621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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ファクトリー掃滅

 

 ファクトリーは中央氷原の山麓に、隠れるようにして存在していた。

 殲滅戦を行うには、片側が山肌で逃げ道がない立地は有利に働く。

 合流して最初の作戦がファクトリーの破壊となったのは自分の要望によるものだが、解放戦線としても“失敗しても痛手の少ない作戦”として様子を窺えるというメリットがある。必要な武器や装置の大半を自前で用意しておいたことも、おそらくは大きい。

 MT部隊がレーダー範囲ぎりぎりに配置を完了する。息を吸って告げた。

 

「1500時より、通信妨害(COMJAM)の展開とともに攻撃を開始する。MT部隊は逃亡者の掃討を。――ネズミ一匹逃がさないで」

《承知した》

 

 通信妨害はバラージ型だ。周波数を絞らず強力な電波をぶつけるタイプなので、味方も通信が出来なくなる。

 一応、保険として音波通信を用意してはおいたが、高速機動を前提としているACではどうしても不安定なものになる。あくまで保険だ。

 COMJAM装置は六文銭に託した。戦闘には参加せず支援に徹してもらう。警備の排除はラスティが、施設の破壊は自分が担う。

 

「カーラ、始めるわ。よろしく」

《OK、5分後にサーバーの情報を破壊する。ひとつ景気よくかましてやりな、レイヴン》

 

 頼もしい発破に頷いた。

 通信妨害は増援の阻止が主目的ではなく、研究データの移動阻止が目当てだ。すべてを焼き払うために準備を進めてきた。

 ひとつ息を吐く。――失敗はしない。絶対に。

 

 定刻になった。手筈通り、強力な妨害電波でレーダーが落ちる。通信が無効化されているのを確認し、ブーストを入れた。

 

 まずは研究区画の破壊だ。目測で予定地点にたどりつき、躊躇せずグレネードを撃ち込む。シェルターほどの強度はなかったようで、あっけなく天井が吹き飛んで捲れ上がった。

 機材や人影が見える。

 室内へ、さらにナパーム弾を放った。

 炎があがる。

 いつもとは違う光景に、指先が冷たくなった。

 

 それでも、手を止めるつもりはなかった。

 集音マイクは破壊音にまぎれる人間の声を拾わない。悲鳴も、怒号も、命乞いも。

 建物を片端からチェーンソーで切り裂き、グレネードとナパーム、クラスターミサイルで蹂躙していく。

 

 作業だった。戦闘ではなく、殺戮だった。

 怒りも清々しさも憎しみもなく、ただただ冷え切った重さだけが蓄積していく。

 

 施設の半分ほどを破壊した頃、オペレーターから通信が入った。

 ノイズがひどい。足を止めて音波を拾う。

 

《レイヴン、外部から増援が到着しました。LC高機動型1機。光学迷彩を展開しています》

「ジャミングを突破されたの?」

《通信妨害は継続しています。おそらくは衛星情報かと。――待ってください、あれは――レーザー通信を行っているようです。おそらく、目的はデータの回収》

「! 方向は」

《山麓側右方です》

 

 すぐに機体を浮上させ、言葉通りの方角に微細な光の反射を見つけ出した。

 

 相手もレーダーがきかない状況のはずだが、後方から放ったグレネードの弾は避けられた。

 フォルムからして惑星封鎖機構の鹵獲機体だ。ACではない以上、フロイトではありえない。

 発見された以上迷彩に大した意味はない。そちらに回すエネルギーを無駄と判断したか、LC機体が姿を見せる。

 やけに淡々とした声が、外部スピーカーで話しかけてきた。

 

《危ないな……ご挨拶ですね、V.Ⅸ》

 

 V.Ⅷ ペイターだった。

 単純スペックはACよりLCの方が高いとは言え、もう乗り換えているとは。適応力の高さはオキーフのお墨付きだ。

 

「まだ私の席があるとは思わなかったわ、V.Ⅷ。とっくに馘首(クビ)になったものと思っていたけど」

《もし戻られる気がおありでしたら、いつでもご連絡ください。私の手柄にさせていただきます》

 

