休日の先生が皆と交流を深めるのも兼ねてキヴォトスを散歩する物語

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皆さん初めましてFANGです

ブルアカの創作ネタを思い付いて、せっかくなので久々に小説として形にしてみようと思い執筆しました。

前々からハーメルンで色々な方の作品を読ませて頂いていたのですが、自分も投稿してみようと思い、pixivに投稿していた作品をこちらにも投稿させて頂きました

小説執筆が一年ぶりとかなり久々で色々至らない所も多いかと思いますが、少しでも楽しんで読んでもらえたら嬉しいです


先生の一日キヴォトスお散歩録

太陽が輝き空には雲一つ無いまさに青天

 

そんな気持ちの良い朝に、ここシャーレのオフィスで先生はソファに座りコーヒーを静かに飲んでいる

 

目を時計に向けると時刻は9時を示していた、普段なら書類と格闘しつつ当番の生徒もいる日なら雑談して業務をしているはずなのだが、今日に限ってはその気配が全くない。

それ故かオフィスはとても静かで外の生活音の方が賑やかなほどだ

 

何故このような状態になっているかというと…

 

「今日は休みか~」

 

何てことは無い、本日は業務が休みの日だからのんびりしているのだ

 

多忙で知られる先生がのんびりと、しかも朝から休んでいられるのはとても珍しい

 

その理由については少し遡る事になる

 

先生が過労で倒れるのは稀に良くある事だったのだが、ある時オフィスで一人の時に倒れてしまい運悪く何処かにぶつかったのか切り傷も出来た状態で気絶してしまった

 

幸いたまたま用事でシャーレに訪れたミレニアムのユウカとノアの二人に直ぐに見つけてもらえたのだが、休んだ方が良いと心配してくれる二人に感謝つつも傷の手当も簡易的に済ませすぐに業務に戻ろうとしたところ

 

今まで心配してくれていた事も重なってかついに二人の堪忍袋が切れてしまった

 

「いつも皆の事ばかり気にして!どうして自分の事も大事にしてくれないんですか!」

 

「もしかしたらもっと酷い怪我をして手遅れになっていたかもしれないんですよ!!」

 

それはもう盛大に説教されてしまい、もう無茶な働き方はしないと誓いを立てたほどだ

 

(あの時の二人は凄い気迫だったなぁ。いやまぁ心配してくれているからこそなんだろうけどさ)

 

現状を変えねばと思った二人はミレニアムだけでなく他校の生徒達も巻き込んだ大規模な【シャーレ業務改革】を始めたのだ

 

元々他校でも先生の体を心配する声は多かったからか改革はとてつもないスピードで進み

書類の仕分け方の再調整、細かい所の規格の統一化などetc..

 

その結果、緊急事態などの例外はあるものの睡眠時間と定期的な休みを確保できる現状が出来上がったという訳である

 

(実際体の調子も良いから業務も捗るし、生徒の皆と過ごす時間も増えたんだよな。皆には感謝しないと)

 

「休みとはいえ何しようか」

 

休みともなれば生徒の誰かと出掛けたり、自分の趣味などに時間を費やしたりする時もある。

惰眠を貪った後にゲーム・プラモ・読書に映画鑑賞とインドアな趣味が多いため一歩も外に出ない休日もざらであった

 

「誰かと予定も無いからいつも通り籠っても良いが、なんか気乗りしないんだよな~……」

 

適当に視線を動かすがどうにもデスクの方に目がいってしまう、このままでは椅子に座って書類に手が伸びそうな予感。

 

自分がワーカーホリック気味なのは理解しているがこれは流石に我慢せねば

 

「いやいやダメだ、休日に仕事はしないと約束しただろ…うーん……あ、そうだ!」

 

外に出て尚且つ時間をとても有意義に使える案が思い浮かんだ

 

「せっかく天気が良いんだから散歩も兼ねて色んな学校の地区にでも行くか、適度な運動にもなるし皆とも交流出来て良いかもしれない」

 

立ち上がりいつも着ている連邦生徒会のコートとシャーレの腕章を着けるとすぐにオフィスビルの外へ繰り出してゆく

 

「まずは手始めにミレニアムの方にでも行ってみますかねぇ、その後は気の向くままに決めるとしよう」

 

降り注ぐ太陽の光を浴びどこか清々しい気持ちになりつつも、休日くらいは平穏無事でありたいと祈りながら

最初の目的地ミレニアムに向けて歩いていく先生であった

 

 

【コユキの一騒動】

のんびり歩き電車に揺られモノレールにゆったりと乗り、ミレニアム・サイエンススクールに無事到着

 

「先生こんにちは」

「あ、先生だ!こんにちは!」

 

「はい、こんにちは。見たところ研究の最中かな?頑張ってね」

 

「「ありがとうございます!」」

 

手に研究資料を持った生徒達に挨拶をしたりしつつ、今はミレニアムタワーを散歩している先生

 

「いつもと違って時間に追われずゆったり乗るモノレールとかも良いもんだったな、やはり現代人にはせかせかと急いだ日常から解放される時間を作るのが大事なのかもしれない」

 

色々あった+生徒達の頑張りのお陰で得られたこの休日に感謝しつつ

穏やかに歩いていたのだが…

 

「せ~ん~せ~い~~~~~!!!」ドドドドドドッ!

 

今まさに感謝していた平穏な時間を破壊する足音が後方から叫び声と共に迫ってきたのである

比較的治安の良いミレニアムといえどここはキヴォトスでありそして私はシャーレの先生、騒ぎに巻き込まれるのは慣れたもの

 

「この声は…」

 

振り返って見るとピンクの髪をツインテールにした生徒がこちらに突っ込んできたので、しっかりと足で踏ん張り抱き止める事に成功

 

「先生!助けてください~!」ガシィ!

