621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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それぞれの価値観

 

 

 中央氷原に陣取ったC兵器IA-02、通称「アイスワーム」を前に、アーキバスとベイラムは一時停戦を決定。共同戦線を張って対処に当たることとなった。

 

 「アイスワーム」は、コーラルの指向性を応用した比類ない強度の二重構造リアクティブシールドを展開しており、通常兵器ではそれを剥がすことができない。これを打開するためには別のコンセプトと威力をもつ攻撃手段が必要だという話だったが、なんの思惑かRaDが協力を申し出て、オーバードレールキャノンなどという規格外の武器を提供してきたという。もちろん武器商人なのだから、対価はアーキバスとベイラムのいずれか、あるいは両方で支払ったのだろうが。

 そして、もうひとつ。1枚目のシールドを破壊する手段として、アーキバスは大金を注ぎ込み新型兵器を開発した。

 VE-60SNA スタンニードルランチャー。

 帯電した大型の杭を発射し、着弾地点に強力な放電現象を発生させる、スタン兵器の極みとも言える武器だ。

 

 

 ブリーフィングの最中、新型兵器、と聞いた二人の目が輝いたのを、スネイルは嫌そうな顔で見ないようにしていた。

 すかさずフロイトが言う。

 

「俺が行こう。G1が来るなら一度挨拶しておきたい」

「却下します。貴方には惑星封鎖機構の基地襲撃にあたっていただきます」

「じゃあ私が」

「貴方も同様です、V.Ⅸ。挙手制ではありませんので挙手しない。……今回の作戦の肝は技研の錆びついた遺産ではありません。惑星封鎖機構の最新機体及び強襲艦の鹵獲です。これが成功すれば、情勢は大きく変わります」

「鹵獲……」

 

 フロイトと声が重なった。つまらなさそう、というニュアンスまで同じだったせいか、スネイルのこめかみに青筋が浮かんだ。

 さすがにここまで波長があうことは滅多にない。

 できうるかぎり無視することにしたようで、スネイルが話を進めていく。

 

「対惑星封鎖機構襲撃作戦、目標地点をマップに示します。V.Ⅰが西側3拠点、V.Ⅸには東側3拠点を。他はこの割り当てです。敵勢力の戦力もおおよそ諜知が完了しています。確認を」

 

 3拠点を受け持つのは二人だけのようだ。評価されているのか、それとも使い倒そうとしているのか。両方かもしれない。

 スネイルとラスティは対アイスワーム戦に参加するとのことだ。つまり、拠点襲撃のメンバーは残る7名の隊長格とMT部隊となる。

 メーテルリンクが訊ねた。挙手はしていない。

 

「閣下、鹵獲後の輸送計画はどのように?」

「基地制圧後に順次輸送人員を回します。各隊長は引き続きその護衛を。東側・西側3拠点についてはMT部隊が受け持ちますので、V.ⅠおよびV.Ⅸはすべての拠点の制圧完了後、速やかに帰投してください」

 

 了解、と応えながらも、内心で首を傾げた。

 護衛をしなくていいというのは楽で良いが、そもそもスネイルが楽をさせてくれるということ自体がめずらしい。本拠地の防衛に不安でもあるのだろろうか。

 

 ブリーフィング終了後、各々が自然と雑談を始めた。隊長格が全員集められたのは実に久しぶりだ。スネイルの力の入れようがわかる。

 ペイターがオキーフと何かを話し込んでいる。傍目にも慕っているのがよくわかる様子で、少しめずらしく思った。その向こうでは愚痴をこぼしている様子のスウィンバーンにラスティが苦笑していて、これもまためずらしい組み合わせだ。フロイトは、と思って姿を探せば、ホーキンスに何やら小言を言われているようで、明らかに聞いていない顔をしていた。スネイルはメーテルリンクと真面目な話をしているようだ。

 折角だからどこかに混ざりたい。どうしようかな、と思っていると、メーテルリンクが端末を手に話しかけてきた。

 

