621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

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リクエストから「イグアス生存ルートif」「平和時空イグアスとエア(ボディあり)のパラレル戦後ifデート withレッドガン」です。深度3でイグアスが死ななかったパターン。

……平和時空って何だっけ!
すみません思いついたら魔改造せずにいられなかった。でも満足です。
イグアス君の好みは童顔巨乳グラドルだと迷いなく思ってる(真顔)







イグアスとエアの話
そして、明るんでいく空を


 

 

 そんな都合のいい話があるか、と吐き捨てた。

 これまで散々こちらを使い倒してくれた挙げ句、エアの正体を知って敵対関係となっていたはずのRaDの女頭目は、ニヤニヤと愉しげに笑うばかりだ。そこには先日まで見せていた冷ややかな敵意も殺意も、揺らがせようのない使命感も、何一つ残っていない。まるで時間を遡ったかのように、以前通りの様子だった。

 

「ご挨拶じゃないか。せっかくいい話を持ってきてやったっていうのに」

 

 何がいい話だ。どう考えてもこいつや――あの狂犬の趣味だろう。特にあの狂犬。こと他人の色恋沙汰に目のない女だった。

 

「あんたの可愛い彼女に、自分で動かせる人型の身体が欲しくないかって話だ。……まあ、別に人型である必要はないんだが――犬だの猫だのジャガイモだのってのもあれだろう? うちのチャティみたいなのがよけりゃ、それでもいいが」

 

 露骨に嫌な顔をしたのが面白かったのだろう。カーラが腹を抱えて笑った。

 このババア、とこれは内心だけで吐き捨てて、沈黙する。

 今の自分が、ぎゃあぎゃあ噛みつくことのできる立場にないことくらいは理解している。

 

 大体が、エアはいわゆる「人間」ではない。

 美的感覚だって違うだろう。そんなモン喜ぶかよ、というのが本音だった。

 カーラがおかしげに片眉を上げた。

 

「駄目だねえ、勝手に決めつける男は嫌われるよ。ちゃんと聞いてみな。――あんたの好みの女になってみたくないか、ってね」

 

 気を利かせたつもりなのか、そのまま部屋を出ていく。

 後にはなんとも言えない沈黙が残った。

 

 どうなんだよ、と聞くと、エアが声を上擦らせた。

 

『えっ!? で、でも……!』

 

 あからさまに、そわそわしていた。乗り気なのか、と聞けば、なんだかしゅんとした気配がする。あわてた。

 別にいいのだ、どっちでも。欲しければあの女にいくらでも頭を下げてやるし、いらないならそれでいい。

 

『でも、こんなことで、貴方に迷惑をかけるのは……』

 

 今更も今更だ。ついでのこの程度、別に迷惑でもない。

 

『……あの、私……欲しい、です。……貴方と、同じかたちが』

 

 思い切ったように告げられた言葉は、どうにもむず痒いものだった。

 おう、と短く返す。

 本当に久しぶりに、嬉しそうな様子だった。

 

 

 

 

 

 人間の形とは言っても千差万別だ。はなから適当に決めたものを用意してくれればいいのにやたらカスタマイズの余地があり、いちいち意見を求められて、早々にうんざりした。

 

『顔は“可愛らしい”感じ、でしたよね。私では判別の難しい主観的な形容詞ですが、貴方の溜め込んだデータから傾向を算出します』

 

 やめろやめてくれいつの間に見やがった。

 そんなモン気にするな、お前の好きなのにしろ――って聞いてんのかこのバカ女!

 

『胸部装甲のサイズや形も指定できるそうです。やはりここは最大火力支援を……!』

 

 ミサイルでも仕込む気かバカ、限度ってモンがあるだろうが!

 

『不可解です。貴方の収集データを見るに明らかな肥大傾向が』

 

 やめろって! 言ってんだろうが! デカけりゃいいってもんじゃねえ!

 

『理解しています、形状も重要なのですね!』

 

 そうだがそうじゃねえ人の話を聞け! もう体型設定全部デフォルトにすんぞ‼

 

『ひどい、あんまりです! これでは火力が……‼』

 

 その言い方やめろ、何をどっから拾いやがった!