 

「ぐふぅっ!…やぁコユキ、次からはもう少し手加減……してほしいな」

 

「そんな事は今は気にしないでください!こっちは緊急事態なんですよ!」

 

猛スピードで突っ込んできた生徒、黒崎コユキが鬼気迫る表情で抗議してきた

 

「そんな事って…危うく朝飲んだコーヒーをコユキの頭上にブチ撒けるとこだったよこっちは」

 

キヴォトス人のパワーを受けても耐えきった胃袋には感謝するとしよう

 

「コユキ、今度は何やらかしたの?」

 

「私が悪いの前提ですか!?まぁ遺憾ながらその通りなんですが」

 

「本当にそうなのか、冗談半分で言ったんだけど…」

 

ミレニアムの中でとても優秀でありながらトラブルメーカーとしての大きな側面を持つコユキ

そのコユキが助けを求めてくるとなれば恐らくではあるが、誰かさんを相当怒らせてしまったらしいのは予想がつく

 

「何が原因?」

 

「実は…ちょ~とイタズラしたのがバレてユウカ先輩に怒られてる時にですね?」

 

「うん、もう原因言ってる気がするけど…まぁ続けて」

 

「ユウカ先輩に『何回も怒られてるのに懲りずにまたイタズラして!その図太さには一周回って感心するわ!』って言われたんですよ」

 

実際何回も反省部屋送りになっている事を考えるとユウカの心労を察してしまう、小言の一つも言いたくなるだろう

 

「それで思わず『にははは、先輩の太ももの太さには負けますよ!』って言ったらもう鬼のような表情になってしまって、思わず逃げてきた所存ですぅ…」

 

「コユキはなんで地雷原でタップダンスするのさ……それ言ったら怒るのは当然だって」

 

「だってお小言連発のお説教ですよ!?ちょっとくらい言い返しても良いじゃないですか!」

 

「そこで言い返すとさらに怒られると思うんですがね~」

 

話を聞く限りコユキが原因なのは明白、だが先生である以上生徒に助けを求められてそれを無視するのは後味が悪い

 

なので、ここは一つユウカとコユキの間に入ってあげてユウカの怒りを宥めつつも穏便に済ませられないか説得でもしてみようと考えた

 

「お願いします先生!どうか助けてください、今捕まったらきっと…」

 

「きっと?」

 

「頭にトリプルたんこぶアイスクリームをくらってしまう事に~」

 

「ああ普段はダブルたんこぶだもんね。今日は一個サービス?店員さん優しいね」

 

「冗談言ってる場合じゃないですよ先生!ね?一日か二日、いや一週間ほどシャーレで匿ってもらえませんか!」

 

余程ブチ切れたユウカが怖かったのであろう、涙目で匿えて懇願してくるコユキ。

私に抱き着いている腕にも力が入っているのか内臓が圧迫され骨が軋むような音が聞こえてきそうだ

 

「痛い痛い痛いコユキちょっと力ゆるめてくれない、このままだと今度はマジでコーヒーが口から出るって」

 

だが匿ったところで結局後で怒られる気がするし、なんなら私自身もユウカに何か言われるだろう

 

「う~ん、気持ちは分かるけど流石にシャーレに泊まらせてまで匿うのはちょっとねぇ」

 

「そこを何とか!匿って頂けたら書類仕事だけでなくハッキング、なにからなにまで何でもしますから!この通り!」

 

うんと言うまで動かないとばかりにがっちり抱きしめられどうにも身動きが出来ない

なんとかコユキを説得せねばと思っていた矢先…

 

目の前に誰かの手が伸びてきてガッシリとコユキの肩を掴むのが見えた

それはもう絶対離さないと言わんばかりの力強さで

 

「あ」

 

「あぁ……(絶望)」

 

「…」ガシッ

 

抱き着かれたままなのでずっと目線を下げて会話をしていたから気付かなかったが、コユキの背後にはいつの間にかユウカが立っておりほんの一瞬だけこの場の時間が止まった気がした

 

(ユウカ真顔なんだけど…)

 

肩を掴まれているコユキはもう涙が決壊寸前である

 

「コユキ、後ろに…」

 

「先生お騒がせしました!それでは良い休日を、にはははは!失礼しま~す」

 

抱き着いていた腕をパッと離し、満面の笑みで挨拶を述べこの場から去ろうとするが

コユキの体は一切進まずまるでその場で足踏みをしているかのような光景になっている

 

「あれ~おかしいですね~…体が前に……全然、すすまないぃ…」

 

「 コ ユ キ 」

 

「ひっ!」

 

今まで無言だったユウカが遂に口を開いた。

名前を呼ぶ声はとてもドスの効いた重々しい声であり、この場をなんとかして去ろうとするコユキの動きは恐怖からかピタッと止まってしまう。

蛇に睨まれた蛙とはまさにこの状況を言うのだろう

 

「やっと捕まえた。イタズラはするわ、太ももを太いと言った挙句説教から逃げて先生に抱き着くなんて、羨ま…とにかくこのまま戻って説教再開するわよ」

 

「嫌だぁ!絶っ対に説教だけじゃ済まないですよこれ!間違いなくトリプルたんこぶに…」

 

「はぁ…コユキ。安心しなさいトリプルたんこぶなんてしないわよ」

 

どうやらユウカにも慈悲の心が残っていたようだ。

この様子なら説教は長くても、たんこぶはいつも通りダブルで済むのではないだろうか

一安心して二人の様子を見守っている事にしよう

 

「本当ですか?後でやっぱり気が変わったとか無しですよ!?」

 

「大丈夫よ、だって…トリプルじゃなくてクアドラプルだもの」

 

前言撤回、慈悲が欠片も無い

 

(クアドラプルたんこぶってなんだ…4発も食らったらコユキの頭壊れちゃうよ)

 

「それじゃあ先生、私たちはこれで失礼します♪休日なんですから仕事はしないでしっかりリフレッシュしてくださいね」ニッコリ

 

「う、うん…ありがとうユウカ。まぁコユキに関してはほどほどにしてあげてね?」

 

こちらに会釈をしコユキを引きずりながら去っていくユウカの姿を見えなくなるまで見送る

 

<たんこぶはご勘弁を!