「レイヴン、HC機体のことについて聞きたいんだけど――」

「近接型? あ、すごい、武器構成までわかってるんだ」

「諜報班のおかげね。HCならACと違って、武装を変えることもないし」

「私みたいに?」

「そうそう。貴方が相手だったら諜報班が頭を抱えそうだね。……それで、どう?」

 

 さすがのスネイルでも、メーテルリンクへHC機体相手に無理な鹵獲装備で相手をしろとは言わなかったようだ。少し胸を撫で下ろした。

 当日は補給と、武装の切り替えタイミングが重要になってきそうだ。

 

「うん……インフェクションの機体構成なら、距離を取った方が良いと思う。HCは火力が高いから一発が怖いし。あと機動力も高くて、思ったより接近が“のびて”くる感じ。慎重にね」

「なるほど……ありがとう、参考にするよ」

「パルスガンはGU-A2にしておいたら? あと、片方レーザーハンドガンにするとか」

「そう簡単に変えられると良いんだけどね……試してみる」

「使い勝手はわりと変わらないと思うわ。気をつけて」

 

 ラスティを真似て、「何かあれば救援に向かう」とでも言いたいところだが、こちらの方が時間がかかってしまうだろう。呼んで欲しいという言葉は飲み込んだ。

 これからMT部隊とブリーフィングだというメーテルリンクと別れ、こちらも担当してくれる部隊と話し合っておこうと足を向けたとき、スネイルに呼び止められた。

 

「どうしたの? 新型兵器を使わせてくれるって話なら歓迎なんだけど」

「あれはまだ量産できていません。餌が欲しければ、大人しく獲物を狩ってくることです」

 

 相も変わらずの毒舌ぶりだ。「おおせのままに」と肩を竦める。

 

「先日はアイスワームへの威力偵察、ご苦労でした。多少とはいえ、データを得られたのは成果と言って良いでしょう」

「それはなによりね。わざわざ褒めるために呼び止めてくれたの?」

「問題児の狂犬であろうが、評価は正当に行います。……それとは別件で、ひとつお伝えしておきましょう。対アイスワーム掃討戦においては独立傭兵を雇用することにしました。ウォルターより、新しい猟犬の売り込みを受けたもので。……貴方の後任だ、囮くらいにはなるでしょう」

 

 思わず、顔をしかめた。

 新しい猟犬の存在は、ウォルターからの連絡が途絶えている時点で予想していたことだ。わざわざ離反者に紹介する義理もないのだから、多少思うところはあっても、批難するつもりはない。

 けれど、スネイルについては話が別だ。こちらがまだ把握していないとわかった上でこんなことを言ってくるのは、実に性格が悪い。

 

「……貴方のその、人の嫌がる言い方を的確に選んでいくところ、本当にどうかと思うわ。趣味が悪い」

「おや、心外ですね。貴方の後輩を雇った上、わざわざ教えて差し上げたというのに」

「そんなだから陰口を叩かれるのよ。わりと色々苦労して頑張ってるのに」

 

 スネイルが虚を突かれたような顔をして、すぐに嫌そうに眼鏡を押さえた。

 

「その傭兵、名前は?」

「……Rb40、ケイナインです」

 

 燃料基地襲撃作戦に参画していた傭兵だ。納得すると同時に、やはり違和感に首を傾げた。番号が新しいからおそらく正規ルートでライセンスを取得したのだろうが、どうにもウォルターらしからぬ名付け方だ。もしかして、本人が選んだのだろうか。

 咳払いを落としたスネイルが、平常通りの居丈高さで言った。

 

「そろそろ貴方も独立傭兵などという立場をやめて、正式にアーキバスのものとなってはいかがです。……手に負えない部分はあるが、貴方が有用な戦力であることは否定しません。貴方にとっても悪い話ではないでしょう」

 

