【急募】「感情がないんだ」とか言い出した腐れ縁の魔女をキレさせる方法【私の幼馴染をなんとかする!】 作:てりのとりやき
<2412/3/15>
トキトが、誕生日プレゼントだって言って、こんなものを押し付けてきた。
私が日記なんて書くタイプに見えるみたい。相変わらず、ちょっとぬけてて、かわいい。
この日記帳は365ページもあって、つまり1年分の時間を記録できる。
まあたぶん私はすっごく不真面目だから、きっと最後のページまで書くことはないとおもう。
けど、だからって、せっかくの誕生日プレゼントをほったらかしにしてたらトキト泣いちゃうと思うので、ひとつ自分にルールを与えます。
最後のページまで書けたら、そこにトキトに伝えたいことを書くこと。
トキトがこっそり読んだりするかもしれない。
うん、それがいい。
<2414/3/15>
飛び級で入学した大学が思いのほか忙しくて、この日記帳を開くのも随分久しぶりな気がする。
結局一年で1冊の本にすることは出来なかったけれど、最初の1ページ目に決めたことは忘れていない。
それにトキトは相変わらず馬鹿だから、私がトキトの分までお金稼がないといけないし。
そういうわけで、今日からまた日記を少しづつ付けていこうと思います。
<2415/11/4>
世界は154億あるのだと、全世界の人々は神から謝罪された。
そうして魔法が使えなくなって、今更のように日記帳を開いている。
昔。トキトから日記帳をプレゼントされた年の出来事を、私はずいぶん赤裸々に綴っていたものだと笑ってしまった。
読めば読むほど懐かしくて笑ってしまう。トキトと過ごす日々は、刺激的で、はちゃめちゃで、でも(ここから先の文字は何か液体で滲んでいてよく読めない)
<2416/3/5>
同じく科学者である父に、共同研究の相談をした。似たような分野の研究をしていた親子だから、二人でやれば心強いという私の考えを父は大いに歓迎してくれた。
……大丈夫。
お父さんと二人なら、きっと以前みたいな魔法のある世界を取り戻せる。
神などいなくとも、私にはトキトがいる。
今日から世界を救う研究を始めるのだ。
<2416/4/28>
魔法に頼り切っていた私たちが、電気を基幹インフラとする古代科学を完全に復活させるまで、あと何年かかるのだろう。廃れて久しい技術体系の復興……。私のような研究者が求める超高度計算処理機構……スーパーコンピューターと呼ばれていた代物を使用できるまでに何年かかる?
試算などしなくても直感で分かる。
きっと、私が死ぬまでに、そんなものは復活しない。
私が154億の魔法法則全てを理解し、把握し、それら全てが及ぼす影響を脳内で描ききるしかない。
<2416/12/11>
父が自殺した。
<2416/12/23>
私が塞ぎこんでいる間も、トキトは私のために色んなことをしてくれた。
その事実を何度も、何度でも、書き記すべきだとようやく決心できた。
そうだ。くよくよなんか、していられない。
すべき研究も分かっている。時間はとっくの昔に有限だ。
今日から、実験を再開しよう。
<2418/8/23>
研究が手詰まりになって二年弱が経過した。
久々に日記帳を開いて、かつての私がどれだけ感情豊かだったか愕然とする。
……確実に擦り切れている。心が、常に散り散りになりそうで仕方がない。
とうてい無理な話なのだ。154億通りの法則を全て頭に叩き込み、その上で基礎魔法理論のモデル化を行うなんて。
<2418/8/31>
なぜか今日はトキトの夏休みの宿題を手伝わされた。研究はまったく進展していないのに。私は、どうにもこの子には甘い。
そういえばこの子、もう中学生なんだっけ。授業が難しくてサボりたいっていっつも不満たらたらだけど、毎日楽しそうでよかった。
「明日の始業式が終わったら海行こう」なんて鼻息荒くしてたけど、夜なべして宿題やって、ぐっすり眠ってる翌日に海水浴行く元気、あるのかしら。
でも、トキトの寝顔を久々に見れたのは、素直に嬉しい。よく家に来るけど、トキトの寝顔をじっくり見る暇なんて無い2年間だったから。
少し元気が出てきた。今なら別の視点で研究を進められそうな気がする。
