【急募】「感情がないんだ」とか言い出した腐れ縁の魔女をキレさせる方法【私の幼馴染をなんとかする!】   作:てりのとりやき

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獄暦9年。ヲ・ア羅系世界第一位『絶滅』にて、一人の魔女が愛する者のために基礎魔法モデルを完成させ、71億9011万52の残存世界は技術革新を迎える。地獄の季節は訪れた。

 うん。

 決めた。

 

「キサレア! ちっす!」

「……ん。今日も来たの?」

「もちのろんろん」

 

 キサレアみたいに頭も良くないから、世界を変えるとか、そういうのは誰かに任せたい。

 戦争もそう。

 異世界がどうとかなんて、どうだっていい。

 

「今日も研究頑張ってる?」

「ええ」

「えらい!」

「……頭を撫でるのは邪魔だからやめてほしいのだけど」

「まあまあ」

 

 きっと私とキサレアが住むこの世界も、今は平和だけどいつか滅ぶのかもしれない。私もお母さんもパパもキサレアも日常を生きるので精一杯で、精一杯なまま、死ぬのかも。

 目を閉じて、

 夜が更けて、

 また朝が来る。

 そんな当たり前は今日で滅ぶのかも。そうなったら嫌だなって思う。もっとお母さんのメチャウマ料理を食べたいし、パパのお土産がもっと欲しいし、キサレアのために色んなことがしたい。

 考えれば考えるほど、『明日の世界』はとっても、怖い。

 

「キサレア」

「なに?」

 

 世界を救うすごい人にはなれないし、私の活動範囲なんて自転車で行ける場所が限界だ。

 だから私の決意は、とてもちっぽけなもの。

 

「私、決めたんだ」

 

 キサレアみたいなすごい人じゃない。

 お母さんみたいに優しい大人じゃない。

 パパみたいにお偉いさんってわけでもない。

 ヤハクみたいに素敵な歌は作れない。

 でも、うん、それでいいじゃないか。

 そうだ。

 

 

 

 私はとても、すごい、馬鹿なのだ。

 ――だから私は諦めない。

 私には魔法理論のりの字もわからない。

 ――だから私は諦めない。

 私にはキサレアの救い方なんてわからないけど、

 それでも何もしない事だけは無価値だって知ってる。

 ――だから私は諦めない。

 

 

 

 だから。ねえ、聞いてよ。

 

「キサレアの怒った顔がまた見たいな」

 

 あなたのために沢山のことをしよう。

 あなたのどんな所がどれだけ好きか歌い続けよう。

 あなたの嫌がることを、たまに、たまーに、しよう。

 あなたが喜んでくれたことを、あなたがびっくりするくらい繰り返そう。

 何度も何度も何度も、何度だって。

 

「壊れた心は取り戻せないのよ」

「もう一度作ることは出来るよ」

「そんな魔法はどこにもないわ」

「奇跡はあるんだよ、キサレア」

「あなたを一生好きになれない」

「そんなの全然気にしてないよ」

「あなたに何を求めればいいの」

「キサレアにないもの全部かな」

「トキトはいつも私を悩ませる」

「なら、私のことだけ考えてて」

「私はトキトと、生きていいの」

「うん。ずっと一緒でいたいな」

「そんな資格があると思えない」

「理由がいるなら、私が作るよ」

「私はトキトをいつか必ず殺す」

「いいよ。怖くない。平気だし」

「何故? どうして怖くないの」

「キサレアと居られるからだよ」

「私と居ても幸福は生まれない」

「二人で不幸を分かち合えるね」

「それは何よりも虚ろなことよ」

「共有できる幸せがあるんだよ」

「あなたに幸せになってほしい」

「私は一緒に幸せになりたいな」

「トキトには沢山の未来がある」

「キサレアと一緒の未来でいい」

「過去の私にはもう戻れないわ」

「私はどんなキサレアも大好き」

「トキトに何一つ想う事が無い」

「きにしてないよ! 私は平気」

「理解できない。私には難しい」

「何が? 何が分からないの?」

「トキトは何故そんなに強いの」

「なんだそんな簡単なことかー」

 

 キサレアがじっと黙って続きを促す。私はえっへんと胸を張る。

 

「だってね」

 

 私はあなたのことを愛しているから。

 

「だって、私はすごいから!」

 

 魔法なんかなくたって、きっとキサレアには無いものを持ってる私が、変えられる。私はそう信じてる。

 大丈夫!

 わかるよ!

 これが「馬鹿」って事なんでしょ? 私はきっと大馬鹿者で、だから私の無謀さが出来ることなんてたかが知れてるよ。

 でも、キサレアを笑顔にすることは全然難しくない。

 それにあなたを怒らせるのはもっと簡単だって知ってる。

 

「………………」

 

 そうしてあなたが、昔みたいに呆れてくれたら嬉しい。

 

「トキトは馬鹿ね」

 

 って、その言葉にちょっぴり怒りが籠もってるなら。

 私は自分が馬鹿でよかったって本気で思う。

 胸を張って笑顔になれるよ。今は、あなたの分まで。

 

 

 ◇

 

 

 この獄歴5年の地獄に決めた私の願いは世界を救わない。

 

 

 ◇

 

 

 ――薄いお肉はおいしい。毎日食べるごはんだ。たまにしか会えないパパと、優しくて料理が上手なお母さんがいるよ。水族館は人がいなかった。でも学校には友達もいる。毎日眺めるイルカのぬいぐるみが私を元気にする。

 私にはとっても素敵な歌を作る友達がいて、大好きなお母さんとパパがいて、とっても大好きな幼馴染がいる。

 みんな大好き。

 だから怖くない。

 埃っぽい地下室で毎日見つめる、あなたの背中がいつも私を嬉しい気持ちでいっぱいにしてくれた。あなたの息遣いが心地よいからここにいる。あなたの声が聞きたいから傍にいたい。あなたの髪に触りたくて研究の邪魔をするかも。

 あなたの瞳に映る笑顔がいつかあなたに届けばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 あなたの呟く「愛していた」。

 あなたに歌う「いつまでも」。

 私の世界はそれだけで十分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日終わるかもしれないこの世界。

 私はあなたとの今日を選び続ける。

 戦争で、

 異世界で、

 それでいい。

 地獄で、文句ない。

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