621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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この展開で、という感じではあるのですが、このタイミングしか入れられそうになかったので短いエピソード集です。
基本的に平和。



間話

 

雨の夜

※前話のフロイト視点/整理と把握のために書いてたメモから

 

 

 メッセージに反応がないことに気付いたのは、20時を過ぎた辺りだった。

 新型兵器の実戦データを見ながら思いついたことを適当に投げていたのだが、いかにも食いつきそうな話題だというのにまったく返信してこない。怪訝には思ったが、まあそういうこともあるだろうと、そのときは大して気にしなかった。機嫌か都合か、どちらかが悪いのだろう。

 

 次に思い出したのは、22時になろうとする頃だった。

 こうまで反応がないのはめずらしい。まあいいか、と考えて――ふと、以前のことを思い出した。

 生死不明だった8日間。

 このまま帰ってこないんじゃないかと思った、あのひやりとした感覚が腹の底にわだかまる。

 

 どうにも落ち着かない気分になったので、レイヴンの部屋を訪れた。

 灯りの落とされた部屋は殺風景なほど物がない。レイヴンの姿はなく、テーブルの上へ端末が乱雑に置かれていた。なるほど、と口の中でつぶやく。わざと置いていったのか。

 

 ここに至ってようやく、どうもレイヴンには思うところがあるようだということに気付いた。

 最後に会った夕方の様子を思い返して、確かに何かを飲み込んでいたな、と考える。そんなにファクトリーの件が気に入らなかったのだろうか。それとも別の何かか。

 

(それにしても、あいつ、どこに行ったんだ?)

 

 外は雨が降っている。屋上ということもないだろう。となると、まったく心当たりがない。

 首を捻りながら部屋を出ると、メーテルリンクと行き会ったので声をかけた。

 驚いたように足を止め、ぴしりと背筋を伸ばしてくる。

 

「何でしょう、フロイト隊長?」

「レイヴンがいない。連絡もつかないんだが、何か知らないか」

 

 メーテルリンクの目に、意外だ、と言わんばかりの色が浮かんだ。

 何に対してそう思ったのかはわからなかったが、あえて訊ねる気も起きなかった。

 

「なるほど……私も少し探してみます」

「ああ」

 

 メーテルリンクを見送って、そういえば、スネイルならば知っているんじゃないかと思いついた。

 どうせまだ執務室にいるだろうという予想通りに、スネイルは端末に向かって眉間の皺を増やしていた。

 

「……こんな時間に何の用件です、フロイト」

「レイヴンがどこにいるか知らないか」

「知るわけがないでしょう」

「お前なら発信器でも仕込んでるんじゃないかと思ったんだが」

 

 マジかこいつ、とでも言いたげな顔をされた。

 眼鏡を押さえながら、スネイルがため息めいた声で言う。

 

「……そうしていいならそうしますが?」

 

 言われて初めて、考えた。

 確かに、スネイルがそれを握っているというのは、案外面白くない気分になる。

 

「そうだな。やめだ」

「……まったく……。監視カメラがありますから、拠点内にいるなら見つけることは可能でしょう。警備室に連絡しておきます」

「ああ、助かる」

「……ウォルターが新しい猟犬を手に入れた件、V.Ⅸには既に知らせてあります。傷心につけ込むなりなんなり、うまく使ってください」

「お前のこの手の助言、大概うまくいかないんだが」

 

 本心からそう言うと、スネイルのこめかみに青筋が浮かんだ。

 

「結構。ではせいぜい自身で努力を。……そろそろあの狂犬、完全にこちらへつかせたいところです。しっかり首輪をつけておいてくださいよ」

「そうだな、スネイル」

 

 さらりと答え、執務室を後にした。スネイルはまだ端末に向かっている。本当にこいつは仕事が好きだなと、感心するように思った。

 

 消灯時間を過ぎた暗い廊下を歩きながら、首輪か、と首を捻る。

 どうにもしっくりこない。

 あれが大人しく繋がれているような首輪などあるだろうか。物理的なものしか無理なように思うが、もし物理的にそうしたら、何が何でも引きちぎろうとするだろう。その様子を想像して、思わず笑った。