<じゃあその代わりにノアも加えた説教にするわ

<うあぁああああーなんでー!少なくとも太いというのは嘘偽りの無い事実を述べただけで!

ゴン!

<痛ったぁ!!

 

「今日もキヴォトスは平常運転だな~!」

 

遠ざかる悲鳴を聞きつつコユキが説教を無事乗り越えられる事を心の中で祈り

先生は散歩を再開するために次の目的地へと歩き始めるのであった

 

「次はゲヘナの方にでも行ってみようか」

 

 

【昼過ぎ、ゲヘナ学園周辺】

 

ミレニアムから再び電車に揺られ昼過ぎにはゲヘナ学園近くに到着しのんびり散歩を再開した先生

 

離れた所で銃声やら爆発音やら色々危ない音がチラホラ聞こえてくる。

だがこれはゲヘナの日常なので今では特に気にしないというか慣れてしまった。

生活音の一部だとでも思って割り切らねばならない、毎回気にしてたら胃薬が何個あっても足りないだろう

 

「ゲヘナに来たけどあんまり皆には会わないな~…ちょっとだけ寂しい気もする」

 

アル達便利屋はゲヘナから離れた所に事務所を構えてるし、美食研究会も食を求め転々とし

給食部のフウカも仕込みとか色々しているだろか。

そして風紀委員会の面々は治安の悪さからくる騒動に対応し、委員長のヒナは現場に書類にと激務の日々だ。

 

つまり連絡しない限り出歩いても会える生徒が少ないのだ

 

(私だけじゃなくてヒナにももっと休んでもらいたいんだがなぁ、今度アコに相談でもしてみるか。何かしら理由でも付けないとヒナは休んでくれないだろうし多少絡め手を使うのはやむを得まい)

 

そんな事を考えつつ歩いていると地面の僅かな揺れと共に正面から一台の戦車がゆっくり車道をこちらに進んできている

 

「ん?あの戦車って確か万魔殿の…」

 

重厚なボディにグレーの塗装を施し主砲の8.8cm砲には【巡回中】の木札が吊り下げられており、その見る者を威圧する重戦車はあのゲヘナの生徒会組織【万魔殿】の戦車団が所有している物である。

 

先生自身こういう戦車などの車両は個人的に好きなので、見ているだけで心がくすぐられるというかワクワクしてしまう

 

「相変わらずカッコイイな、このゴツイ車体に主砲と砲塔の造形がたまらん」

 

垂直装甲が多かったり転輪の交換が面倒だったりなどの弱点もあるがそういう部分も含め良い所が多い傑作戦車だな、などと心の中で大いに盛り上がっている先生はこのまま通り過ぎていくであろう戦車を見つつ歩いていたのだが。

 

その戦車は通り過ぎず真横に来た辺りで停車したのだ

 

何か警戒されるような変な事をした覚えもないし、もしかして自分に用事でもあるのだろうかと立ち止まり戦車を見上げる。

砲塔のキューポラのハッチが開くと一人の生徒が身を乗り出してこちらに話かけてきた

 

「おや?先生じゃないですか…珍しくお一人ですか?」

 

万魔殿のコートと帽子を身に着けとてもボリューミーな赤い髪が特徴な生徒、棗イロハだった

 

「まぁね、のんびり散歩してた所さ。イロハの方は戦車長自ら巡回?」

 

「ええそうです、面倒くさいですが一応業務の一つなので」

 

「流石イロハだ、ちゃんとそこら辺はしっかりしてるね偉い」

 

面倒くさいが口癖のイロハだが自分の業務は終わらせてからサボるタイプなので当番の時も実は結構しっかりしている事が多い。たまに色々理由をつけ途中でサボる事もあるが

 

「ところで今日は休日でしたよね。少しお時間を頂いても良いです?」

 

「うん良いよ、なにか万魔殿の相談事かな」

 

「はぁ…休日の先生にそんな無粋な話なんかしませんよ、私だって極力仕事の話なんか面倒でしたくありませんし」

 

やれやれという表情で溜息を漏らすイロハ

だがすぐに悪だくみでも思いついたような笑みを浮かべた顔になる

 

「先生、これから一緒にサボってくれませんか?」

 

 

万魔殿の戦車を格納しておく沢山の車庫、そのうちの一つに先生とイロハは足を運んでいる。

その中の一角はイロハと一部の者しか知らない秘密の部屋となっておりイロハがサボる時に良く居るのだそうだ。

食料に本、ゲームなど快適にサボるための品々が多く揃えられておりここで一日過ごすことも出来るだろう

 

(良く考えればこんな秘密の場所を教えてもらえるという事は、イロハも少しは私に気を許してくれているかな?だとしたら嬉しい事だ)

 

贔屓するわけでは無いが個人的にイロハは感性というかウマがとても合う生徒だ。

具体的にと問われれば言葉にするのは難しいが、一緒に過ごしてて心地が良いし気持ちが楽になる

なので最近では先生もここに自分用の座椅子や本を持ち込んだりしてこの時間を有意義に過ごしたりしている

 

もっとも、そんな事を言えばイロハにからかわれてしまうのが目に見えているが

 

 

「どうぞ先生、適当にくつろいでください。飲み物はいつも通りセルフです」

 

「お言葉に甘えてお邪魔させてもらうよ」

 

ここでの定位置である座椅子に座り、以前途中まで読んでいた小説を取り出し読書を再開する。

イロハの方を横目でチラッとみてみると彼女もいつものように靴下を脱ぎ、完全にリラックスモードで分厚い本に目を向けていた

 

「……」ペラ

 

「……」ペラ

 

