621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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変化のきざし

 

 無事に再手術が完了して身体に馴染んできた頃、ウォルターから連絡があった。

 

《621……いや、独立傭兵レイヴン。お前に頼みたい仕事がある》

 

 呼び直したのは気持ちの切り替えのためか、それとも距離を取ろうとする姿勢の表れか。もしかすると、誠実な態度、という種類のものなのかもしれない。

 相変わらずいつだって苦々しい響きの声から、正解を推し量るのは難しそうだった。

 

《ルビコン発祥の星内企業、BAWSのことは知っているな。豊富なジャンルの武装を手がけ、星外企業と解放戦線のいずれとも取引きを行っている、客を選ばない武器商人だ。――お前には、この第2工廠の調査を依頼したい》

「調査?」

《積極的な戦闘は必要ない。ガードメカは配備されているが、お前の敵ではないはずだ。可能な限り見つからず最奥部まで辿り着け。後は、俺の仕事だ》

 

 小手調べ、ということだろうか。

 あまり楽しそうな仕事ではなかったが、断る理由もない。二つ返事で頷いた。

 

「了解。引き受けるわ」

《……報酬の確認はしておけ》

「貴方なら下手は打たないでしょう。潜入任務ということは、夜間よね? 日時の指定がないなら今日動けるわ」

 

 ウォルターの了承を得て、上司二人に仕事で不在にする旨を通知した。

 目的地までの距離はそう遠くない。仮眠を取る時間は十分にあるだろう。

 

 

 

 

 

 月明かりの綺麗な夜だった。つまり、潜入にはあまり向いていない夜だ。

 商売熱心な老舗企業の仕事場といえど、さすがに夜中まで稼働してはいないらしい。到着したBAWSの第2工廠は、ひっそりと静まり返っていた。

 

《……静かすぎる。周辺を確認しているが……機影どころか、人影一つ見当たらない……》

 

 ウォルターが重々しく告げた。

 つまり、罠か、異常事態のどちらかだ。

 隠れて動くよりはやりやすい。遠慮なくブーストをふかして目的地に向かう。

 進行方向に、青白いチャージ光が膨らむのが見えた。

 

《よけろ、レイヴン!!》

 

 発射されるのを待ってから左に動いてかわす。次弾はチャージしなかったのか、思ったよりもすぐに放たれた。アサルトブーストを維持したまま、今度は右にかわす。

 だいぶ距離を詰めたのに、機体は、見えない。

 それでもそこにいるのは明らかだ。接近の勢いをそのままに蹴りを繰り出す直前、ようやく相手の姿を捉えた

 いい具合に入ったが、破壊しきるには少し足りない。追加でリニアライフルを打ち込むと、敵機はあっさり沈黙した。

 

《……迷彩に、暗号通信……。おそらくは無人機だが、ガードメカではあり得ない。一体、何が起きている……?》

「罠の可能性は?」

《考えにくいが……続けろ、レイヴン。目的地をマッピングする。スキャナーを活用していけ》

 

 いることがわかっていて、見つける手段があるのなら、伏兵などほとんどただの的だ。 配置も大体予想がつく。

 狭まったエリアを抜けた背後。その位置に追撃を加えるための前方奥。手早く二機を片付け、目的地へと向かった。

 第8世代の強化手術を受けてから、ずいぶんと感覚が冴えている。とてもクリアだ。同じ世代のメーテルリンクの助言も役立った。過敏すぎない、バランスの良い感覚だった。

 

 道行きでさらに追加で数機見つけ出し、破壊する。さすがにすべてを先制攻撃することはできなかったが、乱戦になる前に制圧することができた。

 アサルトライフルよりも、リニアライフルのほうが手に馴染むかもしれない。

 しばらく使い込んでみよう、と考えながら、目的地前の隔壁を開けた。

 

 広がっていたのは、異質な空間だった。

 異様に高く聳え立った壁に囲まれているのは、赤く輝く円形のプールだ。無骨な機材で構成されてはいるが、厚みはほとんどない。

 どうみても天井の高さが過剰だ。――だが、おそらく、何らかの危険性や必要性に応じているのだろう。

 そう思わせる、どこか不吉な赤だった。

 ざわりと心が騒ぐ。暗がりでひっそりと光るこの赤を、知っているような気がした。

 

