まさかの6割に「不備あり」だ。決裁者がV.Ⅶあてのものが大半とは言え、こんなもの、全部再提出を待っていたら、終わるわけがない。

 

「……すみません。何か、かえって面倒を増やしているような……」

「いや、貴様は正しい……正しいのだが……! どんどん仕事が増えていく……ッ!」

「……数値の誤差はもう目を瞑って、あきらかにまずいのだけにしておきます?」

「……そうしよう……」

 

 

 はたしてヴェスパーの会計が健全化する日は、いつかやってくるのだろうか。

 今のところの感覚では、とりあえず、無理そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オキーフとラスティ

 

 

「正直、理解に苦しむな。どこがいいのだろう」

 

 嫌悪感の滲むラスティの声に、オキーフは少々持て余しながらコーヒーをすすった。

 ――それはまあ、比類ないほど強いところだろう。そう言ったら、こいつはフロイトに戦いを挑みにでも行くのだろうか。

 

「……男女の仲はわからんもんさ」

 

 雌伏の中で待ちに待った希望が眩しすぎたのか、どうにも、この男はレイヴンに理想を重ねすぎている節がある。それが言語化されるのが他の男との関係だというと途端に生々しくなるが、そこには嫉妬心のようなものはない。ある意味では健全だが、ある意味ではこの上なく不健全だ。

 

 人の営みを慈しめる人間だというレイヴンへの評価は、まあ、的外れだとは思わない。

 幸福な幼少期を経た人間特有の甘さがあるのは確かだ。しかし、それ以上に、このルビコンに適応した冷淡さも持ち合わせている。本人がその二面性を意識しているから気付きにくいが、実際のところ、敵に回せばさして煩悶もなく打倒してくる種類の人間だろう。

 

 大体が、「心優しい女」は普通、トップランカーとしょっちゅう理由もなく戦って死にかけたり殺しかけたりしない。

 青いな、と苦笑する気持ちをコーヒーで誤魔化す。

 

 その辺りの矛盾をまるっと「フロイトのせい」ということにしているのだろう。なかなか盲目的になっている。まったく自覚がないわけではないだろうが、少々自覚の程度が足りていない。元々、フロイトのことはかなり嫌っているようだったが、最近はますますその度合いが上がっているようだ。

 ふと不安がよぎったので、念のため釘を刺した。

 

「ないとは思うが、本人に言うんじゃないぞ」

「わかっているさ。だからここでぼやいているんだ」

 

 ならいいが、聞かされる人間の面倒さも配慮して欲しいものだ。どうにも遠慮がない。

 あの二人はどちらかというとドライな関係性に見えるので、そんなことを言うのだろう。だが、あの日海岸で見たレイヴンの様子は、フロイトにかなりの情を抱いているように見えた。

 言えば面倒そうなので、口には出さないでおく。

 

「もう一つ言っておく。“例の件”はまだ話すな。隔意を持たせるには十分な材料だが、最も重要な手札だ。時期を見極めろ」

「……ああ。十二分に承知している。……だから余計にもどかしいんだ。彼女は、あの男の本性を知らない……心を寄せれば寄せるほど、傷つくことになる」

 

 吐き捨てるような言葉だった。

 気持ちは分かるが、全面的に賛同もしがたい。こんな仕事をしている人間に二面性はつきものだ。それこそ、レイヴンにも同じことが言えるだろう。

 

 知れば、おそらく許容はできないだろう。

 だが、それでフロイトに対する情のすべてを捨ててしまえるかといえば――わからない、というのが本音だった。

 ともあれ、さしあたり問題なのは、鬱憤をかなり溜めているラスティの方だ。

 

「……十代の小娘ならまだしも、そこまでお前が口を出すのはお門違いだろう。ほどほどにしておけ」

「年齢に関係があるか?」

「あるに決まっている。あの年齢なら、口を出して許されるのは、家族か、せいぜい親しい友人までだ」

 

 お前はそのどちらでもないだろう、と言外に告げれば、端整な顔立ちがこの上なく苦々しいものになった。

 まったく、随分な入れ込みようだ。もしかすると、単なる戦力としての期待以上のものを持ち始めているのかもしれない。厄介な兆候だった。

 頭痛を覚えてこめかみを押さえる。

 ただでさえ考えることが多いというのに、個人的な人間関係のあれこれに煩わされるのはたまったものではない。

 

「……お前な、そろそろ特定の女を作っておけ。これ以上は不毛だ」

「今はそんな状況ではないだろう」

「……レイヴンはあれで色恋沙汰の話をかなり好んでいると聞く。解放戦線からコンタクトがある度に例の恋人の現状を訊ねているらしいぞ。お前に良い相手が出来れば、お前への興味もかなり上がるだろうな」

 

 ゴシップよりも円満で微笑ましい話が好きそうなので、あくまで「良い相手」を見つける必要があるのだが。そんな動機ではどうにも無理そうだが、目先をそらす程度の効果はあるだろう。

 素直に受け取って検討し始めるラスティを眺め、青いな、と二回目のぼやきを内心にこぼしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴンと美女

 

 

 V.Ⅰフロイトといえば、押しも押されもせぬトップランカー、強化人間部隊ヴェスパーに君臨する真人間、そして極度のAC馬鹿たる戦闘狂である。

 外見がどうこう以前に人としての情動が怪しい。つまりラスティとは違い、ヴェスパーの首席隊長という地位にありながら、女にもてるタイプの「危険な男」ではないということだ。

 ――だからこれは、まったくの青天霹靂だった。

 