お互い喋らず本のページを捲る乾いた音だけが鳴り、車庫の中というのもあってか外部の音も小さく聞こえるのみで読書を邪魔しない快適な空間が出来上がっていた

 

休日なので予定に追われず、肩の力を抜いて読書に没頭出来る

このまま夜まで居ても良いかもしれないなと思いながら本に集中していたが、小一時間ほどしてから心地の良い睡魔が訪れてきた

 

本の内容が徐々に頭に入ってこなくなり瞼もゆっくりと下がり始め

 

(眠いな…少し歩き疲れたしもうこのまま……寝て……)

 

本を持っていた手と瞼がゆっくりと下がり先生は意識を夢の世界へと飛ばしてしまっていた

 

 

 

「……あれ、先生?」

 

「……」zzz

 

自分も同じく読書に集中していたがふと先生を見てみるといつの間にか眠ってしまった様子

 

「先生、寝てしまったんですか?」

 

ゆっくりと先生に近付き小声で話しかけてみるが返答はなく

規則正しい呼吸音が聞こえてくるのみで完全に寝てしまっているよう

 

静寂な部屋に反して自分の鼓動が少しうるさくなっているのを感じる

 

先生を起こさないようとてもゆっくりと、されど感触を確かめるように手を先生の顔へそっと這わせてみると

 

自分とは違う肌の温もりや角ばった輪郭の感触が手にしっかりと伝わってくる。

ほんの僅かな触れ合いでも心の中が温かく満たされていくような感覚だ

 

(はぁ…誰にも気づかれない部屋の中で生徒と二人っきり、しかも無防備に寝るなんて警戒心が欠けているのではないですか?)

 

それだけ先生から心許されているのか、何もされないという謎の安心感があるのかそれは分からない。だがそのお陰で誰にも見られず無防備な先生を独占出来ているという優越感を今は堪能させてもらおう

 

「先生に会えるなんて今日は運が良かったのかもしれませんね、巡回してて良かったです」

 

面倒な事が起こらないよう願いながらのつまらない巡回だったが、歩道に先生を見かけた瞬間僅かに鼓動が早くなる。

知らされていた先生のスケジュールで今日は休日だと知ってはいたが、まさかゲヘナで会えるとは。直ぐに先生の付近で停車し平静を装いいつものテンションで話しかけてサボりに誘ってみた

 

休日の先生ならばきっとこの誘いを受けてくれるのではという期待もあったが、まさか本当に来てくれるとは

 

「一緒にサボって会話が出来ればそれだけで満足だったのですが、この状況はあまりにも誘惑が強すぎますね抑えるのが大変ですよ」

 

知り合った最初の頃はマコト先輩からの命令を受けて先生に近づいた、ただそれだけ。

しかし先生と関わり続けていくうちにいつの間にか自分の意志で先生と関わるようになっていた

一緒に仕事をすれば満たされ、サボりと称してどこかに出掛けたりここに来きたりすれば癒される

 

どこから見ても自分らしくないと思うが、この心の奥に芽生えた面倒でもあり温かい想いは悪くないと思う

 

(こんな気持ちにさせられるなんて先生は本当に不思議で罪な悪い大人ですよ本当に…)

 

この想いをなんと呼ぶべきかそれは分かっている、私は先生に…

しかしそれは心の中で想うだけにしておく、例え独り言だとしても一度言葉にしてしまえばその想いを抑えられる気がしない

 

「今日のところはこれだけにしておきますよ先生…」

 

先生の顔に近づき自らの唇をほんの僅かにだが頬に触れさせる。

そして先生の膝を枕のようにしつつ寝転びそっと手を重ねて自分も寝る事にした

 

「これくらいならしても許されるでしょう、少しは意識してもらえれば良いんですがね」

 

先生から伝わる体の温もりに身を任せイロハも目を閉じて徐々に眠りに落ちていくのであった

 

~ ああ…本当に面倒ですね……この恋という感情は ~

 

 

「んん…ふぁあ寝たなぁ。今何時だろう、ってなんでイロハは私の膝で寝てるん?」

 

心地良い眠りから目を覚まし体を伸ばしつつ足から感じる温もりに目を向けると

イロハが体を丸め気持ちよさそうに寝ていた

 

スマホを見ると時刻は夕方のようだ、そろそろ起きた方が良さそうなのだが

 

「もう少しだけ寝かせてあげようか、可愛い寝顔を眺める貴重なチャンスだし」

 

「……ふふ//」

 

心地良く眠るイロハの髪を優しく撫でつつもう暫く椅子に背を預ける事に

 

 

 

【夜、シャーレにて】

 

あの後しばらくしてから起きたイロハに別れを告げるとサボりに付き合ってもらった礼や防犯も兼ねてシャーレまで戦車で送ると提案してくれたので、お言葉に甘えて夜のドライブも満喫させてもらえた。

 

道中雑談しながらのドライブだったのだが終始機嫌が良さそうだった。

別にイロハ自身普段機嫌が悪いとかそういうのではないが、どこか楽しそうというかいつもより笑顔が多いというかそんな感じで、理由は分からないがイロハにとっても今日のサボりが良いリフレッシュにでもなったのだろう

 

そんなこんなで平穏無事にシャーレに帰ってきたのだが業務は無いので当然暇である。

やる事といえば精々朝と同じようにコーヒーを飲むくらい

「このまま居て特に緊急連絡が無ければ帰ろうかな」

 

窓の傍に立ち町の夜景を眺めつつ、時計に目をやると日付が変わるまでまだまだ時間が随分余っている。

帰ったらゲームするか映画でも観て寝ようなどと考えつつ

 

「その前にトイレに行ってこよ、コーヒー飲み過ぎたわ」

 

足早に部屋を出て先生はトイレに向かってしまった

その背中を見つめる外からの視線には気付かずに…

 

 

トイレから戻ってきた先生はデスクの方で連絡の確認をし始める

 