 言下に拒否しそうになって、とっさに口を噤んだ。

 自分の選択肢を預けてしまうくらいなら、いかに不安定な立場だろうが独立傭兵のままでいい。アーキバスの飼い犬になるつもりもない。

 だが、ここではっきりと立場を明らかにしてしまうのは、後のことを考えると面倒そうだ。

 

「……そうね。まあ、考えておくわ」

 

 スネイルが不快げに眉をひそめるのを見て、正解だったと知る。

 今度こそ、その場を後にした。新しい猟犬もアーキバスの思惑も関係ない。今は、目の前のことに集中するだけだ。

 

 

 

***

 

 

 

 天気の良い日だった。

 惑星封鎖機構拠点への襲撃作戦は順調に進み、こちらが二つ目の拠点を制圧した時点で、すでにメーテルリンクら一拠点担当の戦闘は終了していた。特に問題なく終わったことに胸を撫で下ろす。

 あとはこちらとフロイトの残り一拠点ずつだけだ。

 

 割り振られたのは、燃料基地に似た構造の施設だった。元はベイラムのものだったのだろう、つぎはぎじみたエリア分けの癖に特徴がある。

 以前、新しい猟犬がやっていたのと同じように、端から順番に無力化していく。戦闘担当は自分だけで、つけられたMT部隊の任務は無力化した機体の回収と捕虜の確保だ。

 とはいえ、全部を自分でやらなくて良いのは十分に助かる。

 

 すでにほとんどの基地が落とされていると知り、惑星封鎖機構の通信内容は混乱の極みにあった。

 

「……まだ落ちてないんだから、逃げるなり戦うなり、とりあえず集中すればいいのにね……」

《それができる者は、そう多くはありません、V.Ⅸ。圧倒的な力か、覚悟が必要です》

 

 オペレーターは引き続き、先日貸し出された第4部隊の男性が担当してくれていた。

 多少気心も知れてきたので名前を知りたいところだが、本人は頑として名乗らない。COMと同じように扱えと言われても、どうにも難しくは思うのだが――かといって、探るというのもおかしな話だ。せめて、嫌われていないと嬉しいとは思う。

 

「他の拠点は問題ない?」

《はい。いまのところ増援や襲撃の報告はありません》

「そう、じゃああとはこっちを片付けるだけね」

 

 先行しすぎてMT部隊を置き去りにしないよう注意しながら、LC機体を落とした。続けて、動揺するMT部隊を無力化していく。

 特に驚くようなことも起きないまま、3拠点目の制圧も完了した。

 シミュレーションを重視する惑星封鎖機構とは相性が良いのか、交戦した敵機のほとんどを、さして破損させずに鹵獲することができた。これはボーナスを求めてもいいかもしれない。

 

 あとの処理をMT部隊に任せ、作戦拠点であるベルグレイブ要塞に戻った。

 

 陽が落ちようとしていた。中央氷原は以前のベリウス地方と違って天候が悪いことが多く、そう心引かれるものはなかったのだが、癖のように時折こうして屋上まで昇ってきてしまう。

 今日は雲が少なく、燃えるような夕焼けが辺り一面を黄金色に染めていた。

 

 せわしなく動き続ける友軍を眺める。鹵獲機と捕虜の数が尋常ではないので、おそらくはその対応に追われているのだろう。

 惑星封鎖機構の構成員は、いわゆる「公的な正義」を持った存在だ。立場的には政府機関に近い。捕虜交換を行うにせよなんらかの取引材料とするにせよ、それなりの扱いを受けることができるだろう。

 それにしても、と疑問を覚えたところで、帰投したフロイトが声をかけてきた。

 

「お前が先だったか。あいかわらず高いところが好きだな」

「含みのある言い方ね。おつかれさま」

「疲れるような仕事でもなかった。予想通り、HC以外は面白みのない仕事だったな」

 

 面白みがあろうがなかろうが3拠点もの制圧任務だ。さすがに疲れているだろうと思っていたのだが、どちらかというと、面白くなさそうな、子供じみた反応だった。

 

