激闘の裏側で   作:安永英梨

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【浸色】

scene1《浸色》

 

 何も言わずベッドを降りた千遊の白い背中を、歌乃子の甘ったるい声が撫でる。

「もう行ってしまいますの? もっとゆっくりなさってもよろしいんですのよ、先輩」

 歌乃子はうつ伏せで柔らかな羽根枕に顎を乗せ、千遊の髪に手を伸ばす。しかし、歌乃子の指が触れる前に千遊は離れていってしまった。

「用事なら済んだはずだ。これ以上ここに長居する理由は無い」

 千遊は振り向きもせずに淡々とした口調で答えた。そして、歌乃子に脱がされ床に放り出された制服と下着を拾い、手際よく身に付けていく。

「つれないのね。あなたの故郷の星に愛情という概念はないのかしら?」

「あったとしても私には必要ない。おまえにくれてやるつもりもない」

 聖アグリッパ学園三年金剛石組・久里虫千遊、一見するとごく普通の少女にしかみえないが、その正体は、うお座M74渦巻銀河霊長・カイジャ。簡単な言葉で表せば、いわゆる『宇宙人』である。少女の姿も仮のもの。本来の外見は地球の生命体とは遠くかけ離れ、お世辞にも美しいとはいえない。

 同学園二年の七宝洞歌乃子は、そんなカイジャと――千遊と、幾度となく肌を重ねた。

 いつも誘うのは歌乃子から。千遊はたいして抵抗もせず、歌乃子に身をゆだねる。だからといって歌乃子に屈しているわけでもないことは、千遊の態度や口振りから滲み出ている。

「じゃあ、どうして私と寝るの?」

「それを言うなら、こちらも聞かせてもらいたいものだな。何ゆえに貴様は私を求めるのか」

 制服のリボンを結びながら、ようやく千遊は振り向いて歌乃子を見た。

「そうねえ……」

 歌乃子は上目遣いに千遊を見つめ、妖艶に舌なめずりをしてみせる。

「味見と熟成、といったところかしら」

 その言葉を聞いた後、しばらくの間をおいて千遊は吐き捨てるように呟いた。

「おまえが言うと洒落にならん」

「ええ、本気だもの」

 歌乃子は天使のような微笑みでサラリと言い返す。

 前髪の隙間から射抜くような視線を歌乃子に浴びせ、千遊は不敵な笑みを浮かべた。

「おまえの側にいたら、いつ喰われるかわからんな」

「そのくらいスリルがあったほうが燃えるでしょう?」

「ああ、なかなか刺激的だよ。暇つぶしにはちょうどいい」

 いつも制服の上に着用している黒いケープを羽織り、長い後ろ髪をなびかせて、千遊は颯爽とした足取りで歌乃子の部屋を後にした。

「ドライな人だこと……。でも、そんなところも好きよ、カイジャ」

 千遊が去った後のドアをじっと見つめ続ける歌乃子の目は、どこか狂気じみた輝きを帯びていた。

 

end

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