《……間違いない、コーラルだ。地中支脈からの湧出現象……情報通り、BAWSが“井戸”を隠していたようだな。……周囲を確認しろ。まずは中心から360度の撮影を頼む。ゆっくりとな》

「了解」

《……予想より含有量が微量だ。あてが外れたか……》

 

 ウォルターが苦々しく呟いたとき、上空から妙な音が聞こえた。

 数秒ののち、レーダーに反応が現れる。

 

《上から来るぞ、レイヴン!!》

 

 とっさにその場を動いて集中砲火を避け、青いレーザーの射出元に肩のバズーカを打ち込んだ。姿を見せている近接型が一体、あとは迷彩持ちの遠距離狙撃型か。一体目と同じなら、壁に張り付いているはずだ。

 アサルトブーストでレーダー反応を巡り、順調に撃破していく。

 残りはパルスアーマー持ちの近接型だけだ。

 

《あと一機だ。気を抜くなよ》

「ご心配なく」

 

 ここに至るまでほとんど確認せずに倒してきたが、ACとも、知る限りのMTとも異なる機体だ。IFFは応答なし。付属のNCTRでも取得できる情報がない。ウォルターの言うとおり、人間が乗っているような感覚もない。

 出処は、いったいどこだろう。

 

 まずはパルスアーマーを削るべくブレードを繰り出すと、敵機も近接攻撃で応じた。

 見たことのない武器だった。

 青白い有刺鉄線のような形状の、おそらくはEN兵器だ。長く伸びる鞭のようにしなり、爆発性の何かをばらまきながら光線を引き戻していく。ブレードとは大きく異なる、曲線的な動きだった。

 雷が走ったような衝撃を受けた。攻撃が当たったからではなく、その動きに魅入ったからだ。

 

「え、なにそれ……待って、それどこの!?」

 

 当然ながら返答はない。無人機なのだろうから当然だ。

 

 ――面白い。見たことがない。使ってみたい!

 興奮で夢中になりながら、できるだけ戦闘を長引かせた。うまく使えば相手を絡め取るような使い方もできるのだろうか。実体があればできるかもしれない。チャージ攻撃はどう変わるのか、知りたいことが次々に出てくる。

 ――もっと、まだたりない、まだできるでしょう、あまさず全部見せてほしい。

 

 かなり手加減していたというのに、楽しい時間はあっという間に終わり、最後の所属不明機体が沈黙する。

 ひどく、がっかりした気持ちになった。これではフロイトのことを言えそうにない。

 動かない敵機を見下ろす。武器の損傷は少なさそうだ。

 そのうち、うずうずした気持ちがわき上がってきた。

 

 ――これ、持って帰っちゃだめかしら。

 

 この世界の常識ではどうなのだろう。封鎖惑星の無法地帯だとは言え、さすがに追い剥ぎじみていて良くないだろうか。スネイルにヴェスパーの品位がどうのと怒られたりするだろうか。そうすると、また番号の付与が遠のきそうだ。

 せめて手に取ってみたいが、一度そうしたら置いていける自信がない。どこかに型番が印字されていたりはしないかとうろうろするが、拡大したカメラ画像にいくら目を凝らしても、見つけることはできなかった。

 

「あの……ウォルター。ちょっといい?」

 

 どうにも諦めきれず、かなりオブラートにくるんでウォルターに相談すると、これまでとは違う雰囲気の沈黙が返ってきた。

 やはり少しばかり、行儀が悪すぎただろうか。

 妙に長い沈黙の後、ウォルターがめずらしく咳払いをした。

 

《……62……、レイヴン。お前に一つ助言を送ろう》

 

 呆れたような声が多少の笑みを含んでいたように感じたのは、気のせいだろうか。

 

《世の中には、「鹵獲(ろかく)」という便利な言葉がある。定義は自分で調べておけ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、こちらが(くだん)の鹵獲品」

 

 アーキバスのハンガーで機体を前に、いつにない満足感で紹介すると、フロイトが子どものように目を輝かせた。

 