「さーてスマホとPCの方に緊急連絡は来て…なさそうだな。じゃあ帰りますかね」

 

PCの電源を落とし窓のカーテンに近づいた時だった、窓に何かカードのような物が張り付けられているのを見つけた

 

「あれ?なんだこれ」

 

先ほど外を見ていた時には無かったはずだがと窓を開けて落とさないように物体を手に取ってみるとそれは見覚えのある物。

真っ白なカードにドミノマスクと猫耳のようなマークが施されている、七囚人の一人【慈愛の怪盗】からの予告状だ

 

「これってアキラの予告状だよな?」

 

慈愛の怪盗、彼女と出会った時の出来事はまだ記憶に新しい

 

先生やゲーム開発部、C&Cのトキが巻き込まれた闇オークションを巡る戦いで一時的に共闘もした仲だ。

 

そして全ての騒動が解決した時、どんな生徒だろうと手を差し伸べ導くと歩み寄る私を受け入れてくれて誰も知らない自身の名前【清澄アキラ】を教えてくれて去っていった

 

「でもこのシャーレに美術品なんてあったか?無い気がするけどなぁ」

 

もしかしたらこのビルの何処かにあるのかもしれないが、少なくともシャーレのフロアや先生の活動圏内にはそういった美術品の類は思い当たらない

 

「ま、頼りにならない自分の記憶なんかよりアキラの予告状を読んだ方が早いわな。と言ってもアキラの予告状って大分難解だったし私一人で解読出来るか不安だ…」

 

普段からヴァルキューレも翻弄され、あの時の皆でさえ頭を寄せ合って解読出来たような代物だ。

一人で解けるか分からない不安とアキラからの言葉を理解してあげたいという気持ち、そして謎解きゲームみたいだと微かにワクワクしている好奇心を胸に秘め、予告を読むためカードを裏返した

 

裏面には数行にかけて予告が書かれている

 

<夜空を貫く塔にて>

 

「これはこのビルの事で間違いないな」

 

<限りある光を放つ宝玉、その姿触れる事は叶わず目に映す事のみ許された空の舞台へ>

 

「光…宝玉、何の事を指してるんだろう…」

 

<広き大地に散らばる暗き星々を照らす至高の宝が合わさり……>

 

「うぐぅ、頭の中混乱してきた。星々を照らすってなんだ?」

 

<……………………>

 

「あれ?続きは」

 

先生が悩みながらも読み進めていた予告文は何故か途中で途切れてしまっていた

 

「ちょっと待って、このままじゃ全容が分からないんだけど……ん?」

 

カードの一番下の方に小さい文字で何かが書いてある

 

<…………今夜会いに行っても良いですか? 慈愛の怪盗より>

 

「アキラさん!?なんで急に普通の手紙みたいな事を書いてるの!そこはもっとこう……慈愛の怪盗としてカッコ良く通してほしかったなぁ先生は!実は結構楽しんで解読してたんだよ!?」

 

まさかの会いたいというアキラからのお誘いメッセージに困惑を隠しきれず叫ぶ先生。

取り敢えず彼女はここの何処かで会いに来るのだと理解した先生は、限られた情報を整理し場所を急いで割り出すことに

 

「えっと、多分冒頭の文章が一番鍵なはず。宝玉を触れる事は出来ないけど見る事は出来る、つまりそれは離れた所にあるってことで」

 

アキラにはあの事件以降一度も会っておらず気になっていたのだが、

まさか本人からこうして会いたいと連絡を貰えるのは素直に嬉しい。

それならば早く会いに行かねばと頭をフル回転させて解読に臨む

 

「限りある光ってのは少ないとかじゃなく、見れる時間が限られるという事じゃないか?限られた時間でしか見れなくて触ることが出来ない離れた所にある光を放つ物、そして今は夜という事は……恐らく月の事だ!」

 

自分の予想が当たっている事を祈りながら急いで部屋の電気を消し、施錠をして廊下を勢いよく駆けだす

 

「月が見れてアキラが手軽に移動してこれる、空の舞台に相応しい場所!居住区の野外テラスしかない!」

 

 

走ってきたものの野外テラス自体は居住区の休憩室近くから入れるので移動自体はあまり時間が掛からない。

しかしそれでも走ってきたのはアキラが待ちくたびれて帰ってしまわないかという心配があったからだ

 

休憩室の扉を開けテラスに出ると涼しい夜風が肌を撫で、そのまま外に目を向ければ眼下に広がる市街地の夜景が目に入り頭上からは月の光がこのテラスに降り注ぎ優しく照らしてくれる。

 

予告状の通りまさに空の舞台の名に相応しいだろう

 

「さてと肝心のアキラはどこに居るのかな~…?」

 

「ふふ、来てくださいましたね先生」

 

声のした方を見ると設置されている木製チェアに優雅に腰掛けているアキラを見つける

彼女はそのままゆっくり立ち上がり近寄ってきた

 

「こんばんわ、先生」

 

純白のスーツとマントを身に纏い、目元を隠すようにドミノマスクを付け淡いピンクの髪を風に靡かせた堂々とした立ち姿は月光が合わさり思わずまるで芸術品のようだと見入ってしまう

 

「久しぶりだね、会うのはあの件以来か。元気にしてたかい」

 

「はい、こちらは変わりなく。それにしても予告状を読みここまで辿り着いて頂けるなんて嬉しいです」

 

「随分と頭を悩ませたよ、それに星々のって部分はまだ解けてないしね」

 

「ふふ、それはですね」

 

アキラはマスクの下に楽しそうな笑みを浮かべながら語り始めた

 

「先生の事を指しているのですよ」

 

「私?」

 

「はい、先生はこのキヴォトスで悩み抱え輝きを鈍らせた多くの生徒という星を照らす方。その優しさはまさに唯一無二至高の宝と呼んで間違いないでしょう」

 

