【急募】「感情がないんだ」とか言い出した腐れ縁の魔女をキレさせる方法【私の幼馴染をなんとかする!】   作:てりのとりやき

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獄暦3年。ヲ・ア羅系世界第一位『絶滅』はいち早く文明を復興させる。

 ふと気づいたことがある。

 キサレアとの同棲生活についてだ。

 そもそも私は学校サボりの天才なので、よくキサレアの家に遊びに行くし、暇つぶしでキサレアの身の回りの世話をしてる。料理洗濯掃除書類整理……結構な頻度でキサレアの家に泊まるし、連泊もよくある。

 つまり、つまりだ。

 そもそも同棲したところでこれまでの生活と特に変化はなかった!!!!

 

 

 

 

 ええい二人暮らしをこのまま続けていても意味がない。さすがの私でも学習した。だから、作戦2を決行しよう。

 

「キサレアの研究を邪魔して遊びに誘う、これしかない……」

 

 いや、でも、いいのか? キサレアが一生懸命頑張ってることを邪魔するなんて……。

 私は悩んだ。腕を組んだりうーうー言ったりしてメッチャ悩んだ。

 悩んだ末、私はひとつの真実にたどり着く。

 

「そうか……こうやって一人で悩んでいても何も解決しないんだね」

 

 人が一人では生きられない理由を、ついに私は見つけてしまったのである。

 そういうわけでキサレアに相談することにした。

 

「キサレア! 聞いて聞いて」

「後ろから両肩を抑えつけられると聞くしかなくなるのだけど」

 

 相変わらず地下室に籠って椅子に座りっぱなしのキサレア。その華奢で細い肩を掴み、椅子を回す。こちらを向いた年上幼馴染に私は尋ねた。

 

「キサレア。キサレアの研究を邪魔して遊びに誘いたいんだけど、これってどう思う……?」

「………………」

 

 キサレアが桜色の唇をわずかに震わせた。あれっ、怒った? 怒った?

 

「もしかしなくても怒った?」

「そうじゃなくて。どうしてその相談を、当の本人である私にできるのか真剣にわからなかっただけよ」

「言われてみればそうかもしれない」

 

 聞く相手を間違えた。

 私は笑顔で「今のなし、忘れていいよ」とキサレアの体ごと椅子を回す。机に向かい直させられたキサレアは「やっぱりこの子ってバカだわ」と呟きつつも作業を再開する。

 失敗を気にしないのが私のいいところだ。そして失敗から学べるのも、私のいいところだ。

 聞く相手を間違えたなら、別の人に聞けばいい。

 私は研究室の隅っこにある『ぱそこん』を起動し、ネットに接続する――。

 

 

 ◇

 

【急募】「感情がないんだ」とか言い出した腐れ縁の女をキレさせる方法2

 

 

 1 超天災たわし2420/03/24(火) 13:48:21 ID:7gq

 

 前回の作戦は失敗でした!今度は仕事ばっかのそいつを遊びに誘って仕事できなくしてやれば怒るんじゃないかなって思うんですけどどうですか、頭よくないですか

 

 2 名無しさん@世界の終わり 2420/03/24(火) 13:48:59 ID:ewi

 

 せやね

 

 

 ◇

 

 

 やっぱりね。私は間違っていない。

 ふんすと鼻を鳴らし、『ぱそこん』の電源を落とす。そうして私はズンズンとキサレアの方へと向かう。

 

「キサレア」

「今度は何?」

「遊ぼう!」

「嫌」

 

 えっ。

 

「なんで……?」

 

 まさか即答されるなんて。

 

「遊びに割く時間なんてないの」

「1日は24時間しかないんだよ!」

「だからよ。この世界に残された時間は有限なのよ」

 

 こういう会話をしていると、私はやっぱりキサレアとは考え方が違うんだなあ、と思わずにはいられない。

 知ってる。この世界はほかの異世界と戦争していて、私が知らないところで『終わり』は着々と進行している。キサレアは感情が無いっていうけど、でも、きっとこの魔女は焦っているのだ。本気で世界を救おうとしてる。

 

「だよね、……やっぱり悪いことだよね」

 

 世界を救うことと、幼馴染と遊ぶことなんて天秤にかける必要もない。

 偉いのは世界を救うことで、くだらないのは幼馴染と遊ぶことだ。

 私はがっくりと肩を落とし、そのまま地球の重力に逆らえなくなって地下室の床に横になった。むき出しのコンクリートはひんやりしていて、何となくだけどキサレアの柔らかい匂いがする……気がする。

 

「そんなところで横になると汚いわよ」

「大丈夫、毎日掃除してるし。それに今の私はおまんじゅうだし……」

「意味がわからない」

 

