剣の世界のハーフエルフ 作:はなみ
私は森の中を先頭に立って歩く。
きっと髪型のせいで、金色の馬の尻尾が左右に揺れているように後ろからは見えているはず。
「この森が迷宮化したのは、いつだったかなあ……確か、私がまだ子供の頃だったはずなんだけど────」
そして、周囲を警戒しながら私はこの暗き
ダンジョンは最奥の守護者を倒せば踏破だ。暗き森羅の森も
しかし、ラビュリントは最奥の守護者を倒した所で元の場所に戻るわけではなく、最奥には宝物庫すらない。迷宮化した原因を探し、それを解決しない限り迷宮化は解かれず、守護者は何度でも蘇る。その上、迷宮の範囲は伝染のように広がる。
今は私の"境界線の魔法"で抑えられているけれど、それでも少しづつ範囲は広がっているから毎年私は魔法を更新していた。
そんな風に迷宮化現象は原因不明の"災害"だけど、長い人類史に置いても本当に稀な出来事らしくて、この"暗き森羅の森"以外には現存するラビュリントがないということは幸いだと思う。
勇者一行がこの辺境の村に来た理由がまさにそれだった。
この暗き森羅の森の迷宮化を解決するために来たのだという。
「だから『百年以上前から金の髪と青い瞳のエルフが管理する迷いの森』なんだね」
ヒンメルが口伝で聞いたらしい事を口にした。多分、別の村で聞いてきたんだろうか。
「そうだね。そのエルフって、今となっては私のことだけど……きっと父さんのことよ。私の少しくすんだ蒼色よりも、きれいな青色していたし」
私の目の色は母の灰色の瞳が混じったのか、澄んだ青というよりくすんだ蒼なのだ。
「それに元々はあのひとが最初に迷宮化を発見して管理してたの。父さんと母さんの二人では迷宮化を解決できなかったからね」
本当に両親達では力不足だったのか、はたまたあえて原因を究明したものの解決できないとして放置したのか────両親が亡くなった今となってはわからない。
やがて、迷宮と迷いの森の境界線にたどり着いた。
「これって結界の魔法?」
フリーレンが興味深そうに入り口を見上げた。
魔法で作られた壁がくっきりと
奥から小鳥が数羽飛んでくるが、その境界線をゆうゆうと超えて行った。
「魔族とか強い魔物以外は自由に出入りできるように調整してあるんだよ」
こちらがわは、まだ木々が鬱蒼と茂る森と言って問題なく、この境界線に来るまでに出会った魔物も弱い獣ばかりだった。
あちらがわであるその先に広がるのは森の迷宮と言うだけあって、樹木や蔦がまるでダンジョンの壁のようになっていて奥を見通すのは難しい。
「自由に出入りできるって……」
「近くの村の人達には、境界線は危ないから超えてはいけないって教えてるから大丈夫。それに、そういう風にしないと消費魔力がとんでもなくて、私が使えなかったの。だって、迷宮化を広げないことが重要だったし」
ヒンメルが眉をしかめるけど、私は淡々と答えた。
実際、自由に出入りできるから調査隊や腕に自信のある冒険者達は勝手に挑んでいる。でも迷宮で迷い諦めた者達や、守護者は倒せたものの原因は究明できなかった者達ばかりだった。
だいたい、私が暗き森羅の森を狩場としているのも、勝手に森に入り込んで迷宮内で死なれているのは気分が悪いから、狩りのついでに助けているからだし。
「ねえ、ウルカ。この魔法の魔導書はある?」
「残念ながら、魔導書はないよ? この魔法は父さんから絶対覚えろって丸暗記レベルで叩き込まれたから、詳しい原理とかも実は私よくわかってないし、魔導書にしたり教えることも無理かな」
私の言葉にフリーレンはあからさまにガッカリして肩を落としていた。
ごめんねえ、魔法に関しては私ポンコツなんだよ。
「それにしても、すごいね、この魔法……」
それでも諦めきれないのか、境界線の壁にフリーレンは手を当てる。
「……これ、結界と封印の魔法を応用した魔法を何種類かかけあわせてるのかな……解析に三ヶ月はかかりそう……」
「────フリーレン、流石にそれだけのためにココに滞在しないからね?」
「……えー」