「そこまで大げさに褒められると流石に照れるなぁ」

 

「大げさではありませんよ、この私もあなたの優しさに心が救われた一人です。

誰にも理解されずに後ろ指を指されるだけだった私を理解しようと歩み寄ってくれた、そして生徒だと言ってくださった。あの感動は今でもこの胸にしっかりと深く刻み込まれ私を温かく癒してくれています」

 

 

胸に手を当てながら紡がれた言葉は【慈愛の怪盗】ではなく【清澄アキラ】としての本心を語っているのだとその姿から感じられる

 

私はこのキヴォトスでは一人で戦う事すら出来ず体も脆い、だからこそただひたすら出来る事をして生徒を助ける事を諦めずにここまで駆け抜けて来た。その努力がこうして言葉で伝えてもらえるのは教師冥利に尽きるというものだろう

 

(色々ムチャもしたけど頑張ってきて良かったなぁ本当に…)

今までの事を思い出し感慨深く思う、先生としてここまでこれたのは奇跡だと

 

目の奥が少し熱いがそれを堪え話題を変えるのも兼ねて、実は先ほどからずっと聞きたかった事があるのでそれを訪ねる事に

 

「ところでアキラ、予告状が最後まで書かれて無かったけどどうしたの?アキラらしくないというか何かあったのかな」

 

「ふぇっ!あ、あれはですね…そのえっとあの///」モジモジ

 

先生の問いに素っ頓狂な声を上げモジモジし始めるアキラ、顔もどことなく赤い気がする

 

「もしかして調子が悪かったとか?あれだけ難解な文を毎回考えてるとなると筆が鈍っちゃう時もあるよね」

 

「いえ違うんです!その実はですね…いつものようにビルを移動してる時にたまたまシャーレの窓から先生が立っているのが見えたんです。お一人のご様子だったので改めてご挨拶をしようと思い、早く書かねば先生が帰ってしまうのではと……」

 

「急いで書いた結果、途中で途切れてしまい要件を最後に付け加えてそのまま出したと」

 

「はい、その通りです…///」

 

「心配しないで、例え帰り道を歩いてる時でも呼んでくれれば会いにいくよ。大切な可愛い生徒の呼び出しだからね」グッ

 

親指をグッと立て朗らかに笑いながらそう言い放つ先生の言葉にアキラの胸は安堵する。

しかしアキラの発言は、実は少しばかり脚色がされているのだ

 

少し前までは先生と会った時に録音した『うん、もちろん。大切な生徒だよ』、という音声を聞いているだけで心地良くなりとても幸せで満足だった。

だが最近は直接会ってお話がしたいという想いが膨れ上がってしまい、今日もシャーレのオフィスが良く見えるビルの屋上に座りどうしたものかと思案

していたのだ。

 

思案も何も普通に会いに行けば良いのだが、慈愛の怪盗としての流儀を通したいというプライドと純粋に気恥ずかしいという乙女心が合わさり今に至る

 

(予告状を書いている途中にお会いしたいという想いで頭がいっぱいになって言葉が思いつかなくなるなんて…//)

 

想いに心を乱され完璧な予告状を出せなかった恥ずかしさも相まってどうにも落ち着かずモジモジしていると先生がポケットからスマホを出しこちらに差し出してくる。画面を見るとモモトークが起動されていた

 

「アキラ。君さえ良ければ連絡先交換しないかい?」

 

「えっ!良いのですか、私のような者と交換しても?」

 

「良いも何もアキラは私の生徒だよ?それだけで理由は十分じゃないか。それにこれなら気兼ねなく連絡して会いに来れるよ」

 

(あぁ先生、そんな純粋な目で私を見てくださるなんて…貴方という宝を、今すぐにでも手に入れたくなってしまうではありませんか)

 

だが先生の良さを魅力を理解しているのは私だけではないでしょう、多くの生徒がその心に優しさを受け止め理解しているはず。

 

今の私が盗むにはあまりにも荷が重すぎます

 

「ありがとうございます先生、ではどうぞ」

 

アキラもスマホを差し出し手早く連絡先の交換を済ませる

連絡先一覧に先生が登録されその画面を嬉しそうに眺めた後ゆっくりとスマホをしまう

 

「では先生、ここから少しお付き合いしてもらってもよろしいでしょうか」

 

やっと落ち着いてきたでいつもの声色で話しかけ

 

「時間はまだ全然余裕あるから大丈夫だけど何をするんだい?」

 

「先生に会うという私の目的は果たされました、しかし慈愛の怪盗として予告状を出したにも関わらず何も盗まないのは流儀に反します」

 

アキラは芝居の役者のように恭しくお辞儀をすると先生に手を差し伸べた

 

「慈愛の怪盗、今宵は貴方の時間を盗ませてもらいます。少しだけ夜の散歩に行きませんか先生」

 

「そういう事なら喜んで盗まれましょう」

 

答えを返すように先生も伸ばされた手に優しく自分の手を重ねる。

満足そうに、とても嬉しそうなアキラは先生を連れて行こうとするが

自分の手を先生が先に掴んだかと思うと優しく引き寄せられてしまった

 

「先生、どうしたのですか?その、少々お顔が近すぎるような//」

 

先生の方を見るとさっきと変わらず優しく笑顔を向けてくれている。

そして手がゆっくり顔に伸びてくると…

 

「ちょっとだけ失礼♪」ヒョイッ

 

目元に着けていたドミノマスクが取られてしまい素顔が露になる

 

「せ、先生!?マスクを返してください!」

 

「ごめんねいきなりマスク取っちゃって」

 

アキラはマスクを取り返そうと手を伸ばすが、先生はマスクを持つ手を頭上よりも高く伸ばしてしまい身長差もあってか精一杯伸ばした手は空を切るだけでマスクにはかすりもしない

 

「アキラの素顔がどうしても見たくてね。綺麗な瞳だ、紅くまるで宝石のようにみえるよ」

 