 

『2段階、いえ、1段階だけでもいいです! 胸とお尻の設定値を上げてくださいー!』

 

 しょうがねえ、と口先だけで言って、2段階上げておいた。

 ……思ったよりささやかだ。もうひとつ行ってもいいかもしれない。

 データを確認したエアが食い下がってきた。

 

『……イグアス、あの、できたらもう1段階……いかがでしょう……!』

 

 ……おう。

 

 

 

 

 そうして届けられた機体は、本当の人間にしか見えなかった。

 どこでそう感じるのか、素人の自分にはわからない。単なる形状の違いとは違う“質の良さ”だ。

 自身は専門外らしいカーラが、皮膚外装がどうの人工筋肉がどうのブレインシミュレーターによる表情筋動作がどうの口腔内の作り込みだの眼球の水膜がどうだのと熱っぽく語るが、たぶん10分の1も理解できなかったと思う。ただ、エアがきらきらと目を輝かせている雰囲気なのはわかった。

 ただし紛れもなく金属製かつ人間大の精密機械なので、総重量は120kgを超える。

 

 ちなみに代金は借金だ。

 ……ACが10セットくらい組めそうな額だった。

 

 

 

 

 木星までの道行きは、レッドガンの引き上げに同道させてもらえた。

 こっちは命令違反を犯した脱走兵だ。RaDから放り投げるように引き渡されたときには正直死を覚悟したが、意外なことに、顔の形が変わるまでボコボコにされるだけですんだ。

 オロオロ見守るエアが暴れだしそうでヒヤヒヤしたが、もしかすると、そのおかげだったのかもしれない。見た目はごく普通の美女だか美少女だかなのだが、実際のところ人間よりも馬力があるのだ。素の状態で120kgあるので、見た目に反してかなりの重量級である。とりあえず普通の航空機と星間輸送機には乗客として乗れない。頑張って追加料金貨物扱いだ。

 

「わっかりやすい男だぜオイ、こりゃ脱走するよな!」

「おーおーうまくやりやがってこの野郎」

「で? どうやって口説いたんだ? ん?」

 

 揃いも揃ってニヤニヤからかってくるので、とりあえずぶん殴っておいた。

 男どもの荒っぽいコミュニケーションにエアは目を丸くしていたが、ナイル副長が何事かささめいて、何をか知らないが納得していた。何を納得した。

 

 女が人間でないことは全員が知っているというのに、まるきり普通の反応だった。

 

 木星についてからの行き先(エアはデートだと言い張っていた)を隊員の連中とああだこうだと相談していたことだけは解せない。だが決定された行き先はショッピングモールで、なるほど自分では思いつかなかった場所だと納得する。オールバニーがしたり顔で言った。

 

「可愛い服の一つでも買ってやりなさいよ。甲斐性の見せ所だろ」

 

 この機体(からだ)自体が甲斐性の塊だというのにこのアマ、と青筋を立てるが、エアが嬉しそうなので黙っておいた。

 計算外だったのは、そのいわゆるデートというやつに、レッドガンの面々がちょっとばかりの距離をとりつつついてきたことだ。

 理由はわかっている、必要性も理解している、だが正直勘弁してもらいたい。

 おまけに周囲のカップルの様子を観察していたエアが、「こうするんですね!」と腕に引っ付いてきたものだから、背後から響いた口笛にブチギレそうになった。ぎりぎりのところで我慢した自分を心底から褒め称えてやりたい。追加装甲が柔らかすぎる。

 

 間違っているのかと不安げな顔になったエアの頭をぐりぐりと力任せに撫でて誤魔化した。ブレインシミュレーターの仕事が優秀すぎる。どこの変態の仕業だ。値段が頭によぎった。なるほど、これがAC7セット分くらいか。

 

 ショッピングは難航した。こっちが口を出さなかったこともあるし、経験の少ないエアが自分の好みをまだ理解できていなかったせいだ。途中で痺れを切らしたオールバニーが乱入し、妙にエアと話を盛り上げて(それが自分の好みを推測するものだったことは忘れたい)、どうにか話が先に進んだ。もうどれでもいいからさっさと決めてもらいたい。