「貴方なんか、フロイト隊長にはふさわしくありませんっ!!」

 

 目の前の美女が叫ぶ。

 整いながらもちょっと可愛らしい顔立ちの、それでいて出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ素晴らしい身体つきの――つまりは称賛したくなるほどの美女だった。普通の男なら秒で落ちる。

 その美女が、何を血迷ったのか、フロイトの隣をよこせと言っているのだ。

 思わず気圧されてしまった。

 

「えっ……正気……? 大丈夫? 代わりにACに乗って戦える……? 死なない?」

 

 人間の一種として完成された形だと思えるその肢体は、どう考えても強化人間には見えない。こんなことに消費しては勿体ないと思うのだが。

 わりと本気で心配して言ったのだが、彼女はこちらをきつく睨みつけてきた。

 

「私は戦いたいわけじゃありません! あなたなんて、フロイト隊長を傷つけてばかりじゃないですか! 私は……私は、フロイト隊長の心の支えになりたいんです!」

「いや心の支え要求してないの本人じゃない……? 支える余地がある……?」

「貴方は何にもわかってない! あの人は、本当はとても優しい人なんです!」

「優しいの定義崩壊が激しいわね!? さすがに無理がない!? コーラルキメてない!?」

 

 ここまでで、心配して(面白がって、ではないと思いたい)駆けつけたらしいメーテルリンクが耐えきれずに笑い伏した。壁の影でかろうじて隠れながら、腹筋を抑え、ふるふる震えながら声を殺して笑っている。

 思わずつっこんでしまったが、そもそもそういう話ではないだろう。

 咳払いをして改めた。

 

「……ごめん、ちょっとあまりに衝撃的で話が逸れたわ。ええと……あのフロイトをそういう意味で真人間扱いできる貴方の胆力はすごいと思うんだけど、とりあえず、ACに乗らないと認識されるかどうかがあやしいような……」

「そんなもの、貴方にそれしか価値がないからそう思うんです……! 女性としてなら、私だって貴方になんか負けません!」

「ああ、なるほど。そっちだけか……だったらある……のかな……? どう思う、メーテルリンクさん」

「そこで私に振ってくるとは思わなかった。返答に困る」

「ほら、女性遍歴的に」

「ああ、なるほど。……まあ……普通に聞いた気がするけど……」

「じゃあ可能性はあるってことね。わかった」

「わかっちゃっていいんだ……?」

 

 ふう、と息を吐いて、美女に向き直った。

 憎々しげにこちらを睨む姿すら美しさを損なっていない。ここまでくると、いっそ賛美したくなるほどだ。環境の悪いルビコンでこの美貌を保つのは、おそらく並大抵の努力では足りないだろう。

 

「つまり貴方は、私に身を引けと言っているわけよね。だったら答えはひとつだわ。……お断りよ。どうしてもというなら、力尽くで排除すればいい。受けて立つわ」

「な……信じられない、どうしてそうなるんですか!」

「どうしても何も、力で手に入れたものだから以外に理由がある? それを奪おうというなら、相応に覚悟はして貰うわ。……それを回避したいなら、直接フロイトを落とせばいい。そうなったら私だって愛想を尽かすと思うし……でもまあ、そうね、それも面白くないかな……」

 

 言っている途中で思い至って、考えを改めた。

 頭半分ほども背の低い美女に微笑みかけ、低い声で告げる。

 

「私はね、私のものを誰かに譲ってあげられるほど、寛容じゃないの。ふさわしいかどうかを決めるのは貴方じゃない。死にたくなかったら、諦めてもらえると助かるわ」

 

 一切の遠慮をなくした殺気を込めた言葉は、幸いにも無事に彼女の神経に届いたらしい。

 蒼白になってガタガタと震え始める美女を一瞥し、その場を後にする。さすがに非戦闘員相手に本気でそうするつもりはない。やるとしたら殺しに来たときくらいだ。これで諦めてくれれば良いのだが。

 興味深そうな顔をしたメーテルリンクが追いついてきて、隣に立った。

 

「今のはちょっと意外だったな……。安心したよ。そろそろ観念する気になったの?」

 

 ――そういえば、まだ彼女には言っていなかった。

 なんだかばつの悪い気分になって、視線を泳がせる。頬が熱くなるのを感じた。

 

「……観念、というか」

「うん」

「……私を殺すのは、貴方だったら良い、とは、言った……」

「……ごめん待って、ちょっと理解が追いつかない。……まさかとは思うけど、それ、惚気のつもりなの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空の華(レイヴンと、???)

 

 

 傭兵支援組織のフォーラムをチェックしていたのは、線は薄いものの情報収集のためだった。

 交わされている話題は多岐にわたる。噂話や情報交換、武器やパーツの評価や意見、メーカーサポートや参加した作戦への愚痴など。玉石混淆の中で、妙なものを見つけた。

 

 花火のデータが欲しい、というものだ。

 

 何かの隠語かと思ったが、どうやら本当に文化遺産的な「花火」を望んでいるらしい。

 このルビコンでそんな平和な話を聞くとは思わなかった。

 首を傾げて、考えを巡らせる。

 

(花火……花火か……)

 

 確か大昔に、異国のもので、感銘を受けたデータがあったはずだ。

 地球の自治体のサーバーを探し出し、公開されているVRデータを見つけて送信しておいた。

 

 

 華やかで儚く、美しいそれが、ある二人のいわゆるデートというものに役立つとは、まったく想像もしていなかったのだが。

 後日もらったお礼のメッセージはとても胸を温めて、ささくれ立っていた気持ちを十分に満足させてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

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