「あ…あう///」

 

「顔が見たいってのは勿論だけどさ、もう一つ理由があってね。私と居る時くらいは慈愛の怪盗じゃなく清澄アキラとして居てほしいな~って」

 

「慈愛の怪盗としてでなく…ですか?」

 

真っ直ぐ見つめてくる先生の瞳から目を離せぬまま聞き返す

 

「うん。ほら怪盗として活動している以上普段から色々気を使ったり神経を張ったりしてさ大変だと思って。だから私とこうして会ってる時くらいは怪盗としての仮面を外して肩の力抜いてリラックスしてもらえたら嬉しいな」

 

先生からの慈しみ溢れた優しさが体と心に沁みわたるのを感じる

この人は本当に自分の事を生徒だと思ってくれているのだ

 

「お優しいのですね先生は。私は七囚人の一人なのに…」

 

「七囚人でもそうでなくとも、問われれば何回でも言うさ。アキラは私の大切な生徒だよ、それにずっと肩肘張ってるのは疲れるだろ?」

 

「ふふ、その通りですね。分かりました、ではお言葉に甘えて今度お会いする時は【私】として会いに来ます。でも今はマスクをお返しくださいね、散歩中にうっかりヴァルキューレに素顔を見られては困りますので」

 

「それもそうだね、はいマスク」

 

マスクを受け取り目元に着け、先生の体に片腕を回ししっかりと掴むとテラスの柵の近くまで一緒に歩いていく

 

「まるでエスコートされている気分だ」

 

「その通りですよ、ここからは私が先生をエスコートさせて頂きます」

 

アキラの空いた片手には、穴がいくつか空いた槍のような物が先端に付いた特殊な形状の銃が握られていた。

恐らくそれで移動しながら夜の空中散歩をするつもりなのだろう

 

「私がしっかりと掴んでいるので先生は夜の景色を楽しんでください」

 

「これは普段絶対味わえない楽しい散歩になりそうだワクワクしてきたよ」

 

「では……慈愛の怪盗、先生の時間を盗ませて頂きます!」ダッ

 

流石キヴォトス人というべきか、大人一人を抱えてるとは思えぬほど軽やかに力強くジャンプをして柵を大きく飛び越えてしまう。

アキラはすぐさま近いビルの屋上の手すりに向け銃を構えトリガーを引くと、先端の槍とワイヤーが勢いよく飛びだす。

 

飛んで行く槍が手すりの上にきた瞬間、空いた穴からフックのような物が飛び出すとアキラは手慣れた様子で銃や腕を動かしワイヤーをコントロールして綺麗に手すりへ引っ掛けてしまった

 

「その銃も凄いけどコントロールする技術も一朝一夕で身に付くようなものじゃないね尊敬するよ」

 

「ありがとうございます、怪盗として移動技術は大切なので技術を磨くのは怠らないようにしてます」

 

褒められどこか誇らしそうにしつつ、二人の体は重力に引かれ落下を始める。

しかし途中で伸びきったワイヤーが二人を引っ張るとまるで振り子のように勢い良く加速しフックを外した瞬間、高く遠くへ飛び出していく

 

月と星が輝く空の下、視界を流れていく夜景の姿を目にした先生の目は無邪気な子供のようにキラキラとしている。

昼間にビルから眺めるキヴォトスの姿も良いが、今この瞬間味わっている光景はどこか神秘的な美しさを感じとても良い

 

「…綺麗だな、アキラ散歩に誘ってくれてありがとう。最高だよ!」

 

「喜んでもらえて良かったです、移動方法ゆえ怖がらせてしまうのではと思っていたのですが…そのお顔を見れば杞憂だったようですね」

 

「あまりにも綺麗な光景でね、年甲斐も無く子供みたいにはしゃいでしまってお恥ずかしい」

 

「いえ恥ずかしい事ではないです、美しい物に心を躍らせるのは素晴らしい事なのですから」

 

空中を移動し時にはビルからビルへ飛び上がるなど移動を繰り返し、街を見下ろせる高いビルの屋上に辿り着いたのでここで落ち着くことにした

 

「ここで少しのんびりしましょうか」

 

「そうだね。夜の活気がある街を眺められて風も気持ち良いし…本当最高の散歩だ」

 

二人は並んで屋上から街を眺める

 

どちらも特に喋りはせずとても静かだ、だがどこか雰囲気は穏やで心地が良い

 

今日は沢山キヴォトスを散歩する事が出来た、どこも色々賑やかで楽しくでも疲れはしない良い一日が過ごせたと思う

 

(休みは一人で満喫する事もあるけど、やはり生徒の皆と接している時が一番幸せなのかもしれないな)

 

明日からまた始まる業務をみんなのため頑張ろう、と心の中で決意を新たにしていると

背後に誰かが静かに着地した音がしその人物が声を掛けて来たので振り返ってみた

 

<愛しい先生の声が聴こえたかと思えば……何故あなたまで…>

 

着物のような袖と白に金で彩られた和柄が綺麗な黒の制服を身に纏い

艶のある黒髪を靡かせ顔には狐面を着けた生徒、アキラと同じ七囚人である狐坂ワカモがそこには立っていた

 

彼女は並々ならぬ怒気を隠そうともせずアキラの方に愛銃【真紅の災厄】を構えている

 

「ワカモじゃないか。どうしたんだい穏やかじゃない雰囲気で」

 

「どうもこんばんわ、素晴らしい夜ですわね。あなた様のお声が聞こえお会い出来るのではと思ったのですが…まさか泥棒猫も一緒だとは」

 

笑顔を向けていたかと思うとすぐにアキラの方へ睨みを利かせるワカモ

 

「おや狐のお嬢さん。泥棒猫とは随分な言いぐさですね、まぁある意味正しくもあるのであえて否定はしませんが」

 