「アイスワームの方も、無事に片付いたらしいわね」

「そちらの方が面白かっただろうな。つくづく損をした」

「まあ仕方ないわ、必要性はわかるし。スネイルも喜んでいるんじゃない? ……それにしても、これだけの捕虜となると、食料のやりくりに苦労しそうなものだけど……」

「問題ないだろう。どうせ大半はファクトリーか、再教育センター行きだ」

 

 耳慣れない言葉だった。

 心臓が妙に脈打つ。――通常の食料を必要としない捕虜? 尋問や拷問を計画しているにしても、そんなもの、聞いたことがない。

 喉を締め付けられるような緊張感を覚えながら、絞るように声を出した。

 

「……工場(ファクトリー)って?」

「ああ。……なんだ、知らなかったのか。スネイルの玩具だ」

 

 なんでもないことのように、フロイトが言う。

 

「人間の能力がどの程度ACに影響を及ぼすのか調べるセクションだ。動かすだけなら頭だけでも足りるんだが、それだと人間を使う意味がないからな。必要なのは、胴体か、腕か、足か……今のところ面白い結果は出ていないが、今回でサンプルが増える。多少は進捗がありそうだな」

 

 ひゅ、と息を呑んだ。

 ――人を殺している以上、倫理観など、とうにうち捨てたものだと思っていた。

 けれど、これはそれ以上だ。

 目の前が揺れる感覚を覚えて、口元を抑えた。

 

「……人間を、ACのパーツにするということ……?」

「ああ。まだ精度は無人機と大差ないが、そのうち向上するだろう。実用化レベルになれば、手足を失ってもACを動かせる。面白いだろう? 待ち遠しいな」

 

 顔を上げた。夕陽を背にしたフロイトの表情がわからない。

 きっと、とても無邪気な、何の罪悪感もない顔をしているのだろう。

 足元がおぼつかなくなる。ぐらつきそうになりながら、かろうじて平静な声を出した。

 

「……自分もそうなりたいの? ずいぶんな趣味ね」

「動けなくなって死ぬより上等だろう。命があるなら、使えないと勿体ないじゃないか」

 

 冗談ではないとわかるからこそ、言葉が見つからなかった。

 ――この男は、心から、そう言っている。

 戦えるなら身体がどうなろうと大したことはないと。それを実現させるために、どれだけの犠牲を払ってもかまいはしないと。

 価値観の相違で片付けるには、あまりにも大きすぎる落差だ。

 

「……私は、ちょっとごめんだわ。そんな状況で、生きているとは思えないもの」

「そうか? 設計通りの精度になれば、大して今と変わりないだろう」

「自分の身体は大事にしたいの。賛成できない」

「そうか。意外だな。それでもお前だって、死んで全部が終わるよりそのほうがいいと思わないか?」

 

 そんなものに意外と言える時点で、この男の壊れ具合がよくわかる。

 脳だけではないとしても、食べることさえ必要のない、ACのパーツになるなんて――かつて自分が拒んだ運命と、同じたぐいのものではないか。

 

 世界のすべてを呪いそうになるほど憎んだそれを、人工的に作り出そうとしている?

 そんなもの、許容できるわけがない。

 爪が食い込むほど拳を握りしめて、震えを押さえ込んだ。

 

「本当に楽しみにしているんだ。実用化すれば、俺はまだまだ戦える」

 

 明るい声音には欠片の陰りもなく、まるで輝かしい夢を語るかのようだった。

 

 ――いったい今まで、何を見てきたのだろう。何を知っていたつもりでいたのだろう。

 

 夕焼けに長く伸びる影が、やけに、黒く見えた。

 

 

 






避けては通れない「ファクトリー」の件について、とうとう触れる時が来ました。
しんどい展開で申し訳ない……ちょっとしんどすぎたので続きは明日更新予定です。書いてる人間が耐えきれなかった。
その内容で良しとしていただけるかどうかはわかりませんが、お話の最後までお付き合いいただければ、本当に嬉しいです。


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