 うんざりしながら距離を取っていると、ナイルが隣に立った。

 

「……平和なものだな。衣裳一つでああまで大騒ぎができるとは」

 

 まったくもって同感だ。あの様子を見ると、あと一時間では足りそうにない。

 

「待つのが男の甲斐性だろうがな。……それができるようになったのなら、お前も大人になったのだろう」

 

 クソみてえな判定基準だ、と思わず毒づいたが、ナイルは目尻に皺を寄せて微笑んだ。

 

「今のお前なら、鍛えれば素直に伸びるだろうな。いつでも戻ってこい、半殺しにするだけで許してやるとの総長からの伝言だ」

 

 けっ、と吐き捨てるような声で応じた。

 嬉しいなどと、誰が認めてやるものか。

 

「この後は地球へ向かうのだったか。……奇遇にも、レッドガンの貨物が向かう予定がある」

 

 そんな馬鹿な話はない。

 どんな口実だと顔をしかめるが、いつも厳しいばかりだった顔が浮かべる穏やかな表情に、口を噤まされる。

 

「費用はどこかの鴉が出したようだ。総長は半分だけ突き返していたな。まあ、今回のこの便とは何ら関係のない話だろうが」

 

 白い清楚なワンピースを纏ったエアが、顔を輝かせて裾をひらひら翻している。

 感想を求める声に、うんざりした声をつくって応じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて降り立った地球は、正直なところ良いものとは思えなかった。

 海の近い地域だったためか、やたら生臭さを感じる。

 嗅覚をセンサーでしか把握できないエアにはわからない感覚だと感じたので、大人しくその感想は飲み込んでおいた。まったくもって、我ながら、大人になったものだ。

 

「イグアス、眉間に皺が」

 

 気のせいだ。気にするな。

 

「気になります……! なんですか、やっぱりこの服が似合っていないとでも!?」

 

 言ってねえだろめんっどくせえなお前!?

 

「だって自分では判断できないんです! ちゃんと言ってください、似合わないなら似合わないって! 着替えてきます!」

 

 時間ねえだろ! あークソ似合ってる、すげえ似合ってる、世界一似合ってる!

 

「心が! 心が籠もっていません、イグアス!」

 

 かわいいっつってんだよ! とやけくそ気味に叫んだ。

 ぱっと表情が輝いたので、どうにも苛立ちきれない。脱力して掌にため息を吐いた。

 

 カレンダーと時計とにらめっこをしたエアが、観光マップを手にあれこれ呟いている。せわしなくあちこち動くよりは一箇所に決めた方がいいだろうというと、未練がましい顔をした後に頷いた。

 

 ――本当なら。

 いくらでも、時間をかけてやりたかった。

 満足いくまで、まあ正直うんざりした顔はしただろうが、付き合ってやりたかった。

 

 悩みを打ち払った様子のエアが、水族館を選ぶ。

 ルビコンの海にはアイビスの火以降、プランクトンくらいしかいなかったのだという。それ以降に生まれたので、人間と虫以外の生物を見たことがないという驚きの発言をされた。

 データで見た鯨を見てみたい、と言われてあわててパンフレットを確かめたが、どうにか飼育されているようだった。自分でも現物は見たことがないし、思っていたよりちょっと小さい感じだが、分類的には鯨だ。

 

 初めて訪れた水族館に、エアは終始わくわくとはしゃいでデータの蘊蓄を垂れ流していたが――目当ての鯨を見た途端、それがしぼんだ。

 ちいさいですね、と拗ねたようにこぼす。

 ちいせえな、ととりあえずそのまま返しておいた。

 エアの手がこちらの指を絡め取った。人工皮膚の表面は微細な湿り気を帯びていて、人間のそれと変わらない。多少温度が高いくらいだ。

 見下ろすと、鯨を見たまま唇を尖らせていたので、頭の後ろを掻く。

 

 本当なら。

 次は見せてやる、と、言いたかった。

 

 この後に本命が残っていなければ、うっかり根拠のない約束をしてしまっていたかもしれない。

 それとも、そうするべきだったのだろうか。

 