 お饅頭モードの私は人間ではない。

 丸くなったまま動かない、頭の悪いお饅頭である。

 まんじゅうらしく小さくなった私は、研究に没頭するキサレアの後ろ姿をぼうっと眺めた。

 キサレアはこの地下室に、もっと言えばあの椅子に18時間近く座り続けているらしい。

 安っぽい椅子だ。

 

「その椅子、まだ使ってるの?」

「壊れないもの。買い替える必要もないし」

「ふーん……」

 

 それは私が11歳の時に作った椅子である。頭より動くのが好きな私は、何かを作るのも好きだった。「トキトは空間認知能力がずば抜けて高い」とはキサレア唯一の褒め言葉である。図面もなしに即興で作った椅子はそれなりの出来で、キサレアは昔から愛用してくれている。

 

「座ってて疲れない椅子、今なら作れるよ。作ったげよっか!」

「いらない。私にはこれでいい」

 

 そっかー……。

 キサレアの研究の助けになれればいいと思ったけど、お節介だったみたい。私は無力、うんこだ……。

 幼馴染に相手にされなくなった私は思いっきりいじけた。

 特に深い理由もなくキサレアの足元までごろごろ転がって移動する。お饅頭モードのまま、机の下に入り込んで更に丸くなった。 

 

「そんなとこに居られると落ち着かないのだけど」

「気にしないでください。私は今、まんじゅうなので……」

「…………………………はあ」

 

 何かを諦めたかのようにキサレアが息を漏らす。ガタガタと椅子を揺らして幼馴染が私の側から離れる――立ち上がる。

 

「気が散る」

「さいですか」

「遊ぶんでしょ? どこへ行くの?」

 

 ……? どういう話の繋がりなのか分からなくて、私は頭の悪いお饅頭から頭の悪い人間に戻った。机の下から這い出ると、気付けばキサレアはよそ行きの格好に着替えているではないか。質素なロングワンピースの上からジャケットを一枚羽織った彼女は、「どうするの」と青い視線だけでそう語る。

 

「えっ、あ、あ……遊んでくれるの!?」

「そうしないと一生机の下で暮らしそうなんだもの」

 

 だから、仕方なくね。

 素っ気なくキサレアが言う。私は自分の頬がむずむずするのを止められなくなった。勝手に表情筋が笑顔を作る。

 

「トキトって表情がころころ変わるわ」

「いいでしょ」

「で? どこへ行くの」

「あっ。なんも決めてなかった……」

 

 そもそも私の目的は『キサレアの研究を邪魔してキレさせること』なんであって、別にどこへ行くとかは二の次だったのだ。どうしよう、どこ行こうかなあ。

 

「決められないなら、私が決めていい?」

「もちろん」

「……水族館」

 

 ぽつりとキサレアが言う。

 

「水族館に行きたい」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 この町には一つだけ水族館がある。家から近いこともあって昔は二人でよく行ったその水族館は、いつの間にかあちこちがさび付いていて、なんだか物悲しい雰囲気をしている。

 入館料を払い、薄暗い館内を歩いていても、人の気配はない。球切れしてところどころ点滅を繰り返す照明の下で、もう何も住んでいない空の水槽を横切っていく

 

「人、いないねー」

「そうね」

「平日だからかな?」

「今の時代に、娯楽施設へ来る者もそうそういないんでしょう」

 

 ニュースや新聞じゃ異世界との戦争の話題しか載っていない。

 つまんない話題しかないねって笑っても、キサレアは「そうね」と相槌を打つだけ。ちょっと寂しい。でも、それでいいのだ。こうしてキサレアと遊びに来れるだけで割と満足してしまう。

 

「昔、キサレアとよくここに来たよね。ほら、イルカショーがやっててさ。プールの前の席に座ると水しぶきが凄くて、カッパ着てくださいねって言われたの覚えてる! そんで私が水しぶきの直前にカッパ脱いじゃうから、びしょびしょの私を見ていっつもキサレア怒ってたよね。『風邪ひくじゃない』ってさ」

「ええ。私も覚えている」

 

 思わず頬が緩んだ。感情がなくなっても、二人の思い出まで消えたわけじゃないってこと。なんだか無性に走りたくなる。

 

「イルカショー、まだやってるのかな。ね、ね、見に行こ!」

「無理よ」

 

 キサレアの言葉は淡々としていた。淡々と、静かな水族館よりも寂しいことを言った。

 

「あのイルカは随分年老いていた。寿命で死んで、次のイルカが来たという話も聞いていない。だからもうイルカショーはやっていない」

 

 ほら、とキサレアが壁に張られた紙を指さす。そこには『イルカショーは中止しました』という随分昔の告知が書かれている。

 私は、思わず頬を膨らませてしまった。

 

