【急募】「感情がないんだ」とか言い出した腐れ縁の魔女をキレさせる方法【私の幼馴染をなんとかする!】 作:てりのとりやき
うん。
決めた。
「キサレア! ちっす!」
「……ん。今日も来たの?」
「もちのろんろん」
キサレアみたいに頭も良くないから、世界を変えるとか、そういうのは誰かに任せたい。
戦争もそう。
異世界がどうとかなんて、どうだっていい。
「今日も研究頑張ってる?」
「ええ」
「えらい!」
「……頭を撫でるのは邪魔だからやめてほしいのだけど」
「まあまあ」
きっと私とキサレアが住むこの世界も、今は平和だけどいつか滅ぶのかもしれない。私もお母さんもパパもキサレアも日常を生きるので精一杯で、精一杯なまま、死ぬのかも。
目を閉じて、
夜が更けて、
また朝が来る。
そんな当たり前は今日で滅ぶのかも。そうなったら嫌だなって思う。もっとお母さんのメチャウマ料理を食べたいし、パパのお土産がもっと欲しいし、キサレアのために色んなことがしたい。
考えれば考えるほど、『明日の世界』はとっても、怖い。
「キサレア」
「なに?」
世界を救うすごい人にはなれないし、私の活動範囲なんて自転車で行ける場所が限界だ。
だから私の決意は、とてもちっぽけなもの。
「私、決めたんだ」
キサレアみたいなすごい人じゃない。
お母さんみたいに優しい大人じゃない。
パパみたいにお偉いさんってわけでもない。
ヤハクみたいに素敵な歌は作れない。
でも、うん、それでいいじゃないか。
そうだ。
私はとても、すごい、馬鹿なのだ。
――だから私は諦めない。
私には魔法理論のりの字もわからない。
――だから私は諦めない。
私にはキサレアの救い方なんてわからないけど、
それでも何もしない事だけは無価値だって知ってる。
――だから私は諦めない。
だから。ねえ、聞いてよ。
「キサレアの怒った顔がまた見たいな」
あなたのために沢山のことをしよう。
あなたのどんな所がどれだけ好きか歌い続けよう。
あなたの嫌がることを、たまに、たまーに、しよう。
あなたが喜んでくれたことを、あなたがびっくりするくらい繰り返そう。
何度も何度も何度も、何度だって。
「壊れた心は取り戻せないのよ」
「もう一度作ることは出来るよ」
「そんな魔法はどこにもないわ」
「奇跡はあるんだよ、キサレア」
「あなたを一生好きになれない」
「そんなの全然気にしてないよ」
「あなたに何を求めればいいの」
「キサレアにないもの全部かな」
「トキトはいつも私を悩ませる」
「なら、私のことだけ考えてて」
「私はトキトと、生きていいの」
「うん。ずっと一緒でいたいな」
「そんな資格があると思えない」
「理由がいるなら、私が作るよ」
「私はトキトをいつか必ず殺す」
「いいよ。怖くない。平気だし」
「何故? どうして怖くないの」
「キサレアと居られるからだよ」
「私と居ても幸福は生まれない」
「二人で不幸を分かち合えるね」
「それは何よりも虚ろなことよ」
「共有できる幸せがあるんだよ」
「あなたに幸せになってほしい」
「私は一緒に幸せになりたいな」
「トキトには沢山の未来がある」
「キサレアと一緒の未来でいい」
「過去の私にはもう戻れないわ」
「私はどんなキサレアも大好き」
「トキトに何一つ想う事が無い」
「きにしてないよ! 私は平気」
「理解できない。私には難しい」
「何が? 何が分からないの?」
「トキトは何故そんなに強いの」
「なんだそんな簡単なことかー」
キサレアがじっと黙って続きを促す。私はえっへんと胸を張る。
「だってね」
私はあなたのことを愛しているから。
「だって、私はすごいから!」
魔法なんかなくたって、きっとキサレアには無いものを持ってる私が、変えられる。私はそう信じてる。
大丈夫!
わかるよ!
これが「馬鹿」って事なんでしょ? 私はきっと大馬鹿者で、だから私の無謀さが出来ることなんてたかが知れてるよ。
でも、キサレアを笑顔にすることは全然難しくない。
それにあなたを怒らせるのはもっと簡単だって知ってる。
「………………」
そうしてあなたが、昔みたいに呆れてくれたら嬉しい。
「トキトは馬鹿ね」
って、その言葉にちょっぴり怒りが籠もってるなら。
私は自分が馬鹿でよかったって本気で思う。
胸を張って笑顔になれるよ。今は、あなたの分まで。
◇
この獄歴5年の地獄に決めた私の願いは世界を救わない。
◇
――薄いお肉はおいしい。毎日食べるごはんだ。たまにしか会えないパパと、優しくて料理が上手なお母さんがいるよ。水族館は人がいなかった。でも学校には友達もいる。毎日眺めるイルカのぬいぐるみが私を元気にする。
私にはとっても素敵な歌を作る友達がいて、大好きなお母さんとパパがいて、とっても大好きな幼馴染がいる。
みんな大好き。
だから怖くない。
埃っぽい地下室で毎日見つめる、あなたの背中がいつも私を嬉しい気持ちでいっぱいにしてくれた。あなたの息遣いが心地よいからここにいる。あなたの声が聞きたいから傍にいたい。あなたの髪に触りたくて研究の邪魔をするかも。
あなたの瞳に映る笑顔がいつかあなたに届けばいい。
あなたの呟く「愛していた」。
あなたに歌う「いつまでも」。
私の世界はそれだけで十分。
今日終わるかもしれないこの世界。
私はあなたとの今日を選び続ける。
戦争で、
異世界で、
それでいい。
地獄で、文句ない。