 さすがに上層部がひっくり返るのではないだろうか。本気で言っているのが恐ろしいところだ。

 クラスターミサイルを放ちながら接近する。機動力と空戦能力の高いLCには相性が悪いので、目くらましくらいにしかならないだろう。

 回り込みながらナパームを撃った。

 

「それにしても、随分と早いご到着ね。目端が利くものだわ」

 

 外れたミサイルは建物に着弾し、大きく炎を上げた。

 焼夷弾も加わり、視界を塞ぐほどの惨状となる。その向こうから、敵機のミサイルが段幕のように広がり、伸びるようにこちらへ殺到してきた。

 

《お褒めにあずかりまして。スネイルが折角V.Ⅱの席を空けてくれたのです、この功績をもって、栄光たるアーキバスの次席を賜るつもりですよ》

「変わってるわね。ものすごく大変だと思うわよ?」

 

 回避ポイントへ回り込めた。チェーンソーを繰り出す。

 

「――どちらにせよ、逃がさないわ」

 

 レーザー通信の存在は諜報情報から抜けていた。ベリウス地方にあったころ使われていた回線だろうか。有効幅が狭いので、立地的に、受信できる施設や設備は存在しないはずだった。

 おそらくは、ファクトリー側の社員がサーバー情報の破壊に気付いたのだろう。そこで諦めず旧い設備を持ち出し、救援の友軍機にデータを移そうとは、見上げた使命感だ。

 ――それほどまでに遺したいのだろう。屍の山を築いた、この研究成果を。

 

 機動力はLCの方が上だ。まだ逃げようとしていないということは、十分な回収ができていないのだろう。どの程度回収されたのかわからない以上、ここで落とさなければならない。

 

 チェーンソーの斬り込みはぎりぎり盾で受けられた。

 まだ慣れない機体だろうに、いい反応だ。バズーカで威嚇しながら距離を取ってくる。ACとはかなり操作感が違うはずだが、滑らかな機動だった。

 

《それにしても、第一目標がファクトリーとは。戦略目標としては大して意味が無いと思うのですが》

「ええ。ただの我が儘ね」

《なるほど……お優しいことだ。捕虜に同情を?》

「気に入らないだけよ。ジュネーヴ条約なんて持ち出すつもりはないけど、さすがに度が過ぎる」

 

 ライフルの威力が高い。慎重に避けながら、距離を広げられないよう維持する。

 

《しかし、不思議だな……。憐れだと思うのに救助するわけでもなく殺害するとは。素体はまだ生きていますよ?》

「……あれを生きているというの、貴方は」

 

 顔を歪めた。

 生命活動が維持されているだけで、“下処理”された人体は既に不可逆的なダメージを受けている。保管を目的としているためか代謝は機械で完全にコントロールされ、食事も排泄も必要がない。――削られた機能が回復することはない。

 その状態を“生きている”と不思議そうに言ってのける辺り、相変わらず人としての共感力に欠けた男だ。スネイルの方がまだしも自覚的だっただろう。

 

《もしかして、死を救いだとお考えで? 面白い話ですね》

「そこまで傲慢じゃないわ。……私なら殺して欲しいけどね」

 

 通信方法がレーザーである以上、アンテナは視界内にあるはずだ。LCの動きで大体の当たりをつけ、先にそちらを破壊した。

 着弾したクラスターミサイルが、広範囲に爆発を起こす。

 

《……! 気付かれるとは……》

 

 あとはLCを落とすだけだ。背中を向ける隙を与えないよう、追い詰めるように張り付き続けた。

 決め手が足りない膠着状態を変えたのは、スティールヘイズ・オルトゥスの到着だった。

 

《すまない、戦友。遅くなった。警備はすべて殲滅した》

「助かるわ。このLC、逃がさないで」

 

 ペイターが意外そうに声を上げた。

 

《これはこれは……驚いたな、首席隊長殿から乗り換えたんですか》

「乗り換えてない。人を尻軽みたいに言わないでくれる?」

《変わらないな、V.Ⅷ。自殺願望でもあるのかといった口振りだ》

 