ヒンメルが魔法解析に没頭しそうになっているフリーレンを現実に戻し、改めて森の入り口に目を向けた。
「暗き森羅の森って宝物庫が無いのは知ってるけど、宝箱はあるのかな」
「迷宮化したせいで魔物のミミックがいる」
「それって、やっぱり宝箱はないってこと?」
「ううん、死んだミミックが宝箱になってることがあるみたい。短剣とか魔導書が入ってた」
おそらく、それらはミミックによって殺されたモノの持ち物だったのではないか──等ということは私も口にはしない。
「それがわかっただけでも収穫かな。何もないところをマッピングだけって言うのはつまらないからね」
ヒンメルは満足そうに笑った。
「暗いよー!! 怖いよー!!」
フリーレンが
それを囲んで、私達は大きくため息をついた。
森に入ってすぐ、大樹の根元の藪の中にあった宝箱。入口付近ともあって、どう見てもミミックとしか思えない代物だったのに……。
「宝箱を判別する魔法をかけて、その上で私が再度確認までしてミミックだって言ったのに」
私は頭痛をこらえるように、こめかみを抑えながら呟いた。
フリーレンが宝箱を判別する魔法をかけ、私が持ち前の技術で確認して(失敗はしてない)、このテイタラクである。
「そうなると思ってました」
「フリーレンのアレはもう、病気みたいなもんだ」
ハイターとアイゼンがウンウンとうなずく。
結局、フリーレンが自力で脱出するよりも早く、ヒンメルがフリーレンを
「ふぅ……助かった。ありがとう、ヒンメル」
礼を言うフリーレンに、ヒンメルは嬉しそうに微笑み返している。
何あれ、あそこだけ花咲いてるでしょ。
改めてヒンメルとフリーレンは寿命の差で死別する……と原作を思い浮かべ、ままならない未来に寂しさを感じた。
「うーん……すごくわかりやすいね、アレ」
「でしょう? あれで隠しきれてると思ってるんですよ」
「まあ、相手がフリーレンだから」
外野の三人、私とハイター、アイゼンはコソコソと話をした。
────これが、一度か二度ならばここまで私も怒らなかったと思うの。
「……ねえ、フリーレン? どう見ても、わかりやすい罠にハマらないで貰えますぅ?! あれだけミミックだって言ったでしょうがっ!!」
ヒンメルは完璧主義なのか、はたまたマップを完成させたいのか、完全にマッピングが終わるまで何日も森の中を歩く羽目になった。
まあ、それは原作を知っている私も納得していたことであるし、幾度となく繰り返された森に住む魔物との戦いも、普段はできないパーティ連携を意識してできたことは良い経験になった。
それに狩人だけに野宿や野営は慣れているから、率先してその準備をしたし、食事のために森の幸や獲物を取ってくることすら厭わなかった。
だがしかし。
こう、何度も何度もミミックに食われかける
「……だって、1%未満だけど可能性があって、それを見破った偉大な先達がいたからこそ歴史的発見に」
「その%をさらに小数点以下にするために丁寧に確認した私の判断が間違ってると?」
「うぐぅ……」
表情をションモリ(この顔はしょんぼりというよりションモリって感じがする)とさせて、一応フリーレンも反省はしているみたいだけど……これ、未来でもやるんだよ? 甘やかし過ぎでは。
「まあまあ……叱るのはそのくらいにしてあげてよ」
「お腹が空いているとイライラもしますよ。はい、どうぞ」
ヒンメルが私をなだめようとして、ハイターは笑いながら囲んでいる焚き火で炙っていた串の一本を私によこした。
アイゼンはその隣ですでに焼けている物を口にして、成り行きを見守っている。
「……」
流石にイラッとしているのは自分だけだと気が付いて、恥ずかしさから無言で受け取る。
気が抜けた私は軽くため息をついた。
この四人は私が知らない時間をずっと共にしている。だから、部外者の自分が怒っても的はずれなだけで浮くだけだ。
渡された串焼きは、いつも採っているキノコだったのに……なんだかとても塩っぱく感じた。
ソード・ワールドの詳しい説明いりますか?
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