 本当に面白い。

 くるくる印象の変わる女だ。表面は飄然としていて、中身は強情で負けず嫌いで、かと思えば無頓着なほどあっさり愛情めいたものを差し出してくる。それなのに手に入ったという実感は与えない。どこまでも自由だ。

 誰よりも戦っていて楽しくて、面白いと思うものがよく似ていて、こんなに毎日が愉快になったのは初めてかもしれないと思うほどだ。

 レイヴン(ワタリガラス)の名の通り、おそらく一所にとどまり続ける存在ではない。そのことを少し惜しく思うくらいには。

 それでも、きっと敵に回れば、またひと味ちがった面白さが味わえるだろう。それも悪くないと思っている。

 

 だからやっぱり、首輪など必要ないのだ。

 

 

 一人頷いて警備室に足を向ける頭の中からは、スネイルに同意したことなどすっかり抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オキーフとペイターとラスティ

※いただいたコメントからでてきたネタ。ありがとうございます!

 

 

 前から思っていたんですが、とペイターが言い出した辺りから、嫌な予感はしていた。

 

「オキーフ長官、妙にV.Ⅸに甘くはないですか?」

 

 休憩室で放たれた発言に、これも同席していたラスティが嫌に明るい表情でこちらを見てくる。

 勘弁してくれ、と言う気持ちをありありと込めて否定した。

 

「……そんなつもりはないが」

「それにしてはずいぶん気にかけていますよね。任務もすべてチェックしていますし、良く声をかけに行っています」

「あいつは扱いの難しい立場だ。監視は必要だろう」

「あと、話していると表情が穏やかで」

「やめてくれ。悪い冗談だ」

 

 ラスティの視線が痛い。何をそんなに期待した顔をしているのか。心の底からやめてほしい。

 ペイターが欠片の濁りもない目で問いかけてきた。

 

「冗談とは? 私が聞きたいのは、オキーフ長官がV.Ⅸに何らかの劣情を抱いているかどう――」

「本気でやめろ。これ以上話をややこしくするな」

「そうだったのか、オキーフ。君が相手なら歓迎だ。ぜひとも協力させて欲しい」

「お前も悪乗りするな、ラスティ。俺に自殺願望はない」

「では何ですか。ずるいですよ長官、このところ新入りにかまけすぎではないですか」

「少なくともお前たちが面白がるような話ではない」

「……本当ですかあ?」

「確かにペイターの言うことにも一理あるな。娘や妹のよう、というには、どうにも家族めいたものがないように思える」

「おい……」

「同感です。譲っている部分が大きいですよね。負けてやっているというのか」

「そうだな。彼女が初恋の女性にでも似ているのだろうか」

 

 ぐ、と喉を詰まらせてしまった。

 そのわずかな反応だけで確信を得たのか、ラスティが晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

「まさか当たりを引くとは」

「なるほど……それは強い……」

 

 男にとっては扱いの繊細な話である。これで手を緩めてくれるのならと、頭痛を堪えながら言った。

 

「……ともかく、俺の側におかしな考えはない。戦力として重要だから注視しているだけだ。大体お前たち、下手を打ってレイヴンが消えてみろ。フロイトが元に戻ってまた通り魔に襲われるような状況になりたいのか? 俺はごめんだ」

 

 若者二人が揃って顔をしかめた。さんざんACを破壊された過去の惨状をようやく思い出したらしい。

 

「……それは確かに、間違いありません。結構前なので忘れていましたね……」

「……避けているはずなのに見つけ出してくるからな……」

「一方的にやられたときより善戦したときの方が怖いんですよ。思い出したくない……そういえば、第4隊長殿、入隊後に随分とつきまとわれていませんでしたか?」

「まだ出来るだろう、という難癖をつけられていたな……諦めてもらえるまでに一ヶ月以上かかった」

「オキーフ長官は不在なことが多いのに、戻ったタイミングでしっかり捕まえてましたよねえ」

「ああ……あの嗅覚は空恐ろしいな」

「そういう意味ではV.Ⅸの存在は実にありがたいです。よもや一人で防波堤をやれる人間がいるとは思いませんでした」

「本人に防波堤のつもりはないだろうがな」

「ああ、確かに。……なるほど、だから首席隊長殿は彼女がお気に入りなんですね。同じくらい楽しんでいるわけですから。あれだけ頭のおかしい人間は二人と、いえ三人と、でしょうか。まあいないでしょうね」