 ラスティの声に殺気が篭もっていたので、かえって少し冷静になった。ありきたりな侮辱だ。挑発に乗って取り逃がすわけにはいかない。

 後ろに回り込みながらナパームを放った。その炎を隠れ蓑にするように、レーザースライサーがLCに迫る。

 

《くっ……さすがに劣勢か……!》

 

 二段目を回避したところへチェーンソーを展開した。盾を破壊し、追撃で左腕を斬り落とす。

 体勢を崩したところへ勢いをつけて蹴りを入れた。

 LCが地面を滑るように吹き飛ぶ。山肌にぶつかるのを追いかけ、重量を掛けて機体を押さえつけた。

 自分も覚えがあるが、これだけ吹き飛ばされれば中身のダメージも相当なものだ。

 苦しげなペイターの声が、不思議そうに言った。

 

《……撃たないと、いうことは……交渉の、余地が?》

「投降するなら受け入れるわ。このまま撃って欲しいなら、そう言って」

 

 ヴェスパーの番号付きなら捕虜交換に使える。アーキバスやベイラムと違い、解放戦線は基本的に捕虜をまともに扱う組織だ。

 ペイターの声に、少しばかり焦りが滲んだ。

 

《……取引きをしませんか。有用な情報を差し上げます》

「無理ね。私の最優先はそれじゃない」

《データの破壊、ですか。……では、機体を引き渡し、身体検査ののち解放していただくというのはいかがでしょう》

 

 目を瞬いた。いっそ感心するほど神経が太い。

 思いにもよらない提案だったが、あまり迷っていられる時間はない。襲撃を知られている以上、増援はまだ来るはずだ。高速機のLCはおそらく先行したに過ぎない。

 一人では決めかねて、僚機に声を掛けた。

 

「……ラスティ」

《私は賛成だ。後は君の判断に委ねよう》

 

 予想外の回答だった。V.Ⅷの始末や捕虜交換よりも、情報を優先するということか。

 万一にでもデータを持ち出されたくないというのは自分の都合だ。

 もう少しだけ迷い、苦い気持ちで頷いた。

 

「……いいわ。貴方の身柄の安全は私が保証する。情報の概要を」

《それは良かった。……内容は旧技研都市への再侵攻情報です。()()()()()()()、有益な情報でしょう、V.Ⅸ》

 

 眉をひそめる。わざとか無意識かは知らないが、やってくれた。

 解放戦線としては、ただの隊長格不在の情報でしかない。だがオーバーシアーにとっては、重要な襲撃情報だ。疑心を煽るにはうってつけだろう。

 大きく息を吐いた。

 

「RaDに高く売れそうな情報ね。これで新兵器開発を受けてもらえそうだわ。……機体を降りて、V.Ⅷ」

 

 銃口を向けたまま告げる。LCのハッチが開き、ペイターが姿を現わした。

 身体検査はラスティに頼んだ。一番相手の性格をわかっているだろうし、勘が鋭いタイプだと思ったからだ。通信機器をすべて奪ったので、そこから得られる情報がもっとも有用かもしれない。

 六文銭にCOMJAMの解除を頼み、MT部隊へと設置型爆弾の搬入を要請する。

 計算上、この一帯を更地に出来るだけの量だ。

 ペイターが呆れたように零した感想を、集音マイクが拾う。

 

《ここまで徹底するとは、執念を感じますね》

「やるなら中途半端じゃ意味がないでしょう。……侵攻情報の詳細は?」

《今ここでですか? まだ身の安全が確保されたとは言えないと思うんですが》

「信用してもらうしかないわね。通信機器がないんだし、味方と合流してから送ってくるつもり?」

 

 渋るペイターを促すと、不承不承といった様子で口を開いた。

 

《作戦開始予定日は二日後です。アサインされた隊長格は3名。V.V ホーキンス、V.Ⅵ メーテルリンク、V.Ⅶ スウィンバーン。麾下のMT部隊はすべて投入されます》

「……事務処理が得意な人ばかりじゃない。ただでさえスネイルがいないのに、アーキバスの上層部は何を考えてるの?」

《さあ、はかりかねますね》

 