<2419/10/1>
駄目だ。
一年近く考えても安定した魔法理論が完成しない。
一度完璧だと思った魔法理論はしかし、再考してみれば必ず別の魔法法則の干渉可能性を思いつく。それを何度も繰り返しているうちに当初求めていた魔法の発動結果は『発動点にブラックホールを生成する』だとか『小雨を降らせる』だとか『25億年後の未来を見る』だとか全く予測できないものになる。
こうまで科学が、人の知恵の累積が無駄になった時代もないだろう。全ての研鑽は塵に等しくなった。かつての偉人全員は歴史に名を残すべきではなくなった。
神がもたらした154億の魔法法則性全ての混濁。
許せるものではない。
私は、神を憎む。けれどそれ以上にトキトと平和に暮らせる世界が欲しい。
<2420/1/13>
元々私の専攻は、感情の形状化。魔法による心理測定から派生した応用科学だった。
私にはどうしても知りたい感情があった。確かめたい心の機能があった。それは私にはあるかもしれないもので、トキトがひょっとしたら私に向けてくれているかもしれないものだから。
私やトキトの暮らす世界……ヲ・ア羅系世界第一位『絶滅』が持つ魔法法則は『固定された魔力総量と肉体を喪失した精神の魔力化』。
果たせるはずだった。私の頭脳があれば、法則がただ一つだけなら、多少の時間はかかるが卒論を書き上げるまでには完成する研究課題でしかなかった。
なのに、世界は不安定な魔法法則に変わってしまった。私の求めた感情の形状化は遠すぎる夢になった。
……泣き言を書いても始まらない。
とにかく今の私がすべきは154億すべての魔法法則を理解することだ。時間はいくらあっても足りない。
<2420/2/21>
血反吐を何度か吐き出してようやく、私は稚拙な魔法モデルを作り上げられた。
それでも私が感じているのは漠然とした不安。稚拙な、という表現も落ち着かない胸の震えからくるものだ。
父が、魔法理論の体系化を諦め自殺した理由がようやくわかった。
それは自身の無力さへの嫌悪だったのだ。
自己嫌悪とそれに次ぐだけの自己否定だ。
今なら父の気持ちが分かる。
自殺したくてしたくてたまらない。もし、この魔法モデルが間違いなら? 私はもしかしたら、トキトを殺してしまうかもしれない。トキトが生きる世界を壊してしまうかもしれない。
恐怖に際限はなく、この世は地獄だ。
どこにも救いなんてない。
けどトキトが傍にいてくれる。考えろ。154億の魔法法則をもう一度検証しろ。
そうだ、ア系世界群は魔力原子系列を最終的に直列に配置する法則群だった。なら、思念が物質化するギ系世界群の魔法法則の干渉は……(ここからは難しすぎて理解できない)。
<2420/3/15>
もはや神ですら一つの魔法が何を起こすのか理解できないだろう。
けれど、だからこそ、『もしかしたら』に私は賭けたい。
……トキトの顔ばかり最近は思い浮かぶ。5歳も歳の離れた彼女は、気付けばとっても素敵な女性になっていた。なのに、トキトは昔と変わらない。すぐべたべたしてくるし、いっつも笑っている。
決めた。
三日後、世界を救おう。
<2420/3/16>
手が震えて仕方がない。
本当に私の仮説は正しいのか? 私は、間違えたのか?
この道の先に何があるのだろう。
せめて、あの子の隣にいられる世界なら、それでいい。
過去を顧みる時間はおしまい。
これで終わりにする。
<2420/3/17>
日記帳も随分ページが埋まってしまった。
次の、最後の1ページには何を書こう。
<2420/3/18>
私は日記なんてものを習慣的に付けるのも苦手だから、何年経っても一冊の日記帳だって完成しないだろうなと思っていた。
そう考えていたから、最初の1ページ目に書いたことを何度も何度も読み返した。
何度も、何度も、自分の決意を忘れたくなくて。
だから最初に決めた通り、この最後の1ページにはあなたへの想いを綴ることにします。
現実の私は、きっとあなたに何一つ伝えられないに決まっているから。
トキト・ハルゥ。
私は、
あなたを、
私は実験に失敗して、無様にも感情を失った。
だから、最後の一言だけは、消しておく。