 

 先ほどからわかりやすく沈黙していたラスティが、苦々しげに口を挟んだ。

 

「……そこまで言うほどではないだろう。周囲に良く気配りをしている女性だと思うが」

「おや、第4隊長殿、ずいぶんと好意的ですね。もしや」

「弱みを握ったと言わんばかりの顔はやめてくれないか」

「はっはっは、まさかそんな。ご安心ください、貴方の席が空いたら私がしっかり埋めますので!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴンとメーテルリンクとスネイル

※とても平和な話

※時系列的には少し前になります

 

 

 それは本当に、話の弾みだった。

 偶然休憩室で一緒になった際、子どもの頃ピアノを習わされていたという話に、メーテルリンクがきらきらと目を輝かせたのだ。

 

「すごいね。何か弾いてみてよ」

「弾いてみて、って……ピアノなんてないでしょう?」

「何かそれっぽいソフトくらいあるよ。……ええっと……ほらあった、おあつらえ向きのピアノソフト! ね? 聞きたいな」

 

 メーテルリンクがノート大の端末を差し出してくる。

 そうまで言われると、断るのも気が引ける。受け取りながら眉を下げた。ちょうどよく他に人がいないので、拒むほどではないのだが、どうにも気が進まない。

 

「……ご期待に添えるほどの腕じゃないんだけど……」

「まあまあ。異文化交流だと思って」

 

 困ったまま端末を受け取り、その真っ平らな表面を叩く。

 本当に子どものころ以来というのもそうだし、押し下げられないキーも、2段に別れた小さな鍵盤も難しい。それでも触れると鳴る音が少し楽しくて、うん、と頷いた。

 

「私の好きな曲でいい?」

「もちろん」

 

 掌を押し開きして、少しでも指を温める。

 旧い記憶を頼りに滑らせた指は、思ったよりも素直に旋律を奏でてくれた。

 パッフェルベルのカノンだ。そう難しい曲ではなく、端末の狭い鍵盤の中でも、優しい音が広がった。

 やはり指は動きを忘れてぎこちない。それでも、華やかで軽やかで、とても愛しさのある曲だ。

 すっかり楽しくなってメーテルリンクを見ると、頬杖を突いて目を伏せ、音律をたどっているようだった。ほっと胸を撫で下ろす。

 2回繰り返して、そのまま終わらせようかもう一度ループに入ろうか、少し悩んだタイミングで、休憩室にスネイルが姿を見せた。

 これはまずいかと、端末から手を離す。だが、既に耳には届いていたようで、かえって怪訝そうな顔を向けられた。

 

「……止める必要はありません。休憩中ですので」

 

 コーヒーサーバーに向かう背はやたらと煤けていた。これは相当きているのだろう。

 メーテルリンクが気遣わしげな顔をして、席を立った。

 

「スネイル閣下、もしよろしければ、茶菓子もいかがでしょうか」

「……そうですね。貰います」

 

 本日のお菓子はジャムを挟んだ小さなパイ菓子だ。酸味と甘みのバランスと、表面にちりばめられた砂糖、さくさくした食感が秀逸な逸品である。

 

「どうぞ。続けなさい」

 

 命令である。なんとも言えない気分になって、促されるままに端末へ指を当てた。

 自分が覚えていたのは、超絶技巧など求められないような、簡易化された素直な楽譜だ。

 習っていたのは年端もない子ども時代だったうえに、褒め言葉としては「のびやか」くらいしかもらえなかった程度の技量なので、できるのは素直に音を鳴らすくらいしかない。

 旋律を何回かループしているうち、スネイルの眉間に、なぜだか皺が寄ってきた。

 

「……どうしても、そこでもたつくようですね」

「う……難しいのよ。バイエルまでしかやってない素人に無茶を言うくらいなら、プロの演奏を流しておく?」

「いいからそこの部分、しっかりやり直しなさい」

「ええぇ……」

「一番華やかな部分でしょう。そこをごまかしてどうするのです。まさか、できないとでも?」

 