 

 

 

 ルビコンから木星へ。木星から地球へ。

 星間航行技術の上昇により所要時間こそ短くなっているが、わざわざ、長々とした旅を続けて地球へたどり着いたのは、ここが一番豊かな場所だったからだ。

 ――この女が、一番望んだものを、今も維持している場所だったからだ。

 

 

 祭り(フェスティバル)の名を冠するにふさわしい人混みにうんざりしながら、異なる星の街を歩いた。

 夜だというのに辺りは明るい。豊かな経済を見せつけるような、雑多でいて様々な屋台が立ち並ぶ通りを抜け、川辺へと出る。

 すでに打ち上げは始まっていて、嗅ぎ慣れた火薬の匂いがばかばかしいほど平和な文脈で鼻腔をくすぐった。

 腹に響く音には反射的に身構えてしまったが、夜空を埋め尽くすような光の花には、目を奪われた。

 ただの炎色反応だ。だが、夜空をキャンバスに展開される光の彩りは、確かにただの火薬の打ち上げではなかったのだろう。

 エアが感激したように両手をあわせた。

 そんな女みたいな仕草、どこで覚えてきたのだろう。

 

「わあっ……! 見てください、イグアス! すごいです……!」

 

 大金をはたいて作ったお綺麗な横顔だ。当然、綺麗なものを見上げるそれが綺麗でないはずがない。

 その声から想像していたのと、寸分変わらない目の輝きだった。

 

「これが、本物の花火なんですね! ……ねえ、ちゃんと見ましたか? 私ばっかりはしゃいでいるみたいじゃないですか」

 

 見てねえよ、と口の中でつぶやいた。

 花火などよりも、もっと、見ていたいものがあった。

 

 

 

 

 

 花火は22時を回る前に終わった。地球の一日は短く感じる――いや、実際、人間が居住している場所の標準値からすれば短いのだ。

 

 時間の進みは変わらなくても。

 一日は、短い。

 

 宿泊場所へ戻る気にもなれず、そのまま二人、無言のまま歩いていた。しばらくは人の賑わいがあったが、日付が変わる頃には、それもなくなっていた。ロマンスもへったくれもない、ただただ歩くだけの時間だった。時折、自動車が過ぎ去っていくだけの、店の一つもない南下行程だった。

 やがて、海辺へ出た。生き物が死んだ匂いが強くなって正直うんざりしていたが、さざなみというのだったか、その音だけは悪くなかった。

 

 衛星()が冴え冴えとした光を浜辺へ注いでいた。

 女に手を取られるままに、まともに握り返すこともできないまま行き先を導かれて、浜辺を歩いた。

 

 ばかばかしいことに、夜明けが近づいていた。

 ――終わりの時間が。

 

 この場所から遙か遠いルビコンで、コーラルの焼却が始められていた。

 この夜が明ける頃、その炎は彼女の波形に届くだろう。

 

 はじめから、わかっていた旅程だった。存分に猶予を含んでもらえた旅程だった。

 

 海辺の向こうはまだ昏い。地球のこの場所の夜はまだ明けない。

 けれどどの星のどの場所でも夜明けなど平等ではなくて、無情なほど淡々と差異を経て過ぎ去る。夜は消費されて、やがて朝が訪れる。

 時計を見たくなかった。

 残り時間を、数えたくはなかった。

 大体が、これだけの距離で、いつの時点で彼女が彼女を保てなくなるかなどわからないのだ。……とんでもない通信実験だ。くだらなくて、泣きそうなほど、くるおしい。

 

 あと、何時間だ。

 それがずっと脳裏にこびりついていた。

 あと、何分だろう。

 

 耐えきれなくなって、足を止めた。ゆるやかに繋いでいた手がほどけて落ちた。

 エアが数歩行ってから、振り返る。

 とと、と、おぼつかない足取りで戻ってきた。

 

「泣かないでください、イグアス」

 

 泣いてなどいなかった。――泣く資格もない。

 離れてしまった手を、エアの手が再びそっと握りしめた。

 