 フロイトの第1部隊を投入した方が、よほど成功率が高いはずだ。こちらとしては助かるが、本人がごねたのか、それとも上層部が迷走しているのか。

 聞いてみようかと少し考えたが、会話は他の解放戦線のメンバーにも聞かれている。やめておいた方がいいだろう。

 この情報がどこまで正確なのかはわからないが、全くの嘘でないのなら、動きとしては大きなものとなる。網を張っておけば裏が取れるはずだ。

 

「敷地外までエスコートするわ。あとは増援部隊にうまく回収してもらって」

《ええ。何かご伝言はおありですか? V.Ⅸ》

 

 気安い言葉に首を傾げた。

 

「解放戦線としてならひとつだけど……無条件でルビコンから出て行って、なんて言っても、アーキバスの上層部が聞き届けると思う?」

《思いませんね。では、個人的なものは?》

「……退職勧告くらいかしら。顔見知りを殺さずにすむなら、それに越したことはないから」

《承知しました。お伝えします》

「えっ、本気?」

《何がです?》

 

 そんな内容のメッセンジャーになるだけで立場が危うくなると思うのだが、気付いていないのだろうか。どうにも上昇志向のわりにアンバランスだ。

 少し迷ったが、言わないでおくことにした。

 まあ、ホーキンス辺りに言うくらいなら、苦笑で流して貰えるだろう。上層部の耳に入ったらどうなるかはわからないが、さすがにそこまで面倒を見切れない。

 

 

 

 そこから先は少し急ぐ必要があった。施設の完全破壊を確認し、撤収の準備に入る。

 司令部のフラットウェルにはヴェスパー戦力の不在情報を上げた。こちらの作戦の繰り上げを提案し、了承を得る。幸いにも、今回の作戦での損害はほぼゼロだ。なんとかなるだろう。

 

 解放戦線のキャンプに戻り、ばたばたと準備を進めているうちに、あっという間に日が暮れて夜が更けた。

 四脚MTのパイロットと話しているところへ、六文銭が姿を見せた。

 作戦後、しばらく姿が見えなかった相手だ。COMJAM装置の持ち逃げでもされたのだろうかと少し思っていたのだが、いつの間にかベースヘリに届けられていた。

 

「レイヴン、時間を貰い受けたい。話がある」

「いいけど……場所を変えた方がいい?」

 

 うっそりと頷き、踵を返す。

 いい予感はしなかったが、大人しく後に続いた。

 

 しばらく歩いてたどり着いたのは、小高い丘の上だった。

 解放戦線のキャンプが眼下に見える。

 ここから突き落とされたら、助からないだろうな、と考えた。

 先に足を止め、相手が振り返るのを待つ。

 

「V.Ⅷは己れが始末した」

 

 息を呑んだ。

 爛々と光る目がこちらを見据えている。

 

「……どういうこと」

「それは己れが聞きたい。道を失えば助け寡なし、まさに蓋棺に入るべし……なぜ見逃そうとした」

「取引だったからよ。それを破るのは不義じゃないの?」

「怒りを覚えるか。……傭兵よ、お前はどこに立ち、何を目指している。知らねば一味同心は能わぬ」

「独立傭兵に馴れ合いを求めるなんて、お門違いだと思うけど」

 

 殺気に近い気配が肌をざらつかせる。腕っ節では勝ち目がないだろうが、解放戦線としては、今こちらを失うわけにはいかないはずだ。

 

「すべてを話すつもりなんてないわ。だけど、今の私が、ルビコンを守るために動いているのは確かよ。それで十分でしょう」

 

 全人類、などというと途端に胡散臭くなる。ただ、結果論であろうと事実は事実だ。

 睨みつけるようにして言った。

 

「二度とこんな真似はしないで。私を裏切らせたくないのなら」

「濁劫悪世の中には怨嫉多し。……傭兵よ、お前の信、行いで以て示すがよい」

 

 巨体の男が去って行く。拳を握りしめ、苛立ちの混じるため息を吐いた。

 冷たい風が吹き抜けた。

 もっときちんと、周囲の了承を得て動くべきだったのだ。せめて合流まで見届ければ良かった。そうでなくとも、僚機の動きくらいには目を配っていれば、気づけたはずだ。

 ペイターはこの騙し討ちをどう受け取っただろう。――死んでしまった人間には、聞くこともできない。

 