 あからさまな挑発に、わかりやすくカチンときた。

 

「言ったわね。……いいわ、納得いくまでやろうじゃない」

「よろしい。私の仕事の邪魔にならない程度に励みなさい」

 

 かくしてアーキバスの休憩室に、スネイルがピアノの演奏を聞きながら(ときおり小言を挟みながら)電子書類の決裁を進めるという異様な光景が広がることになった。

 メーテルリンクが2杯目のコーヒーを止めて私物のハーブティを淹れる。カフェインの摂取量を抑えさせようというのだろう。甲斐甲斐しいことだ。

 

 何だか妙なことになってしまったが、音を奏でるということ自体は楽しい。案外手が覚えているものだ。

 電子音がやわらかに転がる。どこか懐かしく、優しくて、あたたかい。そんなメロディだ。

 

 「音が飛んだ」「テンポが乱れたのでは」などなど時折小言が挟まるとはいえ、同じ場所を繰り返すのではなく、進行は止めずにループを続けた。

 20分ほども経つころにはようやくスネイルが静かになったが、今度は別の問題が発生した。――これはいつまでやればいいのだろう。さすがに、そろそろ疲れてきた。

 

 さっきから一般隊員が休憩室を覗いては、スネイルの姿を見て入らずに去って行くのも気になる。これですでに5人目だ。

 

 頃合いだろう。ループを抜けて、終わりのメロディに入る。

 スネイルがちらりとこちらを見たようだったが、何も言わなかったので、そのまま和音で締めくくった。

 ふう、と息を吐く。

 

「おしまい。ご静聴ありがとうございました」

 

 一名ほど静聴ではなかった気もするが、まあいい。メーテルリンクが素直に拍手をくれる。そこには若干の「お疲れさま」という苦笑が込められていた。

 

「……まあ、悪くはありませんでした。まさか貴方にこんな文化的な側面があったとは、人は見かけによらないものだ」

「素直に褒めてくれても良いのよ」

「そうですね、素人の手慰みにしては聞くに堪えました」

 

 褒め言葉として言っているのか、それともいつもの皮肉なのか。どちらとも取れる口ぶりだ。こっそりメーテルリンクと顔を見合わせた。

 ふといいことを思いついて、スネイルににっこりと笑いかける。

 

「ところでスネイル閣下。演奏代なんだけど」

「これは妙なことを言う。私は練習に付き合ったまでですが……まあ、聞くだけ聞いて差し上げましょう。要求は何です」

「搬入品に卵液」

「却下します」

「くっ……どうして! いいじゃないちょっと乗っけてくれても!」

 

 やれやれ、といった様子でスネイルが眼鏡を押し上げた。

 

「いいですか、確かに殺菌凍結した卵液ならば賞味期限は年を越えます。ですが、そのためには『凍結』していなければならないのです。衛星砲に狙われる搬入用ポッドに-20℃の冷凍機能をつけろとでも?」

 

 まさかのド正論だった。ぐうの音も出ない。

 既にちゃんと調べて検討していたからこその却下だったというわけだ。明らかに分が悪い。

 スネイルがパイの乗っていた皿をちらりと見て、ため息を吐いた。

 

「まったく……これだけのものを出させておいてまだ足りないとは、貴方の強欲にも呆れたものです。足るを知りなさい」

 

 思わず目を丸くした。勢いよくメーテルリンクを振り返る。

 

「……聞いた、メーテルリンク!? あのスネイルが! まともな称賛を!」

「え、ええ……」

「……私を何だと思っているのですか、V.Ⅸ……!」

 

 全力で本音を漏らしてしまったせいで説教コースに突入し、休憩時間を大幅に過ぎて作戦開始時間ぎりぎりに駆け込むはめになったのだが――絶対私は悪くない、とめずらしく言い張っていたのだった。

 

 

 

 

 

 







フロイト視点の話を書くと地の文にツッコミを入れたくなってしょうがない……
自分は探しにいかんのかーい、とか
別に仕事大好きだから残業してるわけじゃないでしょうねえとか
(一箇所耐えきれなかった)
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