「そんなこと言わなくていいじゃん。つまんない」

「事実を、事実として話すことしかできないの」

「それにしたって言い方ってあると思います」

「私の性格、知ってるでしょう」

 

 キサレアが歩くと彼女の長い金髪は軽やかに揺れる。踊る毛先に水槽内を照らし出す照明の光。金色の波でも眺めているみたい。私の視線もつられて揺れる。

 

「もうすぐこの水族館も閉鎖されるのでしょうね、飼育している生物もほとんど無い」

「でも綺麗だよ」

 

 反射的に言い返すと、キサレアの眼差しがこちらを向く。何が? と言っている青の眼差しに、――あなたが、と答えそうになる。

 ぶんぶん首を振って、視界に移った水槽の一つを指さした。

 きっと飼うのが楽だからなんだろう。唯一水槽の中で元気に浮かぶのは、半透明のクラゲたち。ぷかぷかと揺れる彼らはその身に通した光を不思議に曲げる。

 キサレアの視線が私の示す先へ延びていく。

 二人で水槽の前に並べば、キサレアの全身を余すところなく柔らかな輝きが包んだ。

 何か話題を探していた私は、その光景に考える事ができなくなる。

 ……会話なんていらないな。

 そう思い直して、隣の幼馴染をただじっと見つめ続けた。

 

「やっぱ綺麗だよ」

「そう?」

 

 キサレアの言う通り、ここは生きるために不要な場所かもしれなくて、そういうものは誰にも見向きされない時代だ。一昔前の"でんき”なんてものを引っ張り出しても、魔法が使えた頃みたいにいろんな情報が簡単に手に入るわけじゃない。

 分断されている――そういう言葉をキサレアは使った。だから、余計に、生き急ぐと。

 

「まあ確かに、次はもう無いかもしれないね」

 

 たぶんキサレアの言う通りだ。キサレアが研究に没頭するように、私も生き急いでいるに違いない。

 幼馴染と普段行かない場所に居るだけで胸の奥底から暖かくなれる。

 だから、いい。

 

「なら、最後でもいいから、今はキサレアと一緒に楽しみたいな」

 

 イルカショーがなくなって残念だし、次に水族館へ来ようとしても閉館してたりするかもしれない。

 後悔したくてキサレアと遊んでいるわけじゃない。

 私は未来よりも今、満たされたいだけだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さて、そんなこんなで静かな時間を満喫した私たちは、水族館の出口に向かった。そこにはお土産コーナーがあって、暇そうにしている店員さんがうつらうつら舟を漕いでいた。

 自然と興味がそちらに向く。

 

「あ、かわいい……」

 

 売店で売られているぬいぐるみのことだ。

 灰色のふわふわした細長いシルエット。イルカだ。イルカのぬいぐるみは私の上半身くらいのサイズで、とても大きい。つぶらな黒の瞳がこちらを見ていた。

 

「キサレアの3倍かわいい……」

「買えばいいじゃない」

 

 幼馴染は華麗にも無視した。

 

「お金がないのー」

「疑問なんだけれど、トキトのお父様って確か軍のエリートでしょう? なんでそんなにお金ないの」

「お母さんがお小遣い全然くれないんだよね」

「妙に納得できるわ」

「でも私、キサレアの隣に暮らせてるから不満なんてないよ?」

「………………………………………………ふうん」

 

 なにその間。

 

「いえ。昔からトキトはさらっとそういう事を言う子だったなと」

 

 恥ずかしがってんのか? 

 ……感情か? 感情なのか!

 

「違う」

「まだ何も言ってない!」

「顔を見れば何を考えてるのかなんて予測できるわ。トキトはすぐ表情に出るもの」

 

 まったくいっさい何一つ表情に出ない女に言われるとは。

 キサレアは暇そうにしている売り子に近づくと、財布から紙幣を取り出した。そして大きなイルカのぬいぐるみを受け取ると、私に差し出す。ん?