「私、しあわせでした。貴方が見つけてくれたから。世界中のどこを探したって、私ほどしあわせなCパルス変異波形なんていませんよ」

 

 そもそもお前くらいしかいねえよ、と憎まれ口を叩いた。

 

「……本当は、悔しいです。私が生まれた意味を、意識と人格を持った意味を――その使命を、果たすことができなくて。同胞たちの命を守ることも、人とコーラルの共存を実現することも……貴方とともに生きることも、本当は、できるなら、ぜんぶかなえたかった。諦めたくなんてなかった。……悔しいし、悲しいです」

 

 うらみごとを、まるで歌うように呟いて、それでも彼女は笑った。

 

「でも、それも通り過ぎて……今はただ、受け入れようと、思えるようになりました」

 

 うそだ、と言いたかった。立っていられずに膝をついた。

 そんな風に、綺麗に、受け入れて欲しくはなかった。

 けれどそれはかなわない。それを言う資格はとうの昔に失っていて――勝者が決めたままに、彼女の思うままに、ただ最後を迎えることしかできない。

 

「これはきっと、貴方の言う、『わるくねぇ』終わり、なんです」

 

 ――もしも俺が、あの狂犬に勝てていたら。もっと強かったなら。

 虜囚になることなどなかった。手も足も出ず、この女の同胞を焼かせることなどなかった。その先が世界の破滅だとしても、まだもう少し、共に生きることができた。

 こんな、敵対した奴らの哀れみによる終わりじゃなく、もっと違う何かを、与えたかった。

 

「……お願いです、イグアス。泣かないでください。……せっかく、貴方の涙を拭えるようになったけれど……もう、あと少しだけしか、そうすることはできないから」

 

 嗚咽を漏らさないのがせいぜいだった。目の奥から溢れる熱が視界を滲ませて、どうしようもなく声を塞いだ。

 ただ、繋いでいる手の熱だけが確かだった。

 

 この場所にも夜明けが訪れる。

 とうに時間が過ぎていることには気付いていた。

 空が明るんで、光が差し込んで――そして、すべてが失われる。

 たった一人が残される。

 弱くて、勝つこともできず、ろくに抱きしめてやることさえできず、ただ立ちすくんでいただけの男だけを残して――世界に一人だけの女が消える。

 

 さざなみの音が絶え間なく続いていた。

 固く目を閉ざして、奥歯を噛み締めた。縋るように包んだ手が、力をなくすまで。その声が、聞こえなくなるまで。

 

 

 ――けれど、思いのほか、その時間は長かった。

 

 

 朝日はすっかり昇り、砂浜を黄金色に照らし出している。

 覚悟と感傷に見合わない時間に、顔を上げた。

 動揺する女の顔が見えた。

 

「……あの、イグアス……この流れだと、とっても言いにくいのですが……。

 私、生きている、みたいです」

「……は?」

「あっ、いえ、生きているというのは少々語弊がありそうなのですが……まだ、意識があるというか……存在が変性した? の、でしょうか……ええと、とにかくですね」

 

 女が膝を折る。砂浜にしっかりした重量の膝が埋まり、人間を模した指が頬へと伸びる。

 微笑んでいた。女の理想のあれこれを詰め込んで大金を払ったお綺麗な顔を、見る影もなくくしゃくしゃにして。ああ、本当に大した技術だ。まるで、人間のように。

 

「……私……貴方の涙を、まだ、拭うことが、できるみたいです」

 

 恥も外聞もなく抱きしめた。120kgの機械の体。夜が明ければただの入れ物になるはずだったそれを、引き寄せることすら難しいものを、しがみつくように抱きしめた。

 名前を呼んだ。声が震えていた。

 

 ばかばかしいほどのハッピーエンド。これが映画なら鼻で笑っている。

 それでも。

 どんな悪魔の奇蹟でもいいと、ぎこちなく抱きしめ返す腕の動作に思った。

 

 

 

 

 

 

 







書きながらリピートしていたのはこちら。イグアスにしちゃお綺麗すぎるって? 私もそう思いますがいいんですよ、悲恋からの大逆転ですからね!

https://www.youtube.com/watch?v=zSzJLdtIsZo
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