 砂を踏む音が聞こえ、顔を上げた。

 背の高い青年が、どこか気遣わしげな色を浮かべて立っていた。

 

「……ラスティ……」

「すまない、戦友。話を聞いていた」

 

 差し出された毛布を受け取る気にはなれなかった。

 項垂れたまま動かないでいると、包むように肩へ掛けてくる。

 

「……心配してついてきてくれたんでしょう。謝ることじゃないわ」

「なら、いいんだが」

 

 きっと彼は気付いていたはずだ。だからあの場であっさりと賛成した。

 大きく息を吐く。かじかむ手で、毛布の前を合わせた。

 

「そういえば、V.Ⅰは来なかったな。てっきり鼻をきかせてくると思っていたのだが」

「……そうね。スネイルがいないんだもの、今頃、上との折衝と、書類仕事に忙殺されていたりして」

「そうは思えないな。今度はホーキンスかスウィンバーン辺りに丸投げしているんじゃないだろうか」

「目に浮かぶわね」

 

 わざとどうでもいい話をしてくれているのがわかった。

 少しだけ笑って、顔をうつむける。

 

「……やっぱり集団行動は向いていないみたい。今後は一人で動くわ」

「戦友、君は……」

「心配しないで、別に失望したわけじゃないの。……自分でもおかしな話だとは思うわ。自分で殺すのはよくて、他人に殺されるのは嫌だなんて」

 

 これでは先が思いやられる。

 苦笑いして肩を竦めた。

 

「毛布、明日返すわ。おやすみなさい」

「……ヘリまで送ろう」

「大丈夫よ。接近禁止令、もう忘れてる? 再燃させるのはちょっとね」

 

 渋るラスティに手を振って別れた。

 足のつま先が冷え切って、やけに砂の感触を返してくる。ひどく疲れていた。ペイターのことだけではなく、今日一日の出来事のすべてが、重石のように心にたまっている。

 ぼんやりと、今日躙り潰した命の数を考える。

 戦闘員でもない相手を一方的に殺戮した。まだ生きていた捕虜もすべて、自分がそうすると決めて殺した。後悔などしたくないのに、目蓋の裏に炎が焼き付いて離れない。聞こえなかった悲鳴が、怨嗟が、どれだけの数だったのだろうかと考えてしまう。

 これまでと違うのは、これが誰の依頼でも、誰の命令でもないということだ。

 罪の重さが違う気がした。

 

 ベースヘリに戻ると、誰かとぶつかりそうになった。

 

「うわっ!? ……な、なんだ、レイヴンかあ」

「……ツィイー? まだやってたの」

「やってたよ! 結構いい感じになってきたんだから!」

 

 傭兵支援システムのシミュレーションを使わせて欲しいと乞われて、ハンガーに置いているときならアンラヴルを使って良いと許したのだ。

 アリーナの戦闘情報がぐちゃぐちゃになるので、オールマインドが混乱していれば面白いという目論見もあった。

 戻ってすぐ飛び込んできていたから、あれから四時間は経っている。眉をひそめた。

 

「食事は取ったの?」

「マギー・Gが差し入れをくれたんだ。エナジーバー? ってやつ。あれ美味しいね」

「まったく……」

 

 根を詰めすぎだ。一生懸命なのはいいことだが、時間制限を掛けておくべきだろうか。

 こめかみを押さえると、ツィイーが怪訝そうな顔になった。

 

「……なんか、ひどい顔だよ?」

「疲れてるからね」

「そういうんじゃなくて……。あ! マギー・G、ちょっと来てちょっと!」

 

 呼ばれて近づいてきたマギー・Gが、同じように顔をしかめる。

 

「……こりゃまた、ひどい顔だね」

「ね!?」

「……二人して。今日は早めに寝るわ」

「ろくな夢をみなさそうだね。ちょっと酒盛りでもするかい?」

「そんな気分じゃ……」

「賛成! あたしも参加したい!」

「そら、アンタの癒やしも同席するってよ」

 