「最高だな! 俺も知らないやつだぞ、これ。形状的に近接武器のようだが」

「妙な話なんだけど、刻印が何もないの」

「何もか」

「そう。メーカーロゴも型番も、本当に何ひとつ」

「確かに妙だな。ワンオフか……?」

 

 だとしても、ここまでの徹底した隠蔽には何らかの意図を感じる。武器制御システムが適合したのが不思議なくらいだ。

 BAWS第二工廠と自分を襲った勢力の正体は分からないままだ。この武器の情報は、それを知る手がかりになるだろう。

 あの後、工廠の敷地内を一通り浚って、破壊された機体残骸をひとつだけ見つけていた。

 おそらく処分か回収かのどちらかが漏れてしまったのだろう。

 残された通信ログには、BAWSがエルカノに利益の大半を渡していたらしいという情報があった。末端の警備兵が知っていたほどに社内では隠していなかったのなら、中立的な立場はかなり疑わしいものになる。この情報の扱いはまだ迷っていたので、いまのところ誰かに話すつもりはなかった。

 それはそれとして、不明機体の武器である。

 

「ちょっと気になることもあるの。武器組み込みの制御システムから情報を取れるか、そのうちアーキバスの研究施設に頼もうと思ってる」

「飽きてからだな」

「そう、飽きてからね」

 

 二人して異議なく頷いた。とりあえず、飽きるまでは壊したくない。

 暗黙の了解として、この場合の「飽きる」は二人分である。使う方と使われる方、それぞれ両方で。

 

「近接武器にしては形状が変わってるな。スペックは……いやだめだ、今見てしまうのは勿体ない。一回やり合うまで我慢しておく」

「貴方が作戦に出てた2日間でしっかり練習したの。今日こそ目にもの見せるわ!」

「少し待て、俺も機体を組み直す。さて、どうするか……!」

 

 いつにないほどテンションの高い二人に、周囲がドン引きして顔を見合わせた。

 あまりにも、普段と違いすぎる。連日の任務による寝不足と新兵器への期待で少しばかりおかしなことになっているのは明らかで、その事実に、二人だけが気付いていなかった。

 止めたほうがいいんじゃないか、いや誰が止めるんだよ、とひそひそ話し合っている間に、フロイトがアセンブリを決めてしまう。

 

「よし、やるぞ。換装を頼む」

 

 フロイトが選んだフレームは、めずらしく中量二脚ではなかった。第4隊長と同じ脚だ。機動力を活かすつもりだろう。

 未知の近接武器へ安全に対応するなら中距離戦を取るものだろうが、勿論この男がそんな選択肢をするはずがない。初対面の時に使っていたブレードと、メリニットのバズーカ、お馴染みのレーザードローンに垂直ミサイルという構成だった。打ち込んでこいという意識がありありと伝わる組み合わせだ。

 練兵場のエリアは、ビルを模した障害物があるものを選んだ。そちらの方が生かせそうだという提案に、フロイトが当然頷いたからだ。

 

 この武器は隙もあるし、攻撃力も特筆するほど高くはない。射程も短い。

 だが、繰り出しの速さは素晴らしく、踏み込みが必要ないのも面白いところだった。

 

 誘うように大振りに、バズーカが打ち込まれてくる。

 じれったい気持ちを感じ取って笑みが浮かんだ。ここで乗らないわけにはいかない。

 

 距離を見計らってビル影から飛び出し、鞭を振るう。

 狙うのは細っこい脚の関節だ。今までの機体にない弱点なので、狙ってみるのも面白いと思ったのだ。

 

 一撃目は見事に狙い通り。続く二撃目も、直撃はしなかったが胴体を掠めた。

 さすがに初めて見る武器をたやすく避けられるほど、人外ではなかったようだ。

 

 だが、有利に進められるのはここまでだろう。フロイトの記憶力と対応力を侮れば、あっという間にスクラップだ。

 

 距離を取り過ぎないよう注意しながら垂直ミサイルを放つ。障害物が多いので、ほとんどは無駄弾になるだろう。

 だが、それでいい。

 予測した回避地点に狙いを定める。

 お互いに物陰から現れた瞬間を狙っていた。その狙いの正確さが、一番最初だけ、隙になる。

 