 

「はい。欲しかったんでしょう」

「え。でも。……いいの?」

 

 コクコクとキサレアは頷く。どうやら私に買ってくれたらしい。

 やったあ! ――と思わず舞い上がってしまいそうになったが、ふと考えてしまった。感情がないと公言するキサレアが、一体どういう動機で私にプレゼントをするんだろう。

 

「も、もしかしなくても、お金がなくてビンボーな私を憐れんだとかそういう感情だったりするのでは……!」

「そうじゃない。私はお金に余裕があって、使い道がなかったから、だったら誰のためにお金を使ったっていいと判断しただけよ」

「またそういう難しいことを言うー」

 

 キサレアと話してると頭が沸騰しそうになるし、ぐるぐるする。疲れるので私は考える事を止めた。何よりも今は、キサレアが買ってくれた大きなぬいぐるみを抱きしめたいのだ。

 

「ん。でも、ありがとっ。超うれしい!」

 

 私が自分史上とびっきりな笑顔をすると、その表情がキサレアの瞳に映った。

 ――そして帰り道。

 気づけば夕暮れ時だ。

 どでかいイルカのぬいぐるみを自慢したかったけど、住宅街には人気がない。みんなどこかへ行ってしまったらしい。

 ふと私は小さな疑問を覚え、隣のキサレアに訊いた。

 

「でも珍しいね」

「何が?」

「キサレアがどこかへ行きたいって言うのが」

 

 私の幼馴染はあんまり欲がなかった。何が食べたいとか、何が欲しいとか、そういう言葉を使わない女の人なのだ。

 だから今日、自分から行きたいと言い出したことが意外だった。いつも私が引っ張り続けた年上幼馴染の手は、いつの間にか欲しいものを自分で掴み取れるようになっていた……なんてね。

 

「昔、好きだったのよ。この水族館にあなたと二人で来るのが」

「お、おおう」

 

 予想外の言葉に鼻白む。目立つように揺らしたり持ち上げたりしていたイルカのぬいぐるみを、思わずぎゅっと抱きしめた。表情を隠してちらちら見つめるキサレアの顔には照れた様子もない。……やっぱ感情はないかあ。

 

「なんかキサレア、素直になった?」

「感情がないから余計な判断をしないだけ」

 

 つんと澄ました顔でそんな可愛くないことを言う。

 でも、まあ、今は機嫌がいいから良しとする。

 

「……感情が後天的に無くなる、というのはね」

 

 寂れた橙色の世界で、斜陽をまっすぐに見つめながらキサレアは言った。

 

「かつてあった『嬉しい』『楽しい』『愛している』……そんな気持ちがどんなものか分かっても、それら全てが湧き起こることのない状態を言うの」

 

 心は空っぽなのだと言いたげにキサレアは自身の胸に手を当てる。

 いくら馬鹿な私でも、幼馴染が何を言いたいのかなんてわかった。

 

「だからトキト。もうこんなこと、」

「大丈夫」

 

 私はぐいっとイルカのぬいぐるみをキサレアに押し当てる。丁度長い口がキサレアの口元にぶつかり、むぐ、と彼女は言葉を詰まらせた。

 

「大丈夫。私、自信があるもん」

 

 ――諦めろなんて言わせない。私はすごい馬鹿だから、言う事をきかないことが出来る、すごい女だ。

 勿論、キサレアみたいに理論だった作戦なんてものはないけど、でも『なんとかできる』っていう自信はあるよ。

 

「キサレア」

 

 だから私は笑う。今日の出来事を噛み締めて、キサレアに笑顔を浮かべられる。そうとも。私は強い女である。

 

「今日、すっごく楽しかった。キサレアと久々に遊べてよかった」

「そう。なら、あなたに付き合った意味はあったのね」

 

 キサレアは賢い女だから、私の笑顔に圧されて目をそらした。へっ、勝ったな。

 家に帰って、二人分の料理を作って、お風呂から上がる頃には私は5秒に一回瞼が落ちそうになっていた。

 

「うあー。眠い……」

「あれだけはしゃいでいれば疲れて当然よ。ほら、今日はもう寝なさい。私はまだやる事が沢山あるから、先にベッドで寝ていて頂戴」

「むぐ……本当は一緒に寝たいんだけど、仕方ないな……」

 

 今日はこの辺にしといてやる……。

 私はうつらうつらしながら研究室を出て、キサレアの部屋に移動。シングルサイズのベッドに飛び込む。いつも客室のベッドを使えって言われてるけど、こういう時くらいいいはずだ。

 いい匂いがする布団に包まれながら私はイルカのぬいぐるみと共に目を閉じる。

 

「へへへ」

 

 私はめいっぱい、だけど縫製がほつれないよう加減して、キサレアに買ってもらったぬいぐるみを抱きしめる。売店で売り出されてから私の両腕に抱きしめられるまできっと時間が経っているのだろう。イルカのぬいぐるみは、プールの匂いと、お日様の匂いが混ざってる。

 うん。

 今日はとっても良い日だった。

 だから明日も良い一日になるに違いない。

 

「明日は何しようかな……何して遊ぼう……」

 

 あれ。

 ていうかそもそも、何で水族館行ったんだっけ……?

 …………。

 ………………。

 ………………――、

 

「あっ、キサレアの感情取り戻せてないじゃん!?」

 

 

 

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