敵機は高機動型LCとHC型。いずれも交戦したことはあるが、「上級尉官」というにはそれ以上の脅威なのだろう。
今日の装備だと、ラスティの方が火力がありそうだ。スタンガンの残弾数も心もとない。安全策をとるならサポートに回った方がいいだろうが――残念ながら、執行機は2機とも完全にこちらへ狙いを定めていた。
《コード44、排除対象2機の情報を回してくれ》
高い機動力を見せつけるように近接機が迫る。大きく振り回されたブレードを避けながら懐に飛び込み、スタンバトンをリズミカルに打ち込んだ。
1、2、3、と数えたところで、視界の奥に収めていた射撃機から大量のミサイルが放たれる。
バルテウスを思い出させる、一機だけで弾幕を張れそうな数だった。
とっさに近くの阻塞へ回り込む。集約したミサイルが派手な爆発音を立てた。
広がった後はまっすぐに接近するタイプのようだ。
追撃に追ってくる近接機へ、プラズマキャノンを放つ。ほぼ同時に、スティールヘイズのプラズマミサイルが着弾した。
《システムより回答。企業所属「V.IV ラスティ」、独立傭兵・優先排除対象「レイヴン」。後者については、登録情報との誤差を再照合中》
《シミュレーションとの差異が多大だ。……早急な回答を願う》
上空から執拗な射撃が降ってくる。スティールヘイズが割って入り、レーザースライサーを閃かせた。
くすりと笑う声がした。
《君を相手にデータで対応しようとは、連中もよくよく運がない》
「確かに。今日は特にそうよね」
射撃機をラスティのスティールヘイズが引きつけてくれたので、かなり楽になった。
矢継ぎ早に繰り出される斬撃を丁寧にひとつずつ避けて、背後からスタンバトンを打ち込む。敵機が焦った声を上げた。
《くっ……! 中尉、そいつにかまわずこちらに攻撃を集中しろ! なんとしてでも、「レイヴン」だけは落とさねば……!》
《わかっています! ですが、このAC……!》
《やらせはしないさ。そう甘く見て貰っては困る》
ラスティが応じる。いちいち言い回しが格好良いものだ。これを真似たら、少しは、すかしているではなく格好良いといった感じになるのだろうか。
それにしても、HC型のブレードの推進力はかなりのものだ。あれだけ踏み込めたら、さぞ楽しいだろう。つくづく規格が違うのが残念だ。改造でどうにかならないのだろうか。
大上段に振り下ろされたブレードが地面を抉る。宙へ浮いたところに、返す刀での追撃がきた。
あまりにちょうどいいところに来たので、思わず頭部を蹴りつける。
《なッ!? きさま――》
なだれ込むようにスタンバトンを突き込みながら、プラズマキャノンのチャージが完了するのを待った。
トリガーに従い、紫色の派手な火花放電が近接機に直撃する。
爆発しながら落ちていく機体に背を向けた。
《システムに……報告を……! コード78……脅威レベル、E……!》
《上尉! くそっ……そんな馬鹿なことが……寄せ集めのACごときに!》
残るのは射撃機だけだ。
ラスティの称賛が聞こえた。
《さすがだな、レイヴン。背中を預けるにふさわしい》
「貴方こそ。すごく戦いやすくて助かってる」
《嬉しがらせを言ってくれる》
高機動型LCはその名に恥じぬ動きで、弾速の遅い武器では捕まえるのが厄介そうだった。
交戦するスティールヘイズを援護するべくスタンガンを打ち込んでいたが、途中で弾が尽きてしまう。アサルトブーストで近づき、振りかぶって、弾切れのスタンガンを投擲した。
横合いから、見事に頭部へ命中した。
《な………なんだと!?》
体勢を崩したLCの隙をのがすはずもなく、スティールヘイズがレーザースライサーで切り刻む。こちらもありったけの弾を撃ち込んだ。
ジェネレーターに引火したか、機体が爆発を起こす。
息をついたラスティが、やや唖然とした声で言った。
《……まさか、武器を投擲するとは……》
「わりと良いダメージがでるから、つい。アラートも鳴らないし、けっこう当たるわよ」
武器を使い捨てることにはなってしまうが、弾切れの荷物を抱えていても仕方ない。補給が出来るタイミング以外ではわりとどかどか投げてしまう。さすがに状況は見ているつもりだが。
いっそのこと、投擲専用の武器があっても面白そうだ。今度アーキバスの武器開発局に話を持って行ってみよう。とにかく丈夫で、遠隔操作で戻ってくるタイプならなお良い。
雑談を交わしていると、どこかから合成音じみた無感動な声が響いた。
《……コード78Eを受領。システムに上申――システムの判断を通達します。
コード78Eを承認。惑星封鎖に対する脅威現出と見なし、IA-02の起動を許可します》
なんとも嫌な予感に、スティールヘイズを見た。まだ余力はありそうだ。
「……何が来ると思う?」
《まあ、ろくでもないものであることは間違いないだろう》
「そうよね」
うなずきあったとき、COMが高速接近する巨大な敵性機体の存在を告げた。
《これは……地中からか……!?》
地鳴りと共に、その怪物が姿を現わす。
まるで大蚯蚓のような胴長の「機械」だ。胴体の幅だけでACよりも太い。とんでもない大きさだった。
こちらを認識するでもなくぐねぐねと暴れ回り、半壊状態だった空港施設や墜落した強襲艦の残骸を、玩具のようにその胴体で挽き潰していく。
ラスティがめずらしく動揺を見せ、うわずった声で言った。
《なんだ、 この化け物は……! これも封鎖機構の兵器なのか!?》