 チャージしていた鞭が弾を弾いた。完全ではないが十分だ。流れるように構えを解除し、通常攻撃と共にリチャージしたリニアライフルを叩き込む。狙いは同じく右足だ。

 火花が散る。確かな手応えがあった。

 逃がさないとばかりに放った肩のバズーカは、パルスアーマーに阻まれる。射線を集中させるレーザードローンに、こちらも回避を余儀なくされた。

 

《……いいな! たまらない。もっと見せろ……!》

 

 同じことを言っているな、と思ったが、さすがに笑っているだけの余裕はなかった。

 いつもより展開が早い。そしていつもよりさらに近距離を保っている以上、やるか、やられるかがより一層短時間で決しそうだった。

 

 一か八か、思い切って仕掛けようと腹を決めた。

 ――試してみたい。どんな風に対応するのかを見せて欲しい。きっと一筋縄ではいかないから、こんなにも、楽しい。

 

 アサルトブーストで接近する。バズーカとミサイルがそれを拒むが、被弾を恐れなければ近づける。

 警告音は無視した。フレームが削れる音がする。

 肉薄して、鞭を放つ。

 鞭が脚の華奢な関節に、“絡みつく”。

 驚きが伝わってくるようだった。

 伴って放たれた機雷が爆発して青い光を放つ。リペアを使うには間に合わず、右足を、折りきった。

 

 手応えを得られたのはせいぜい一秒だった。

 手負いの獣のように濃紺の機体が迫る。硬直を逃さずブレードを叩き込まれた。当然のように降り注いだミサイルからかろうじて逃れた先、バズーカの弾が待ち構えている。

 急旋回。避けきれない。

 盾がわりに鞭を使ったが、勢いを殺すには厳しい。障害物に背中からぶつかり、吹き飛ばされるのだけは免れた。

 すぐにブーストで上昇する。大振りなブレードの美しい円軌道が目に焼き付いた。

 

 楽しいな、と思った。

 勝ちたい、とも。

 

 何合かかわしているうちに右腕がはね飛ばされた。リペアを使い切ったフレームも被弾が重なり、そろそろ限界が近づいている。

 接近してきた今しかない。

 近距離からのアサルトブーストでぶつかるようにして蹴りを放つ。避けられるのは分かっていたから、間髪入れずに肩バズーカを接射した。

 直撃した。完璧だ。

 これで終わらせる。

 機雷を伴う鞭撃を放った。完全に相手を捕らえる間合いだった。実際に、当たりはした。

 フロイトの機体が、鞭を――実体であるワイヤーを“掴んだ”。信じられない反応だった。

 力任せに引き寄せられる。バズーカの銃口がこちらを向いている。

 このままでは、やられる。

 とっさに、アサルトアーマーを展開した。

 

 機体に衝撃が走る。メインカメラをやられたのか、一瞬、モニターが真っ黒になった。サブカメラに切り替わる。

 この先は不利だ。当てるには今しかない。

 相手が見えないまま、冷却したばかりの肩バズーカを放とうとして――悲鳴じみた声に、動きを止めた。

 

《これ以上は危険です、終了してください! コアが損傷しています!! ……フロイト隊長、隊長!? 応答を! ご無事ですか!?》

 

 え、と声が出た。

 通信の向こうが一気に騒がしくなっていく。機体の戦闘モードを終了させながら、血の気の引く思いで口元を覆った。

 

 まさかとは思うが。

 これは、本格的に、やらかしたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室は今、しんと静まり返っていた。

 呼び出したスネイルは、こちらが経緯の報告を終えてなお一声も発しない。さすがにやらかした自覚があるので、ただひたすら大人しく立っている他なかった。

 多弁なこの男が黙ると、なかなか無視できない威圧感がある。

 ブラインドから漏れる光は夕刻の色を帯び始めていた。

 破損したコアからのフロイトの救出と医療棟への救急搬送、その他諸々の後片付けと関係部署への報告。慌ただしくなった一日は、まだ終わりそうにない。

 