 目を白黒させているうちに部屋へ連行されて、度数の高い酒をグラスに注がれた。

 ちみちみと嘗めているうちに、ぽろりと心中がこぼれる。

 今日の作戦のこと。多くを殺したこと。どうしても許せなかったから、徹底的に焼き払ったこと。それが正しい行いだとは思っていないこと。それなのに重苦しく感じていることまで。

 酔いのせいかとりとめのない話を、二人は黙って聞いてくれた。

 

「……そうかい……清々した、ってわけにもいかないもんだね」

「わかんないなあ、どう聞いたってめちゃくちゃ悪い奴らじゃん。そんなに落ち込むこと?」

「自分で手を下さないとわからないこともあるだろう。殺しは殺しさ」

 

 皺ばんだ大きな手が乱雑に頭を撫でてくる。驚いて顔を上げた。

 

「アンタはやりきった。それでいいのさ」

「……そう、かしら」

「そうだよ! だってこれでもう、捕虜が脳味噌だけとか手足ぶった切られたりとかしてACに乗せられることはないんでしょ? 十分じゃん!」

 

 全面的に賛成されると、それはそれで躊躇ってしまう。

 曖昧に笑うと、マギー・Gが両手を打った。

 

「じゃ、この後はレイヴンにとって楽しい話をしようか。……そうだねえ……あたしの若い頃の話なんてどうだい?」

「恋人の話? 聞きたい! すっごい聞きたい!」

「私も聞きたい……!」

 

 目を輝かせる二人に、彼女は皺を寄せて笑った。

 彼女が傭兵としての戦いに身を投じるきっかけになった男の話に、きゃあきゃあ言いながら相槌を打つ。いつの間にかお酒が進み、だいぶ良い具合に酔ってきた。「憂さを忘れるのが酒って薬さ」とマギー・Gが笑った。

 意外に酒に強い様子のツィイーが、興味津々に身を乗り出してくる。

 

「ねえレイヴン、V.Ⅰって、あたしら解放戦線からしたらめちゃくちゃおっかないだけの存在なんだけどさ……レイヴンには優しかったりしたの?」

「やさしい……?」

 

 首を捻った。優しかったかと言われると、少々自信がない。

 

「……どうだろう。あの人なりに大事にしてくれてはいた、んじゃ、ないかな……?」

「えー、なんでそんな自信なさげなのさ」

「色々と方向性がおかしいから……」

 

 酔った頭でも、さすがにファクトリーの件は言わないでおいた。あの「大事にする」の手段は、どん引きされること請け合いだ。

 ふと、別のことを思い出して、笑いがこみ上げてくる。

 

「そういえば、昨日、ユエユーの構成でアリーナのフロイトとやったでしょう? それでランクが入れ替わってたんだけど、今日見たら、また入れ替わってたの。……それが、聞いてくれる? TURNER2丁で肩装備なしよ! 遊びすぎだと思わない!?」

「いや笑いどころがわかんない……なにこれ、惚気? 違うよね?」

「楽しそうで結構だけどねえ」

「本物を見たかったわ……。あの人が動かすロックスミスって、本当に綺麗に動くの」

 

 ふふ、と笑い声をこぼす。ツィイーが複雑そうな顔をした。

 

「……あのさ、それって……」

「――そういえばツィイー、アーシルとはいつ結婚するんだい?」

「えー、またあたしの話? ……そりゃ、いつかはしたいけど……今はそんなときじゃないしさ……」

「戦争が終わるまではってわけかい? お勧めしないねえ。どっちかが死んだらしまいじゃないか」

「うっわやめてよ、縁起でもない!」

 

 なんだか眠くなってきた。

 楽しい話を少し遠く聞きながら、口元に笑みを浮かべる。

 

「もし結婚するなら……今貸している装備、お祝いにあげるわ……」

「……本当!? ちょっ、聞いたよねマギー・G!」

「剛毅だねえ。総額いくらだい?」

「……でも出撃は、私を、納得させてから……」

「わかったけどちゃんと覚えててよ!? 起きてー!」

 

 穏やかな気分で意識を手放した。

 目が覚めたら、また別の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 





オペレーターさんは第4部隊にいた彼です。結局名前は出ないまま。



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