顔、と呼べそうな部分はあったので、とりあえず手近にあったタンクの残骸を投げつけてみた。
うまく当たり、派手な音を立てたが、効いている様子はない。
「シールド? 見えないけど……せっかくパルスキャノンを持ってることだし、ちょっと削ってみようかな……」
《……君がそう言うなら付き合うが……正直、かなり分が悪いぞ》
「まずこっちを向いて欲しいわね。色々投げてみよう」
幸いにも投擲物は山ほどある。
そうしてひたすらちょっかいを出しているうち、ようやく大蚯蚓がこちらをターゲットに収めた。
すかさずパルスキャノンを打ち込む。手応えは――完全にない、というほどではない。だがそれに近い感覚だった。
大蚯蚓が倒れ込んでくる。横に飛んで回避しながら、ラスティに謝った。
「ごめん、無理そう。撤退しましょう」
《了解した。見逃してくれると良いのだが》
「こっちをターゲットにしてるから、先に行って。適当に撒いていくわ」
《また君は、そうやって無茶を――いや、待て。何か様子がおかしい……》
その言葉通り、敵機の動きが変わった。
再び首をもたげるが、その「顔」の向けられた先はこちらではなく、広大な氷原の方角だった。
キチキチと回る掘削ドリルが、まるで何かを話しているかのようだ。
やがて、大蚯蚓が動きを見せた。
何かに引き寄せられるかのように、地面を抉りながら去って行く。
――理由は分からないが、どうやら助かったようだ。
しばらく様子を見たものの、戻ってくる気配はない。
《行ったようだな……》
「……惑星封鎖機構にもコントロールできているようには思えないけど……あれ、たぶんこのあと、対処しないといけないんでしょうね……」
《作戦立案は上に任せればいいさ。何か手はあるだろう》
動きを見るにほとんどが地中に潜ってばかりだったので、相手取るのは大変そうだ。まあ、海中にいた「ケートス」よりはましだろうか。少なくとも水没の心配はない。
あとは前回のようにフロイトが暴走しないことを祈るだけだ。たぶんスネイルがしっかり監視をつけるだろう。
大蚯蚓――C兵器IA-02の移動が停滞する。どうやら目的地点に到達したようだ。あとは拠点に戻って報告となるが、データを見たスネイルがどんな顔をするのかは、少しばかり楽しみだった。
ふう、と大きく息を吐いた。
「付き合わせてごめん、ちょっと無計画だった」
《……いや、喜ばしく思っているさ。君一人にあの化け物の相手をさせずにすんだのだから》
「本当、いちいち言うことが格好良いわね」
《それは……褒め言葉だろうか》
「え? 嫌味に聞こえた?」
さすがにあわててしまった。純粋に感心しただけだったのだが。
《ああ、いや、大丈夫だ。……ところで、レイヴン。……共に戦った仲だ。差し支えなければ、君のことを、戦友と呼んでもいいだろうか》
「戦友?」
聞き慣れない呼び名だ。
口の中で何度か唱えてみる。わざわざ了承を求められたことを不思議に思ったが、特に拒む要素もない。
「かまわないけど……」
《そうか》
どこか安堵のにじむ声だった。
協力者としての関係を深めておきたいという気持ちのあらわれなのだろうか。たしかに現状だと、友人と言えるのかどうかは微妙なところだ。
いずれ解放戦線につくなら、信頼できる相手がいることは重要だろう。
首を捻って訊ねた。
「……私もそう呼んだ方がいい感じ?」
《いや、君は気にしないでくれ。下手にフロイトの目を引くのもまずい》
「そう。……そうだ、そういえば言ってなかったけど、貴方の出自、フロイトもなんとなく感づいてるみたいだった」
《……初めての模擬戦でACを半壊させられたとき、直接ひやりとすることは言われたが……》
「まあ、多分その辺、興味がないんでしょうね」
夕陽が沈み、空には星が瞬き始めている。
そろそろ切り上げて戻るべきだろう。
「……あの大蚯蚓を倒したら、多分いよいよ、コーラル集積地点の発見が近づく。……色々と変わりそうね」
ウォルターからの連絡は途絶えたままだ。彼は彼で既に動き出しているだろうが、少し寂しさも感じた。
元気だろうか、とぼんやり考える。こちらから連絡することも考えたが、情報を得ようとしていると思われるかもしれない。手元を離れた部外者の立場だ。仕方がないだろう。
ふと、ラスティが訊ねた。
《そういえば、フロイトとの約束は残り何回だ?》
「あと35回」
《……先は長いな》
そうだろうか。ここまでは、なんだかあっという間だった。
そしてきっと、この先もあっという間なのだろう。
天気の悪い中央氷原にしては晴れた空が、吸い込まれそうな深い紺色をしていた。もうすぐ黒に変わるほんの少しの間だけ見せる色が、とても綺麗だと思う。
何だか感傷的な気分になって、呟いた。
「急に、変なことを言うんだけど」
《何だろう》
「……ルビコンに来て良かったわ。……私が放り込まれたのが、ルビコンで良かった」
まともな政府も統治もない、争いと傷ばかりがある荒廃した惑星だ。
それでも、訪れたのがこの星でなければ、出会えなかった人たちがいた。今こうしている自分はいなかった。
そうか、と応じたラスティの声は、どこか暖かく湿っていた。
「まあ、押しかけてきた混乱の種に言われても、ルビコンからすれば困るというか怒られるわよね」
《その種が希望を芽吹くなら、その限りではないだろう》
「……何でそんな返しをとっさに思いつくの……?」
《褒め言葉として受け取っておくよ》
「褒めてはいるけど、見習うにはハードルが高いわ……」
《それは光栄だ》