「……右上腕部骨折、加えて裂傷に熱傷で、全治3週間だとのことです」

「……その、申し訳次第もなく……」

 

 容態にしては治療期間が短い。アーキバスの人体改造技術は、真人間の治療にも活用できるのだろうか。

 眉間を抑えたスネイルが、肺の中の空気をすべて押し出すような、長いため息を吐いた。

 そのまま再び沈黙する。

 日が暮れるまでこのままだったらどうしよう、と反省のないことを考えた。

 だが、今度の沈黙は、それほど長いものではなかった。

 

「……先日、貴方がレッドガンG2ナイルを排除したことは、大いにアーキバスの利益になりました。あの男が消えれば、ベイラムとレッドガンの間にある亀裂を広げるのは容易い。……その功績をもって、貴方にV.Ⅸのナンバーを付与します」

「え?」

 

 まさかのタイミングだった。

 目を瞬いて、神経質そうな顔を見返す。そこには既に感情の欠片も浮かべられてはいなかった。

 

「通常であれば隊長格としてMT部隊を配下につけるところですが、貴方には必要ないでしょう。V.Ⅰ復帰までの間、予定されていた作戦の代行を命じます。失敗は許されないと肝に銘じなさい。……何か質問は?」

 

 初対面のときの意趣返しだろうか。

 唇を結び、背筋を伸ばす。

 

「……いえ。謹んで拝命します」

 

 スネイルは満足げに頷いた。

 そこで、ようやく気付いた。フロイトを殺しかけたことで、スネイルは「同程度に使うことのできる駒」だと、こちらを評価したのだ。

 フロイトの傍若無人を憤りながらも許容していたように、うっかりしくじりかけた狂犬も忸怩たる思いを抱えつつ許容した。そういうことなのだろう。指揮官らしい振る舞いは初めて見たかもしれない。メーテルリンクの評価がようやく素直に腑に落ちた。

 

「首輪をつけることができなかったのは懸念事項ですが、まあ、いいでしょう。その鼻をアーキバスのために役立てなさい」

 

 やはりこの男の手配だったかと、特に感慨もなく思った。

 強化手術の直前に執刀操作責任者を捕まえ、手術計画書を渡すよう笑顔で迫ったのだ。優秀な医者なのだろうが、うろたえる時点で腹芸がなっていない。

 

 ――これと、これ。このデバイスは不要です。除外してください。私の“不利益”になりますので。

 ――ああ、そんな青い顔をしないでください。怒っているわけじゃないんです。上からの命令だったんでしょう? 貴方が悪いわけじゃない。……けれど、それでも実施したとしたら……それは貴方の意思ですよね。

 ――よく考えて、教えていただけますか。V.Ⅰに、貴方の名前を報告する必要が?

 

 そんな感じの脅しだったはずだ。よほど効いたのか皮膚処理のレベルが最高値にまで上げられていて、ほぼ全身切り開いたはずなのに傷ひとつ残らないぴかぴかの仕上がり具合だった。

 絶対に勝つべき喧嘩は、虎の威を借りるに限る。

 思い返して満足していると、スネイルが常の口調を取り戻して言った。

 

「貴方よりフロイトの方が先に負傷したのは、想定外でした」

「恐縮です」

「……ひとつ伝えておきましょう。最後のフロイトの攻撃、あれは本来、頭部ではなく、コアに向けられていました。直前に腕部が損傷したことで、偶然逸れたに過ぎない。

 貴方がたの興じている遊びは、遠からず、どちらかを殺すでしょう。

 戦力を減らすことはアーキバスにとって痛手です。そのことを、よく念頭に置いておくように」

 

 スネイルは重々しく釘を刺した。

 

 

 

 余談だが、復帰後の第一戦で、今度はレイヴンが医療棟送りとなった。

 スネイルの胃に穴が空く日は近い。




そりゃ手放した猟犬がこんなはしゃいでたら苦笑いするしかないよね、の回とうっかりやらかす(そりゃ回数重ねれば事故る)の回でした。

あ、怪我させたのはお互いわざとじゃないです(そういう問題でもない)




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