対するアキラは銃を向けられているにも関わらずいつもと変わらない雰囲気で飄々と返事をし返す

 

「私の愛しい先生を…許しはしませんよ…」

 

「ふふ、私がシャーレから強引に連れ出したとでも思っているのならそれは勘違いです。ここへ先生をお連れしたのは合意の上、私から夜の楽しいお散歩に誘い先生はそれを快く了承してくれたのですよ。ね?先生♪」ギュッ

 

アキラはワカモに見せつけるかのように先生の片腕をそっと抱きしめる。

 

腕に柔らかな膨らみも当たり普段であれば少し慌てたりもするだろうが、今はそんな余裕が全くない

眼前のワカモが纏う怒気が一層強くなったのを感じるからだ、正直に言うとビビってるし顔も血の気が引いてると思う

 

だがこの状況をただ眺めてる訳にもいかない、さてどうしたものか…

 

「先生から離れなさい…先生の隣でその優しさに触れるのは私だけで良いのです!」

 

「あまり独占欲が強すぎるのも如何なものかと思いますが?嫌われてしまいますよ?」

 

「どの口が…怪盗風情のくせによく言えたものですね。そちらこそ独占したいという想いが隠し切れておらずこっちまで匂ってきてます」

 

「良く回る口をお持ちのようで…」

 

「はぁ…最早お互い言葉は不要ですわね」

 

「どうやらそのようですね」

 

ワカモのトリガーにかかる指には徐々に力が入り、対するアキラも自分の装備に手をゆっくりと伸ばしつつ先生を抱えて離脱する機会を狙う

 

恐らく戦闘力だけならワカモに軍配が上がるが、アキラは多少のダメージならものともしない高いタフネスを備えているため一度ドンパチ始まったら間違いなく周囲が大惨事になるのは目に見えてる。

 

(ここは先生として仲裁に入るしかないな、生徒達が争うのはあまり見たくないしね)

 

覚悟を決め一度深呼吸をし二人の間に割り込むように体をねじ込んだ

 

「はいはい、二人ともストーーップ!少し落ち着いて!」

 

「「っ!!」」

 

急に間に入ってきた先生に二人は驚き身を固めてしまう

 

「あなた様…」

 

「先生…」

 

「まずは、アキラ大丈夫だからそう身構えなくても良いよ」

 

先生はアキラの方を向き優しく諭す、アキラの手からゆっくりと力が抜け戦闘態勢を解いたのを確認すると今度はワカモの方へと向き直す

 

「あなた様、どうかそこをどいてください。その泥棒猫には鉄槌を…」

 

「……」ニコニコ

 

銃の構えを止めないワカモに対しニコニコとした笑顔を向けた先生はゆっくりと体が触れそう距離まで歩み寄った瞬間

 

素早い動きでワカモの狐面を剥がし取ってしまう。自分をワカモが信頼してくれているからこそ成功した荒業だ

 

「とりゃっ!」ヒョイッ パシッ

 

「なっ!?あなた様、いきなり何をなさるんですか返してくださいまし!」

 

いきなりお面を奪われてしまいワタワタと手を伸ばし慌てるワカモの雰囲気が少しは柔らかくなったのでまずは一安心。

なので<お面は>直ぐに返してあげる事にしよう

 

「はい返してあげる。でもこっちを返すのは少し待ってね?」

 

「こっち?…って私の銃!?」

 

差し出された右手からお面を受け取ったが、すぐさま違和感に気付き先生の左手を見ると自分の銃が握られていたのだ。どうやらお面を剥がされ慌てた瞬間にそちらも取られたらしい。

 

「手癖が悪くてゴメンね?でもこうするしかなくてさ」ガチャ ガチャ

 

先生は手早くボルトハンドルを数回コッキングし弾倉内の弾を全て抜弾してしまう。

地面には数発の弾丸が転がり弾倉が空になったのを確認するとワカモに銃を返してあげた

 

「はい返すよワカモ」

 

「あなた様何故このような…」

 

「だってせっかくワカモにも会えたんだしさ、ここで争うより三人で色々お喋りした方が全然マシでしょ?」

 

「それはそうかもですけど…」

 

少しバツが悪そうにしつつも先生と話が出来るのは素直に嬉しいので嫌とも言えないワカモ。

その様子を見て優しく先生はワカモの手を引き隣に連れてくる

 

「アキラもワカモも七囚人で色々大変な時もあるだろ?でもこうして邪魔されず一緒にのんびり喋れる時があっても良いと思うな私は」

 

街を眺めながらどこか哀愁漂う表情で笑みを浮かべる先生に二人は目を奪われ見つめてしまう

 

「まだまだ夜は長いんだ、色々喋ろうじゃないか。私も二人の事色々聞きたいしね」

 

笑みを向けられた二人はお互いに視線をぶつけ合った後、同じように笑みを浮かべる。

今宵は一時休戦、白黒付けるのはまた今度にいたしましょう…と

 

「では先生、色々聞きたい事があるので沢山お話しましょう。まずは好みの女性のタイプなど♡」ギュッ

 

「それならば私はあなた様のお好きな服装や髪型などを。今度一緒にお出かけする時の参考にいたします♡」ギュッ

 

「ははは…お手柔らかに頼むよ」

 

左右から腕に抱き着かれながらあれやこれや質問されたり

時には日常の面白かった事を話しながら、空に浮かぶ月と星に見守られつつ三人の夜はゆっくりと深けていく

 

 

今日は散歩にしては随分と賑やかでもあったが、特に大事件が起こるわけでもなく楽しい時間を過ごせた素晴らしい一日だったと感じる

 

生徒達と楽しく過ごすこの素晴らしくたまに慌ただしくもなるこの日々が、どうかこれからも長く続く事を祈りながらもまずは二人からの質問にどう答えようか

 

ちょっぴり苦笑いを浮かべる先生なのであった

 

「神は天にいまし、世は全て事もなし…なんてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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