scene2《残念!》
休み時間、歌乃子は人通りの少ない渡り廊下で千遊の後ろ姿を見つけた。
最近はいろいろと忙しいようで、歌乃子と千遊が寝所を共にする回数も減ってきていた。それを寂しく思っていた歌乃子は、いそいそと千遊を追いかけて前に回り込み、笑顔で声を掛ける。
「せーんぱい」
口をへの字に歪めた仏頂面の千遊は、足を止めることもなく無言で歌乃子を避けていった。
歌乃子はさらに追いかけ、もう一度、同じように声をかける。
「せーんぱい」
またしてもスルーをくらい、さすがにショボンとした顔になる。が、諦めの悪い歌乃子は懲りずに追い続ける。
「今日はご機嫌斜めですのね」
やはり返事は無い。全身からどす黒いオーラが滲み出るほどの、相当な機嫌の悪さだ。
不機嫌の原因は容易に想像がつく。地球侵略がなかなか上手くいかないことに苛立っているのだろう。
「そんな怖い顔をなさらないで。私が癒してさしあげますわ」
歌乃子は背後から千遊の細い腰にするりと片腕をまわして抱き寄せ、絡み付くように互いの体を密着させた。千遊の髪を指先ですくい上げ、耳元にそっと唇を寄せる。耳の後ろに、髪の生え際に、そして首筋へと優しいキスを落としていく。
すると、千遊は黙って身を捩り、歌乃子と向かい合った。
歌乃子の頬を、千遊の両手が包み込む。
私の想いが伝わった、歌乃子はそう感じて瞳を閉じた。期待したのは、千遊からの熱い口付け。ところが、次の瞬間、歌乃子に与えられたものは、額の激痛と脳が揺さぶられるような強烈な衝撃だった。
目の前にチカチカと火花が散り、歌乃子はふらふらと廊下の隅にくずおれる。結局、千遊は一言も言葉を発することなく去っていった。
「あんまりですわ……キスのお返しが頭突きだなんて……」
頭を押さえて嘆く歌乃子の元へ、ハインリヒがやってきた。一部始終を見ていたらしいハインリヒは、歌乃子を一瞥すると、
「負けが続いて気が立っているところに余計なちょっかいを出すからだ。少しは空気を読め」
冷静なツッコミを言い残し、彼もまた去っていった。
「愛が欲しい……」
歌乃子の切実な願いも、いつのまにか無人になった廊下では誰にも届くことはなかった。
end
《後書き》
どうやら1000文字以上じゃないと投稿できないようなので字数稼ぎの後書きです。
いや、こんなマイナーカップリングの小説読んでくださって本当にありがとうございます。
よければ最後まで楽しんでいってください!!